【インタビュー】林ゆうき、作家活動10周年「やろうとしてるのは“音のトータルデザイン”みたいなこと」
作曲家、林ゆうきがデビュー10周年を迎え、初のベストアルバムを12月16日にリリースする。これまで手がけた数多くの作品の中から、『ストロベリーナイト』『リーガルハイ』『神様のカルテ2』をはじめドラマ・映画の楽曲を集めた『YUKI HAYASHI BEST 1』『ガンダム』シリーズや『ハイキュー!!』などアニメの楽曲を集めた『YUKI HAYASHI BEST 2』の2枚が同時発売。林のキャリアの変遷を辿ることができるだけでなく、作曲家としての実力や魅力を感じ取れる作品となっている。そのベスト盤の内容を振り返りつつ、作曲手法や劇伴音楽への向き合い方について語ってもらった。
◆ ◆ ◆
──作家活動10周年を迎えて、今回ベスト盤が発売されることになりました。
林ゆうき(以下、林):おかげさまで多くの作品で楽曲を作らせてもらっていますが、それらをまとめたものを出した覚えがないなと気づいたんです。今年の頭に、10周年記念のコンサートを開催したんですけれど、今後もそういったステージを定期的にやりたいというのと、この節目でベスト盤みたいなものを出せたらいいなっていうのがあって。今はサブスクリプションが主流なのでCDにしなくてもいいという話も聞きますが、これまでにサブスクに上がってない曲もあるので、そこら辺もまとめて集めてもいいかなと思ったんです。
──ドラマ・映画の楽曲集『YUKI HAYASHI BEST 1』とアニメの楽曲集『YUKI HAYASHI BEST 2』がリリースされますが、2枚に分けたのはどうしてですか?
林:もちろん両方聴いてくださるファンの方もいらっしゃると思うんですが、アニメは全然わからなくてもドラマの曲は好きっていう人、またその逆もいらっしゃるんで。だったら、アニメに特化したものとドラマに特化したものを分けた方がいいのかなと。
──では、選曲の基準というと?
林:メインテーマが多いんですけど、自分の好きな曲、代表曲みたいなものを中心に集めています。
──劇伴作曲家として初めて携わったのが、『YUKI HAYASHI BEST 1』に収録されているドラマ『トライアングル』の音楽ですよね? これは澤野弘之さんと共同制作だったそうですが、実際にサウンドトラックを作ってみていかがでしたか?
林:レコーディング自体が初めてだったっていうのもありますし、右も左もわからない状態でしたね。でも、メインテーマを作るのに困ったというようなことはなくて。というのは、もともと澤野弘之さんにデモを送ったことで今の事務所とつながりができたんですが、社長がそのデモをいろんなところに送ってくれたんです。それを『トライアングル』の監督さんが気に入ってくださって。この曲をメインテーマにしたドラマを作りたいということだったので、新しくメインテーマを作ってないんですよ。
──それがベスト盤1曲目の「cocoon」ですね。
林:そうです。そのまま使いたいと言ってもらえたことで、“サウンドトラックの世界に合ってるのかもしれない”という自信が少しつきました。僕は高校、大学と男子新体操をやっていて、そこで使う音楽を自分で編集したり、のちには制作するようになったんです。競技用の伴奏曲というのは、映画やドラマのサウンドトラックのメインテーマだったり、それに近しいような音楽が多かったので、普段からそういう音楽ばかりを聴いていたんですよ。それで、おのずとメインテーマっぽい楽曲のメモリーが増えていったというか。
──アニメ作品で初めて手がけられたのも『YUKI HAYASHI BEST 2』の1曲目に入っている『ROBOTICS;NOTES』のメインテーマですか?
林:いえ、最初はショートムービーみたいなアニメの音楽をやらせてもらったんですけれど、それは1本限りのものだったんです。連続アニメ作品としては、『ROBOTICS;NOTES』が初めてでしたね。
──林さんは、普段どのように作曲をスタートするんでしょうか?
林:料理で言うと、まず全体の献立を考えます。どういうコースにするのか、そもそも和食なのか洋食なのか、みたいな感じで。例えば、ロックにする、クラシカルにする、壮大な曲にする、楽器の編成を小さくする、とか決めていくんです。ピアノでやるとか、女性ボーカルをメインに使うとか、この作品だからこうしようってコンセプトを明確にしてからスタートしないと、あまりいい結果にならないんです。
──頭の中で割と見えてから作り始める?
