【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】仮BAND 前田遊野のタイトなプレイを生み出すソナー「SQ2」

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ベーシストのBOHに続いて、仮BANDのドラマー前田遊野が登場。彼が紹介してくれるのは、おもに仮BANDで使用しているというソナーのドラムセットとグレッチのスネアドラムだ。フルオーダーしたというドラムセットの内容や、タイトなドラムサウンドの秘密などについて詳しく解説してくれたほか、ベーシストBOHも同席して、前田のドラムに対する思いを語ってくれた。

――さまざまなところで演奏する前田さんなので、曲調やバンドに合わせて、使うドラムセットも色々だと思いますが、今回のセットは?

前田:これは仮BANDで使うセットです。ソナーの「SQ2」のセットで、スネアはグレッチです。

――このセットの大きな特徴は?

前田:“鳴り”ですね。ソナーの鳴りって特有で、すごくまっすぐきれいに伸びるんです。ドラムの素材でよく使われるのが、柔らかいメイプルとか硬いバーチとか。それによって音も柔らかくなったり硬くなったりするんですが、どれであっても鳴り方がきれいでまっすぐ伸びるのがソナーの好きなところです。このセットはビーチ材で、メイプルとバーチの中間くらいの感じ。ほどよく音が伸びて、硬くも柔らかくもない。それをヘッドやミュート、叩き方などによって、硬い音や柔らかい音に変化をつけられるのがすごく楽しいです。


――どんなきっかけでソナーを使うようになったんですか?

前田:若い時はドラムセットにそれほど違いを感じたことがなかったんですが、あるときソナーの「SONOR Lite」というセットを叩いたことがあって。そのときに、なんて良い音のする楽器なんだろうと思ったんです。それまで叩いてきたドラムと全然違ったし、その後色々なドラムを叩いてみてもそれ以上のものはなかった。ちょっと硬めの音で、レーザーみたいに揺れないでまっすぐ音が伸びる。それで、自分で買うならソナーにしようと思っていました。今、別にもう1台ソナーの「Ascent」というシリーズも持っているんですけど、それはもう少し硬い音で、そのほうが昔好きだった「SONOR Lite」に近い音ですね。

――このセットはどのくらい使っているんですか?

前田:色々入れ替えながらですが、「SQ2」のセットにしてからは、もう8年くらい使ってます。ずっと使い続けてきてクセがわかってきました。「SQ2」はフルオーダーで職人さんが手作りしてくれるドラムで、ほかのドラムよりトーンがとても伸びるというか増えるというか。鳴りがすごく良いんです。ソナーってもともと伸びが良いのに、さらに伸びるようになっていて、最初はどうやって扱おうか悩んだくらい(笑)。バスドラムも、深いところのローもすごく出る。それでヘッドを色々試したりしました。


――その結果どんなヘッドを?

前田:普通やらないんですけど、ボトム側にピンストライプを張っています。タムの胴も、通常より1インチずつくらい浅く作ってもらっているんですけど、それでも音が伸びすぎちゃう。ボトムにピンストライプを張ってようやく落ち着くんです。使い続けてきて、そういうところを少しずつ手なずけられてきたと思います。

――ボトムにピンストライプ、これは珍しい使い方ですね。

前田:これはホントに珍しいと思います。でもこれ一度試してもらいたいですね。ソナー以外でも、フロアタムなんかは音をコントロールするのが難しくて、ローエンドが伸びっぱなしになることがあるんですが、ボトムにピンストライプを張ると音がまとまりやすくなります。今は表側のヘッドもピンストライプですが、これはロック用です。もうちょっと落ち着いたトーンがほしいときは「VINTAGE A」を張ります。


――フルオーダーのセットということですが、とくに細かく注文したのはどのあたりですか?

