【人間椅子連載】ナザレス通信Vol.71「どこから」

実家の庭にはでっかいガマガエルが棲んでいます。母親は庭の主だと言って大事にしています。皆さんにも草取りをしていたら急にカエルが現れてびっくりした経験があることでしょう。あの方達は一体どこからやって来るのでしょうか？昔からずっと不思議に思っていました。実家の近くには沼や田んぼなどのオタマジャクシが育つ環境がありません。数キロ先の弘前城のお堀からトコトコ歩いてきたのでしょうか？謎です。今の所、自分の中では、雨の日に数メートルずつ進んでどこかの沼からやって来て、うちの庭を安住の地としてくれたのではないかと考えていますが、本当のところは分かりません。もしかしたらカラスの足にしがみついて、ふわっとやって来たのかもしれません。

どのような経緯を経て自分の手元にやって来たのか分からないものはたくさんあります。例えばお金。自分の財布の中にある磨り減った10円玉を見ていると、全国を巡り巡って長旅お疲れ様と言ってやりたい気になります。例えば中古レコード。前の持ち主には気に入ってもらえなかったみたいだけど、自分は気に入ったから大事にするよと言ってやりたい気になります。例えば中古ベース。今まで指で優しく弾いてもらっていたみたいだけど、これからはピック弾きで傷だらけになりそうで申し訳ないと言ってやりたい気になります。ベースなどの中古楽器は特に前に使っていた人の音楽性がうかがえます。自分が買ったB.C.Rich EAGLE BASSに十字架を剥がした跡を見つけた時は、BLACK SABBATHのコピーバンドで活躍していたのかなぁ、いや、もしかしたらGEEZER BUTLER本人が弾いていたのかもしれないと想像したりしました。楽器のハードケースにやたらとシールを剥がした跡を見つけると、ライブハウスの楽屋パスを貼って全国を渡り歩いたベーシストがバンドの解散で手放したのかなぁと想像したりしました。逆に、自分がリハスタで盗まれた楳図かずお先生直筆サイン入りケースとその中身のリッケンバッカーは、今どこでどうしているんだろうと行方が気になったりもします。

最低でも友人二人の手を経て自分の元にやって来たレコードがあります。SLADEの「Slayed?」です。二人が手放したからといって曲が良くない訳ではありません。捨て曲が一曲もない素晴らしいアルバムです。グラムロックに分類されるバンドですが、ハードロックの名盤です。このレコードの売買は青森県弘前高校で行われました。まず最初に一中出身の清野くんが三中出身の和嶋くんに売りました。和嶋くんも気に入っていたようですが、金に困ったか何かの理由で四中出身の僕に売っ払ったのでした。自分の手元に渡った時点で相当溝が磨り減っていましたが、更に聞き潰してすっかり気に入ってしまいました。清野くんも誰かから譲られたみたいだったので、本当に多くの人の耳を楽しませてくれたレコードというわけです。このアルバムには「Mama Weer All Crazee Now」や「Gudbuy T’Jane」（アルバム名や曲名のスペルがわざと変えられています）といった有名な代表曲が含まれていますが、自分は「I Won’t Let It ‘Appen Agen」という地味な曲が大好きで、よくこの一曲を聴くためだけに針を落としたものです。極悪とも言える下品なベースにもの悲しいギターが絡んで胸がきゅんとしてしまいます。あと、Janis Joplinの「Move Over」をカバーしているのですが、これがまたいい。特にベース。腰が抜けるほどかっこいいので、是非とも聴いてみて下さい。ちなみに、ジャケットの写真、一番右に写っている筋骨隆々のメンバーはいかにもドラマーのように見えますがギターです。変な髪型がかっこいいです。


新型コロナウィルスはどこからやって来るか分かりません。目に見えないウィルスに比べたら遥かに巨大なガマカエルですらどこからやって来たか分からないのですから。とりあえずひたすら手を洗って、冬眠したカエルのようにじっとして春が来るのを待つしかないようです。


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