【レポート】AK-69、名古屋城から超配信ライブ「俺たちは何回だって立ち上がれる」
8月28日21時、AK-69の超配信ライブ<LIVE:live from NAGOYA>を観た。ただの配信じゃない、超配信ライブだ。その意味はアルバムインタビューでAK-69の口からすでに語られているが、リアルライブでは不可能な、エフェクトや編集にも徹底的にこだわった映像作品だ。名古屋城を振り仰ぐ野外特設ステージ、最新傑作『LIVE:live』の再現、豪華ゲスト集結と、最高のシチュエーションは整った。日本のヒップホップを別次元へ進化させる尾張名古屋の革命児AK-69、一世一代の大舞台の幕が開く。
◆AK-69 画像
オープニングから、いきなりかっこいい。真っ暗な空を飛ぶヘリコプター、タイトルバック、コロナ禍を伝えるニュース、そしてヘリの中でAK-69が語りだす。「今こういう状況下で、みんな何を思ってる?」。それは音楽の危機、エンタテインメントの危機に際して果敢に立ち上がった男の本音のメッセージだ。
「俺たちはエンタテインメントとしてみんなを勇気づけなきゃいけない。AK-69の本質ってやつをこのライブで届けるよ。用意はいい?」
1曲目は「LIVE:live」。ヘリが着地し、ロールスロイスに乗りこむ。ライトアップされた名古屋城が見えてくる。ゆっくりと歩きだす。燃え盛るかがり火に囲まれた、リングのようなステージ。今日の勝負の場所はここだ。曲は「No Limit~この映画のあらすじなら知ってる~」に変わった。四方八方から、主役を追いかける生々しいカメラワーク。Def Jamの黒Tシャツに膝抜けブラックジーンズ、大舞台なのにまるで気取らない格好がいい。なぜって、ここは名古屋だ。何もないところからすべてが始まった、地方馬の本拠地だ。
「何回も言ったこのセリフ、でも言い飽きねぇんだ。“いつかてめえら、まくってやるからな”ってな」。
それはAK-69の行動原理の一番奥にある、不撓不屈の下克上スピリット。曲は「IRON HORSE -No Mark-」だ。ステージの上をカラスの群れが横切り、雷鳴が鳴り響き、炎が赤々と燃え盛り、爆音が轟く。これはヤバイ。どこがリアルでどこがCGだ? 凝りまくった演出に、もう画面から目が離せない。
「さあRYOW、名古屋がどんなもんか見せてやろうぜ。誰にも媚びねぇ、それが名古屋スタイル」
ステージ下に控える盟友・DJ RYOWがビートをキックする。曲はAKの出世チューン「Ding Ding Dong~心の鐘~」だ。グリーンのレーザービーム、真っ赤な炎。そんな最高の舞台に招かれた、最初のゲストはヤングトウカイテイオーこと¥ellow Bucksだ。「Ding Ding Dong~心の鐘~」のビートをサンプリングした新曲「Bussin’」をパフォーマンスする、ふてぶてしい姿と固い韻は24歳の若者とは思えない堂々たるもの。そして、やはりフロウの流儀がAK-69に似ている。受け継がれるスキルとスピリット、これヒップホップの名産地、名古屋、東海の底力。
CG加工された猛烈な炎と爆風の中、鳴り響くビートは「Speedin’」だ。ゲストは3人、まずは気合の入ったモヒカンコーンロウで決めたMC TYSONが、ドスの効いた低音で火に油を注ぐ。白Tシャツの上からもわかるヤバイ筋肉の持ち主・SWAYが運動神経抜群のフロウで風のように煽る。ありえない密度で小節に言葉を詰め込むR-指定が、スピードメーターをレッドゾーンに振り切る。4人揃ったド迫力、これが本物のラップ力。
独特のダークネスとメロウネスの融合がかっこいい「B-Boy Stance」に参戦したのは、KANDYTOWNのIOだ。白ニットにダメージジーンズ、モデルもやる男は立ってるだけでカッコいいがマイクを握ればもっとカッコいい。もう一つカッコいいのが床に仕込まれた照明で、つまりLEDスクリーンをそのまま床にしたようで、色も映像もタイポグラフィーも思うがまま。この曲では、バスケットコートのデザインを再現してくれた。最高のセンスだ。
ここからは、ギアを少し落としてクルージングタイム。AK-69の活動を支える“69Homies”会員の中から選ばれた女子たちとZOOM画面を繋ぎ、なごやかなムードの中で「MIC TEST」から「BECAUSE YOU’RE MY SHAWTY」へ。SHAWTYはアメリカンスラングで「かわいい女の子」。愛と感謝を込めたラブソングに、思わず涙ぐむ子もいる。「Guest List」もメロウなラブソングで、床いっぱいに波が打ち寄せる映像と、青く白い照明がかっこいい。燃え盛る攻撃的なAKもいいが、優しく情熱的な愛を歌うAKも同じくらいいい。二つの武器を持っていたからこそAKはここまでビッグになったことがわかる、納得のパフォーマンス。
