【インタビュー】3markets[ ]、虚無から生み出した『ニヒヒリズム』
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■認めてほしかった
──8月に録り終わっていたということは、今回のコロナ禍が影響を及ぼしている曲も中にはあります?
カザマタカフミ:ラストの「¥1,000,000」ですかね。タイトルは持続化給付金から来ていて、自分も申請したんですよ。100万はもらってないですけど40万くらいもらって、生活がずいぶん楽になりました。
──絶望から始まりつつ、サビでは“寿司食って今日は眠れ”に帰結するあたり、人間らしくて愛おしい曲ですよね。
カザマタカフミ:怒りながら寿司食ってる人っていないじゃないですか。寿司食ってる瞬間だけは人って絶対幸せだから、とりあえず寿司食えと。食えば血糖値も上がって眠くなるし。
──言われてみれば。ちなみに曲頭に出てくるように、“いっそ殺して”となるほど追い詰められたことってあります?
カザマタカフミ:もう、ずっとソレしかなかったです。10月はホント死のうかなと思ってて、もう、何も考えられなかったんですよね。
──その絶望の源って何だったんでしょう?
カザマタカフミ:絶望の源は……求めているからだなと思います。幼少期、よく親に「出てけ!」って言われて飛び出すような家出少年だったから、親に認めてほしかった気持ちが自分の中にあったんですよね。そこから“みんなに認めてほしい”っていう想いが強くなって、それを求めてて。でも、足りてないと常に思っちゃうから、こうやって“売れたい”欲の強い感じになっちゃったんですけど……最近は自分の中の足りないものを、ちゃんと自分で埋められるようになってきた気はします。さっきも言った通り、自分で自分を認められるようになってきた。
──それはベストな解決方法じゃないですか。孤独を感じるのは独りだからじゃなく、自分自身が足りてないからとも言いますし。
カザマタカフミ:いや、わかります。例えば、テレビの収録があったから認められたんだとかって感じてると、これってまた求めてるだけになっちゃうんですよね。その思考から抜け出せたんで、ホントに今は人生が超楽しくて。もう、世界が素晴らしい! おかげで、このアルバムをどうやって勧めればいいのか、全くわからないんですけど(笑)。
──いったい何がキッカケで、そんなコペルニクス的転回を果たせたんですか?
カザマタカフミ:たぶん、今まで落ち込みすぎたからでしょうね。そこでいろいろ考えて、こんなに落ち込むなら勉強しようと本とかもメッチャ読んだら、世界が一変したんです。もう、違う世界線にいる感じで、今は他人から認められなくても平気かもしれない。この感覚は、初めから満たされていたら気づけなかったと思う。
──底まで落ちたからこそ、もう上がるしかなかったんでしょうね。
カザマタカフミ:ただ、それで保守的になるというか、つまんなくなるのはちょっと怖いですね。だから、ちゃんと尖ったまま面白い展開をしたい。とはいえ、いつまでこのメンタリティでいるのかも疑問なんで、半年後にインタビューを見返したら“は!?”みたいになってる可能性も全然ある。
──いやいや(笑)。でも、さっき言われていた“落ち込むことが多い層”がカザマさんと同じく“求めない”境地に達することができたら、それこそかなり楽になるのでは?
カザマタカフミ:そこは最近欲しいなと思っているところで、落ち込んだときに“こういうことあった”って書くんですけど、その解決策まではちゃんと書けてないから、もう一歩進んだ歌詞を書いていきたいなと。
──MVが先行公開された「たからくじ」とか、良くも悪くもフラットで、そういった前向きな空気は感じます。
カザマタカフミ:問いかける曲にしたいとは考えてました。人によっては、これを聴いて「明日から頑張ります」って言ってくれるんですけど、実は“明日から頑張らないって決める選択肢もあるんだよ”ってことを伝えたかった曲なんです。みんな頑張りすぎてるから、いわば“頑張らない勇気”ですね。まぁ、そこは受け取る人それぞれの解釈でいいんですけど。
──なるほど。“明日から”というワードで終わるとはいえ、その先は必ずしも前向きなものでなくてもいい。
カザマタカフミ:とはいえ、人間として“求める”ってことは大事だと思うんですよね。それが完全に無くなると、人でなくなってしまう。そう考えると“足りない”と“求める”って、やっぱり違うのかもしれないですね。満ち足りた上で、楽しみながら求めていけたら、人の生活としてはベストな気がする。
──十分足りているのに求める人もいれば、足りてなくても飄々と気にしない人もいますからね。
カザマタカフミ:これ言ったら“何言ってるんだ?”って呆れられるかもしれないですけど、“無い”から“有る”わけじゃないですか。“無い”からこそ“有る”っていうことに気付ける感覚……これ、伝わります?
