【インタビュー】株式会社ヤマハミュージックジャパン「いつでも、どこでも、ステージに」できるSTAGEPASが15周年

ポスト

スピーカー、アンプ、ミキサーといったすべての機能を搭載しながらもわかりやすい操作性を持ち、さらに持ち運びも簡便にできる世界初のオールインワン型ポータブルPAシステムとして2005年に登場したSTAGEPAS。ストリートや音響システムを持たないレストランなどでの音楽演奏から、セミナー、イベントなどでのスピーチまで、幅広い場面で活躍しており、意識はしていなくとも、誰もがその姿を一度は目にしたことがあるのではないだろうか。そんなSTAGEPASは発売から15周年を迎え、さらに進化を続けているという。果たして、STAGEPASとはいかなるものなのか、そしてどんなことができるのか。株式会社ヤマハミュージックジャパンの滝澤真二氏と重森耕一郎氏に改めて教えてもらった。

■STAGEPASだけを持っていけば
■どこでも手軽にPAが組める

──そもそも、STAGEPASとはどういったものなのか、まずはそこから教えていただけますか?

重森耕一郎氏(以下、重森):スピーカー、ミキサー、アンプがセットになっていて、なおかつ持ち運びができるPAシステム。弊社では「ポータブルPAシステム」と呼んでいます。「いつでも、どこでも、ステージに」というキャッチフレーズで、STAGEPASだけを持っていけば、どこでも手軽にPAが組めますよというのが、そもそもの商品コンセプトです。2005年にSTAGEPAS300を発売して以来、今年で15周年になります。2018年に発売したSTAGEPAS 600BT/400BT、2019年に発売したSTAGEPAS 1Kの3機種が現行商品になります。

──それぞれの特徴はどんなところでしょうか?

重森:いわゆるPAシステムというと、STAGEPAS 600BT/400BTのようなスタイルをイメージされると思います。こちらはポイントソース型と呼ばれるもので、上部のホーン型の部分がツイーターで高音域を、下の大口径ユニットがウーファーで低音域を担っています。一方、STAGEPAS 1Kはラインアレイ型と呼ばれるもので、こちらは棒状部分に小口径のスピーカーが10基タテに並んでいます。そして筐体部分がウーファーなので、STAGEPAS 600BT/400BTとSTAGEPAS 1Kでは、そもそもスピーカーの構造が大きく違うんです。

▲STAGEPAS 600BT/400BT
▲STAGEPAS 1K

──なぜ、見た目からしてこんなにも大きな違いがあるのでしょうか?


重森:もちろん見た目の違いには意味があります。スピーカーから近い位置での音の大きさや迫力というのはポイントソース型の方にメリットがあるんです。アンプのワット数が同じであれば、ポイントソース型の方が音圧レベルを大きくできます。一方、STAGEPAS 1Kで採用しているラインアレイ型は指向角、つまり音の広がり方に特徴があるんです。ポイントソース型でオーソドックスなタイプでは、音の広がり方がタテもヨコも概ね60〜90度くらいで、波紋のように広がっていく。一方、ラインアレイ型はヨコには音が広がりますが、タテには広がりにくいという音響特性があります。タテに広がらない分、音のパワーが逃げない。ポイントソース型はタテにもヨコにも広がるので、スピーカーの近くで聴くと大きな音でも、離れていくにしたがって小さい音になっていきます。でも、ラインアレイ型は音の減衰が少なく、遠くまで音が届きます。近くの人と遠くの人で音量の差が少なくなるので、均一な音を届けることができるということですね。加えてSTGAEPAS 1Kは1.5インチの小口径ユニットを10基搭載しており、水平指向角が170度あります。つまり、スピーカーのほぼ真横にいても音がしっかり届くんです。用途にもよりますが、STAGEPAS 1Kは1台で会場全体の音がまかなえるという利点もありますね。

──遠くまで音を届けたい場合にはラインアレイ型、迫力のある音を出したい場合にはポイントソース型が適しているということですか?

