【レポート】清春、52歳のバースデーライヴをディナーショウ形式で開催「また会いましょうね、かならず」
去る10月30日、52歳の誕生日を迎えた清春。彼が毎年この日、ライヴを行うことはファンの間でもよく知られているはずだが、新型コロナ禍の影響が長引き、通常通りのライヴ活動が不可能な状況が続いているなか、恒例となっているバースデー・ライヴの開催も今年は見送られるのではないかと誰もが考えていたことだろう。しかし本気のこだわりというのは、99%不可能な状況下でも1%の可能性を発見させるものなのかもしれない。彼は今年、この特別な日のライヴを、ホールやライヴハウスではなく、長いキャリアの中で初めてホテルで開催してみせた。
◆清春 画像
会場となったのは東京・新宿にある京王プラザホテルのコンコード・ボールルーム。もちろんこうした場所でもソーシャル・ディスタンスの確保などは徹底されているし、広いスペースに対して限定400名という入場者数設定はだいぶ贅沢な会場の使い方だといえる。そしてこうした場で行なわれるのは普通のライヴではなく、いわゆる世間でいうところのディナー・ショウ的なもの。幸運にもこの機会を勝ち取ったファンクラブの会員たちはまず食事を楽しみ、食後のデザートや飲み物を味わいながら、この夜の主人公の登場を待っていた。
場内の照明が暗く落とされ、ステージ上に清春が姿を見せたのは午後9時を25分ほど過ぎた頃のことだった。中村佳嗣、K-A-Zという2人のギタリストの演奏に導かれながらステージ前方に進み出て、フットスイッチで自らをほの暗く照らすライトをつけた彼が最初に歌い始めたのは、3月に発売された最新アルバム『JAPANESE MENU/DISTORTION10』に収録されている「SURVIVE OF VISION」。あの艶やかで独特の翳りをまとった歌声が聴こえてきた瞬間、鳥肌が立つのを感じた。ライヴ活動がままならない期間中も<THE TEST>と銘打たれた音源ダウンロード付きの配信ライヴを重ね、その発展形というべき<A NEW MY TERRITORY>というシリーズも始まっているだけに、来場者の大半は彼の歌声やパフォーマンスに毎月のように触れてきたはずではある。しかし“生”の響きは違う。その深みが、染み込み方が、圧倒的に違う。それは2人のギタリストが奏でるギターの音色についても同じことだ。そうした差異を、その場にいたすべての人たちが実感していたことだろう。
清春自身は、こうした大型ボールルーム特有の、いわば大浴場のような残響のあり方などにいくぶん戸惑いをおぼえていたようだが、聴こえてくる歌声と演奏はとても豊かな響きをもって届いてきた。天井に並ぶシャンデリアの光もまた、彼自身やその音楽のたたずまいによく似合っていた。また、曲間ではあまり喋らないつもりでいたという彼だが、来場者たちがディナーに舌鼓を打っていた頃に彼が控室で蝕していたのがマクドナルドのハンバーガーだったという逸話も披露。彼の口から聞こえてきた「しかも、シングルふつうバーガー」という言葉には、マスクを着用したままの来場者たちからも笑い声が起きていた。
終盤、プロンプターを故障させてしまった彼だが、最後の1曲についてはなんとスタッフのスマートフォンをカンニングペーパー代わりに使いながら「貴方になって」を熱唱。プロンプターが使えないならばスマホがある。ライヴハウスでやれないならばホテルでやることを考えればいい。こうした単純な事実もまた、何かを暗示しているように感じられた。そして「どうもありがとう。また会いましょうね、かならず」と客席に告げた彼がその場から姿を消したのは、開演からちょうど2時間後のことだった。
来年の誕生日を迎える頃、ライヴ・エンターテインメントの世界がどのような状況にあるかは想像もつかないが、当然ながら従来のような制限のない形でのライヴ開催を第一に望みたいところではある。ただ、清春ならばきっと、世の中がどうあろうと、彼ならではの方法論を見出しながら、表現活動を続けていくに違いない。彼自身の手による初の自叙伝『清春』の発売日でもあったこの日のライヴは、そうした彼の姿勢を改めて見せつけるものにもなったように思う。
取材・文◎増田勇一
撮影◎森好弘
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