【インタビュー】なきごと、夢か現か…時代ならではの想いを切り取る『黄昏STARSHIP』
■「曲に残しておきたいな」って
■今を生きる人間として思った
──先ほど“現実逃避”というワードが出てきましたが、先行配信シングル「春中夢」に《夢か現かわからなくなっているんだ》という歌詞が出てくるように、自分自身もそんな日々を過ごしていたんです。暗い現実から逃避するように眠ってばかりいたら、不思議なことに学生時代のような非現実的な夢を見るようになって。脳がバランスをとっているのかなと考えたりしていました。だから、今回のアルバムにスーッと引き込まれたんですよね。
水上:きっと将来、教科書に載るような歴史的な出来事だと思ったので「曲に残しておきたいな」って今を生きる人間として思ったんですよね。何十年か経ってアルバムを聴いた人が「コロナで大変な時代だったから、こういう曲なのかな」って思ってくれたらいいなという気持ちで書いたのが「春中夢」なんです。
──刺さってきます。
水上:最近、スタジオで歌ったら言ってくださった《夢か現かわからなくなっているんだ》《夢なら今すぐ目を覚まして起きるよ》っていう歌詞が改めて自分に刺さってきたんです。そこが「春中夢」のポイントになっていると思うし、自分で言うのも何ですけど、聴けば聴くほどいい曲だなって。
──「春中夢」から「知らない惑星」、「連れ去って、サラブレッド」に移行する3曲の流れが特に好きなんです。
2人:(笑)。
水上:「春中夢」で夢なのか現実なのかわからなくなって、目を覚ましたら「知らない惑星」で自分がどこにいるのかわからないパラレルワールドを彷徨って、現実に戻った時にこんな世界なら、どこかに連れ去ってほしいと歌う「連れ去って、サラブレッド」にいく流れは自分でもお気に入りでこだわったポイントでもあります。
──BUMP OF CHICKENや椎名林檎さんなど数々の作品を手掛けた番場秀一さんが監督した「知らない惑星」のMVもコミカルでぶっ飛んでいますよね。水上さんは連ドラの主人公みたいに全力疾走している。
水上:「本気で来い」って言われて、最初は本気を出しすぎたのでちょっと力抜いて走ったら、「や、もっと本気で」って言われました(笑)。
岡田:撮影中は休日の公園みたいな感じでキャッキャしてましたね(笑)。
──『黄昏STARSHIP』の中でレコーディングを含めて2人にとって印象深い曲を何曲かピックアップすると?
水上:「春中夢」のレコーディングは岡田のギター収録が大変そうでしたね。
岡田:そう。準備していたフレーズがちょっとニュアンスが合わなくて悩んだ末にやっと弾き終えて、へとへとになってブースの外で寝てたんです。その間にえみりがすごい歌を録っていて、ハイトーンで歌っているいちばん最後の歌詞《絶望の春の中見た白昼夢》っていう箇所でパッと目覚めたんですよ。
水上:そうだったんだ?
岡田:リアルに「春中夢」から「知らない惑星」に行く経験をしていたっていう(笑)。
──ははは。「春中夢」では止まない雨はないとか、明けない夜はないっていう言い方を引用して《大事なのはそこじゃないの》って歌っていますが、違和感を感じたということですか?
水上:もちろん、そういう言葉に救われることもあるんですが、先の見えない状態だと響き方が違うというか。《明けない夜はない》っていうのは明けた先に朝が来るのを知っているから夜を耐えられるのであって、雨がいつか止むのを知っているから《止まない雨はない》って言えるんだよなって思っていたんです。ちょうど1年ぐらい前に作った曲でワクチンもできていなかったし、ライブも含めて全部が止まっていたので、辛かったんですよね。TVを見ても答えがない議論をしていて、もっと本質的なところを話してくれたらいいのにって思ったり、そういう時の感情を込めた曲です。
岡田:あとは「憧れとレモンサワー」かな。
──ゲストボーカルにSAKANAMONの藤森元生さんが参加していますね。
水上:高校生のとき、通学路でよく聴く音楽リストの中にSAKANAMONが入っていたんです。同じレーベルに所属することになって、一昨年の新年会で初めてお会いしたんですが、その時にレモンサワーを飲みながら、いろいろ音楽についてお話させていただいたんですね。憧れの方たちを目の前にしていること自体、何にも代えがたい空間だなと思って書いた曲です。
──《憧れと味のしないレモンサワー》と歌っていますが、緊張しすぎて味がしなかったんですね?