重森:大まかに言うとそうですね。それぞれに特長があるので、現在STAGEPASは600BT/400BTと1Kの2つのラインナップを用意しています。

──用途によって、適したものをチョイスすると良いんですね。

重森:そうしていただきたいですね。「どちらが良いですか?」と聞かれることがありますが、どちらが優れているというものではなく、特性が違うので、お客様の使用用途に合わせて選択していただければよいかと思います。それからポイントソース型は、スピーカースタンドに立てて使用することも多く、大きなユニットが高い位置に置かれることになります。それによって、演者さんがスピーカーに隠れてしまうといった、ステージの“見切れ”が発生するんです。ラインアレイ型だと、細いキャビネットなので、見切れがかなり解消されます。さらに、スピーカーユニットというのは、ウーファー部分にかなりの重量がある。ポイントソース型でスピーカースタンドを使用する場合、それが高い位置に設置されることになります。ラインアレイ型のSTAGEPAS 1Kはウーファー部分が下部にあるので、重心が低く安定します。

──そういう違いもあるんですね。やはり、用途や使用する環境によって選ぶのが正しい選択になりますね。

滝澤真二氏(以下、滝澤):学校などの行事でPAシステムを使った時に、スピーカースタンドを使用している付近でのお子さまの動きには細心の注意をされると思いますが、STAGEPAS 1Kであれば、そういう危険性はかなり低い。スピーカーの特性よりも「まずは安全だから」という理由でSTAGEPAS 1Kを選ばれるユーザーさんもいらっしゃいますね。また、ヤマハでは独自の安全基準を設けています。これはかなり厳格なものだと自負しています。落下に対する安全性はもちろん、さまざまな検査を繰り返して、安全性を確かめた上で製品を作っていますので、安心していただきたいですね。「安全で信頼できる」、そんな製品を目指しています。

■電源を入れてツマミを右に回せば
■音が出る作り

──今、「STAGEPAS 1Kはこれひとつを置けばそれで使える」という話が出ましたが、STAGEPAS 1Kはミキサーもユニット部分に一体化されているんですね。

重森:ウーファーのキャビネット背面がミキサーになっています。そのミキサー部分にパワーアンプも内蔵されていて、STAGEPAS 600BT/400BTも同様の仕様です。STAGEPAS 600BT/400BTのミキサー部は、キャビネットの後方部分にはめ込んであるんですが、取り外しができて、これをマイクスタンドなどに立ててもらえば、演奏者が手元で操作することが可能なんです。

▲STAGEPAS 600BT/400BTのミキサー部
▲STAGEPAS 1Kのミキサー部

──また、どちらもBluetooth対応と?

重森:そうです。型番の“BT”というのがBluetoothを意味しています。スマートフォンやPCから音楽を再生することができるんです。STAGEPAS 1Kはミキサーが取り外せないと言いましたが、その代わりに、Bluetoothを使って専用のアプリに対応しています。スマートフォンやタブレットにアプリを入れていただければ、離れたところから操作ができます。実はアプリを使った方が、できることが多いんです(笑)。

──STAGEPASはどのくらいの広さや規模まで対応できるのでしょうか?

重森:室内なのか屋外なのかで全然違いますし、室内であっても壁の材質などで音が変わる。もちろん部屋の広さでも変わります。広さという部分では、その中にどのくらい人がいるのかでも変わるんです。人が音を吸収してしまうんですね。分かりやすい例を挙げると、学園祭などで教室を使ってバンド演奏する場合だとSTAGEPAS 600BTをおすすめします。STAGEPAS 600BTはスピーカーの口径が大きいので、その広さならば、しっかりとした音圧を感じていただけるはずです。同じ教室でも、スピーチをするとか、音源を流す場合ならば、STAGEPAS 400BTやSTAGEPAS 1Kの方が向いていますね。特にSTAGEPAS 1Kは、音が遠くまで届くという特性を持っているので、スピーチ用途に向いています。音楽用途ですとSTAGEPAS 1Kにはサブウーファーが搭載されていますので、クラブミュージックなどに適していると言えるかもしれません。

──専門的な知識がなくても操作はできるものなのでしょうか?