林:はっきり見えていなくても、方向性と使う楽器が何なのかをしっかり決めて、そこに向かってやっていけばズレることはあまりないので。その辺は大事にしています。
──出演している俳優さんやアニメのキャラクターのイメージに合わせて曲にしたり、音選びをしたりすることは?
林:もちろんあります。どなたが出演されるのか、作品の世界観はどんなものか、どういう年齢のお客さんをターゲットにしているのかで、楽曲のわかりやすさやメロディの方向性なども考えます。そうやってどの楽器を使うのか、どのジャンルにするか決めるっていうのは、劇伴作曲家はみんな常にやっていることだと思います。
──林さんの音楽の大きな特徴でストリングスがあると思います。今回のベスト盤でもいろいろな曲で聴くことができますが、音大には行かれてないですよね? どう学ばれたのでしょうか。
林:見よう見まねですね。好きな曲を聴いて耳コピして。本で学んだり、人に教えてもらったり、実際に楽器がどういう動きをしてるのかを自分で弾いてみて試したこともありますけど。基本的に、細かい学術的な部分まで詰める必要はないかなと思っていて。そこは専門の人たちに任せてしまう。僕がやろうとしてるのは、“音のトータルデザイン”みたいなことなんです。作品に対して“こういうメロディライン、こういう楽器の構成”というデザインをして、その中に出てくるオーケストレーションは人に委ねるということを最近はしています。
──ダンスミュージックやエレクトロニカのサウンドを使われることも多いですが、そういった音楽は、サウンドトラックを手がける前から作っていたんですよね?
林:そうですね。厳密にダンスミュージックっていうよりは、サウンドトラックに近いものではありました。新体操はクラシック曲が多いっていうのが一般のイメージだと思うんですけれど、エレクトロニカやダンスミュージックもよく使われるんです。それもあって、当時からよく聴いていたのもありました。
──先ほど“音のトータルデザイン”とおっしゃっていましたが、ベスト盤を聴いていて、打ち込みのサウンドとストリングスなどの生楽器の組み合わせ方が絶妙だなと思いました。そのデザインパターンがいろいろあって、楽曲にバリエーションが出ているんだなと。
林:ありがとうございます。でも、みんなやっていることだとは思いますけどね。僕はもともと音楽をやってきた人じゃないので、ダンスをやっている人が踊りやすいというか、カッコイイなって思えるような展開にはしたいといつも考えているんです。それがうまいこと出ているのかなと思うんですけど。
──またベスト盤では、いろいろな曲調やアレンジの楽曲が聴けますが、そういう引き出しはどのように培われたんでしょうか?
林:個人的には、めっちゃワンパターンだなといつも思ってるんです。コード進行も複雑じゃないですし。ただ、器用すぎてもその人の色が出ないなって思ってますし、逆にわざとそれらしくやった方が作品にとっては良いと理解したらとことん突き進んだりもします。ジャンルに関して言えば、新体操の音楽をやっていたことが大きいですね。女子と男子だと使う楽曲の華やかさだったり、ジャンルが違うので。例えば女子の新体操では、ビッグバンドなどのジャズっぽい、ファンクっぽいものが選ばれたりすることがよくあったので、『リーガルハイ』でやったような音楽の下地もありました。男子新体操では、『トライアングル』の「cocoon」みたいな壮大な楽曲が使われることが多かったので。
──では、ベスト盤の中で思い出深い曲を挙げてもらえますか?
林:う〜ん……これ、挙げないとダメですか?(笑)今までやった作品が本当にいろいろあったので、どれを入れるかっていうのが一番悩んだところなんです。ファンの人たちから人気のある曲がいいのかなとも思ったんですが、今回は僕が好きな曲を中心に収録させてもらいました。入れ損ねたものもいっぱいあるので、それも何かの機会に出せるといいなと思ってます。
──さまざまな時期の作品をこうやって2枚のアルバムにまとめてみた感想は?
