【インタビュー】清春、新たな選択肢としての配信 “今こそ考えたい、選ばれる理由の大切さ”

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■何よりも“歌”が自分を選ぶ一番の理由あって欲しい
■しかもそれを届けるための手段は増えていく

──この映画を切っ掛けに見方が変わった、という人もこの先出てくるかもしれませんね。さて、ブラックメタルの話はこのへんに止めて本題に戻りますが、僕が清春さんの配信を観ていてすごく感じさせられるのは、クオリティに対するこだわりの強さなんです。映像にしろ音質にしろ、もっと評価されてしかるべきものだと思います。

清春:ありがとうございます。実際、レコーディングに近い環境でやっていたりもするんで。エンジニアにしろ、使ってるマイクにしろ。

──ただ、その高品質な映像をスマホとイヤフォンで楽しんでいる人も多いのかなと思うと、ちょっと残念で。あとは配信の安定感の問題とか。

清春:スマホからテレビに繋いで観てる人もいるらしいですけど、やっぱり小さな画面で観てる人も多いでしょうからね。配信の環境については……僕らの問題じゃないというか(笑)。映像が止まっちゃったりすることがあるのは、実際問題、何でそうなっちゃうのか原因不明なところもあるんですよね。そこはすごく勿体なくはあるんだけど、もしかするとあと1年ぐらい経てばそのへんは劇的に改善されることになるのかもしれない。現時点でのそういう問題については、たとえば電車が遅れて会場到着が間に合わなかったとか、急いで帰ろうとして転んじゃったとか、そういうことに近いと思ってもらえるといいんですけど(笑)。

──アクシデントが絶対にない、という確約はリアルライヴにもないわけですもんね。そしてもうひとつ痛感させられたのが、やはり歌詞の重み、深みについてなんです。思い入れのある歌詞が、こうした局面だからこそ違ったニュアンスで聴こえてきたり。たとえば「麗しき日々よ」では、“遠くでも会えたよね / 旅が終わっても君と会っていたいよ”といった言葉がとても響いてきましたし、最後の最後が「アロン」だったこと、つまり、突き詰めれば1人なんだということの意味を改めて考えさせられた視聴者は多かったはずだと思います。本来こういう機会には“1曲でもいいから新曲が聴きたいです”みたいな声も届くものじゃないかと思うんですけど、ずっと聴き慣れていた曲が本来持っていた意味がいっそう深みを増してくるという、思いがけない効果も生まれたなと感じました。

清春:そうですね。もちろん新曲もすごく大事だと思うんですけど、今、ベストな状態で歌える選曲、いろんな可能性を含めながら良いパフォーマンスができるベストな曲を選んでいて。まあ、新曲というか、最新アルバムの曲でもそこに合うと思えば入れますけどね。あと、ファンの人から求められてる好きな曲ってそういうのとはちょっと違うんだろうと思うんですけど、あの形態では効果を発揮しない曲というのもあるんですよ。やっぱ、意見として多いのは“バンド形態でやんないんですか?”とかなんですね。依然としてそう言ってくる人もいる。だけどそれをやるのに適した環境ではない。やっても構わないんだけど、多分、薄まってしまうと思う。あのスタイルで無理矢理バンド形態でやるとなると、絶対衝突が避けられないというか、ガードレールを突き破って奈落に落ちるような道を走ることになるんですね。その“ぶつかるかもしれないスリル”っていうのは、やっぱり配信に求めるべきものではなくて、ただただ“ああ、やっちゃったね”ということになっちゃうんですよ。できれば真っすぐな広い道路を集中して走りたいなって思うと、おのずと今みたいな形態になってくるんです。