水上:ホントにそうなんですよ。レーベルの先輩ってどなたと飲んでも酔えないんです。
岡田:はははは。
水上:元生さんは作りかけの歌詞を見せてくれたり、音楽についての知見を話してくれたりして「そういう曲の作り方もあるんだな」って。同じ年の12月に2マンライブをすることになっていたので、ライブに間に合わせたいと思って急ピッチでみんなの力を借りて作ったのが「憧れとレモンサワー」です。
──そんな経緯があって今作に参加してもらうことに?
水上:そうなんです。マネージャーが提案して私たちは「そんな、恐れ多いです」って言ったんですが、「声かけるだけかけてみよう」って。なきごとの音源に初めて男の人の声が入りました。
──甘酸っぱいギターロックですよね。
岡田:当時、ライブで披露した時とはアレンジが違って、今回は青春ロックっぽいアプローチをしています。Aメロのブリッジのギターだったり。今までのなきごとにはなかったタイプの曲ですね。
水上:そうだね。こういう拳を上げるようなタイプはなかったし、各自の青春が詰まっている感じがしますよね。サポートのベースとドラムの人も“もしも自分が学生だったら”って想像して演奏してくれたんです。今の高校生たちがこの曲をコピーしてくれたらなって。
岡田:耳コピしたりして演奏してほしいですね。
水上:あと、印象的なのはレコーディングでみんなで“せーの”で演奏した最後の曲「B」ですね。実際にあった無理心中について書いた曲なんですが、自分の生命を投げ捨てでも誰かを愛するってどういう気持ちなんだろう?って。自分なりにその人に花を添えるような想いで書いた曲です。
──後半のほとばしるようなギターソロも迫力たっぷりです。「B」を最後に持ってきた理由というのは?
岡田:曲順に関しては満場一致で「B」でした。背景としては1stミニアルバム『夜のつくり方』のシークレットトラックに「B」のピアノ・ヴァージョンが入っていたので、この曲で終わるのがきれいだろうって。
──なるほど。青春ロックという話も出ましたが、今作にはジャズやファンク、レゲエだったり、いろいろなエッセンスが曲の中に盛り込まれていて曲調も歌い方も引き出しが多いから聴きどころがいっぱいですね。
水上:そうですね。完成してから改めて聴き比べてみるとアレンジ、歌い方やギターも全体にレンジが広がったなと思いました。どんどん大人になっているというか、初期の「メトロポリタン」や「Oyasumi Tokyo」を今聴くと「幼いな」って。必死に食らいついている感じがするんですよね。もちろん、今も頑張るぞっていう気持ちはあるんですけど、もう少し腰を落ち着けて“こういうことを表現したいんだよ”っていうところに重きを置いた歌い方に変わってきたと思います。
──冒頭で新曲が生まれているという話もしてくれましたが、今後のなきごと の活動について教えてください。
水上:さっき「春中夢」の時にお話ししたように、止まない雨の先にあるのが晴れた空なのか、未だに不明瞭なのでいっぱい迷うこともあると思うんですが、我々も地に足をつけながら探り探りライブという居場所を作っていけるように頑張りたいと思っています。一緒にこの困難を過ごしていけたら──。苦しい時にも寄り添える音楽でありたいので挫けそうになった時ほど、聴いてほしいなと思います。
▲なきごと/『黄昏STARSHIP』
2nd Mini Album『黄昏STARSHIP』
NOID-0038,39
■初回限定生産盤(CD+DVD)¥2,500(+tax)
■通常盤(CD):¥1,800(+tax)
発売元:[NOiD] / murffin discs
販売元:Japan Music System
[CD]
1. ラズベリー
2. 春中夢
3. 知らない惑星
4. 連れ去って、サラブレッド
5. 憧れとレモンサワー
6. スプートニクになる
7. B
[DVD]
なきごと 1st Digital Single “ 春中夢 ” Release Live
2020年10月24日(土) 渋谷CLUB QUATTRO
1. 合鍵
2. セラミックナイト
3. さよならシャンプー
4. ヒロイン
5. 連れ去って、サラブレッド
6. 忘却炉
7. ユーモラル討論会
8. メトロポリタン
9. ラズベリー
10. のらりくらり
11. 癖
12. ドリー
13. 春中夢
En. 1 Oyasumi Tokyo
En. 2 深夜2時とハイボール
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