林:久々に聴いてみると、めっちゃ恥ずかしいものもいっぱいあるんですけどね(笑)。“ああ、この時はこういうサウンドがかっこいいと思ってたんだな”とか、昔の写真を見るようで。でも、それはその時の自分がいいなって思ってやっていたことなので、納得しています。
──こういう部分が成長したなっていうのはありましたか?
林:成長なのか、慣れちゃってるのかわからないですけれど、決まったテンプレートができてるなって感じるところもあります。ただ、改めて聴いてみて、“今の技術でこれをやると面白いかも”って確認できたことがあったので。それを知れたのは良かったなと思います。今度はこういうアプローチをしてみようって思えたので。
──この10年はお忙しかったと思いますが。
林:いえ、僕より忙しい人は山ほどいるので。来たお仕事をとりあえず全部やらせてもらえればと思ってやっていただけ。これまでの作品を振り返ってみて、懐かしいなっていうのと同時に、20年後はどうなってるんだろうと思ったりもします。“この頃は全然寝れなかったな”と思い出したり(笑)。今後も健康にやっていきたいですね。
──これからやってみたいお仕事というと?
林:せっかくアニメ作品とかで海外でも知ってもらえたりしているので、日本のみならず世界のお仕事を受けられるようになるといいなって思いますね。
──ライブ活動もしていくのでしょうか?
林:そうですね、年に1、2回ぐらいできるようになるといいなと思っていて。ライブごとにコンセプトを決めて、それに合わせてスタイルを変えてやれたらいいなと。例えば、作品の映像を流しながらライブコンサートみたいな感じでやるのもいいですし、劇伴という形でなく自分がやりたい音楽を聴いてもらうアーティスト的なスタイルも将来的にはできたらいいなと思っています。
──ファンの方々にメッセージをお願いします。
林:改めて微調整したり、音を作り直している曲もあるので、ぜひその違いを聴いてもらえたら。あと、メインテーマを中心に主要な曲をピックアップしているので、今まで知らなかった曲を聴いて、そのドラマやアニメに興味が湧いて観てもらったり、ほかの曲を聴いてもらえたりしたら、作った意味があるなと思うので。そうやって楽曲から作品に入っていただいたりしてもいいですし、単純に懐かしいなと思って聴いてもらってもいいですし、人によって楽しみ方はそれぞれあると思います。日々の楽しみのひとつになると嬉しいですね。
取材・文◎山本奈緒
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■リリース情報
2020年12月16日(水)発売
CD:NGCS-1109 ¥3,000+税
デジタル:各社より配信
Track List:
01. cocoon [2020Mix]
02. ocean [2020Mix]
03. LEFT-EYE
04. DONOR/RECIPIENT
05. CrimsonDancer
06. Absolute Zero-Main Theme [2020Mix]
07. -273°C [2020Mix]
08. ストロベリーナイト [2020Mix]
09. Sleeping Beauty [2020Mix]
10. Prelude [2020Mix]
11. rich-man [2020Mix]
12. LEGAL-HIGH [2020Mix]
13. DOCTORS
14. 星空
15. アスリートの魂メインテーマ
▲『YUKI HAYASHI BEST 1』
■アルバム『YUKI HAYASHI BEST 2』
2020年12月16日(水)発売
CD:NGCS-1110 ¥3,000+税
デジタル:各社より配信
Track List:
01. ROBOTICS;NOTES [2020Mix]
02. DIABOLIK LOVERS
03. BLOOD LAD [2020Mix]
04. GUNDAM BUILD FIGHTERS
05. 紅の彗星 〜通常のフラメンコの3倍の情熱〜
06. fairy dance
07. PowerResonance
08. Allied Force
09. トライファイターズ
10. ところがぎっちょん!
11. ブッピガン
12. Roots of Happiness
13. ハイキュー!!
14. moonlit night [2020Mix]
15. A-TTACK [2020Mix]
16. キズナイーバー [2020Mix]
17. TRICKSTER
▲『YUKI HAYASHI BEST 2』
■ライブ情報
2021年4月開催
※詳細はレジェンドアSNS、ホームページにて随時発表
レジェンドア オフィシャルサイト: http://www.legendoor.com
レジェンドア オフィシャルTwitter: https://twitter.com/legendoor
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