【インタビュー】SiM、MAHが語る4年ぶり5thアルバム「自分に正直に、この時期の自分がそのまま」
ついに、ようやく、やっと……! どの言葉を選ぶべきか迷うところだが、改めて朗報をお届けしよう。SiMのニュー・アルバム『THANK GOD,THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』の発売日が6月17日に確定した。結果的にはまさに、満を持してのリリース、ということになる。
◆SiM 画像 / 動画
当初、4月には世に出ているはずだったこの作品だが、諸事情により発売延期を余儀なくされ、しかもそこに、新型コロナ禍に伴うさまざまな影響が及ぶことになった。5月12日に開幕を迎える予定だった全国ツアーについても延期措置となり、さらに6月下旬に例年通り二日間にわたり実施されることになっていた<DEAD POP FESTiVAL 2020>については、開催自体が見送られる事態となっている。バンドのフロントマンであるMAHはオフィシャル・サイト上で、このフェス中止決定に伴い「1年下さい。必ず復活させます」と宣言し、来年度の開催を確約しているが、その言葉が力強くきっぱりとしたものだからこそ、彼ら自身の口惜しさも並大抵ではないことがひしひしと伝わってくる。
とはいえ、この新作アルバムの登場を心待ちにしてきた皆さんの期待感は、こうした経過のなかで冷めてしまうのではなく、むしろ高まっているのではないだろうか。そして実際、このアルバムは破裂寸前のところまで膨張した期待をも超えるはずの強力な一枚に仕上がっている。
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■もう作り方から変えてみよう
■今までやってこなかったことを
今回お届けするのは、この作品完成直後にあたる3月初頭に行なわれたインタビューでの、MAHの言葉である。こちらを読みながら、是非、あなたの頭のなかで、このえらく長いタイトルが掲げられたアルバムの想像図を描いてみて欲しい。まずは、前作登場から実に4年もの月日が経過している事実について。正直なところ“SiMの不在”を筆者自身はさほど感じていなかったが、日本の音楽業界における平均からすると、4年間というのはアルバム・リリースの周期としては長い部類に入ると言わざるを得ない。ただ、やはりこの時間にも必然があったようだ。
「これは音楽に限ったことじゃないですけど、やっぱり何もないところからいきなりモノができるわけではないじゃないですか。材料があるからこそできるわけで、その材料を作る時間というのも必要になってくる。音楽シーンでの動き方には、1年で何枚出さなきゃいけないとか、そういう契約上のルールとかもあって、CDを出すことが先に決まっていて、それに向けて活動していくみたいなことになってるんですよね。そうじゃなくて、曲ができたからCDを出すっていうのが本来のあるべき姿だとは思うんです。もちろん契約内容とかに不満があるわけじゃないんですけど、一回そういう普通の作り方をしたいな、というのがすごくあって。CD出して、ツアーして、また出して、という無限のループみたいなのに陥っちゃうと、クリエーター、アーティストとしてインプットのための時間がまったくなくなってしまうから、ずーっと自分のなかの気持を吐き出し続けなきゃいけなくなるんですよ」
▲アルバム『THANK GOD,THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』
インプットが枯渇すればアウトプットし続けることには無理が生じてくる。それは、いわば酸素が足りなくなって呼吸できにくくなるのと同じことだ。リリース・サイクルを維持することよりも作品が生まれるために必要な養分を蓄えること。彼らはそれを望んだというわけだ。
「実は前作の『THE BEAUTiFUL PEOPLE』を出す前から、いろんなことを感じ取って、それをゆっくりと曲にしていくための時間が欲しいってことをレコード会社側には言ってたんです。海外のバンドはワールド・ツアーをするから必然的に2年、3年くらいリリース間隔が空くじゃないですか。日本のバンドで日本国内のツアーだけだと半年ぐらいで終わっちゃうから仕方ない部分もあるけど、これまでと同じことを繰り返すのは嫌だから、『THE BEAUTiFUL PEOPLE』を出してツアーをしたら、もう一周ツアーをしたい、と。その時点で1年以上はアルバムを出さないつもりだったんですよね。で、結局、なんだかんだ2年ぐらい経過してから曲作りを始めて、ゆっくり進めていって“曲揃ったんでやりましょうか”みたいな感じになって……。実際、丸々4年間かけてアルバムを作ってたわけじゃないし、曲できねえなあって悩んでたわけでもないんです。しかも俺ら、ずっとライヴをやってたから、全然止まってるつもりもなかったし」
