【インタビュー】なきごと、夢か現か…時代ならではの想いを切り取る『黄昏STARSHIP』

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2ndミニアルバム『黄昏STARSHIP』をリリースしたなきごとが、久々のツアー<なきごと 黄昏STARSHIP Release Tour 2021>を開催中だ。コロナ禍で2020年に予定していた全国ツアーやフェスの出演が中止となり、一時は悶々とした日々を送っていたという水上えみり(Vo.&G.)と岡田安未(G.)。そんな中、2人は改めて自分たちの音楽に向き合い、“現実逃避”をコンセプトに『黄昏STARSHIP』を作り上げた。

将来、教科書に載るような歴史的な出来事の中に生きている自分たちの想いを曲にして残しておきたかったという水上の言葉もズシンと響いてきたが、夢なのか現なのかわからないと歌う先行配信曲「春中夢」、パラレルワールドを彷徨うような「知らない惑星」、遥か彼方まで連れ去ってほしいと歌う「連れ去って、サラブレッド」など、今を刻みつけた楽曲が刺さってくる。

リモートや配信ライブが主流になっている中、彼女たちがたどり着いた答えは“生で音楽を届ける素晴らしさ”にこだわりたいということ。ロックミュージシャン然とした鋭い感性を持つ2人がアルバムを通して見つけたものについて話を聞いた。

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■スイーツを送り合いつつ、リモート音楽制作

──今はツアーを前に(取材時)忙しい日々ですよね。

水上えみり(以下水上):はい。いよいよライブモードに入っています。新曲の制作もしていて。

──ツアーで披露するための新曲ですか?

岡田安未(以下岡田):何も考えてなかった(笑)。

──では、そこはお楽しみにということで。コロナ禍の日々が続いていますが、特に2020年はツアーも延期になり、なかなか会えなかったり、オンラインでやりとりすることが多かったのではないかと思います。リモート生活でお互いに進化したとか、変化に驚いたことはありました?

水上:今、言ってもらったことは全部当てはまる感じなんですけど(笑)、ツアーができなくなって自粛期間中は家から出れないし、スタジオにも入れなくて。そんな時に岡田が「リモートで曲を作ってみない?」って言ってくれたんです。なきごとはサポートメンバーに参加してもらっているので、以前からデータでやりとりする方が効率がいいんじゃないかって話は出ていたんですが、私が極度の機械音痴なもので(笑)。


──去年の春のインタビューでも言ってましたもんね。

水上:そうなんですよ。でも、自粛期間だし、「できないとかじゃなくて、やるしかないな」と思って。

岡田:ふふふ。カッコいい。

水上:で、ここは文明の力を借りてみようとやってみたんですが、出来た曲を聴いた時にちょっとしっくりこなかったんですね。機械を通じてではなく、「この曲にはこういう意味があるんです」ってちゃんと伝えて、その場で作るのが自分のやり方なんだなと改めて思いました。

──スタジオに入って意見を交わしながら作っていくって言ってましたもんね。時代的にはアナログかもしれないけれど、やっぱり、これだよなって?

水上:そうなんです。オンラインだとどうしても、やりとりにタイムラグが生まれるので、自分はその時のひらめきをパッと伝えて音に落としこむ作り方が好きだなと思っていました。

──岡田さんからの提案も変化だったと思いますが、ほかには?

水上:飲むヨーグルトを送ってくれたんですよ。“免疫ネコ”っていう手書きの絵と「これを飲んで身体に気をつけてください」ってメモと一緒に。けっこういいヨーグルトが6本も!

岡田:その時、免疫力が上がる乳酸菌が入ったヨーグルトにハマっていたんです。「こんなご時世だし、送ってみようかな」って。

水上:けっこう美味しかったんですよ。お返しにクリームブリュレが入っているドーナツを送りました。自分が食べていたので、「これ、岡田も絶対、好きだろうな」って(笑)。

岡田:私も甘党なので嬉しかったです。


──そんな微笑ましくなるやりとりがありつつ、ライブができないストレスは相当、大きかったでしょう?