前田:まずはタムを浅く作ってもらったことですね。これ以外に一回り小さい15インチのフロアタム、13インチのタムもあって、これらも浅めに作ってもらっています。ソナーだから音はきれいに伸びるんですが、それよりは少しタイトな音が好きなので。ただ、バスドラムだけは太い音が好きなので、深めに作っています。胴の厚さも、ほかはミディアムですが、バスドラムはヘヴィで厚くなってます。


――ハードウェアにも特別なところはありますか?

前田:タムを取り付ける部分ですね。ネジでタムをホールドする強さを変えられるようになっているんです。ネジを締めてタムをがっちりホールドすれば音が詰まるし、緩めてタムを揺らしてやれば伸びるようになります。ここでも鳴りの微調整ができるようになってます。

――タムは浅めで、口径も10インチ、12インチと普通よりちょっとずつ小さくて、音もタイトな方向。これはやはり速いフレーズを多用するから?

前田:そうですね。それが大きいと思います。


――スネアはグレッチですね。

前田:グレッチのメイプルです。僕は昔からグレッチのスネアの音が好きなんです。ヴィニー・カリウタがグレッチを使っているんですけど、あの音がホントに大好きで、あんな音を出したいと思って最近導入しています。グレッチのスネアって、鳴りが低いんですよ。もともとの木の持っているピッチが“ドウン”と下がるんです。ほかのメーカーだと“パアン”って上がったりするんですけど、グレッチは下がる。それがグレッチを使っている大きな理由です。ヘッドを張り替えても木の鳴りは変わらないから、その音が上に伸びるのか下に伸びるのか、僕はそれをすごく大事に考えて選んでいます。もしドラマーさんで、自分のスネアの音に悩んでいる人がいたら、そこを考えてみるといいと思いますよ。



――スネアも浅めのタイプ。

前田:深さは5インチです。やはりタイトな音にしたいから浅めで。バスドラムは伸びる音が好きなんですけど、スネアはタイトなほうがいい。“ドッ・ターン”じゃなくてドーン・タッ”という感じでリズムを作りたいんです。メタルなんかだと、2拍4拍が長いほうが良い場合もありますけど、僕はスネアは基本的に“タッ”と短め、手拍子のような感覚でやっています。

――スネアのフープは上下で違うものがついているようですが。

前田:もともとは両方とも硬いダイキャストのフープがついていて締まった音なんですが、もう少しトップ側の音を伸ばそうということで、トップ側だけスチールに換えています。

――スネアにミュートはしていないんですね。

前田:ミュートはあまりしたくないですね。叩き方で工夫しているところも大きいんですが、ボトム側のヘッドを張り気味にしてあるので、これでけっこうタイトになります。スナッピーはピュアサウンドというブランドのもので、反応がいいし、ずっしりした鈍い音で鳴ってくれるのでいつもこれを使っています。


――ヘッドはコーテッド・アンバサダー。これはスタンダードなものですね。

前田:アンバサダーって、“ピン”っていう高い音が出ちゃうのがあまり好きではないので、いつもはあまり使わないんです。いつも新しいスネアを導入したときにヘッドを色々試して、そのスネアとの相性を調べるんですけど、このスネアに関してはアンバサダーが一番好きな音になったんです。古いジャズみたいな、ちょっとベタッとしたような“ズベッ”というような音が好きなんです。

――これまで使ってきた中で、印象に残っているスネアってありますか?

前田:今持っているものの中では、Kitanoの13インチのチタンスネアが面白いですね。よくBOHさんと海外ツアーに行くときに持っていったんですけど、とにかく音の伸びがきれいなんです。ドラムってやはり電気で加工しないで素材の音を出す楽器なので、素材が特殊だと音も特殊ですね。

――よく共演されているBOHさんは、前田さんのドラムはどういう印象ですか?

