【インタビュー】TILT、コロナ禍に産み落とした渾身のニューアルバム
1980年代、インディーズ・シーンを代表するトラベリン・バンドとして活躍し、"ライブの帝王"との異名を取ったTILTだが、紆余曲折を経ながらも2014年には再始動を果たし、常にサティスファクション・ギャランティードなライブパフォーマンスを展開、2021年になった今でもそのパワーは健在だ。
ルーズ感の中にもフックとキレがあり、ラフでありながらカッチリと聴かせるそのサウンドがTILTの魅力だが、そんな彼らがコロナ禍において、渾身のニューアルバムが完成したという。
American Cherry(Vo)、片野泰樹(G)、大原辰之(G)、宮崎"Lemmy"哲郎、三井昭典(Dr)のメンバー全員に早速話を聞いた。
▲American Cherry(Vo)
──コロナ禍が続いていますが、ライブバンドにとって酷な期間となりましたね。
三井昭典:TILTはライブがあってナンボなんで、ただ我慢の時でした。
片野泰樹:うん。ライブが再開出来たときは、「ファンと一緒に盛り上がれる」という事がどれだけ素晴らしい事なのかを改めて感じられたよね。
大原辰之:再開は出来たけど、たくさんの人に観てもらいたいのに、人数限定とか時間限定で演るのは辛いね。
American Cherry:ここまで長引くとは誰も想像していなかったし、やれたとしても入場制限がまだまだ続いていて思う様に動けないし。
大原辰之:でも、ライブハウス側はもっと辛かったと思います。
宮崎"Lemmy"哲郎:そうそう、バンドもそうだけど、ハコ側の事が凄く心配だったね。
American Cherry:「だったらアルバムを作っちまおうぜ」と言う発想に切り替える良い機会になったかな。
──2020年はキャリア初の配信ライブも行われましたが、いかがでしたか?
片野泰樹:現場と画面の前のファンへのアピールに関してバランスが難しかったなぁ。
宮崎"Lemmy"哲郎:配信?そういえばそうだったって感じ(笑)。
大原辰之:個人的には、あまり好きではないなぁ。ただ色々な人が観れるというメリットはあるけれど。
三井昭典:配信もそうだけど、コロナ禍以降はキャパシティに対しての人数制限やライブ中間の換気とか、全てが初めての環境の中でのライブだったけど、俺は意外と気持ち良かったんだよ。
大原辰之:でもやっぱりライブは生で観てもらいたいというのが本音です。何が起きるかわからないし(笑)。
American Cherry:そうだね。ライヴハウスに足を運んで音圧を感じてもらいたいので、早く元通りにライブができる環境に戻って欲しい。
──そして約5年ぶりのニューアルバムが完成しました。手応えはいかがでしょう。
片野泰樹:5年経ったという事はメンバーも歳を重ねた訳だけど、逆に若返ったのかと思えるくらいゴキゲンなアルバムになったよ。
宮崎"Lemmy"哲郎:これ、イケてますよ。
三井昭典:めちゃくちゃイイ感じのグルーヴ感で気に入ってます。
大原辰之:ね、早く皆んなに聴かせたい。
American Cherry:また歴史に残る名盤を作ってしまった。
──今作も実にTILTらしい作品になりましたね。
▲片野泰樹(G)
片野泰樹:最高の褒め言葉だね。自分たちの色を見つけるのはそんなに簡単じゃない。
American Cherry:毎年、年末にTILT忘年会を行ってるんだけど、その席でぽつりと三井が「ツーバスとかテンポの速い曲はあまりやりたくない」という意見があって。
三井昭典:そうだね。
American Cherry:「それならもっとパンキッシュなロックンロールを書こう」と、曲を書き始めたよな。
大原辰之:うん。今回はロックンロール色がかなり強くなってます。
宮崎"Lemmy"哲郎:一番らしいかも。
──キャリアが長いバンドでありながら、常に刺激的な作品を作るには何が必要でしょうか。
片野泰樹:リスペクトかな。互いに理解し合った上で、色々な意見を出し合う事が重要かな。
三井昭典:音だけではなく、日々の生活の中でも色々な事に興味を持ったりね。
大原辰之:キャリアは長いかもだけど、毎回新鮮な気持ちでいるし、常に自分好みの音を探してますよ。キャリアより、前向きな姿勢が大事だと思う。
American Cherry:あと全力で遊び切る事ね。
大原辰之:やっぱりロックが大好きなんですよ。音楽に真剣に向き合ってます。
宮崎"Lemmy"哲郎:ブレてはいけない部分とチャレンジ精神だね。
三井昭典:うん、なんでも挑戦する気持ちでやってます。
American Cherry:今回も攻めの作品になったんじゃないかな。
──レコーディングは順調でしたか?