水上:はい。いろいろな土地に自分たちの音楽を届けに行こうという想いで規模を広げたツアーができなくなったので、ずっと待っていてくれる人たちのところに行けなくなったのが辛かったですね。個人的にも音楽がないと自分の生活がダメになると思ったし、心がどんどん荒んでいくなって。

岡田:心にポッカリ穴があいたような感覚はありましたね。携帯のアプリのカレンダーにライブの予定を入れていたので、当日になると「今日はライブです」って通知が来るんですよ。通知を見るたびに悲しかったから、それ以降の予定をいっきに消してましたね。少しずつ気持ちが回復していってからは甘いものを食べてハッピーになったりとか。

──甘いものを食べるとストレスをやわらげるハッピー物質が出るっていう説もあるし(笑)。

岡田:あとはリモートで音楽を作ったり、ライブは出来ないものの、別の音楽活動をしたりとか、私も(水上と)同じように音楽の人なんだなって。同時にそれまで忙しかったので、音楽から離れたスローライフもたまにはいいかなと思いましたけどね。

水上:いちリスナーとして第三者的な目線で“なきごと”の曲を聴いて「いいな」って思えたのは発見でした。改めて1stシングルや1stミニアルバムを聴いて「なきごとってこういうバンドなんだな」って。

──あえて言葉にしたら、どう感じたんですか?

水上:うまく言えるかわからないですけど、誰かと話しているだけで心が救われるような音楽というか。例えば自分が悩んでいることと全く違うことを歌っていたとしても、一種の現実逃避みたいな感覚で曲の世界に入りこむことによって「今、自分が気にしていることって、そこまで気にしなくてもいいのかな」って気が紛れる。そういう音楽なのかなと思いましたね。

──なるほど。そういう再発見も2ndミニアルバム『黄昏STARSHIP』には反映されているんですか?

水上:そうですね。いちばん最初に出来たのが「知らない惑星」という曲で、そこから“現実逃避”をコンセプトに、いろいろな候補曲の中から、みんなと相談して組み立てていったんです。

──今まで話してくれた心の揺れもパッケージされているのが『黄昏STARSHIP』だと思いますが、リリースされて今、あらためて感じていること、嬉しかったリアクションについて教えてください。

水上:完成して自分の部屋で聴いているんですけど、CDで聴くのがいいなって思いました。これまで音楽をサブスクで聴くことが多かったんですけど、去年の7月に壁掛けタイプのCDプレーヤーを買って聴いたら、CDならではの音質が自分の中に刺さったんですね。ケータイは音楽を聴く以外にもYouTubeが見られたり、ゲームもできたり、便利なツールなんですけど、同時にいろいろな情報が入ってくるんですよね。TwitterにしてもLINEにしても見ているといいことも嫌なこともあるというか。CDを聴いていると余計なものが遮断されて音楽の中により入り込める。そういう意味でも今作は“現実逃避”というコンセプトにピッタリだなと思いました。

──確かに集中して聴けますよね。それも発見。

水上:はい。リアクションに関しては前作もそうでしたけど、歌詞を解釈して感想を書いてくださる方たちがいて、私はそういうコメントを読むのがすごく好きなんです。音楽をつまみに会話している感じがして。

──“この歌詞、こんなふうに解釈してくれたんだ?”とか。

水上:ええ。でも、けっこう当てられてて。

岡田:(笑)。もう、みんな、わかってきてるんだね。

水上:嬉しいですね。ラジオのパーソナリティの方にも「この曲には同じ言葉が出てくるけど、違う意味で使っているの?」とか「こういう歌詞だからこういう歌い方しているの?」って質問されて、聴きこんでくださってるんだなって。

──岡田さんはどう?

岡田:コロナ禍が続いているので、家にいてインターネットを使われる方が増えたと思うんですよ。それもあって『黄昏STARSHIP』はいろんな人に聴いてもらえて、いろんな人から反応をもらえたなっていう実感がありました。YouTubeで見つけてくれた方、サブスクでたまたま聴いてくれた方、ラジオで知ってくれた方とか、友達同志で「なきごと、いいよ」って推しあってくれたりとか。

──ステイホームの中、いろいろな音楽に触れたり、探したりする人が増えたのかもしれないですね。

岡田:そうですね。あとは男性、女性関係なく、いろいろな方が聴いてくれたのが嬉しかったです。ちょうど新生活が始まるタイミングのリリースだったので、通勤、通学の途中で聴いてくれて「新しい環境になって大変だけど、なきごとを聴いて頑張ります」とか「ライブを見に行くのを目標に頑張っています」っていうメッセージをいただいたりして、生活の一部として私たちの音楽を捉えてもらえていることがすごく励みになっています。

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