▲清春

──バンドサウンドというものを基準としながら考えてしまうから、それ以外のアプローチが特殊なもののように思えてしまうんですよね。

清春:まさしく。確かに今、僕は実験的なことをやってると思うけど、そういうことをやると“変わった”って言われがち。実験することなく変わらずにいることをカッコいいとする風潮が定着し過ぎてしまった。僕だってただただ実験することにばかり囚われてるわけじゃなくて、どうすればその歌をより響かせることができるか、もしくは逆にオケにもっと馴染ませることができるか、といういちばんシンプルで大きな目的がメインにあって、それに対する答えとしてのアンサンブルを求めてるだけなんですけどね。同時に、やっぱりオーガニックであることというのも大事だと思う。激しい音だろうとプラグレスな表現だろうと、そこにオーガニックさがないと、ミュージシャンとしての真価が薄くなってしまう気がするんですよ。グラフィックデザイナー風になってしまうというか。

──音がデザインされている、という感じ。それはすごくわかります。

清春:どんな種類の音楽もそうだけど、今は何でもパソコン上でできちゃう。僕はたとえばインダストリアルみたいな音楽もあっていいと思うんだけど……そこでいまだに“そうやって作ったものを生演奏できるのがすごい”みたいな価値観というのが残ってたりもするじゃないですか。べつに古いものが全部良いわけでもないし、新しいものがすべて良いわけでもないし、結局は良いものは良いってことでしかないんだけど、“これがないとロックじゃないよ”とか“これが入っていればロックだよ”みたいに思ってるんだとしたら、それって“ジャガイモが入ってないのはカレーじゃない”とか、そういう子供じみたことを言ってるのと変わらないんです(笑)。なんか悲しくなっちゃいますね。しかもそういうことを言ってる人たちがたいがい若くなかったりするんで。ファンの人たちにもよく言ってることなんだけど、世界的に見て今の日本はオールドスクールなんだろうと思う。オールドスクールなことを新しい音でやってるだけ。

──なるほど。なかなか明確な答えが見える問題じゃないと思いますが、とても考えさられます。ところで、こうして配信の世界でも新しいテリトリーを確立させつつあり、それをライヴの代替手段と考えていないということは、この先は……?

清春:さっきも言ったように、配信については、ライヴというよりもむしろリリースに近いことだと思うようになっていて。まあ実際、その日時に生でライヴをやってるわけなんですけど、言ってみれば、生でやってるリリースなのかな。アーカイヴが観られるってことも含めてね。ストリーミングとか自体はだいぶ前からあったけど、ライヴ中継みたいなのはたまにしかなかったじゃないですか。で、繰り返しになるけど、配信をライヴの代替としか思ってない人もいるだろうし、ファンの中にだって頑なに観てくれてない人はいる。だけど、当たり前のようなライヴができない状況が続いてる中で、これは活動の枠内に一個のツールとして増えたもの。その場所に行かなくても同じ時間に観ることができて、そこに行かないってことはリアルじゃないはずなんだけど、もうひとつの違ったリアルがそこにあるっていうか。楽曲を作って、レコーディングして、それをリリースして、ツアーをして、また曲を作るっていう大まかな流れが定着してましたけど、なんか単純作業みたいになりつつあったから、逆に良かったんじゃないかな。

──ルーティーンのようなものに?

清春:はい。一個そこに差し込める新たなものが出てきたというか。それは定期的であってもイレギュラーな感じでもいいんですけど、つまりは歌える場所が一個増えたってことであって。結局、どんな活動をしてるかというのは概要みたいなものでしかなくて、そこで実際に何をやってるか、どんなふうに歌い、どんなふうに演奏して、それがどんなふうに響いているか……。それを追求するのが僕らの職業なんで。若いうちはそういうわけにはいかないのかもしれないけど、長く続けていくうちにだんだんそこに到達していくことになると思うんです。プレイヤーもファンの側もね。

──結局は、“何のためにやっているのか?” “何をいちばん求めているのか”という話になってくるわけですよね、双方が。

清春:うん。それこそコロナでも何でもそうですけど、ホントに深刻な病気とかになってしまったら、何らかの自由を奪われることになるわけですよね。10個できることがあるはずのところ、それが5個になっちゃったり、3個になっちゃったり。そうなった時、そこで最後に何が残るかっていう話なんです。僕の「アロン」って曲の中に“「最後は独り」だけど誰を想うの?”っていう歌詞があるんですけど、そこで想ってくれる理由が“ああ、歌聴きたい”であって欲しいんですよね。“清春さんに会いたい”じゃなくて。僕の職業、役割として、この人生を通じて何よりも本気でやってきたことって、歌なんで。ミュージシャンになって長くなればなるほど、そういう気持ちは強くなってないとね。

──好きな理由をあげてくれという話になった時に、まず第一に歌があって欲しい。好きな人の歌だから聴きたいのではなく、その歌が聴きたいからこそ会いたいであって欲しいということですね?

