【メールインタビュー】吉俣良(音楽)、水瀬いのり(声優)、安田賢司(監督)の視点から迫る『ソマリと森の神様』
■声優・水瀬いのり(ソマリ役)
──最初に『ソマリと森の神様』の原作をお読みになったとき、どんな風に感じられたか覚えてらっしゃいます?
水瀬:原作を読んで感じたことは“絵柄と物語のギャップ”でしたね。異形たちが暮らす世界を旅するソマリと“おとうさん”のゴーレム。最初にそのあらすじを知ったときは、どんなファンタジー世界が広がっているのだろう?と思い、読み進めたんです。すると人間と異形の歴史、生きる時間、価値観等、胸を締めつけられるテーマに、「これは楽しく読み進める作品でありながら、学ぶ作品でもあるんだな」と考えを改めました。
──全く同感です。そんな一種ディープな世界観のなかで、ソマリの無邪気さというのは、非常に重要な役割を果たしていますよね。そんな彼女の無鉄砲さが、時に物語を動かす大きな力になるわけですが、彼女に対してはどんな印象を持たれました?
水瀬:“無垢”という言葉が最初に浮かびました。まだまだたくさんの可能性と希望を持ったソマリ。彼女が等身大でいることで周りにいる誰かが救われている──そんなことを意識しながら演じていました。
──なるほど。ただ、それを実際に声で形にするというのは、非常に難しいことですよね。
水瀬:1話のアフレコの際、キャラクターに関して「もっともっと喜怒哀楽をはっきりと濃く出しましょう」というお言葉を受けて、アニメ版のソマリの声と芝居が完成しました。序盤のおとうさんの平坦さと、無邪気なソマリのコントラストが、視聴者のみなさまがハマるポイントになればいいなと。
──あ、そこはしてやられました! 心も感情も五感も無く、常に淡々としたゴーレムに対して、感情豊かに演じるにはかなり難しかったのではないかと推測していたんですけれど、それゆえの効果もしっかり計算されていたとは。
水瀬:ソマリサイドとしては、ただひたすらに想いをぶつけるだけなので難しさは無かったです!と言いたいところなのですが……実際は、これは会話になっているのか? ソマリだけがはしゃいでいて違和感に繋がっていないか?と、アフレコ中は少し不安な想いがありましたね。
──当然だと思います。そんな精神的にもハードなアフレコを乗り切るために、何か心がけていたことってありました?
水瀬:朝収録だったので、とにかくアフレコ前はたくさんご飯を食べてから挑んでいました! お腹が鳴るとノイズになってしまうので……。
──なんと(笑)。ご飯って、具体的には何を?
水瀬:お気に入りの組み合わせは、おむすびと味噌汁です。日本の朝をスタジオでしっかり感じてから、ソマリを演じていました!(笑)
──パワーが出そうですね。食事といえば、ソマリがゴーレムに手料理を作ってもらって喜ぶシーンがありましたけど、水瀬さんが幼い頃に家で作ってもらって嬉しかったメニューって何かあります?
水瀬:お好み焼き! 我が家は醤油で食べる派でした!
──貴重なエピソードをありがとうございます。では、アニメ全12話の中で、演じてみて特にグッと来たエピソードを一つ選ぶとするなら?
水瀬:やはり最終話です……。ソマリを演じている以上、先のことは知らない、考えない、という気持ちで向き合っていましたが、頭の片隅にはこのシーンを演じる緊張感やハードルを感じていました。
──ああ、それは確かに厳しい! ソマリがゴーレムに体当たりで想いをぶつける、あの結末を最初からわかった上で演じていたというのは。
水瀬:いざ最終話のアフレコが始まると、テスト収録のときからソマリの気持ちに入り込み、涙が止まらず、抜け殻状態に……。これ、本番で気持ちをリセットして、また同じことができるのか?という心境でした。(ゴーレム役の)小野(大輔)さんとのお芝居で迷いのないソマリになれたからこそ、自分の感情もここまでソマリとシンクロすることができたのだと思います。そんな意味でも忘れられない最終話となりました。
──エンディング曲の「ココロソマリ」も、ある意味ソマリからゴーレムへの想いを歌ったものとも解釈できますよね。作詞は水瀬さんご自身が手掛けたそうですが、安田監督からはどんなオーダーがあったんでしょう?
