【コラム】aikoが紡ぐ、リアルで温かで“特別なんかじゃない”日常
aikoが3月3日、前作アルバム『湿った夏の始まり』から約2年9ヶ月ぶりにフルアルバムをリリースする。タイトルは『どうしたって伝えられないから』。なんともaikoらしいタイトルだ。
◆ミュージックビデオ ほか
恋が始まる瞬間の想いや、恋する真っ只中でのちっちゃな喜びや、愛しさが募るからこそ生まれる気持ちの行き違いやすれ違いや切なさ、恋が終わっていくときの寂しさを、aikoは誰よりも上手に五線譜の上に描いていく。
まるで、子供が画用紙にクレヨンで落書きする様に、夢中になって、そのとき心に宿る想いを書き残していく。ジェットコースター並みの緩急で一喜一憂する“恋の起伏”は、たいていの人が“見られたくない部分”としてこっそり隠したり、素直になれず、想いとは裏腹な感情で強がったりするのに、aikoはとんでもなく正直にその想いを言葉にして、歌詞として吐き出し、とことん自分の想いと向き合って、その恋の中にあった情景をとても切なく、優しく、そして愛おしいメロディに落とし込んでいくのだ。
▲初回限定仕様盤ジャケット
『どうしたって伝えられないから』。
こんなにも素直な言葉で気持ちを形に出来るのに、どうして、“どうしたって伝えられない”のだろう? と思ってしまう。でも、aikoの言う通り。“どうしたって伝えられない”のである。だからこそ、aikoは唄う。“どうしたって伝えられないから”aikoは唄うのだ。このアルバムタイトルは、ずっと歌い続けてきたaikoが出した、一つの結論。そう。答えなのかもしれない。
すーっと息を吸って、ため息をつくかの様に息を吐き出しながら歌い出す1曲目の「ばいばーーい」。それはもう、“aiko”としか表現のしようが無いほどにaikoだ。痛くて、悲しくて、苦しくて。何よりも愛しかった場所が、一番目を背けたくなる場所になり、それがやがて過去になっていく。
ここに描かれた“ばいばーーい”は、字面的に“またね”の意味を感じさせる明るい“ばいばーーい”を連想させるが、主人公を唄うaikoは“さようなら”の苦しみから抜け、その思い出を過去に出来た、“またね”がそこに無い“ばいばい”を唄っている。
そして、aikoが選んだ“ばいばい”ではない“ばいばーーい”は、主人公の心の痛みを更に深く想像させる魔法がかかっている。これぞ、aikoが聴き手にかける魔法。aikoというアーティストにしか使えない魔法なのである。
2020年にリリースした「青空」や「ハニーメモリー」達も同居する今作、アルバム『どうしたって伝えられないから』は、そんなaikoにしか使えない言葉の魔法が、特別にたくさんかかっている様な気がしてならない。
そんなアルバム『どうしたって伝えられないから』の中から、リード曲として選ばれているのは「磁石」。2月19日からダウンロード・サブスクリプションサービスにて配信されているこの曲でも、aikoはど頭から魔法を使う。
冒頭に歌い出しとして置かれた“言えなかった訳じゃないの 言わなかっただけのこと”という言葉は、結果“相手には伝えられなかった、伝えなかった言葉”として同じなのだが、そのニュアンスと意味は大きく違う。そこにあるのは、真っ只中の恋ではなく、愛したからこそ見えてしまった現実と、そこに対する諦めだ。
“魔法なんて無くて本当に有るのはここにいることだけ あなたがいることだけ”と繋げて唄われるこの歌詞こそがリアル。こんなにも言葉の魔法を使えるaikoなのに、“どうしたって伝えられない”想いと葛藤し、“どうしたって伝えられない”からこそ歌詞を書き、曲を描くのだということを、改めて教えてくれている気がする。
aikoが聴き手にかける魔法は、無責任な幸せなんかじゃないし、一時的な慰めでもない。残酷なほどに突きつけられる、ものすごいリアルだ。「磁石」の中には、主人公が憧れ続けた彼と付き合い始め、毎日がピンク色だった頃の情景描写よりも、その頃が過去系になりつつある目の前のリアルを、時間の経過と共に変化していったことが伺える情景描写で歌詞に置き換えているのである。
