【インタビュー】仮BAND「人前で普通にライブすることを早く復活させたい」
最高の演奏を、最高のメンバーで、最高の音で聴いてくれ。日本が世界に誇るインストバンド、仮BANDの最新作は、2枚組で2時間を超える大作ライブアルバム『仮BAND with Friends.-at Streaming Live-』。2020年に行った3回の配信ライブからベストテイクを選りすぐり、ゲストミュージシャン(増崎孝司/G、西脇辰弥/Key&Harmonica、ユッコ・ミラー/Sax、岡聡志/G)と共に送る、これはまさに現代のスーパーセッションだ。コロナ禍のミュージシャンの本音、配信ライブへの挑戦、こだわりぬいた音質、ゲストとのエピソードなど、ありったけの思いをBOH(B)と前田遊野(Dr)に語ってもらおう。
■今までやったことがなかった配信というものに挑戦して
■この1年を何もなかった1年で終わらせたくなかった
――この1年間、ミュージシャンとして、生活も考え方もいろいろ変化があったと思うんですね。まずはその話から入りたいと思うんですが、前田さんにとっては、どんな1年間でしたか。
前田遊野(以下、前田):僕は、楽器の演奏を生業にしている以上、現役感がないとダメと思っているんですね。みんなそうだと思うんですけど、常に動いてなきゃいけない使命感をずっと感じながらやってきた1年でした。以前はそこまで深く考えていなかったんですけど、(ライブが)なくなって初めて、現役感の維持が大変なことに気づいたので。コロナだからといって、止まらないようにしようということを、自分の中では心掛けていました。たぶん、楽器を触らなくなった人もいると思うんですよ、同業者の中には。極端な場合は、地元に帰ってしまうとか。
BOH:いるね。
前田:でも、その1年のブランクはなかなか取り戻せないと思ったし、気持ちの面では常に、コロナになる前の状態と、なるべく同じでいたいなと思ってました。
――BOHさんは、この1年間はどんなふうに?
BOH:最初の緊急事態宣言が出て、決まっていたツアーがほとんど延期ないし中止になったんですけど、当初は2、3か月で良くなるだろうと思っていたのが、ゴールがどんどん延びていくんですね。そうやって、終わりが見えないことが一番辛いんだなということがわかりました。ただ僕の場合は、サポートしてるアーティストで、感染対策を守ってライブをする方が何組かいらっしゃって、そこに携わることができたので、まだ良かったです。でもそういうライブって、対策をしたとしても、やったらやったで叩かれるし、メディアの煽りもすごかったじゃないですか。我々ミュージシャン、音楽業界は、誰に言われるまでもなく最初に自粛を始めて、最後に元に戻るのも音楽業界なんですね。世の中が平和だからこそ成り立つものだと思うし、みんなが幸せな気持ちでいるという前提があって、成り立っている業界だということをすごく感じました。その中で僕らは、今までやったことがなかった配信というものに挑戦して、この1年を何もなかった1年で終わらせたくなかった、というのがすごくありましたね。
▲BOH(Bass)
▲前田遊野(Drums)
――その、配信ライブは、6月、8月、11月の3回やりましたね。第一回を思い出してもらうと、最初はやはり、手探り感はありましたか。
前田:手探り感ばっかりでした(笑)。一番気にしてたのは、音ですね。その頃は、ちょいちょいライブ配信をする方が出てきたぐらいのタイミングだったんですけど、いずれもライブハウスから配信していて、音が細いまま電波に乗って、ちょっと残念な感じで届くことが多かったんですよ。それだけは絶対したくないねと二人で話をして、そこを一番気を付けましたよね?
BOH:うん。ただどんなに準備しても、第一回ならではのシステム上のトラブルは起きて、配信30分前に、僕らの機材と配信のサイトとがリンクしなくなっちゃって、配信アドレスが変わるという。チケットを買ってくれた人にスタッフが総出で連絡して、どうにか見てもらうようにしたんですけど、30分前ですからね。
――ひやひやですね。綱渡り。
BOH:始まったら始まったで、最初の1曲ぶんぐらい音と映像がリンクしなくて、カクカクしちゃって、どうにか修正してもらって。あれは焦ったよね。
前田:焦りましたね。
BOH:チケットの料金も、ほかの配信は1000円でやったり、投げ銭にしたりしてましたけど、どれぐらい入ってどれくらい出ていくのかがわからないから、そういう適当なことはできないなと。いろいろ考えて、とりあえず一回目はどうなるかわかんないから、2200円だったかな? 通常のライブの半額ぐらいの設定にして、2回目以降はちゃんと態勢を整えて、3800円にして、配信は配信で収益が出るようにしていった。それぐらいでやっていかないと、ただでさえ音楽がタダで見れちゃう時代なので、しっかりしたことを誰かがやらないといけないと思ったし、チケット代をいただくことで僕らにも責任が生まれるし、いいものを見せられるだろうと。結果、3回ともめちゃくちゃ好評だったので。
――良かったです。実際、やってみた手応えは?