重森:今までのシリーズのすべてが、電源を入れてツマミを全部右に回せば、とりあえず音が出る作りになっているんです。難しい音質の調整も「1-Knob Master EQ」という機能があって、ひとつのノブを回すだけで、音楽に向いた音、スピーチに向いた音が作れるようになっています。STAGEPAS 1Kの場合ですと、ノブをセンターに合わせると音楽用途向きのサウンド、右側にまわすとクラブミュージック向きのような低音がしっかりと効いた音が出せます。逆に、スピーチをメインに使うのであれば、余計な低音域がじゃまになりますので、そういう場合はノブを左に回して、低音域をおさえたスピーチ用途向きの音にしてください。

──STAGEPASは音が良いという評判をよく聞くのですが、音質面でこだわっている部分、工夫している部分はありますか?


重森:一例をあげると、バスレフポートというキャビネットの中の音が抜ける仕組みがあり、普通は丸い形の穴なんですが、STAGEPAS 1Kは花びらのような形状になっているんです。これは「ツイステッドフレア」というヤマハの独自の技術で、中の音が抜けるときの“ボフッ”というような風切り音を軽減させる効果があります。ヤマハのPAシステムは、ハイエンドモデルから多くのラインナップがありますが、それらの技術を、STAGEPASをはじめとする入門機種にも落とし込んでいます。なので、音が良いと感じていただけているのは、そういった高い技術が搭載されているからではないでしょうか。

──今後、STAGEPASはどのように進化していくのでしょうか?

滝澤:先ほども話しましたように、STAGEPASは、誰にでも扱えるPAシステムとして開発しました。最初に発売したSTAGEPAS 300から、追求しているものというとそこになりますね。それまでに世の中になかったオールインワンのPAシステムとして提案させていただいて、ある程度の認知はいただきました。ただ、最初は音が出るだけで満足だったものが、次第にそれだけではもの足りないという声が届くようになったんです。それを解消しようとブラッシュアップしたのがSTAGEPAS 600/400シリーズ。STAGEPAS 300の頃は、ツマミを右に回せば音が出るので、プロのオペレーターの方からは、「STAGEPAS 300を使っているヤツは素人だ」というようなことも言われました(笑)。それがSTAGEPAS 400を発売した頃から、「これは現場で使えるな」と意識が変わってきた……そんなふうに、これからもさらに音が良く、そしてさらに使いやすいポータブルPAシステムを提供できるように、ユーザーさまの意見をフィードバックさせながら進化させていきたいですね。

取材・文=竹内伸一


STAGEPAS 1Kアンバサダー コメント

■DON ALMAS(スパニッシュギターデュオ ドンアルマス)


「STAGEPAS 1Kは主にホテルやレストランでの小規模な演奏時に使っています。
たった1台で鳴っているのかと思うほど、圧迫感がなく、包み込むような音の空間を作れるのが魅力ですね。
広い空間へバランスよく心地よい音を届けることができるので、とても満足しています。
また準備や撤収についても、普段は音響機材を大きな台車に積んで準備をしますが、
この1台で拍子抜けするほど簡単にセッティングができるのでとても助かっています。」

■勝野秀敏(龍津寺)


「田舎の禅寺で、寺子屋やこども食堂を行っています。今回、お祭りの際のバンド演奏や研修会、ご葬儀などの音響のために導入したSTAGEPAS 1Kには、音質の素晴らしさに感動しました。今年は新型コロナウイルスの影響で行事が叶わず、まだ出番は少ないですが、先日、クラシック音楽を子どもたちに聴かせてあげたいと、寺子屋の際にラヴェルのボレロをiPhoneからSTAGEPAS 1KにBluetoothで接続して流してみましたが、素晴らしい臨場感の音に子どもたちも感激していました。取り回しとセッティングのしやすさも、これ以上便利なものはなく、神社仏閣などの施設には最適な機種だと思います。」

■イシヤマ氏(紙芝居師)


「街を盛り上げるために始めたイベント<きつき城下町マルシェ>でSTAGEPAS1Kを使っています。
まず最初につないでみて、このサイズでこの音量が出ることにビックリしましたね。<きつき城下町マルシェ>は公園での屋外イベントですが、音量としては十分です。特に声、ボーカル類がよく遠くまで飛びますね。声が遠くまでよく届くので、ここでイベントをやっていることが伝わっていいと思います。今回もステージの後方のセンターバックにSTAGEPAS 1Kを置いて使っていますが、これ1台だけでライブも紙芝居もまったく問題ありませんし、音もとてもいいです。」

◆STAGEPAS オフィシャルサイト
この記事をポスト

この記事の関連情報