【インタビュー】大城美友の分岐点「思い描いていたアルバムに」

■最高なタイミングで、自分の世界を切り拓いてほしいの

──では今回収録されている楽曲について、具体的にお話を聞かせてください。

大城：まず「ヤンチャ風」は、もうこの歌詞のまま。（恋をして）気持ちがウキウキしてて、そのまんまを歌詞に書いた。メロディーもどんどんハマっていったから、気持ちのまま1曲になったって感じ。過去もちょっと思い出しながら、その時の気持ちと混ぜて作りました。大城の中で一番と言っていいくらい可愛い曲──自分ではYUIの「CHE.R.RY」みたいな雰囲気の曲になっちゃった気がして、「これ、大丈夫かな？」って思うくらいでしたね。歌いたいけど、人前では歌いたくないみたいな（笑）。

──キャラ的に。

大城：そうそう（笑）。でも曲はいいし、やっぱり出したいなって。きっと、女子は特に共感できると思うし。だけど自分自身にまだ照れがあるのかな。気持ちは一番入っちゃうんだけど、好きとか会いたいって気持ちをまだ上手く乗せられないというか。この照れを取らなきゃ成長できないと思うから、そこは今年の目標でもある。「照れない」（笑）。いろんな人に対してもね。



──いろんな人に対しても？それは意外でした。きっと皆さんも、ざっくばらんでイェーイ！みたいなイメージをお持ちだと思いますけど。

大城：うん、基本はそうなんだよ。でも大城って、まだ隠してるんだよね。本当は甘えたがりなところとか（笑）。

──そういう自分もどんどん見せて、甘えられるうちに甘えましょうよ。

大城：甘えるのが本当に苦手で（笑）。甘えられます？

──…出来ません（笑）。

大城：一緒じゃん（笑）！あと、実際に甘えている女の人見ると…。

──イラッとします（笑）。

大城：一緒じゃん（笑）！

──と言いつつ、そんなに甘えることが出来て羨ましいなとも思います。

大城：だね。羨ましさはあるよね。

──その点、曲の中でならどんな自分にもなれる。そういう考え方も出来ません？

大城：そうだね。これまでは、本当は自分の中にそういう気持ちもあるのに強さみたいなものを前面に出してきたけど、これからは甘えとか照れ臭さを消していけば、もっとレベルアップする気がする。曲の作り方も幅が広がるし。どうしても大城の場合は強さだけが出ちゃうというか、意地っ張りだし、コントロール出来ないっていうとアレなんだけど…。その点、今回の「wonder」なんかは、自分の中の強さも弱さも出せているかなって思うけどね。『ワンダー 君は太陽』という映画を観たんだけど、あの主人公の男の子（オギー）に届けたいと思って。で、そこから世の中にも広がって、響いてほしいという思いもあって「wonder」の歌詞を書いていきました。

──美友さんは強いものはより強く、切ないものはさらに切なく響かせる声の持ち主だと思っているんですが、「wonder」や「believe」などはまさにそういうボーカルだなと思いました。

大城：やっぱりまだ不器用で上手く出来ない時も多いけど、そこを今年はね、もっと頑張りたいよね。ここまでの人生は“一本道！”みたいな感じだったけど（笑）、器用に歌うためにも、もう少し器用な生き方をしなきゃいけないって自分では思ってる。テクニックとかもないからね。

──ちなみに、自分は歌が歌えるんだなって気づいたのは何かきっかけがありました？

大城：最初は中学2〜3年ぐらいかな。友達とか家族に「上手いね」って言われて、「あ、やっぱり？」って思った。その頃はまだただ楽しいだけで歌ってたけど、高校1年生になった頃から本格的にやろうって決めるきっかけがあって。学校に行けなかったりだとか、いろいろ悩んでたことが音楽を始めるきっかけになったんです。

──なるほど。

大城：音楽やるには曲を作れないと始まらないと思っていたんだけど、昔サンタさんに貰ったキーボードで作ってみたら出来たから、「作れる。じゃあ目指そう」って、結構単純な感じだったよね。

──例えば、あの時の自分と同じように学校に行けない子達に向けて何か発信したいとか、伝えたいとか、そういう思いもありますか？

大城：めちゃくちゃありますね。先生に反抗したり、引きこもったり、ヤンチャな子達に対して音楽で何か伝えられたらなって思う。こういう子達って、めちゃくちゃ心がいいんですよ。自分から言うのも何だけど、私もこういう経験があって、でも今は歌で輝いているんだぞ！お前ら、見ろ！って言いたいんだよね。だって、そういう子達もみんなすごいパワーを持ってるから。こういう奴らが人を変えられるって、今も思っているから。

──経験した人の言葉こそ響くし、届きますよね。

大城：学校に行けないのも、引きこもるのも、先生に反抗するのも、個性なんだよね。みんなと合わせて普通に学校に行って真面目に生きることは出来ないかもしれないけど、きっと何かやりたいと思ってると思うし、ハマったらハマるすごいパワーって持ってたりするじゃないですか。政治家とかなってほしいよね、こういう子達にこそ。