American Cherry:前作の『BELLY OF THE FISH』同様、楽曲1日、歌1日、コーラス1日の3日間で録り終えました。早く晩飯と酒に有り付きたかったから~(笑)。
三井昭典:全てワンテイクでと言いたいところだけど、やっぱりグルーヴ命でやりました。
宮崎"Lemmy"哲郎:俺はレコーディング前の3日間は不眠症状態だったんだよ~。
片野泰樹:前日の夜遅くに大原からツインギターソロのアイデアが送られてきて、当日に少し合わせて本番に臨んだよ。
大原辰之:めっちゃ疲れたね(笑)。ベーシックは1日で録れたし、ボーカル、コーラスも予定通りのスケジュールだったので、順調だったと思います。
American Cherry:2020年に発表したライブアルバム『TILT 'N' ROLL CIRCUS』からガッツリとタッグを組んだレコーディングエンジニアの山田貴司氏が今回も良い仕事をしてくれましたね。
大原辰之:レコーディングは何回やっても疲れます。録るってなると、いつも緊張して、もう何回もやってるのに慣れない(笑)。でも少しずつ仕上がってくると楽しみが増えてくるよね。
──アートワークがタロットカードの愚者(THE FOOL)がモチーフですが、愚者の意味である旅立ちや始まり、自由などがコンセプトでしょうか。
American Cherry:増田勇一さんがライナーノーツで代弁してくれているのでチェックして欲しいんだけど、まさにTILTに相応しいカードだなと思い、このようなコンセプトになりました。中ジャケや盤面などにも、他のカードも描かれていて、曲、絵、共に楽しめるアルバムです。
▲大原辰之(G)
──前作『BELLY OF THE FISH』も絵本のような作品でしたよね。
American Cherry:今だから話すけど、『BELLY OF THE FISH』の盤面の惑星は、俺が作った泥団子だよん(笑)。
──今作での新しい試みはありましたか?
片野泰樹:ジミー・ペイジでお馴染みのテルミンを使ってみたよ。
American Cherry:その時のアクションがジミー・ペイジの様で笑い転げたよな、レコーディングだからアクションは要らないのに(笑)。
大原辰之:今回、自分はギターサウンドの歪みをなるべく控えました。なので、かなりキツかったんです(笑)。
American Cherry:歪みが無い分、生々しいファットな音が録れているよ。
宮崎"Lemmy"哲郎:ベース音は部分的にエフェクトをかけた事かな。
三井昭典:また今までにない、新しいTILTの味が出せたと思ってる。
American Cherry:「Fallin' Down」は、楽曲録りの時にはまだ歌詞が完成していなくて、今回のアルバムの最後に出来た曲なんだけど、録ってみたらキラーチューンに大変身。イントロを短くして、すぐに歌が入って来るのが初の試み。上手く行ったよ、テルミンの導入も一役買ってます。ライブもこの曲からスタートする事になりそうだね。
──「Nothin' But Rock 'n' Roll」は、ブラック・クロウズのイメージにも感じました。
American Cherry:ロックンロールにありがちなリフだとは思うけど、大原とアコギでTILTのセルフカヴァーをやり始めの頃、最初に作った曲をバンドアレンジしてみたの。今まで作ったTILTの曲タイトルや歌詞を並べて、言葉遊び的に出来た曲です。みんなは、いくつ分かるかな?キーを上げたのでハーモニカは無しで、代わりのピアノが素晴らしいんだ。
──「Livin' The Dream」「Risky Blues」はライブでお馴染みのナンバーですね。
American Cherry:「Livin' The Dream」は、既にライブ盤『TILT 'N' ROLL CIRCUS』に収録されている曲なので、転がる石を気取って(歌詞参照)、みんな歌おうぜ~。「Risky Blues」も「Nothin' But Rock 'n' Roll」同様、アコギではプレイしていて、ファンからのリクエストで作り直した曲です。ロバート・ジョンソン(伝説的なブルース歌手)には怒られるかも知れないが、これがTILT流30番目のブルースです。ホーンセクションの様な鍵盤が、超COOL。
