【インタビュー】SiM、MAHが語る4年ぶり5thアルバム「自分に正直に、この時期の自分がそのまま」
■そういう意味で今回のアルバムは
■……俺、すごく好きですね
このタイトルの意味は、くだけた言い方をすれば「やった! 敵をやっつける方法、何百通りもあるじゃん!」といったところだ。それはすなわち、みんなを自分たちの側に引きずり込む方法がたくさん残されている、ということでもある。そうした表題のニュアンスからは、ヴァリエーションが重視された色とりどりの楽曲、新機軸な感じの曲が詰まったアルバムが連想されるところだが、実際の作品像はちょっと違っている。逆にむしろトータリティが感じられるのだ。
「結果的には突拍子もない曲とかはそんなになくて、むしろちゃんとSiM感がある曲というか。細かいところで新しいこととかはやってるんだけど、変な話、素人が聴いてもわかる意外さ、“こんな曲やんの?”みたいなのは、今回は入れてないんです。今後そういうものを作るうえでの切っ掛けみたいなものは入ってるんですけど。このアルバムを作るなかで、たとえば「Devil in Your Heart」とか、「BASEBALL BAT」とか、結構明るめなメロディ・ラインを出してみたんですね。で、それをメンバーに聴かせる時に“これはアリかナシか?”って訊いたんです。俺には判断つかなくて。作ってはみたけど、これがSiMのアルバムに入ってていいのかなあ、と。しかもメンバーの反応も“……どうかな?”みたいな(笑)。キャッチーさとかは申し分ないんだけど、これはSiMなのかどうかについては“どうだろうねえ。でもやってみよっか”という感じだったんですよ。で、結果、ライヴでももう披露してるし、俺ら自身もすでにこの曲たちにパワーを感じてるんです。そこで“ああ、これアリなんだ!”と確信できた時、まだまだ手にしてない、使ってない武器がいっぱいあることに気付かされて。だから今、すごく楽しみなんですよね。このアルバムですべての答えが出るっていうよりは、これが出ることによって、次のアルバムに向けての視界が広がったというか。そんな感じが自分のなかではありますね。キャッチーで明るい感じとかも、今までは自然と排除してたし、コード進行とかも“SiMの場合はココからココに行くのが普通だよね”と思いながら作ってたけども、“あ、こっちにも行っていいのか”ってことになると、もう無限大というか、それくらいの拡がりが出てくると思うんで。そういう意味で今回のアルバムというのは……俺、すごく好きですね」
つまり、誤解を恐れずに言えば、今作でのSiMは手の内のすべてを明かしているわけではないし、まだまだ得意技や、彼ら自身もこれまでその有効さについて自覚できていなかった密かな武器といったものが残されているということでもある。
「そういうことなんです。だから“これが俺たちのすべてです!”みたいなことではないし、それを言ったら終わりだと思っていて。まだまだあるよ、という感じ。今は、べつにコレっていうものが次に向けてあるわけじゃないけど(笑)、すぐにそういうものができると思えてるんです。今回は、こうした気持ちで作れたことで、元々好きだったものについて、より正直になれてるようにも思えます。それこそ今までの人生で嵌まってたものを全部思い出しながら、“俺、これも好きだったな”みたいな感じでやってたというか。曲作りも、歌詞についてもそうです。だから……なんか今まではちょっと大人ぶってたのかなあって思いますね。好きなものを好きって言わないでいたというか。やっぱちょっと、職業的になってたんでしょうね。職業=ミュージシャン、みたいになっちゃってて。もっとバンド始めたての、楽器触りたての頃の“わっ、カッケー! これヤベー!”みたいな、あの感じでできたんじゃないかな、今回は。これまでは結構、“設計図にないものは今回は止めとこう”みたいな切り捨て方もしてたんですよ。それに対して、今回は設計図自体がないから“これも入れちゃえ!”みたいなノリがあって。それがすごく楽しかった」
