【インタビュー】井上緑、“歌で嘘をつかない”徹底した目線が生み出す魅力
■風を切って歩いているのって、あれも威嚇じゃないですか
──自分が出ている曲となると、「サボテンの育て方」もそうですか?
井上:これはまるまる自分が思ったことですね。サボテンって真っ赤な花を咲かせるんですよ。それがかっこよくて。そういうふうになりたいのであれば、どういうふうに生きなければならないのかを紐解いていったんですけど。この曲がアルバムの中では一番新しいんですけど、もう一回、自分の中で完結させることができた曲なんじゃないかなって思いました。誰かに向けてとかではなく、すべて自分に向けて書いているっていう。
──あと、「電車は走る」も自分のことを歌った曲?
井上:これもまんま自分です。旅をしたんですよ。言ってもたいした距離でも時間でもないんですけど、路上で弾き語りをして、そのお金で青森まで行って帰ってくるっていうのを10日間ぐらいしてたんですけど、そのときにできた曲ですね。
──アレンジとしては、爽快感のあるバンドサウンドになってはいるんですけど、どこか感傷的な雰囲気もありますよね。
井上:なんか、結局僕はさみしい人なんだなって思いますね(笑)。どこか可哀想でありたいというか。さっき話したような、友達ができてしまったことに、う~んって思うってことは、すごく恵まれた話なんですけど、たぶん不幸でありたい奴なんだろうなって。
──幸せになってしまうと曲が書けなくなってしまうんじゃないかという不安。
井上:そこはちょっとありますね。幸せだから書ける曲もあるんだろうけど、それに自分が耐えられるのかわからないし、聴いてもらえるのかなとも思いますよね。そういう不安はずっと抱えてます。
──あと、MVを先行公開されていた「ふわふわり」は、サウンド的には優しくて柔らかいんですけど、歌詞がちょっと怖いというか。
井上:はい(笑)。
──言葉にするとちょっと強くなってしまうかもしれませんが……後追いの歌ですか?
井上:いや、もっと自分勝手な曲というか。最後にある《僕のために… 君のために… 泣かないで》というのは、要は、僕のために泣かないでってことなんですよ。それは君のためだよと言いつつも、結局は、泣かれてしまうと自分がどうすればいいのかわからないから、《泣かないで》と言っている曲だと思っていて。あと、途中までは《眠くなってきたな》なんですけど、最後だけ《眠くなってきたよ》にしてるんです。結局、最後の最後で助けを求めちゃってるんですよね、その人は。
──なるほどなぁ。
井上:後追いってどういうところからそう思ったんですか?
──そこはMVの印象が大きかったです。音源のみだと、ひとりで行こうとしている人の歌だと思ったんですけど、映像を観ると、主人公の男の子が女の子のいる世界に行こうとしているのかなって。だからいろんな解釈ができるんだけど、結局は死を選ぼうとしている人の歌ではあるんだろうなと。
井上:そうですね。結局はそこなんだけど、本当はそいつも別にそういう気持ちじゃないというか。死にたい、死にたいって言いながら、ずっとうだうだやっている奴というか。
──そういう歌を作ってみようと思ったのはなぜなんです?
井上:やっぱり自分がそういう人間なんでしょうね(笑)。
──それはそれで心配になるんですけど(苦笑)。
井上:ははははは(笑)。でも、こうやって生きているわけですし、歌も歌っていますから。ただ、そういう不安定な状態になることって、みんなあると思うんですよ。夜中とか、悪いほうに泥酔しちゃったときとか。そういうときに引っかかってくれればいいなと思ったんですけど、そのためには自分が思っていることを全部曝け出さなきゃいけないじゃないですか。そうやって曝したところのどこかに、誰かが引っかかってくれるかどうかの話だと思うので。
──確かに。
井上:最初は“こういう曲ってあんまりよくないんじゃない?”っていう話もあったんですよ。あまり触れちゃいけないことでもあると思うし、逆にそういうことを歌うことで、感動とか共感を呼びやすくなったりもすると思うんですけど。でも、そういったことをもっと抽象的にというか、タイトル通り全部ふわふわさせて、そこにあるものを感じ取ってくれたら、他の曲の意味とか捉え方もまた変わってくるじゃないかなと思って。その起爆剤みたいな感じで入れた曲ですね。
──死にたいけれど、死ぬ気はないというところでいうと、「若者のバラッド」もそこがキーワードですよね。
井上:そうですね。死にたい、死にたいって言ってる奴がいたんですけど、それこそそんな気もなく、ただ言いたいだけで。でも、それってみんなそうだよなと思って書いた曲ですね。
──確かに《死んでしまいたい っていうのは嘘です 本当は全部から 逃げ出してしまいたいだけ》というのは、本当にその通りだなと思いました。
井上:昔、嫌なことがあったとか、何かをしてしまったと思っても、結局それをうやむやにして終わっちゃうこともあるじゃないですか。それを隠しながらも、後悔しながらも、死にたい、死にたいと言って、毎日のうのうと生きている人間の背筋が伸びればいいなと思って。まあ、そういうことを言っていた奴だけじゃなく、自分に向けてもいるんですけど。
──井上さんとしては、そうやって生きていくのはどうなんだという問題提起みたいな感じで書いていたと。
井上:そうです。最初は「卑怯者は今日も行く」というタイトルにしてたんですよ。そういうのってずるいなと思って書いた曲だった気がします。
──それが「若者のバラッド」になり、また意味や解釈が変わってきています? この曲って、そうやって何かをうやむやにして生きている自分に寄り添ってくれていると受け取れるところもありますけど。
井上:ああ、そうですね。「若者のバラッド」は、自分の中ではまだ全然変わっていないんですけど、僕が口から出して歌った時点で、もう自由に聴いてくれればそれでよくて。そうやってその曲が誰かの支えになってくれたら、それはそれで嬉しい限りじゃないですか。歌ってそういうものだと思うんですよ。こっちの意図ってそんなに関係なくて、聴いてくれる人がどう思うかでしかないと思うので。
──そういった中でも「大丈夫」は、僕なりのエールを歌にすると歌われていて。
井上:これは、ライヴをしていて、ずっと自分のことだけを歌っているのもどうなんだろうと思っていた時期に作った曲ですね。何を求めてみんなは来てくれるんだろうと思って、じゃあひとつ応援歌を作ってみようと思って。自分の身近に頑張っている人がいたから、その人に向けて書いてみようと思ったんですけど、なんて言えばいいのかわからなかったんですよ。もう頑張ってるのに、これ以上頑張れって言えないなって。で、自分が“大丈夫”っていう言葉に救われたことがあったので、それを混ぜて歌にしてみようって。
──ご自身が“大丈夫”という言葉に救われたときというのは?