実際、SiMは立ち止まってはいなかった。そして今作が従来の彼らのアルバムと明らかに違っているのは、設計図を描いたうえで作られてはいない、というところだろう。これまで彼らはたいがいの場合、作品像をきっちりと組み立て、発売後の展開についても綿密に計画を練ったうえで、アルバム制作に臨んでいた。今回は制作プロセスのあり方自体がそれとは異なっているのだ。
「まさしくそういう違いがあるんです。従来のやり方が成功したのが『SEEDS OF HOPE』とか『PANDORA』だと思うんです。ただ、『THE BEAUTiFUL PEOPLE』あたりでその作り方に、ある意味、限界を感じ始めてしまって。なんかもう、てっぺんのイメージが見えちゃってる状態で作っていくってことに。最終的な家の形が頭のなかにあって、すでにその設計図も描かれてる状態でやってくと、おのずと部屋の数も決まってくるじゃないですか。逆に、土地だけとりあえずドーンとあって、俺はこういう部屋が欲しい、私はこういう部屋が欲しい、という具合にやっていった場合は、最終形が見えないからワクワクし続けられる。なんかそういう作り方のほうが面白いものができるのかな、と思って。で、前作を出して2年ぐらいライヴばっかり続けてたなかで、流れを一回リセットできたんですね。2011年から続いてきた、ある程度予想通りの、上手くいってた流れを。そこで新しいことをどう始めようかって考えた時、もう作り方から変えてみよう、今までやってこなかったことをやってみよう、という話になったんです」
前作の時点で、これまで慣れ親しんできたやり方で作り得るベストな作品というものの上限が見えてしまっていた、というわけだ。それを超えるためには、やはり何かを変えるべきだということになってくる。彼らはそこで、青写真を描くことなく曲作りに取り組むことにしたのだった。敢えてバランスなども気にせずに。
「多分、今までの作り方でやってたら、もう1曲ぐらい歌ものの曲、落ち着いた感じの曲があったりとか、もっと突拍子もなく激しい曲が1曲あったりしてたんじゃないかな。ただ、それもつまんないなって。今これが完成したうえで考えてみると、なんかこれまで、すごくバランスのとれた作品ばっかり作ってきたんだなーって気がしてくるんですよ。悪く言うと器用貧乏な感じというか、バランスはいいけど突出する部分がないというか。あとやっぱ、アルバムを出す時期によって、自分たちの活動の向かう先、こういう人たちに刺さるようなものにしていかなきゃいけない、みたいなのが常にハッキリとあったんです。『SEEDS OF HOPE』の時はホントにまだ無名だったし、300キャパぐらいまでのライヴハウスが主戦場だったんで、そういう場所に毎日通ってるような子たちに刺さるものを、と思いながら作ってた。『PANDORA』の時はもうちょっと大きな、1,000とか2,000とかのキャパのハコに月2~3回来るような子たち。そして『THE BEAUTiFUL PEOPLE』は、フェスに来たり、1万キャパぐらいのところに年に1回か2回来るような子たちにも刺さるものにしなくちゃいけない、と。そんな感じで自分のなかでハッキリしてたんです、敵が」
“敵”というずいぶん物騒な言葉が出てきた。ただ、彼の言う“敵”というのは、そのハートを射抜くことで自分たちの味方になる人たちのことを指している。それを踏まえてみると、『THANK GOD,THERE ARE HUNDREDS OF WAYS TO KiLL ENEMiES』というタイトルの意味も違ったニュアンスに感じられてくるというものだ。それにしてもMAHは、どういった経緯でこの長い表題を思い付いたのだろうか? その点についても説明してもらおう。
「アルバムを作ってる途中で“あっ、タイトル考えなきゃ”みたいな感じになったんですよ。設計図のないアルバムだったから、先にキーワードがあったわけでもなかったし。で、今までのタイトルは長くても3単語ぐらいだったじゃないですか。そこはやっぱ、覚えやすさ、日本人でもわかりやすいというのを重視してたわけです。あんまり難しい英語を使わない、というのも。ただ、なんかそれもつまんないなと思って、作り方を変えるんだから、逆になかなか覚えられないタイトルにしちゃえ、と(笑)。で、何かないかなって考えてた時、2~3年前にデザインしたTシャツのボツ案を思い出したんです。棒人間が棒人間をひたすら暗殺しまくる、その方法がすげえたくさんある、というやつで。遠くから狙撃するとか、毒殺するとか、いろんな殺し方をイラストで描いたアートワークで、そこにTシャツのタイトルみたいな感じで‟hundreds of ways to kill enemies”っていう文字を入れてたんです。‟あっ、これいいな。でもまだちょっと短いな”と思ったんで、頭に‟there are”を付けて、それでもまだ短い気がしたんでさらに‟thank god”を足したという感じですね(笑)。俺ら自身ですら、たまに言い間違えたり噛んだりすることがあるぐらいなんですけど(笑)。だからもう、“あの、なんつったっけ、すげえタイトルの長いアルバム”みたいな覚えられ方でいいかな、と(笑)」
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