【ライヴレポート】清春、<残響>東阪公演で「自由に道を選んで、それを信じて」
清春が2021年7月11日、東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホールにて<清春ライヴ2021「残響」>と銘打った有観客シリーズ公演を開催した。この日は園田涼(Pf)、DURAN(G)という初お披露目の編成での着席ホール形式。全8公演の実質3本目にあたる。
◆清春 画像
午後5時半を少し過ぎた頃、静かに客電が落ちると、大きな拍手に導かれて清春が登場した。1曲目は「下劣」。パッション溢れるDURANのギターの技に絡みつくような清春の声が印象的だ。一瞬でオーディエンスの目を釘付けにしてしまう所作も美しい。続いての「凌辱」からは園田の端正なピアノも加わり、稀有な歌声が場を支配してゆく。清春の吐息さえもよく響く環境である。
▲7月11日@東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
“食い入るように見る”という言葉があるが、この日の観客はみな、終始そんな状態だったのではないだろうか。いついかなる時も動じることなく表現者としての気高さを失わない清春。その身のこなしが歌の本質に迫るものであることに観客の多くが気付いている。1曲終わるごとに繰り出される拍手の大きさがそれを証明している。
清春と初共演の園田が絶賛した楽曲だという「悲歌」は、従来のアレンジの中でも特に記憶に残る名演だった。重厚かつ繊細なピアノと溶け合う清春の歌唱は情感たっぷり。こうしたチャレンジがあるからこそ、彼のパフォーマンスからは目が離せないのである。その他、「FINALE」の終盤、清春がほとんどマイクを通さずに歌う場面の響きは胸に迫るものがあったし、「TWILIGHT」の優しさと切なさは格別だった。「美学」の情緒も当然のごとくこの<残響>というスタイルにマッチしていた。
遥かなる地平に想いを巡らせるような「SURVIVE OF VISION」では、曲中の即興的なポエトリー・リーディングが観衆の心に突き刺さる。最後は「光」でオーディエンス一人ひとりを包み込み、尊い空間を構築。時計の針は午後7時半を指していた。
▲7月11日@東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール
「今日も僕の中では頑張ったんですけど、次に来てくれる時は今よりもっと凄くなっていたいと思います。また来てください」──清春
と清春はステージの去り際に語った。これだけの歌で魅せておきながら、そのクオリティは今後さらに研ぎ澄まされていくのだという。この夜最大級の波のような拍手の残響が忘れられない。
筆者はその1週間後、7月16日および17日の2日間、大阪・味園ユニバースで行なわれた公演を配信視聴している。この2DAYSは有観客+配信のハイブリッド公演でK-A-Z(G)、中村佳嗣(G)、komaki(Dr)という編成だ。ベースレスであるがゆえの清春の歌声が先日の東京とはまた違った形で発揮されることとなった。現地で観覧したライター黒田奈保子氏によるオフィシャルレポートを以下にお届けしたい。
◆ ◆ ◆
▲7月17日@大阪・味園ユニバース
清春が7月16日および17日の2日間にわたり、大阪・味園ユニバースで有観客ライヴ<清春ライヴ 2021「残響」>を開催した。5月から始まった本公演シリーズは9月まで計8公演を予定しており、名古屋と大阪では、生配信も行われるハイブリッドでの公演となる。2020年5月から開催されているスタジオライヴパフォーマンスとはまた違う、有観客ならではの空気感、そして自身初となる味園ユニバースという会場でのパフォーマンス。その全てを汲んでなお至高といえる2日目の模様をお伝えしたい…と、その前に。