ショウティーたちをもてなしたあとは、男の子たちを呼び込もう。シャンパンを開けてみんなで乾杯、それはまるでZOOM飲み会。掛け声が先走り、「待てよ、まだ俺ついでない(笑)」と、AKが楽しそうに笑ってる。こんなに素のAKが見られるのも、超配信ライブの特典だ。「今日と言う日は?」「今日しかない」と、おなじみのコールから“もしよければ!”の大合唱を前振りに、アルバム『LIVE:live』でもひときわハッピーで明るい飲み会ソング「もしよければ」へ。衝撃のパンチライン“グラスなみなみ、田中みな実”も相当だが、続く『Hangover』の“記憶がルーラ”という謎のパンチラインもすごい。どんなにくだけたテーマでも、キャッチーなラインをたたき出す非凡なセンスの持ち主、それがAK-69。
くだけて盛り上がったあとは、怒りのチューン2連発でびしっと引き締める。「FXXk off」から「Ha?」へ、さっきまでニコニコしていた男がいきなり三白眼でにらんできたような、豹変ぶりに痺れる。スタートからそろそろ1時間、ここまでの流れは完璧だ。そしてそれは、アルバム『LIVE:live』の中で最高にヘヴィで最高に感動的なセクションへの、壮大な前振りでもあった。
「これはもちろんノンフィクション、恥ずかしくとも誇ろうとも、これが俺の包み隠さない人生です」
“Season”と題された4部作は、アルバム『LIVE:live』の最大の聴きどころであり、AK-69のこれまでとこれからの人生を集約したような壮大なサーガ。メロディアスなピアノが導くドラマチックHIPHOPバラード「Hard To Remember -Season0.5-」「See You Again -Season1-」で描かれる、別れてしまった恋人への忘れえぬ激情。不穏な緊張感に包まれた「I Don’t Wanna Know -Season2-」での裏切りと痛みの回顧、そして「ハレルヤ -The Final Season-」の、“たとえこの先何があっても / この隣は君じゃなきゃ”という万感込めたリリック。出会いと別れの運命を4つの歌に閉じ込めた、このセクションの吸引力は鬼気迫るもので、CGを駆使した画面処理や美しい照明など、スタッフワークとの連携もパーフェクト。何よりAK自身の気合の入り方がハンパない。これが見たかった。間違いなく今日イチのハイライト、最強の名唱だ。
「俺はこの映像でおまえに伝えたい。こんな普通じゃない親父かもしれないけど、背中見せるから、見とけよ」
コロナ禍で感じたこと、“死”について思うこと、“守りたいもの”について思うこと──。長いMCの最後にAKが語った言葉の、“おまえ”とは一体誰なのか、答えはすべて曲の中にある。名古屋城の上に流れ星が降る、「If I Die」では、ゲストのZORNの固い韻とAKの流麗なメロディが見事なコントラストを描きだす。“死”というテーマに真っ向からぶつかった楽曲を、CGによる激しい爆発の炎が包み込む。AKにとって死は枯れ衰えることではなく、情熱の高まりで爆発して散っていくイメージなのだろうと、そんなことをふと思う。
「こんな時代の中、苦境に立ち向かう人も多いと思う。俺も一緒だよ。負けて、涙流して、歯を食いしばってもう一回戦う。それの繰り返しだと思う。俺たちは何回だって立ち上がれる。最後のメッセージ、行こうぜ」
一度燃え尽きようとも、再起不能でも、こいつの火は消えない──。耳になじんだ「START IT AGAIN」が、今日は一段とパワフルに切実に聴こえるのはなぜだろう。名古屋城を見上げるAK-69が、名古屋城よりでかく見える。功成り名を遂げたように見えるAK-69は、まだまだ現状に満足しちゃいない。その情熱の炎の高まりがリスナーにも引火する。だからAKはがむしゃらに頑張る男や女に好かれる。それはAK-69の本質を、見事に見せつけてくれた濃密すぎる80分だった。
「20年ぐらい前、あそこのお堀で俺は歌を書いていて、この歌もあそこで書いたっけな。今でもこうしてステージに立てることをみんなに感謝してるよ」
さあ、ここからは通常の配信では見られなかった、“69Homies”会員限定のアンコールだ。曲はAK-69最大のラブソングクラシック「And I Love You So」。あたたかく白い光があふれる中、サングラスを外し、思いを込めて歌うAKの目が優しい。そして本当のラストチューンは「Flying B」だ。勝つのは我なり、負けを重ねたB級がFlying Bに。生まれながらのA級ではない、すべての“B”ボーイズ&ガールズに送る逆転人生のアンセムを、昔も今も変わらぬテンションで叩きつける。STILL HUNGRY。「さあ声上げろ!」と、画面の向こうに呼び掛けたコール&レスポンスに応え、声を張り上げた奴らが日本中にいると思うと痛快な気持ちになる。これが超配信ライブ。AK-69とリスナーを繋ぐ、新しい絆の形。