井上:もうダメなのかもしれないなっていう話をポロっとしてしまったときがあって。そのときに“大丈夫じゃない?”って言われたんですよね。“曲もいいし、歌もいいし、大丈夫じゃん?”って。なんか、そいつって無責任なんですよ。お前に俺の何がわかるんだよって思ったんですけど、そいつは根っこで本当にそう思っているから、その言葉がふと出たのかもしれないなと思ったんです。
──ああ、なるほど。
井上:本当のところはわからないですけどね。お酒も入っていたし、テキトーに言っただけなのかもしれないけど。でも、重くなかったんですよ。パッと自分の中に入ってきて、それが自信になったというか。それがあってまだ音楽を続けているっていうのは……ないかな(笑)。いや、あるかな。でも、すごく助けられました、その一言に。
──歌詞には《無責任で悪いけれど》というフレーズがあるけど、そこは井上さんとしては入れたかった?
井上:入れたかったです。これを入れる必要は別になかったと思うんですよ。でも、最近気付いたんですけど、《無責任で悪いけれど》って歌った後、最後のサビでメロディが変わって、《僕がそう思った》って歌ってるんですよね。そのことを歌うためには、自分がしっかりしていないといけないじゃないですか。その意味を繋げるために入れていたんだろうなって思いました。“無責任で悪いね”って言いつつも、ちゃんとしたかったんだろうなって。
──あと、アルバムのジャケットについて。毎作かなり素敵ですよね。
井上:1枚目からずっとお世話になっている島田(隆将)さんにお願いしました。僕、動物が好きで、アルバムごとに動物のイラストをお願いしているんですけど、今回はヤマアラシにしていて。
▲『風を切るように』
──なぜまたヤマアラシに?
井上:今回のアルバムのテーマが「つよがり」なんですよ。それで、威嚇する動物を考えました。ヤマアラシって、相手を威嚇するときに棘を立てるんですけど、あれって最終手段なんですよ。あの棘は自分の毛なので、それが抜けると自分もダメージを負ってしまうから、できるだけ使いたくないんだけど、刺すぞっていうアピールをする。しかも、胸を張って広げないんですよね。身体の構造上なのか、身を守るためなのかわからないけど、頭を下げて広げるので。その感じもちょっと情けなくていいなって。あとは“ヤマアラシのジレンマ”って言葉があるじゃないですか。
──相手に近づきたいんだけど、近づきすぎるとお互いを傷つけあってしまうという。
井上:そういうのって、さっき話していた幸せになろうとしていないところというか。愛されたいけど、そこから遠のいていくように生きているようなところもあるんじゃないかなと思って、ヤマアラシを選びました。
──なるほど。じゃあ、『風を切るように』というタイトルも、つよがりから来ているんですね。力強く、颯爽と歩いている感じというよりは。
井上:そうです。風を切って歩いているのって、あれも威嚇じゃないですか。自分の歩幅よりも大きく見せて歩いているから。だから、すごく爽やかな感じがするタイトルにして、アー写も青空の下で撮っているんですけど、そこにはちょっと大人になろうとしている自分への皮肉みたいなものを入れてます。
──まさにいまのご自身を閉じ込めた作品になりましたけども、昔からある目標ってあるんですか?
井上:やっぱり武道館では歌いたいですよね。それが恩返しにもなるし、そこまでのアーティストになったぞっていう証明にもなるので。
──“歌はずっと変わっていくもの”というお話を最初にされていましたが、ここから先も変わらないのかもしれないと思うことってあります?
井上:アコギを弾いて歌っているのは変わらないんだろうなと思います。たとえば、あまり考えたくないですけど、一線から身を引くというか、頑張って活動するステージから降りたとしても、ずっとアコギを弾いて歌っているんだろうなって。もしかしたら、すごい汚い言葉を吐き散らしながら、駅とかで歌っているだけの人になるかもしれないし(笑)、綺麗事ばかり歌うようになるかもしれないし。でもやっぱり、ギターを弾いて歌うというのは、どうあっても変わらないんだろうなと思います。
取材・文◎山口哲生
ニューアルバム『風を切るように』
価格:税込¥2,500/品番:NPRO-2101
[収録曲]
1.電⾞は走る
2.若者のバラッド
3.Stand by me
4.アイコトバ
5.恋に生きる
6.マンゴーロック
7.音楽なんてやめときゃよかった
8.ねこのきもち
9.ふわふわり
10.花束
11.ヒーロー
12.サボテンの育て方
13.大丈夫
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