【インタビュー】ゆきみ、“女性というもの”の縛りから抜け出した「ミス・ファンタジア」
■何が正解かは選んだ後に決めていく
──ヘアスタイルやメイク、ファッションは、気分を上げたり切り替えたりするスイッチのような役割もありますよね。
ゆきみ:あると思います。これは私の場合ですけど、お洋服を選ぶ時間が短くて適当に選んだ服で出かけてしまうと、その日の目線というか、自信の度合いも変わってきてしまうんです。このお洋服にはこのピアスをしよう、こういう風にしたら自分のテンションが上がるっていうものを身につけて外に出た日は、人の目をちゃんと見て話せるというか。もともと自信がないって思っている方もいるかもしれないし、普段は自信あるんだけどなんか今日はよくないなって思うような時もあると思うんですが、自分の中にないとか足りないのであれば、外から借りられるものなんだよっていうことも、曲の中に閉じ込めておきたかったんです。そういう時に助けてくれるものは身近にあるんだよって、私自身が忘れないためにも。
──音楽もそのひとつですよね。何を聴くかで、気持ちがガラッと変わったりして。
ゆきみ:BGMが違うだけで気分変わりますよね。おしゃれな曲を聴いていると、おしゃれになった気分になりますし(笑)。音楽からも借りられると思います。
──その点、今回の4曲はそれぞれ別の方がアレンジを手掛けていらっしゃるので、曲ごとに違った世界観を楽しむことができますね。個人的には最後に収録されている「普通の人間」の、ギターとピアノが作り出す絶妙な空気感が印象的でした。
ゆきみ:これはかなり引き算で作った曲なんです。最初はど頭から結構いろんな音が入っていたんですが、この曲はかなり私自身というか、自分が平凡でつまらないなと思っているところも含まれている曲だったので、あまりきらびやかにしたくなかったんです。トラックメーカーのshushuさんは昔からよく知っていて、わりと音を詰め込むタイプの方なんですが、元々はシンプルなギターを弾く方でもあるので、ギターとピアノっていう素朴な部分をメインにして欲しいですとお願いをしました。
──「自分が平凡でつまらない」というのは客観的に見てなのか、それとももっと根本的なコンプレックスみたいな意味でもあるんでしょうか。
ゆきみ:コンプレックスに近いですね。この曲を書く以前の私は、かなり平凡でつまらない、大量生産されたものみたいなイメージが自分にあって。自分のことを自分で変わってると思っている人もいると思うんですが、やっぱり自分が基軸になっているので、“自分が一番普通で、それ以外が変わっている”っていう風に考えるのも自然なことなのかなと思うんですね。でもやっぱり左利きの人が羨ましいなとか(笑)、ちょっと人と違う特徴があるっていうのが羨ましくて、平凡っていうところに嫌気が差す瞬間が多々あったんです。だけどそういう自分で生きてきたから、自分という人間が自分であったからこそ、こういうものに出会えたとか、こういう人に出会えたんだってそういうことを感じた時に、自分が自分でよかったっていう風に思うことができたんです。それでこの曲が生まれて、そのタイミングでコンプレックスだとか嫌なことだとかは思わなくなったんですよね。
──「誰でも似合うこのスカートが悪い訳じゃないのに」という歌詞は、特に素敵な表現だなと思いました。
ゆきみ:ちょっと変わりたいとか、一歩踏み出したいから奇抜なものにチャレンジしたくなったりもするんですが、結局似合わないなって思ってしまって、これだったら無難だろうっていうものを選んで履いている自分が嫌になっちゃう瞬間があったんですよ。それが、そのまま歌詞になっているんです。
──スカートというワードがありつつ、この曲の一人称は「僕」なんですね。
ゆきみ:私の曲に関しては、私が主人公をとびきり女の子らしいと思っていても「僕」を使ったりします。一人称が「私」か「僕」、二人称になるのが「あなた」なのか「君」なのか。これがセットになっていたりするんですが、どちらかというと「私/あなた」の方が精神的な部分で少し上で、「僕/君」の方が少し下なイメージがあって。この曲に関しては素朴な部分というか、まだ未熟な部分が「僕」や「君」という部分に入っているかもしれないです。
▲ゆきみ/「ミス・ファンタジア」
──3曲目の「1LDK」は、イントロ部分の演出に驚きました。これはクロダセイイチ(Genius P.J's)さんのアレンジなんですね。