ゲストの熱演も素晴らしかった。照明も音響も最上だった。エフェクトや編集にも凝っていた。そしてもちろん、名古屋城にもビッグリスペクト。だが最後に強烈に残ったのは、たった一人でステージを支配したAK-69という男の圧倒的な存在感だった。仕事、女、金、遊び、戦い、そして死。すべてのテーマがノンフィクション、片時も目が離せないアクション、画面越しでもその説得力は絶大だった。
MCでは「正直、真っ赤っか(赤字)だよ」と苦笑いしていたが、これはきっと配信ライブの新しいフォーマットとして語り継がれるものになるだろう。地方馬がダービーを制す、夢をかけて走るレース。その言葉が今も生き生きと歌われていることが、何より嬉しかった。また一つ、困難な時代を生き抜く勇気をもらった。
取材・文◎宮本英夫
■<AK-69 超配信ライブ「LIVE:live from Nagoya」>セットリスト
02. LIVE : live
03. No Limit ~この映画のあらすじなら知ってる~
04. IRON HORSE -No Mark- 武道館ver.
05. Ding Ding Dong ~心の鐘~
06. Bussin’ feat. ¥ellow Bucks
07. Speedin’ feat. MC TYSON, SWAY, R-指定
08. B-Boy Stance feat. IO
09. BECAUSE YOU’RE MY SHAWTY
10. Guest List
11. もしよければ
12. Hangover
13. FXXk off
14. Ha?
15. Hard To Remember ‒Season0.5-
16. See You Again ‒Season1-
17. I Don’t Wanna Know ‒Season2-
18. ハレルヤ ‒The Final Season-
19. If I Die feat. ZORN
20. START IT AGAIN
encore
21. And I Love You So
22. Flying B
■アーカイブ配信<ABEMA『LIVE : live from Nagoya』>
※2020年9月28日(月)23:00までABEMAにてアーカイブ配信中
出演:AK-69
ゲスト出演者 (順不同):ZORN、R-指定 (Creepy Nuts)、SWAY (DOBERMAN INFINITY)、IO (KANDYTOWN)、MC TYSON、¥ellow Bucks、DJ RYOW
視聴料金:ABEMAコイン3,000コイン (3,680円相当)
販売期間:2020年8月2日 (日) 夕方5時~9月28日(月)夜11時
視聴購入URL: https://abema.tv/channels/payperview-1/slots/Dnpg9hRaqqu4KZ
■アルバム『LIVE : live』
CD:2020年8月5日(水)発売
▲『LIVE : live』初回盤ジャケット
▲『LIVE : live』通常盤ジャケット
【初回盤 (CD+DVD)】UICV-9322 ¥3,800+税
【通常盤 (CD)】UICV-1110 ¥2,800+税
01. LIVE : live
02. No Limit 〜この映画のあらすじなら知ってる〜
03. Bussin’ feat. ¥ellow Bucks
04. Speedin’ feat. MC TYSON, SWAY, R-指定
05. B-Boy Stance feat. IO
06. Guest List
07. Skit -Toast To That-
08. もしよければ
09. Ha?
10. Hard To Remember -Season 0.5-
11. See You Again -Season 1-
12. I Don’t Wanna Know -Season 2-
13. ハレルヤ -The Final Season-
14. Skit -Procession-
15. If I Die feat. ZORN
16. Hard To Remember -Season0.5- Remix feat. Eric Bellinger ※BONUS TRACK
▼DVD ※初回盤
No Limit 〜この映画のあらすじなら知ってる〜
Bussin’ feat. ¥ellow Bucks
Speedin' feat. MC TYSON, SWAY, R-指定
Guest List
Hard To Remember -Season0.5-
See You Again -Season 1-
I Don’t Wanna Know -Season 2-
ハレルヤ -The Final Season-
If I Die feat. ZORN
Lonely Lion feat. 清水翔太
You Mine feat. t-Ace
Making Movie
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