【インタビュー】Tiara、デビュー10周年を見つめて

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2009年9月にリリースしたメジャーデビューシングル「さよならをキミに... feat. Spontania」がヒットを記録し、リアルな恋愛ソングで女子からの支持を集めたシンガーソングライター・Tiara。彼女が2020年10月から3ヶ月連続で10年間の活動を網羅するデジタルベストアルバム『All about Tiara』をリリースする。第1弾はこれまで発表されたコラボレーションソングのなかから厳選した16曲と、シンガーソングライター・Kを客演に招いた新曲「あいのかたち with K」を収録。共演するアーティストによって異なる表情を覗かせるTiaraの歌声を堪能できる。リリース日の10月7日に彼女をキャッチし、コラボレーションの醍醐味はもちろん、音楽の道に進むチャンスを掴めた理由や、現在の音楽との付き合い方をひも解いていった。

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■チャンスに乗っかるための準備

──「あいのかたち with K」のMV撮影とYouTubeでのトーク生配信の間のお時間をいただいてのインタビューなのですが、どうやら今日はTiaraさんにとって初めての生配信だそうですね。

Tiara:初めてだから楽しみですし、ちょっとドキドキしてます。定期的に行っているwebラジオは声だけなのでリラックスしてできるんですけど、“画面で姿を観られている”と考えると気合いが入りますね(笑)。オンラインライブが増えたことで家にいながらライブが観られるようになって、子どもも一緒にライブを楽しめる機会が増えて。子育てをしていてなかなか行ける機会がない方々は多いと思うので、そういう方々にも生配信を観ていただけたらなと思っていますね。

──2000年代になってから、インターネットの普及と発達で音楽の楽しみ方も変わってきましたが、Tiaraさんがメジャーデビューなさった2009年は過渡期だったように思います。

Tiara:ちょうど着うたブームでしたね。短い期間でしたけどすごい勢いで、“あれはなんだったんだろう……?”と思うくらいのバブルで。でも着うたによって携帯電話で音楽が持ち歩けるようになって、音楽というものがより身近になったなとも思います。

──20代の方々には、“初めて買ったCD”よりも前に“初めてダウンロードした着うた”がある人も多いようです。

Tiara:そうですね、デビューした時によく聴いてくださっていたリスナーさんは中高生だったので、いまそれくらいの年齢だと思います。

──当時の中高生や学生たちの携帯電話文化に欠かせないのが着うた、ケータイ小説、歌詞画で、恋愛に特化したコンテンツが流行っていた気がするんです。そのなかでTiaraさんはどのようなラブソングを届けようと思ってらっしゃったのでしょう?

Tiara:聴いている世代や、着うたという聴き方はすごく意識していましたね。歌詞もひらがなにするのか漢字にするのか、1文字1文字悩みながら“どうしたら中高生の子たちに届くんだろう?”と考えていきました。お手紙やメールでお悩みを送ってくれる人たちも多かったので、そこからヒントを得て作った曲もありますし、わたしも当時恋愛中だったので実体験を踏まえたり、中高生時代のことを思い返してリンクさせたりしてましたね。自分のことを歌っているように感じてもらえたり、いまも“聴くと当時のことを思い出します”と言っていただくのでうれしいです。



──Tiaraさんはメジャーデビュー曲がいきなりヒットしましたが、それはそこに至るまでの背景あってこそだと思うんです。まず、幼少期から慣れ親しんだ美術の道から音楽の道に進んだきっかけというと?

Tiara:もともと表現するのが好きなのと、父が絵を描いていたこともあって美術の高校に入学したんですけど、絵がうまい子たちばっかりで“上には上がいる”と思い知らされて。コンテストに応募しても通らなくて、なにを描いていいのかもわからなくなって、高校2年生の頃に“絵を描くことが自分にとってベストなのだろうか”と疑問に思うようになったんです。それで“自分に合う表現方法を探しに出たい”という気持ちが強くなって、高校を卒業してすぐに上京を決めました。それでダンスをやってみたり、演技をやってみたり──そのなかでわたしの声を個性的だと言ってもらうことがあったんです。そこで初めて“あ、わたしの声には個性があるんだ”と認識したというか。

──“個性がある”というのが重要だったんですね。

Tiara:個性がないのがずっと悩みだったんです。でもその言葉をもらって“自分にも個性があったんだ。じゃあこれをいい方向に持っていけないかな?”と考えた結果、行き着いたのが音楽でした。若い頃は、恋愛中心に過ごしていた人ってきっと多いと思うんですけども、わたしもそうで、よく悩んでいましたね。そんなときに支えになってくれていたのが音楽だったんです。当時は柴田淳さんが大好きで、よく夜な夜な曲に浸りながら弾き語りをしていました(笑)。そんな風に音楽に何度も救われてきたからこそ“(リスナーを)励ます側に立てたらすごく素敵なんだろうな”とだんだん思うようになっていって、本格的に歌の道に進みました。歌を始めて、幸運にもまず最初にケツメイシさんのコーラスで呼んでいただいて、特に「さくら」という大ヒット曲のコーラスをさせていただいた経験がとても大きかったかな。日本中で自分の声が聞こえるということにすごく感動しました。そこからいろんな方々のご縁のおかげでデビューができたんですよね。


──2004年にバッキングコーラスとしての活動を開始、2007年にアーティストとしてインディーズデビューと、着実な下積みがあってこその2009年のメジャーデビュー。着実にチャンスを掴み続けられたのはなぜなのでしょう?