──違和感がなくて「Breath」がカヴァー曲とは全く気付きませんでした。
American Cherry:関西の小川洋一郎と言うシンガーソングライターが歌っているのを聴いて、その歌詞のインパクトに心を打たれ「この曲を俺も歌いたい」と思った。そしたら実は彼もカヴァーで歌っていた事が判明。早速、浜田裕介と言うこの曲を作った人に連絡を取った所、快諾してくれたので今回アルバムに納める運びとなりました。TILT史上初の邦楽カヴァー曲。
大原辰之:初めての邦楽カヴァーも、なかなかイイ仕上がりになりましたよ。
American Cherry:ロッド・スチュワートが「Sailing」を歌い続ける様に、俺もこの曲を大切に歌い続けようと思います。もちろんアコギでも。そして松井博樹(BLINDMAN)のメロトロンが哀愁を更に増してくれてます。
──BLINDMANの松井さん(Key)は3曲参加されていますが、もう半分メンバーになっていますね(笑)。
宮崎"Lemmy"哲郎:うん、松井君とは以前某バンドで一緒だったけど、今や6人目のTILT(笑)。
片野泰樹:実は彼がテルミンを貸してくれたの。
American Cherry:ピアノやメロトロンと今回も多彩な才能を発揮してもらってるよ。
大原辰之:キーボードのイメージを伝えて、自分のイメージ以上のプレイだったですよ。
片野泰樹:俺達の快楽のツボを知り尽くしているんだよね。今回も最高の仕事をしてくれたよ、まさに6人目のTILTだね。
American Cherry:アコギの時も、たまに手伝ってくれて良い呑み友達でもあるよ。
大原辰之:ただ、これ以上メンバーが増えるとステージが狭くなりますわ(笑)。
▲宮崎"Lemmy"哲郎
American Cherry:アルバムの話しに戻るけど、タイトルチューンの「Fool's Song」は最後のフレーズがおもむろに頭の中にあった曲で、当時アメリカ進出を試みた結果、湾岸戦争が勃発して願いが適わなかった頃の物語。ツインリードギターが気に入ってます。
──最後の効果音も気になります。
American Cherry:あれは、愛猫「GODZILLA」のいびきを4オクターヴ程下げて録音したものなの。今、上映中の映画『Peter Rabbit 2』のエンドロールが終わった時に、同じ様に誰かのいびきが入っていたし、『GODZILLA vs KONG』も最後に鳴き声が入っていたのには驚いたよ。
──ツアーの予定は立っていますか?
American Cherry:2021年も半分終わってしまったけど、7月の名古屋でのイベント<ROCK'N ROLL OVERDOSE>を皮切りに、後半は月一ペースでライブをして行きたいと思ってます。9月には博多が決まりました。
──今後の活躍も楽しみにしています。
大原辰之:めっちゃ良いアルバムが出来たので、是非是非、色々な人に聴いてもらいたい。まだまだこのご時世、制限があるけど、ライブ会場でお互い楽しみましょ~。あ、もちろんCDも買って下さい。
三井昭典:またライブで盛り上がれる事を楽しみにしてるぜ。
American Cherry:爆音で聴けっ。
宮崎"Lemmy"哲郎:皆さん、またお会いしましょう。
片野泰樹:またいつか世の中が平和な日常を取り戻した時にいつでも全開でイケるよう、俺達はスタンバイしているのでみんなもパワーを貯めて楽しみに待っていてくれ。NO TILT , NO LIFE アスタラビスタベイビー(地獄で会おうぜ、ベイビー)。
▲三井昭典(Dr)
取材・文◎Sweeet Rock / Aki
TILT『the Fool』
SUNNY SIDE UP RECORDS SSU-005 \2,500(税込)
1.Fallin' Down
2.Nothin' but Rock 'n' Roll
3.Livin' the Dream
4.Risky Blues
5.Breath
6.Fool's Song
【TILT】
American Cherry (Vo.)
片野 泰樹(G.)
大原 辰之(G.)
宮崎"Lemmy"哲郎(B.)
三井昭典(Dr.)
<TILT>
9月25日(土)博多 LiveSpace ZERO
<TILT self cover ToILeT>
8月7日(土)四日市 MISAYA