──生き方に正解とかないですからね。

大城：そう。大城はこのジャンルで生きてきたから、こういうジャンルの子達が好きだし、仲間って思っちゃう。勝手に、同志だなって。

──「ブルー・ホライズン」からは、そういうメッセージも感じます。

大城：こういう応援ソングは、基本的に大城のヤンチャ時代から引っ張ってきてるからね。何か伝われー！って。



──この曲はアニメ『ログ・ホライズン 円卓崩壊』のエンディングテーマとしてもオンエアされていますね。

大城：はい。アニメのストーリーや世界観に当てはまるようにというのはもちろんなんだけど、じゃあ自分の中にも何か当てはまる部分がないかなと思った時に、誰かの背中を押してあげられたらっていう感情が出てきて。過去の自分とお話をしながら、アニメを見ている人達の背中を押せるように書いていきました。流れるのはエンディングなんだけど、また次へ、その先へ繋がるようにっていう気持ちも込めながら、大きく捉えて。今は特にそうかもしれないけど、みんな、頑張ってるから苦しいじゃないですか。そんな気持ちを優しく包むように、広い視野とわかりやすい言葉で書こうって。その上で、大城の声で人もアニメも「良く」なってほしいなって思った。もちろん自分も。

──もっと言うと、今のこの世の中も。

大城：そう。大城の経験から書いた歌詞なんだけど、頑張っている、苦しんでいる、その気持ちはみんな同じだから。大城が言うのも何だけど、届いたらいいなって思いながら書きました。

──「僕らは行ける 空に限界はない」という歌詞が印象的だった「believe」にも共通するメッセージがあるかなと思いましたが、こちらはどんなきっかけで書いたんですか？

大城：実はこの曲は「誰だってできるファイヤー」というサビの部分が先にできていたんだけど、「この歌詞の流れがいいぞ、今を生きる応援ソングを作ろう」と思って書きました。切ないけど、希望が湧く曲かな。

──「あのね」はずいぶん前に書かれた曲のようですね。

大城：12年くらい前だと思います。すごく束縛する彼氏と付き合っていた時に書いた、現実逃避の曲（笑）。これ、本当はアイドルちゃんとかに歌ってほしい曲なんだよね。可愛すぎる曲だから、どうしても大城には合わない気がして。だけど今回、このアルバムに入れたいって思ったの。

──時間が経って、少し客観的になれたから？

大城：かもしれない。あと、地元でも一番評価の高い曲だったりするから、頑張りたいって思ったんだよね。以前は可愛いアップテンポなアレンジだったけど、今回はちょっと大人になったこともあって、キーも下げ目でカッコよく歌ったつもり。リニューアルというか、2021年バージョンとして聴いてほしいなと思って。

──アルバムのラストを飾る「べっこう飴と君の真ん中で」では、グッと大人っぽい恋の一幕が描かれていますね。

大城：「ヤンチャ風」の前、つまり幸せになる前の曲。あえてここで、その時に感じていた気持ちを曲に残しておこうと思って。結構、掘り出したけどね。

──冒頭で歌詞は99％事実を書くとおっしゃっていましたが、残りの1％で聴いている人との距離をグッと縮めてくる。「べっこう飴と君の真ん中で」もそうですが、こういう作り方は大城美友というシンガーソングライターのすごい武器だなと思いました。

大城：もうそれしかないって言うか。自分の経験を残す、共感してもらう、届ける──嫌な恋も悲しい恋も全部、歌に出来る。つまり楽しみに変わるんだよね。だからたとえその時は悲しくても、「あぁ、これもまた歌になるのか。とことん泣こう。とことん傷つければいいじゃん」って思っちゃう。

──職業病なんですかね。その感覚、ちょっと怖さもありますけど（笑）。

大城：怖いよね（笑）。でもやっぱり、「お前のおかげで曲が出来た」っていうことなんだよね（笑）。

──そう思えてしまうほど、音楽が大事。

大城：本当に大事。大城はね、音楽取ったらもうゴミだから（笑）。他には何もない。



──その音楽で、成し遂げたい夢みたいなものがあるんでしょうか。

大城：やっぱり、音楽でご飯を食べたい。おいしいご飯を。だからそれなりに本気の恋をするし、本気で傷つくし、本気で今を戦いたいんだよね。今こんな時代になっちゃって、ライブも出来なかったりするけど、それも大城は曲にするから。今の気持ちを全部ね。大城って、溜めれば溜めるほどすごくなるよ。全部ポジティブに持っていけるから！

──アルバムタイトルの『TURNING POINT』には、そういう視点や気持ちの切り替えとか、前に進む気迫みたいなものも反映されているんですか？

大城：うん、いろいろ込められてる。今は本当に激しい時代で、みんな模索していると思うんだけど、この時代を生き抜く中で本当に最高な「TURNING POINT」に出会ってほしいって思っていて。今が悪いとは言いたくないけど、なんか最高なタイミングで、自分の世界を切り拓いてほしいの。本当にキツいけど。自分もこのアルバムが「TURNING POINT」になってほしいと思ってる。超いい言葉だからさ。

──そしてこのアルバムが、誰かの「TURNING POINT」になればと。

大城：そう！このアルバムを手に取った瞬間が、その人の「TURNING POINT」になってほしいよね。だからひとりでも多くの人に、今まで以上に手に取ってほしいなって思ってる。きっかけがどこにあるかわからないけど、大城美友という存在をたくさんの人に知っていただきたいんですよ。そして、今は直接会うことは難しいですけど、このアルバムとかSNSを通して、歌だけじゃなく、みんなと仲良くなれたらなって思う。私の1枚目のミニアルバムが『MI-POSITION』、つまり私はここにいるよっていうタイトルで、常にそのベースは変わらないんだけど、協力し合って生きていかなきゃいけない時代だからこそ、皆さんと近くなりたい。ここにいるよって、伝えたい。改めて、そう思ってます。

取材・文◎山田邦子