Tiara:んー……長年活動してきて思うんですけど、チャンスは誰に対しても同じくらい舞い込んでくるものだと思うんです。ただ、チャンスに乗っかるための準備ができていないと、次につながらない。もちろんわたしもチャンスに乗ることができなかった場面はたくさんあって、そのたびに“努力が足りなかったな”と反省して。だから準備をする努力はすごく大事だと思います。

──Tiaraさんはどんな“準備”をしてらっしゃいましたか?

Tiara:初めてコーラスのお仕事をする前に“自分の声はどういうふうに録音すれば輝くんだろう?”と研究しました。ほんっとにお金がなかったんですけど、なけなしのお金で機材を買って、家をレコーディングできる環境にして。“わたしの声はマイクをこの位置にして歌うのが合うんだな”とか“自分の声の個性を引き立つような歌い方はこうかな?”などと、一つひとつ調べていって、それをひとりで黙々と半年くらいしてました。

──ご自分の個性がより輝く方法を探して、それを磨いていったということですね。努力をして、夢を諦めずに続けてこられたことが実になっているのだろうなと。

Tiara:志半ばで去っていく人が多い世界で、諦めなかったからこそ今があると思うんですけど……なぜか昔から根拠のない自信があって(笑)。思い立ったらすぐ行動にしたいタイプでもあるので、“わたしならここまで行けるんじゃないか、行けるはずだ”という気持ちを持っていられたのが良かったんでしょうね。歌はまったくできないところからのスタートだったので、先生にスパルタで教えてもらいながらも、できないことも、できないことがどんどんできていくのも楽しかったんです。

──なるほど。自分の個性が生かせるだけでなく、もともとのポテンシャルで簡単にできることではないのが良かった、ということですね。

Tiara:努力しないでできることより、“なんでできないんだろう、どうしたらできるんだろう”と考えながら練習していくのが面白かったんですよね。わたしには力強く歌うのは向いていないかなと思って、じゃあ自分の個性を生かせる歌い方は何だろう?と探して、磨いていって。バックコーラスをしていた時期も本当に勉強になることばかりで、それがあったから今もこうして活動できているんだと思います。

──2014年春にご結婚、2015年秋にご出産なさるなど、デビューなさってからの11年間は変化が大きかったと思うのですが、音楽活動への影響も大きいのでしょうか?

Tiara:それまでのわたしは実体験を歌詞にしていたので、結婚を機に恋愛をしなくなったことはかなり大きな影響がありました(笑)。自然と大きく深い愛情を書くことが増えた気がします。出産後にリリースしたアルバム『あいすること』はそういう作品で、家族のこと、子どものことを想って作った曲もありますし、ほぼ同期の同年代の3人で女性同士の友情を歌った曲(※「My Girl Friends / Tiara × AZU × 片桐舞子(MAY’S)」)もあったり。恋愛の曲は映画や小説からインスピレーションを受けたりしながら想像で作れるようにもなってきて。「innocence 〜許されない恋〜」はまさにそういう内容ですし(笑)。

──ははは。そうですね。

Tiara:でも、結婚したからといってそういう曲を歌えないのは面白くないので、これからもいろんなタイプの恋愛ソングを歌える人間でいたいなとは思っているんですよね。子どもと生活をすることで、今まで聴いていなかった曲をたくさん聴くようにもなって、例えば“童謡などの子どもの聴く曲は、わかりやすくシンプルな言葉でこんな深いことを歌ってたんだな”とあらためて気付くことも多いんです。子どもを育てていくと目線も変わりますし、いろんなことを学んでます。子育てってすごい。自分も一緒に成長できてます。



──音楽との距離感もデビュー当時と現在ではだいぶ変わりましたよね。

Tiara:リリースされたばかりの楽曲のプロモーションをしながら次回作を作っていることも多くて、デビューから3年間は怒涛でした。周りの大人たちに負けないように、目の前のことをクリアしていくことで精いっぱいだったんですけど、最近はうまく切り替えもできるようになって、お仕事の帰り道に夕飯のことを考えるようになりました(笑)。ひとりで部屋にこもって曲を書いていたのが、キッチンで料理をしながら考えられるようにもなっていたり。

──ご結婚やご出産を機に、音楽とも家族になったのかもしれないですね。

Tiara:ああ、うんうん。作るときに気合いを入れて没入するタイプだったのが、もっとスッとできるようになって。昔に比べるともっと音楽が身近な存在になったかもしれないですね。ちょっと肩の力を抜いて取り組めるようになりました。

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