前田:配信に対してあまりいい印象を持っていなかったのが、変わりましたね。この枠の中でこだわってやっていけばいいものを届けられる、というものが見えたと思います。一回目は、半分お試しみたいなところもあったので、とりあえず一生懸命やってみて、そういうポジティブな答えが出たのが、僕にとっては収穫でした。全然ネガティブにはならなかった。
BOH:ただお客さんが目の前にいなので、曲が終わると無音になるんですよ。「ああ、そういうことか」と。
前田:あれはちょっと…ですよね(苦笑)。
BOH:目の前にお客さんがいることのありがたさを、あらためて思いました。でもお客さんの反応がすごく良くて、地方に住んでいる方や、体に障がいのある方からも、「配信で初めて見れました」というメッセージをもらったし、海外の方からも「良かった」と言ってもらえて。そうやって広めてもらえるのはすごくうれしかったです。
前田:ビリー・シーン(MR.BIG)が、見てくれたんですよね?
BOH:見てくれた。浜田麻里さんの現場で一緒になったりしてたんで、せっかくだから見てほしいなと思ってURLを送ったら、見てくださいました。「めちゃくちゃ良かった」というメールが来ました。
――そして、今回こうしてライブCDにまとめようという話は、最初からあったんですか。
BOH:いえいえ。3回目が終わったあとに、レコード会社に提案していただいて、確かにいいライブができたからパッケージとして届けたらファンの方も喜んでくれるかな?と。でもライブ盤が初めてなので…初めても何も、まだミニアルバム2枚出してるだけなので、そこはサポートで入ってくれている増崎さんのDIMENSIONの曲とか、西脇さんが持ってきてくれた曲とか、ユッコちゃんの曲、SAM(岡聡志)の曲とか、いろいろお借りして、パッケージすることになりました。
――そのゲストは、DIMENSIONの増崎孝司さん、ユッコ・ミラーさん。西脇辰弥さんとSAMさんは、もうレギュラーメンバーという感じです。
BOH: SAMに関しては、藤岡(幹大)先生のあとを継いで、「ギターにはSAMにいてほしい」と最初から言っていて。西脇さんもレギュラーには入っていただいてるんですけど、いちおうゲストという形ですね。いろんな現場で一緒になることが多い先輩ミュージシャンなので、お互いどんなプレーをするのかわかりあえているし、アイディアが豊富なので、すごく頼らせてもらってます。ユッコちゃんは、前田くんが呼んだんだよね?
前田:はい。僕がただ、ユッコちゃんのファンだったということですね(笑)。ファーストとセカンドでは(サックスを)カルメラのメンバーに吹いてもらってるんですけど、セカンドのツアーの時にスケジュールが合わなくて、僕が「ユッコ・ミラーちゃんを呼びたい」と言って参加してもらったのが最初です。
BOH:増崎さんとは、浜田麻里さんの現場で知り合ったんですけど、DIMENSIONは昔から聴いていたので、ぜひ今回やってほしいとお願いしたら、喜んで参加してくださって。増崎さん自身、こういう音楽が一番好きらしくて、ノリノリでやってくれたよね。
前田:DIMENSIONの「Song of my heart」という曲があるんですけど、最初のリハーサルの時にエレキで弾いてらっしゃったんですよ。それを「ガットギターを弾いてください」とお願いして、当日弾いてもらっちゃいました。僕が初めて生で増崎さんを見た時に、ガットギターを弾いてたんですね、珍しく。それが僕の中に焼き付いていて、どうしてもガットを弾いてほしかった。
BOH:「めんどくさくなかったら持っていく」と言ってたんですよ(笑)。当日本当に持ってきてくれるかどうかわからなかったんですけど、ちゃんと持ってきてくれた。
▲増崎孝司(Gt)
▲岡 聡志(Gt)
▲西脇辰弥(Keyboard, Harmonica)
▲ユッコ・ミラー(Sax)
――これ最高のテイクですよね。終わったあとに「イエ~イ」って、全員の会心の声が入っている。
前田:珍しく、BOHさんも言ってましたよね。
BOH:うん。あと「IMPRESSIONS」という曲は、僕が初めてDIMENSIONのコピーをした曲です、18歳の頃に。それをぜひご本人とやりたいですと言ったら、増崎さん的には何年もやってなかったらしくて、「こんな曲あったっけ?」とか言ってましたけど(笑)。でもすごくうれしかったです。
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