ゆきみ:ピアノの弾き語りでクロダさんにお渡ししたら、このアレンジで返ってきたんです。びっくりしました。クロダさんとは唯一、楽曲を作っていただく前に直接お会いして、お互いの恋愛感みたいなものを話し合ったんです。その上で作ってくださったので、どういう部分がこのアレンジに反映したんですかって私も聞いたんですよ。すると、私が持っている光と影の割合みたいなものがあって、この曲にもそれと同じような割合が反映されていると思ったのでそこを表したかったと。その光と影の割合はクロダさん自身も同じような気がしたらしく、それがアレンジになっているとおっしゃっていました。
──映画やドラマのワンシーンみたいですよね。鍵を開ける時の、キーホルダーの形まで見えそうな気がしました。
ゆきみ:見えます、見えます(笑)。あの部分に、ストーリーがめちゃくちゃ詰まってますよね。
──サビは1LDKとは思えない感じというか、一気に音の景色が広がります。
ゆきみ:ストリングスの音が、きっとそうさせてくれているんですよね。曲の最後で「狭い」という言葉も出てくるんですが、1LDKってそこに何を置くかで、広すぎるかもしれないし狭すぎるかもしれないって、見え方が変わってくると思うんです。その曖昧な感じみたいなものも、トラックの中に入れてくださっているんだなって個人的には思いました。
──クロダさんとは今回が初めてなんですよね?
ゆきみ:私はクロダさんのアレンジされた楽曲も知っていますし、クロダさんのやっているバンドと対バンしたこともあったのでもともと知ってはいたんですね。一緒に音楽できたら素敵ですねってお話もしていたんですが、それがやっと叶ったという感じです。今回はちょっと影を含んだ部分がクロダさんにマッチするんじゃないかなって、私からもそういうイメージがあってお願いしたし、結果的にはクロダさんもそれと同じようなものを感じて曲に落とし込んでくださったみたいですね。
──こうプロデュースしたいとか、こういうプロデュースをして欲しいというやりとりがダイレクトにできるのも、ソロアーティストならではかもしれないですね。
ゆきみ:そうですね。それこそバンドだと折衷案にするのか、誰かの意見に賛同することでまとめるのかなどをその都度みんなで話し合うことになりますが、ソロの場合は私のわがままをどこまで育てるかみたいな感じ(笑)。基軸には私というものが100%あって、それを皆さんの要素で成長させていくみたいな感じだと思うので、バンドとはやっぱり違いますよね。
──バンドの話で思い出したのですが、前回のインタビューで、バンドで意見をまとめるにあたって<これじゃない、こっちも嫌だとなったら「どっちにするか」じゃなくて新しい選択肢を見つけていく>とお話しされていて。すごく柔軟で前向きな発想だなと思い、今でもよく思い出します。
ゆきみ:音楽は特にそうだと思うんですが、正解が何かっていうのがあらかじめ決められているものではないので、「これか、これか」になっても、それだけが正解じゃないと思うことでもっと新しいものに出会えたりするんじゃないかと思っているんです。
──そうですね。
ゆきみ:もっと言うと、何が正解かは選んだ後に決めていくものだと思っていて。今回のタイトルやテーマの話にも通じることなんですが、何かを決めたり選んだりするタイミングで正解が決まるのではなく、選んだ後の自分の行動で、選んだものを正解にしていく。自分が選んだものを、より自信を持って誇りを持って「これでよかった」って言えるようにしていく。そんな風に思っているんです。何か迷った時はあとからこれを正解にしていけばいいんだっていう見方で、そういう自由な発想で、今作を聴いてもらえたら嬉しいなという気持ちです。
──最後になりますが、こうして素敵な作品がリリースされたあとは、やっぱり生で聴きたいなと思われている方も多いと思います。ライブなど、今後についてはいかがですか?
ゆきみ:実はもう、心は次の作品に向かっています。かなり具体的なイメージもすでにあるんですが、詳しいことはまだ内緒にさせてください(笑)。ライブに関しては、声を大にして「来て!」と言えないのがどうしても心苦しくて。頻繁にはできなくなってしまいましたが、ライブをしたいという気持ちはずっとあります。もう少し様子を見ながら決めていけたらと思っていますので、ぜひ楽しみに待っていてもらえたらと思います。
取材・文◎山田邦子
2nd DEMO「ミス・ファンタジア」
[収録曲]
01. アイスクリームのように
02. ミス・ドレスコードの夢
03. 1LDK
04. 普通の人間
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