何よりもライヴが好きで、とにかく自分の歌と曲を聴いてくれる人達のことを楽しませたくて、笑顔にしたくて、がむしゃらに頑張るaiko。もちろん、自身もその時間を楽しく想っているのだが、とにかく常に相手のことを考える性格のaiko故に、相手を想う気遣いや優しさは中途半端な上っ面なんかではない。
aikoが聴き手にかける言葉は、“大丈夫”とか“頑張って”という、口先だけの気休めなんかじゃない。aikoは、言葉に魔法をかけながら気持ちを赤裸々に描いていくことで、聴き手の心に寄り添い、気持ちを和らげ、時間しか解決してくれない苦しみからちょっとずつ前を向ける様に導いてくれるのだ。
「青空」や「ハニーメモリー」、「ばいばーーい」や「磁石」だってそう。「磁石」の歌詞にある様に、“悩んでひとりぼっちになった そしたら朝が眩しかった”ということを、aikoは教えてくれるのだ。
でも! aikoのすごいところは、“愛していた時間を過去にすること”ではない。aikoが、女性人気だけではなく、男性人気、それに分類されない人にも人気が高いのは、“愛していた時間をちゃんと愛しく思える”ところだ。
もちろん、“さよなら”を選んだところには、大好きだった食べ物の味がしなくなってしまうほどの苦しみもあって、そこから逃げ出したくなっている時間があるのだが、aikoはちゃんとそんな時間も尊重し、その時間が過去になったとしても、その人を愛したことを忘れることはなく、お互いにかけがえのない時間であったと思える様に導くのだ。
「磁石」の歌詞の最後に置かれた“触ると色が変わる細い血管”という一行からは、主人公が彼と過ごした、あったかくて愛しい時間が伝わってくるし、反発しあってもうくっつかない磁石になった今でも、そのときそこにあった彼への愛の深さを感じる。
女性ファンはきっと、そんなaikoの気持ちに共感し、男性ファンはきっと、“自分と過ごした時間が例え過去になってしまったとしても、こんな風に愛されたい”と、そこに想いを重ねてaikoという存在を愛しく想い、人並み以上に感覚が鋭く感受性の高いファンはきっと、そのどうしようもない切なさに大きく胸を打たれるのではないだろうか。
“あなたを大好きなあたしがいるのは あなたにずっと憧れていたから”そんな一節からは、ちゃんと彼を愛した自分への想いも描かれていて、ちゃんと彼を愛したことを認めてあげているのも、とても印象的である。
つまり、aikoの唄う歌詞は、aikoそのものということ。とても人間的で、とても体温を感じる。
▲通常盤ジャケット
aikoの愛しいところは、とても日常であるということ。aikoが描く言葉たちの中には、特別なんかじゃない日常が詰まっている。毎日のご飯だったり、毎日交わす言葉だったり、シャワーだったり、コンセントだったり、鏡だったり、毛布だったり、春休みだったり、夏休みだったり、かかとの減った靴だったり、青空だったり、涼しく吹く風だったり、夕暮れだったり、夏の暑い日に狂った低気圧だったり、ため息だったり、においだったり。恋をする気持ちだったり。
誰にでも重ねられる情景や感情がそこにあるからこそ、聴き手はaikoが描く言葉たちに深く引き寄せられるのだろう。
そして、一番のaikoの魅力は、スマートに恋が出来ない、ついつい助けてあげたくなってしまう不器用さが見え隠れするところだろうと感じる。
“この気持ち、言葉にしたら、どんな言葉になるのかな?”を、見事に言葉で表現でき、言葉に魔法をかけられるのに、aikoが描く主人公は完璧ではない。aikoが描く主人公達は、迷ったり、傷ついたり、素直になれなかった自分の気持ちを悔やんでみたり、でも後悔はしてないと自分に言い聞かせてみたり。そんな誰もが振り回される感情に、まんまと振り回されて悩んでいる身近さこそが、aikoの魅力なんだと思う。そして、実際に距離を感じさせない彼女の人柄も、より聴き手の心に入り込んでいく要素となっているに違いない。
SNSの普及により、誰もがドラマの主人公になれる時代。日々がドラマで、自身が主人公のこの時代に、aikoの唄は聴く人の人生のBGMとしてとても心地よくフィットするのだろう。
