【インタビュー】森友嵐士、医療従事者へ贈る「ひとりひとりのありがとうを集めるプラットフォーム」

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5月初旬、『ありがとうのうたプロジェクト』を立ち上げたT-BOLANの森友嵐士は、COVID-19に対し命がけで闘い続ける医療従事者、そしてそれを支える人々に向けて、たくさんの「ありがとう」の気持ちを贈るプロジェクトを推進している。

◆森友嵐士 (T-BOLAN) 画像

ライブという自己表現の場を奪われたミュージシャンたちは、困惑や迷い、憤りといったフェイズから新たな一歩を踏み出し、今では自らの存在理由と存在価値を見つめながら、未来に向けて希望のエネルギーを放し始めている状況にある。心因性発声障害を発症し、10数年もの長きにわたってもがき続けた森友嵐士だが、そんな森友だからこそ、たくさんのありがとうが大きな力になり、人々を救ってくれることを知っていた。

このインタビューは、森友嵐士というひとりの男が歩んだ人生から紐解く、すべての人に届けたい生きる道標の話である。


   ◆   ◆   ◆

■著名人も一般の人たちも
■みんな同じくひとつのありがとう

──新型コロナウイルス感染症 (以下コロナ)の蔓延から、我々ひとりひとりがいろんなことを学びましたね。

森友:ちょうどT-BOLANのツアーが始まったばかりのタイミングで、ファンの人と会えなくなりました。こんな経験は過去にもなかったわけですが、ウイルスの正体が分からない限り、この判断は致し方ない。それこそ国という組織の頂点が“Yes, No”のジャッジをしても、みんなが安心して会場に来て楽しめる心の状態じゃないと、結局ライブって楽しめないですよね。僕らは国と会っているんじゃなくてひとりひとりと会っているんだから。コロナの正体が分かり治療薬やワクチンが開発され、その病気に対する恐怖心がなくならないと、コンサートを心から楽しむことは難しい。今は不安な日々が続いて自粛生活のストレスをみんなが抱えているから、いさかいや争いも起きやすくなってくるじゃないかと思った。

▲森友嵐士 (T-BOLAN)

──交通事故も増加したと聞きます。

森友:いつもだと気にならないことがちょっと気になったり、街の状態を見ていても、いざこざがおきやすい状況であったり。極めつけはね、医療関係の方々に聞いたんですけど、「医療従事者の娘だから来ないで欲しい」と幼稚園から言われたというんですね。

──え?

森友:とある看護師さんは、バスに乗ってたら「降りろ」「感染したらどうすんだ」と言われたとか。感染リスクを負ってまでも最前線で闘ってくださっている医療関係の方々に対して、日常の中にそういう角が立ち始めているなんて、やりきれなくないですか?

──それはやるせない。

森友:でもね、「そうじゃない人もいっぱいいるじゃん」って思ったんです。むしろ医療関係に従事している方々に対して、すごく感謝している人たちのほうが多いと僕は思う。だけどその人たちが直接その気持ちを届けられるわけではないし、ひとりの力で何かを動かそうと思ってもなかなか動きづらい。それで考えたのが、みんなのありがとうを集めるプラットフォームなんです。みんなの想いを届けられるように。

──なるほど。

森友:退院するときには感謝の言葉を届けられても、一般的な日常の中でなかなか交わされないし届けにくい。本当は感謝の言葉がたくさんあるんだから、たくさんのありがとうをいっぱい集めて届けることができたらなって思ったのが『ありがとうのうたプロジェクト』のきっかけなんです。

▲『ありがとうのうたプロジェクト』画像全27点

──で、すぐ行動に移したんですね。

森友:「ありがとうのうた」はデモのレベルだったんですけど、歌詞とメロディさえあればなんとか届くだろうと思って、まずはみんなのありがとうを集めようと思いました。届け方によって広がり方が大きく違うのはわかるけど、それをどうしたらいいかの段取りを組む手間よりも、SNS発信することで自然発生的に広がっていくことを選びました。著名人のありがとうも一般の人たちひとりひとりのありがとうも、みんな同じひとつのありがとう、同じ力なんだということもメッセージとして届けたくて。僕の力の1と、僕のファンの方々の力の1は同じ1なんだっていう。

──同じ人間として。

森友:うん、医療関係の方々への感謝っていうのは同じ1と1なんです。提案した僕が中心にいるのではなく、みんながみんなの問題として捉えられるものが生まれたらいいなと思うので、だから“ありがとう”のプラットフォームなんです。僕もみんなと同じ位置で、集まった材料を自分の身近な出来事やタイミング、そのリアリティで届けていく。みんなも自分の暮らしの中に届けたい人がいるはずですから、それを僕が届けるのではなく、それを感じたひとりひとりが届ければいいわけで、少しずつ動き始めました。普段お世話になっている病院や介護士さんたちへのありがとうを動画で表したりね。これが広がって、ひとりひとりが動ける力を持っていることに気付いていければ素敵ですよね。

──感謝の思いを形に表すのは、卒業するときの寄せ書きにも似ていますね。

森友:そういうことですよ。そういうことがいつも日常に溢れていれば、やっぱり人間の心は豊かになりますよね。結果を求められることばかりが強くなってきた世の中、思いとかストーリーよりも成果が出ないと誰も評価しない時代になってきてるでしょ? でもそうじゃなかったと思うし、人の豊かさってそこだけでもないだろうし。失敗が許されない世の中で「何のためにやるの?」といわれると、子どもたち、大人も含め、自由な可能性が奪われていく。ここ数年“大人よ遊べ!Enjoy!”というキーワードを掲げて、どうしたら日常にあるひとつひとつの出来事を作業じゃなくて楽しみに変えられるかを、僕なりに発信しているんです。

▲『田舎をenjoy!米づくりプロジェクト』画像全12点

──『田舎をenjoy!米づくりプロジェクト』もその一環ですね。

森友:縁あって京都の丹後でお米を作ったんですけど、手植え手刈りという一番手間のかかる方法で、全部自分たちでやって。お米作りを作業としてしまうと、大変な重労働でそこになかなか笑顔はないと思うんですけど(笑)、まずは同じデザインのつなぎを用意してお揃いでやろうとなった時点で、「楽しそう!」ってなるんですね。「田植えですけど、今日は作業じゃなくてイベントにしましょう。でも重労働だよね、だから楽しむためにひとつマークを作りたい」「僕が“Enjoy”って言ったらみんなは“Yeah!”」「いつ言うか分からないけど、やろうよ」って。そういうことひとつで気持ちがあがるんですよ。

──抜き打ちで「Enjoy」発動するんでしょ?

森友:いつくるかわかんないから、めちゃくちゃ楽しくなるんだよね。そのうち転ぶ人も出てくるんだけど、そこで「Enjoy」「Yeah!」ですよ。汚れたっていいんです。そういう状況で自分が楽しいと大人たちは子どもを叱らなくなるんですね。最後、子どもたちは田んぼで泳いでましたよ(笑)。「汚れるからやめて」とか「転ばないで」「洗濯物が増えるでしょ」は消えて、みんな笑顔で大らかになれる。許すというか、OKっていう感じ? その状態は子どもにもいいんじゃない? どんなことにも喜びや笑顔が溢れてる。生きてるっていいよねって。

──心の豊かさですね。

森友:成果がないとダメな世の中ですけど、喜びは成果だけにあるわけじゃないんですよね。ゴールだけを見がちだけど、喜びはゴールに辿り着くまでにもあるんです。

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