そうしたある種の音楽的無邪気さに蓋をすることなく完成された今作は、確かにさまざまなものがバランス良く配置されているというよりも、むしろある種の偏りが痛快な作品だといえる。ただ、それでも相変わらず彼らの音楽は、既成の言葉でカテゴライズできるものではない。たとえばレゲエ・パンクというのも彼らの音楽を解くキーワードのひとつではあった。が、何かひとつ新しいものを発明すると、今度は自らそれに縛られてしまうようなことにもなり兼ねない。実際、彼らはそれを自分たちのアイデンティティの一部と認識してはいても、そこに過剰にこだわっているわけではないのだ。
「正直な話、その括りが邪魔だな、と思うこともあって。レゲエ・パンクというのもそうだけど、シャウトがすごくて激しいバンド、みたいなイメージとか。それに助けられてたところも今までたくさんあったんですけど、べつにそこが本質じゃないんだよな、という違和感もあった。だから良い意味でも悪い意味でもイメージとして定着してしまったものを壊したいというのはあったし、実際それを壊せたかな、という感じはしてます」
今作でもうひとつSiMが壊したものがある。それは、MAHがヴォーカリストとして感じていた自分にとっての壁だ。それを突き破ったというよりも、むしろ自分自身をより客観的に知ることで、目の前に立ちはだかっていたはずの壁が消えた、というのに近いかもしれない。それくらい今作での彼の歌唱には、吹っ切れた力強さが感じられる。
「これはエンジニアさんとかともずっと話してたことなんですけど、俺が歌うとなんかどうしても明るく聴こえるんですよね。悲しい歌を歌ってても、ハキハキ歌ってるように聴こえるんですよ(笑)。それがすごく嫌で、悩んでたんです。もっとエモくというか、感情が浮き出したような歌い方がしたいなって。ただ、多分それは俺には無理だな、と思ってた。そんな時、そのエンジニアさんが“でもそれがMAH君なんじゃないの?”って言ってくれて。その言葉を聞いて、ああ確かに、と。誰々みたいに歌いたいとか、いまさら言ってもしょうがないな、と気付かされて。俺はこれなんだから、と。
あと、それとはまた別の話で、音程の高さ。ハイトーン・ヴォーカルみたいなのって、やっぱりいいなと思うし、身近なところで言えばワンオクのTakaとかcoldrainのMasatoとか、ああいう人たちの歌を聴いてて“いいなあ、あんだけ高い声で歌えて”とか思ってて、それができないことがコンプレックスでもあったんですね。俺、そんなにキー高くないのに、無理して自分のいちばん最高音とかを使うような曲作りをしてたんですよ、ずっと。でも、それももうどうでもいいな、と。自分がいちばん歌いやすいところまでちょっとキーを下げて、ギリギリじゃなくてもっと余裕をもって歌えるメロディとか、そういうのをすごく意識して作るようになって。科学技術を使って歌を上手くするみたいなことももう止めて(笑)、ちょっとフラットしてても、そのままニュアンスの良さとして今回は活かしていって。要するに今まではレコーディングで自分の実力以上の完成度を目標にしてたんですけど、それを止めて、自分のありのままの歌にしよう、と」
MAHはべつに、自らの満足や納得のレベル設定を下げたわけではない。自分本来の歌い方、自分の特性に即した歌い方をすることで、よりいっそうの効力を発揮することを狙うようになったのだ。しかも“エモい感じに歌おうとしても明るく聴こえる”というのは、他の誰かに真似のできないことでもあるはずなのだ。
「ぶっちゃけ、俺の理想は、KORNのジョナサン (・デイヴィス)みたいな重くて暗い感じではあるんだけど、逆に俺のこのアッケラカンとした歌声がSiMの良さなのかなって、やっと開き直れた感じですね。その結果、作れたアルバムなので。だからさっき言ったみたいな、今までにないような明るいキャッチーな曲でも、俺がど真ん中で歌ってるから、“ああ、でもやっぱSiMだね”みたいな感覚で聴けるものになってるわけで。昔はそこについて楽観的すぎて、なんとかなるっしょ、と思ってやってきたんですけど、やっぱこの数年は“俺はまだまだ駄目だ、俺はこんなもんじゃ駄目なんだ”というのが……。でもなんか、そういう時期があって良かったなと思います。ここで気付けて良かったなって」
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