aiko。さすがである。アルバム『どうしたって伝えられないから』は、聴き手みんながミュージックビデオの主人公になれる、最高の人生のBGMなのかもしれない。
追って公開するレビュー第2弾では、そんな言葉達が載る、一言では表すことの出来ない“aikoというメロディ”と“aikoにしか表現することが出来ない体温の通ったライヴ”について書いていけたらと思う。
文◎武市尚子
14th Album『どうしたって伝えられないから』
CD予約:https://aiko.lnk.to/14thAL
■初回限定仕様盤A(CD+LIVE Blu-ray)
品番:PCCA-15003
価格:¥4,200+税
■初回限定仕様盤B(CD+LIVE DVD)
品番:PCCA-15004
価格:¥4,200+税
■通常仕様盤(CD Only)
品番:PCCA-15014
価格:¥2,913+税
※初回限定仕様盤A、初回限定仕様盤B:カラートレイ&三方背ケース仕様
■CD収録内容
01.ばいばーーい 編曲:トオミヨウ
02.メロンソーダ 編曲:トオミヨウ
03.シャワーとコンセント 編曲:OSTER project
04.愛で僕は 編曲:島田昌典
05.ハニーメモリー 編曲:OSTER project
06.青空 編曲:トオミヨウ
07.磁石 編曲:トオミヨウ
08.しらふの夢 編曲:島田昌典
09.片想い 編曲:トオミヨウ
10.No.7 編曲:島田昌典
11.一人暮らし 編曲:トオミヨウ
12.Last 編曲:島田昌典
13.いつもいる 編曲:島田昌典
■DVD/Blu-ray収録内容
aiko online live「Love Like Rock vol.9〜別枠ちゃん〜」
01.恋をしたのは
02.あたしの向こう
03.二人
04.メロンソーダ
05.オレンジな満月
06.カブトムシ
07.青空
08.ストロー
09.beat
10.赤いランプ
11.Loveletter
12.さよなランド
■CDショップ 予約購入先着特典
TOWER RECORDS全店(オンライン含む):「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(TOWER RECORDS ver.)
HMV全店(HMV&BOOKS online含む):「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(HMV ver.)
TSUTAYA RECORDS(TSUTAYAオンライン予約分含む):「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(TSUTAYA ver.)
Amazon:「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(Amazon ver.)
楽天ブックス:「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(楽天ブックスver.)
その他法人+aiko online store:「伝えるノート+ピリ辛ステッカー」(応援店ver.)
※全国のCDショップにて2021年3月3日(水)発売『どうしたって伝えられないから』をご予約・ご購入のお客様に、先着で上記オリジナル特典をプレゼント。
オリジナル・ノートとステッカーがセットになった豪華先着特典となります。
各店舗でご用意している特典数量には限りがございますので、お早目のご予約をおすすめいたします。
※特典は数に限りがございますので、発売前でも特典プレゼントを終了する可能性がございます。
※一部取り扱いの無い店舗やウェブサイトがございます。ご予約・ご購入の際には、各店舗の店頭または各サイトの告知にて、特典の有無をご確認ください。
※aiko online storeは その他法人ver.の特典付で現在予約受付中です。
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