清春:です。ファンに優しいから、面白いから、とかじゃなくてね(笑)。歌が理由であってくれないと、ミュージシャンではいられないわけじゃん。日本の音楽全体のレベルを上げていくためにも、勝ち抜きゲームみたいなことは、もう卒業しないと。そうじゃないと、どんどん早めに終わっていってしまうんじゃないかと思います。いわゆるヴィジュアル系の世界でも、目に見えない襷(たすき)みたいなものを誰がいちばん早くかけて走っていくか、みたいなことばかりが重要視されてきた。何かをするためにはこれをやって話題にならなきゃ駄目だ、とかさ。そういうのってホント、音楽よりも後の話なんですよ。

──もっともな話です。話題を集めて、人気者になったからには良い曲を作らなきゃ、というのは順序が逆ですからね。

清春:うん。僕らの先輩たちがすぐれてたのは、もうホントに若い時分からある程度以上のスキルがあって、秀でたものがあったところだと思うんです。そのうえで、次は渋谷公会堂、その次は武道館、そして世界へ、視野を拡げていってたわけで。なんか話題作りばかりで商業、職業としてのミュージシャンになってしまうと、ファンの側だって応援しづらくなってくると思うんです。いずれ、なんで応援してるのかがわからなくなってしまう。

──清春さんの場合は、その“なんで?”の答えが“歌”であって欲しいし、それをコンスタントに届ける手段のひとつとして配信が加わった、ということなんですね?

清春:そういうことです。とはいえ、リアルなライヴについても近いうちに良いお知らせができると思います。元に戻すというよりは、配信の次にまた新たにひとつ手段が増えるという感覚でのリアルなライヴ、というか。今、配信でやってることが、ライヴよりもむしろリリースに近いっていうことの意味も、そこには重なってくるんですけど。いずれにせよ簡単なことではないけど、そうやってミュージシャンとして歌を届け続けていこうと思ってます。

取材・文◎増田勇一
撮影◎森好弘 (※写真はすべて2/20の配信ライヴ時のもの)



■有観客公演<清春ライブ 2021「残響」>

5月03日(月/祝) 東京・紀尾井ホール
(問)HOTSTUFF PROMOTION:03-5720-9999
6月13日(日) 東京・イイノホール
(問)HOTSTUFF PROMOTION:03-5720-9999
6月18日(金) 愛知・名古屋ダイアモンドホール ※有観客+配信のハイブリッド公演
(問)ズームエンタープライズ:052-290-0909
7月11日(日) 東京・渋谷区総合文化センター さくらホール
(問)HOTSTUFF PROMOTION:03-5720-9999
7月16日(金) 大阪・ユニバース ※有観客+配信のハイブリッド公演
(問)大阪ウドー音楽事務所:06-6341-4506
7月17日(土) 大阪・ユニバース ※有観客+配信のハイブリッド公演
(問)大阪ウドー音楽事務所:06-6341-4506
8月14日(土) 東京・イイノホール
(問)HOTSTUFF PROMOTION:03-5720-9999
9月03日(金) 東京・HAKUJU HALL
(問)HOTSTUFF PROMOTION:03-5720-9999

■ストリーミングスタジオライブ<A NEW MY TERRITORY>

3月19日(金)、3月20日(土)
4月23日(金)、4月24日(土)
5月19日(水)、5月20日(木)
6月11日(金)
8月25日(水)、8月26日(木)
9月23日(木/祝)、9月24日(金)


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