──わかります、わかります。先ほどおっしゃっていた「初めから満たされていたら気づけなかった」感覚ですよね。そう考えると“足りない”もそんなに悲観することでもない気がするんですが、そこで不満や渇望を失ってしまうと、アーティストとしては良い曲が書けない説もありません?
カザマタカフミ:それ、自分もずーっと信じてきたんですけど、ずーっと足りなくて求めてるのに売れないんだったら、良い曲書けてないってことじゃないですか? だったら変わったほうがいい! それに、良い曲を書くために不幸せで居続けなければいけないんだとしたら、それは人間的に無理がある。不幸せになる努力なんておかしいんで。
──おっしゃる通りです。さて、アルバム発売から2日後の1月8日には恵比寿のLIQUIDROOMでレコ発ワンマンが行われますが、やはり有観客は楽しみ?
カザマタカフミ:人が前にいてくれたほうが、有り難いっていうのはありますね。配信は配信でみんなコメントを打ってくれるから、“あ、この曲聴くときこう思ってるんだ”って知れる良さはあるんですけど、ダイレクトに空気感を感じられないのは、やっぱりヴォーカルとしては寂しいなと。
(※編集部注:新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、レコ発ワンマンライブは無観客での無料配信ライブとして実施されました)
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──レコ発のタイトルが<一生夏休み>で、地方公演を経て5月27日の渋谷CLUB QUATTROで行われるファイナルには<来世も夏休み>と名付けられていますが、これは夏休みでいたいというカザマさんの願望なんでしょうか?
カザマタカフミ:いや、僕、人生は夏休みだなと思っているんですよ。もう、ずーっと休んでいるので。
──ええ! じゃあ『ニヒヒリズム』が爆発的に売れて、メチャメチャ忙しくなったらどうします?
カザマタカフミ:それは遊んでるだけなんで、仕事じゃない。僕にとってバンド活動はもちろん、バイトも含めて全ての仕事は遊びなんです。だから人生、超楽しいんですよ! 今は(笑)。
──では、仕事を遊びと捉えられる秘訣を教えていただけません? 世の大多数は仕事は辛いと感じているでしょうから。
カザマタカフミ:いや、だったら辞めればいいんじゃないですか? だって、僕みたいに適当に生きてる人が暮らせてるんだから、そんな無理して働かなくても幸せになることはできる。お金なんて無くてもなんとかなるし、生活のために最低限働くことが必要なら苦にならない仕事をすればいい。自分も今のバイト、全然苦に思ったことないんで。
──いや、潔い!
カザマタカフミ:ホント考え方次第なんですよね。例えば、今まではテレビとかに出たとしても、こんな自分に時間を割いてもらって申し訳ないという気持ちしかなかったんですよ。でも、これが一つの仕事として成り立ってみんな幸せになれると考えれば、今はホントに有り難いなと思えるんですよね。
──同じ状況でも自分の考え方一つで世界は変わる。まさに真理ですね。他に教えていただけること、伝えておきたいことってあります?
カザマタカフミ:……いや、無いかもしれない。すみません、満ち足りているので(笑)。この取材で第一興商に来ることができて、メチャメチャ嬉しかったんですよ! 俺、普段カラオケで曲作りしてて、リード曲の「愛の返金」もプリプロから全部カラオケで作ったんです。そうやって出来た曲が今度カラオケで流れるっていうんだから、どれだけ感動するかわかんない! もう、店の受付の人にバレるんじゃないかと、今からドキドキしてます。いつもマイクスタンドを持ち込んでるんで、“マイクスタンドの奴だ”っていう認識はされてるはずですから(笑)。
取材・文◎清水素子
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2nd Full Album『ニヒヒリズム』
MIGE-00003 ¥2,700(税抜)
レーベル:miyatakegeinou
[収録曲]
1. 愛の返金
2. OBEYA
3. 言えなき子
4. A子
5. 君が太るべきたった一つの理由
6. 整形大賛成
7. 罰ゲーム?
8. サイゼ
9. たからくじ
10. ¥1,000,000
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