関西の人たちには周知の場所かもしれないが“味園ユニバース”についても説明を。1955年に建てられた“味園ビル”、その地下一階にある“ユニバース”はかつてキャバレーとして盛大な賑わいを見せていた。同ビル内には今でも個性的なバーやショップも多く、大阪・ミナミのアングラ&昭和のディープスポットとして人気を集め、ユニバースも貸しホールとして様々なライヴやショーイベントが開催されている。場内には深紅の絨毯やシャンデリア、ステージ背景に輝くネオン管、そして天井からいくつもぶら下がる惑星をモチーフにした大きな照明が。元キャバレーらしく、フロア後方にはボックスソファが置かれるなど雰囲気たっぷりで、ライヴハウスとはまた違う空気を纏ったパフォーマンスが観られると、同会場のファンも多い。
開演早々、「下劣」から瞬時に会場の空気を変え、漏れる吐息さえも音に代えていく清春のボーカル。komakiのパーカッションがぐっと雰囲気を作りこみ、余韻をより長く心地よく伝えるようだ。中村、K-A-Zのギターは音に華やぎを与えて艶やか。かと思えば、「五月雨」では原曲とは違った、呼吸に沿うような歌唱がとんでもない色香を放ち、楽曲が後半へ進むほどに視覚も聴覚も引っ張られていく。抑揚をつけるためにしゃくるのではなく、マイクを近づけたり遠ざけたり、楽曲の世界観に立体感を生む歌唱も素晴らしい。
ライヴは換気のための休憩時間が15分ほど設けられていた。また、MCでは相変わらずの緩い空気で観客と交流を交わしていく。開始から3曲でやりきった感があることや、初日よりも調子が良いことを笑いながら語っていたが、この日はステージ後半からの迫力がとにかくすごかった。緩いMCから圧巻のライヴへ、その急激なスイッチングと言おうか、ギャップの差は相変わらずお見事。
▲7月17日@大阪・味園ユニバース
楽曲そのものはアッパーなのに遠い海の向こうで歌っているような儚さを感じさせる「I know」、ねっとりとまとわりつく恋慕が見える「my love」、じわじわと色を抽出するように攻めていく「GENTLE DARKNESS」。楽曲ごとに異なる景色を見せてくれるあたりは、目の前で歌っているはずなのに距離感がバグりそうなほど。ライヴで何度となく聴いてきた楽曲がこうも姿形も印象も変わるものかと驚かされてばかりの<残響>だが、まだまだ驚嘆の時間が進んでいく。
「赤の永遠」で言葉の語気を強め、「美学」で差し伸べる手と姿に惚れ惚れとしてしまう。そこに、komakiの重すぎずドライなリズム、楽曲の色や湿度を濃く表現する中村のギター、K-A-Zの職人気質な緻密なプレイ。そして、3人の音を声だけでまとめ上げていく清春。すべてがライヴハウスとは異なる質感を生み出し、この日のためだけの音作りに徹しているのが伝わる。当初はステージのみの照明だったが、観客の「表情を確かめたい」と客電を点けた。元キャバレーのなんともいえない猥らと空虚さを惑星のような照明が照らし、会場の雰囲気をぐっと高める。
「いろんなことがやれてよかった。53歳での挑戦、良いキャリアをみんなが重ねさせてくれた。コロナでオーディエンスの興味も熱も変わってきている。音楽シーンが変わるなかでも、27年のキャリアがあれば大したことない。“清春”に頼るのではなく、“選ぶ”ことにきちんと意志を持って。過去のライヴには戻れないし、ライヴハウスはなくなる場所でもあることを知ってほしい」──清春
こう昨今の日本の音楽シーンやライヴハウスについて、確固たる意志を語った。そして「音楽を選ぶように、自由に道を選んで、それを信じて。いつだって歌を極めつつ、自らの道を進んでいきたい」と、改めて自身の音楽への想いについて触れた。
▲7月17日@大阪・味園ユニバース
そしてラストは「LAW’S」だ。これまでの楽曲で高めた感情をさらりと超越する歌唱が圧巻。中村、K-A-Z、komaki、3人が後ろから追いかけるも、清春の歌唱はその先を走り続ける。これまで感じた“響き”のどれとも違う、研ぎ澄まされた歌声に吸い込まれ、迫力に圧され、呆然と立ち尽くして見入るしかなかった。すべてのパフォーマンスが終わり、味園ユニバースのステージのネオン管が一気に煌めいた瞬間が、ただただ美しかった。
いつもの彼のライヴであれば、3〜4時間を超えるパフォーマンスはざら。しかし、この日は生配信の都合もあって2時間13曲で終了した。それでも、短いとか物足りないなんてことは微塵もない。ただただ圧倒され、清春というミュージシャンの進む道を少しでも垣間見ることができたことが幸せだった。