水瀬:作詞に関して特にオーダーはなく、一度書いてみてそれを見ていただくような流れでした。ソマリに寄り添いすぎるとキャラクターソングになってしまうという難しさを感じながらも、“家族への愛”というテーマだけに捉われず、人と人との繋がりや温もりをテーマに書き進めました! ソマリからおとうさんへ、そして私の両親への気持ちも込めながら完成した楽曲になっています。
──「ココロソマリ」に関しては、劇伴の吉俣さんも「作品の世界観に寄り添いつつ、普遍的な愛がうまく表現されていて素晴らしい」とおっしゃっていました。そもそも『ソマリと森の神様』という作品自体、かなり音楽に力を入れて作られていますよね。劇伴も素晴らしく荘厳で、高級感あふれるものになっていますし。
水瀬:全話数を通して、音楽のみのシーンが多かったところは、この作品ならではだなと思った要素ですね! 絵は動き続けているのにセリフはなく、音楽で物語が彩られていくシーンは心にスーっと入ってきました。
──まさしく! そういった音楽をフィーチャーしたシーンの多さは、吉俣さんも指摘していらっしゃいました。
水瀬:劇伴はアニメーションの中でも作品を彩り、そして記憶の中に残っていくものだと思うんです。私はサントラを聴くのが非常に好きなので、今回たくさんの楽曲に出会えて嬉しかったですね。民族音楽のような異世界感溢れる楽曲から、ピアノの音色をひたすらに浴びるような切ない楽曲もあって、聴いていると一瞬で『ソマリ』の世界に惹き込まれるな、と。“音楽のちから”はすごいなと、改めて感じる作品にもなりました。
──では、今回リリースされるサウンドトラック2枚組の中で、特にお気に入りのトラックがありましたら、教えてもらえますか?
水瀬:「二人の旅(「ソマリと森の神様」メインテーマI)」と「二人の絆(「ソマリと森の神様」メインテーマII)」は、聴くだけで鳥肌が立ちます。ⅠとIIでは鳴っている楽器や楽曲から受ける印象も異なりますが、どこか繋がりを感じて。何度聴いても心を掴まれてしまいます。
──各ディスクの1曲目に入っているので、再生ボタンを押しただけで物語の情景がパーッと広がりますよね。
水瀬:あとは「子供の目線」という楽曲もお気に入りですね。聴いているだけでソマリの可愛い姿が目に浮かんで、頬が緩んでしまうんです。音楽でシーンを蘇らせてくれる素敵な楽曲たちなので、ぜひ皆様にもたくさん聴いてほしいですね。
──そんな美しい音楽と共に、“人間”の業を紐解くような深いテーマ性もまた、この作品の大きなポイントで。1話で「どうして人間はあんなに気難しいんだ。相手を見かけで判断するし、弱いくせにねちっこくってすぐ怒る」という台詞もありましたが、この作品を通して“人間”というものに対する見方や捉え方に、水瀬さんご自身の中でも何か変化ってありましたか?
水瀬:たくさんの感情や知能を手にしている人間だからこそ、その発想や思い込みは時に何かを苦しめ、傷つけることもあるのなんだなと、改めて考えさせられました。なので目に見えるもの、目の前の事柄だけを全てだと思わず、あらゆる可能性を常に考えられる余裕を持つことこそが本当の優しさであり、最も重要なのかな……と!
──そのお答え自体が深くて、ソマリを演じられたのが水瀬さんで本当に良かったなと、今、改めて感じました。そんな水瀬さんは、アニメ最終回以降のソマリとゴーレムはどうなっていたらいいなと思います?
水瀬:たとえ二人が離れ離れになってしまっても、過ごした時間や記憶は消えません。きっとこれからもたくさんの記憶と思い出を共有していくんだろうなと思います! いつかソマリが恋したり……とか。そのときにはおとうさんに、全力で“嫉妬”という気持ちを芽生えさせたいですね!(笑)
◆監督・安田賢司 メールインタビューへ
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