前田:海外に持っていったヤツ、覚えてます?すごく抜けるの。

BOH:いや、全然覚えてない(笑)。僕がよく一緒にやるドラマーって、ラックに色々なものがついてるような多点セットの人が多いんですけど、前田君のセットはシンプル。楽器をシンプルにした中で、いかにテクニックで色々な表現をするのか、というタイプのドラマーですよね。単に正確に叩くとかきれいに演奏できればいいんじゃなくて、細かいところで表情をつけていきたい人だと思うんです。まあだから面倒くさいんですけど(笑)。すぐ拍を裏返してスリップビートするし勝手に色々やるし、ドラムを半分聞かないようにしないとまともに弾けなくなるときもある(笑)。もうセットだけでもシンプルでよかったと思います(笑)。

――多点セットを使おうとは思わないですか?

前田:そうですね。どちらかというとシンプルな方向に行きますね。ライブで1回しか打たないシンバルとかあると、僕は次からそれを外しちゃうくらいですし。

BOH:タムだって最近2つに増えたくらいで、セットはシンプルだよね。



――シンバルもシンプルな構成ですね。

前田:シンバルは基本セイビアンで、ステージクラッシュの16インチと18インチ、20インチのミディアムライド。ちょっと変わっているのはハイハットくらいかな。グルーヴハットという人気のハットをもともと使っていたんですが、今はトップだけ「XSR MONARCH HATS」に換えています。薄くて軽く、コツコツしたタッチを出しやすいので、仮BANDのときはよくこの組み合わせで使っています。シンバルは比較的タイトなものが好きですね。

――このほかに欲しいものはありますか?

前田:多機能なスネアがあるといいと思いますね。ソナーでいうと、新しいベニー・グレブのシグネチャーモデルみたいに、中にミュートが仕込まれていて、スイッチでミュートが上がってくる。そういった、ワンタッチで音が変えられるようなのが欲しいですね。そのほかセット全体でも色々できて、色々な音が出せるようになると楽しいだろうなと思います。

――BOHさん、さらに色々な音が出るようになりそうですよ(笑)。

BOH:大丈夫、僕は聴かないから(笑)。色々な現場で、この音どうですかって前田は毎回聞いてくるんですけど、ホントどっちでもいいんですよ(笑)。

前田:えーー(笑)。

BOH:いや、どれでも悪くないという意味で。彼は僕の苦手な音、嫌いな音を出すドラマーではないので、いずれにしても気にならないんです。レコーディングしているときは、色々やってて大丈夫かなこれ?って思いますけど、終わって聴いてみると絶対に大丈夫なんです。そういう信頼感はありますね。

取材・文●田澤仁


リリース情報

『仮BAND with Friends.-Live at Streaming-』
BZCS-1193/1194 ¥3,000 +税(UHQCD)
2021.03.10 release
DISC1
(Streaming Live@2020.11.08)
1.侍Groove Written by KARI BAND
2.Pleasure (original artist:増崎 孝司) Written by Takashi Masuzaki
3.Some Skunk Funk (original artist:ブレッカー・ブラザーズ) Written by Randy E. Brecke c1975 by Bowery Music Publishing
4.Song of my heart (original artist:DIMENSION) Written by kazuki Katsuta
5.Dancing Baloney Written by KARI BAND
6.Jamrika Written by KARI BAND
DISC2
(Streaming Live@2020.06.20, 8.23, 11.08)
1.U-yeah !!!! Written by KARI BAND & Tatsuya Nishiwaki
2.Chuku Written by KARI BAND
3.Shinjuku (original artist:岡 聡志) Written by Satoshi Oka
4.Hungarian Amburance (original artist:西脇辰弥) Written by Tatsuya Nishiwaki
5.IMPRESSIONS (original artist:DIMENSION) Written by DIMENSION
6.Snowflakes Written by KARI BAND
7.Common times’s logic Written by KARI BAND
8.Hair Style (original artist:ユッコ・ミラー) Written by Yucco Miller
9.Clock Up (original artist:岡 聡志) Written by Satoshi Oka
10.愛の重力 (original artist:中島 愛) Written by Tatsuya Nishiwaki
【Guest Musician】
増崎孝司(Gt)
西脇辰弥(Keyboard, Harmonica)
ユッコ・ミラー(Sax)
岡 聡志(Gt)
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