配信終了後、現場では、サプライズとしてアンコールに「アロン」が特別披露された。この歌唱もまた素晴らしかったが、この時間は来場者だけのとっておきとして詳細は記さずにおきたい。
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▲7月16日@大阪・味園ユニバース
以上が黒田氏による現地からのレポートである。この大阪2DAYSの配信を観て筆者が感じたのは、趣向が変わっても極上のスリルを味わえるということ。自分が現地にいないもどかしさを感じながらも、清春の表現の質の高さと鮮度が画面越しにダイレクトに伝わってくるのは素直に嬉しい。それを支えた配信チームの連携にも拍手を送りたい。
両日ともに、清春は息づかいひとつで観客を一気に夜の世界に引きずり込み、数々の名場面を生んでいたように思う。たとえば16日の「シャレード」は味園ユニバースというキャバレーの名残をとどめた会場に似合う幻想美が漂っていたし、アドリブ的に重ねられる歌声も素晴らしかった。ギターと1対1で場を構築していく「黒と影」はまるで演劇の一場面を観ているかのようなドラマティックな時間。その他、極めてエロティックな「PARTY」や会場の猥雑さを味方に付けた「錯覚リフレイン」の盛り上がりなどは、思わず身を乗り出して画面に飛び込みたくなるほどだった。「僕ぐらいですね、配信があっても流れを気にしないのは」とMCで語っていたように、こんな世の中でも“清春”を貫いていることが痛快だ。ステージ上のあらゆる瞬間がライヴ配信されていたとはいえ、決してよそ行きのパフォーマンスに陥らない清春の態度に新鮮な感動を覚えた。
▲7月16日@大阪・味園ユニバース
17日の公演でもアコースティックギターと清春が2人で「GENTLE DARKNESS」の色気を薫らせるなど、完全に場の空気を支配。ダンサブルな「JUDIE」、退廃感に満ちた「LATE SHOW」の流れも秀逸だった。両日ほとんどの楽曲でパーカッションを操っていたkomakiの対応力の高さも豊かなグルーヴを生んだ要因だろう。「表現方法としてはいろんなことができるようになった」とMCで語ったように、自由自在に編成を変えながら己の歌声の可能性を拡げる清春の姿が眩しい。本編最後の「LAW’S」の狂おしさにはたまらないものがあった。
大阪2DAYSのセットリストに被り曲はなし。だが、そのこと以上に素晴らしいのは、最小限の編成によって活かされた清春の揺るぎない歌の魅力だ。筆者は現地観覧+ライヴ配信視聴という形で<残響>の3公演を体感したわけだが、このコロナ禍にあって、清春の美学は何ひとつ変わらないどころか、独自の輝きを増していると感じた。まだまだ先が見えない困難な時代だからこそ、この意味は増幅するだろう。あと数公演を残すのみとなった<残響>のその先には何が聴こえるのだろうか。清春の表現の進化からますます目が離せなくなった。
▲7月16日@大阪・味園ユニバース
取材・文◎志村つくね (7/11 東京・さくらホール、7/16, 17 大阪・味園ユニバース ※配信)、黒田奈保子 (7/17 大阪・味園ユニバース ※現地)
撮影◎今井俊彦 (7/11 東京・さくらホール)、森好弘(7/16, 17 大阪・味園ユニバース)
■LIVE INFORMATION
8月14日(土) イイノホール
(問)HOTSTUFF PROMOTION 03-5720-9999
9月03日(金) HAKUJU HALL
(問)HOTSTUFF PROMOTION 03-5720-9999
<清春 LIVE IN BLUE NOTE TOKYO>
8月09日(月祝) ブルーノート東京
<怒髪天 presents 中京イズバーニング 2020 “ヤン衆&ドラゴン”>
8月23日(月) 名古屋DIAMOND HALL
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