【インタビュー】清春、“化粧とロックンロール”を掲げたアルバムに破壊と創造「究極、オケはいらない」

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清春が3月25日、通算10枚目となるオリジナルアルバム『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』をリリースする。デビュー25周年イヤーの締めくくりを飾る本作は、自らの美学である「“化粧とロックンロール”を体現したアルバム」だと清春は言う。また、歌声が極限まで鮮明に浮き上がってくる点も魅力のひとつだ。

◆清春 動画 / 画像

初回限定盤ボーナストラックとして収録される「忘却の空  25th anniversary Ver.」「SURVIVE OF VISION」を除く全11曲中9曲が、ベースレス。是永巧ー(G)とKatsuma(Dr/coldrain)のほぼふたりのみでレコーディングされたトラックは、清春の歌をよりエモーショナルに引き立て、感情の起伏を激しく豊かになぞる。さらには、世界的に注目を浴びるプロジェクト“DISTORTION”と衣装やジャケットデザインに至るアートワークのコラボレーションは、やまなみ工房のクリエイターたちがアルバムに鋭い感性を注ぎ込んだ。

3月上旬のある日、新たな傑作『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』について語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■JAPANESEっていう言葉は付けたかった
■日本には“日本のロック”がある

──『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』はアートワークなども含め、驚きに満ちたアルバムです。まず、リリースを控えた今のお気持ちは?

清春:細かい部分では既に後悔してますよ。歌とかはいろいろダメなところをもう見つけちゃった。いつもは、アルバムが完成したらリリースまで聴かないことにしてるんだけど、このあいだ「SURVIVE OF VISION」のフルヴァージョンMV公開の時に、自分のTwitter上に流れてきたのをたまたま観ちゃった。そうしたら、“ダメだ、ここ!”っていうところがあって。もうイヤになる(笑)。

──さっそく際どいことをおっしゃっていますけれども(笑)。

清春:ははは。イヤなアルバムっていうか、作品の内容やクオリティは、どのアルバムにも毎回そういう項目があって、完璧ではないんです。歌の完成度も上がってるけど、人間だから絶対に100%はない。見落としてた数ヶ所に何日か後に気付いたり、何日か前には“これいいな”と思ってても何日か後には“ちょっとな……”とか思うから。


──近年の数作では、リリース前にライヴでいくつかの新曲が披露されていた状態が多かったと思います。今回はそういったアルバムの具体的な手がかりが事前にファンへ知らされていない状態でした。そんなこともあって、初めて本作を聴いた時、“清春さんはいつの間にこんなに素敵な作品を作っていたんだろう?”と思ったんです。

清春:確かに今回、“ライヴで新曲を演る”っていうチャレンジはしてなかったよね。2月の金沢公演 (<清春 TOUR 2020『JAPANESE MENU』>2月23日@金沢Eight Hall)で「SURVIVE OF VISION」を演ったんだけど、あの日はミュージックビデオの先行公開後だったからで。デビュー25周年イヤーだったのと、カバーアルバム(『Covers』)をリリースしたのもあって、これまでのライヴはなるべく25周年のヒストリーを意識してたので、未公開新曲は演ってないんだよね。あとはプラグレス公演をやっていることもあって、昔の曲からの選曲になる。落語みたいに“今日はこのお題でいこう”みたいな。

──なるほど。それゆえ、今回の新曲の数々は新鮮な驚きでした。

清春:いやー、僕もアーティストっぽいね。“ニューアルバム解禁!”みたいな。

──ははは。『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』という謎めいたタイトルやそれに伴うアートワークが先行公開された時、妄想が一気に膨らみました。この“JAPANESE MENU”という着想はどこからきたんでしょうか?

清春:前面に出したかったのは、“日本のロック”。海外に行ったら「日本語のメニューありますか?」って聞きたいでしょ。去年行ったメキシコのグアナファトもそうだったけど、飲食店に英語のメニューはあっても日本語のメニューって置いてない。

──大都市や観光地でないと、なかなか目にしないかもしれません。

清春:和食屋さんとかに行かないとないよね。頑張ってメニューを読もうとしたり、英語で伝えようとしたりするんだけど、僕には現地のメニューがどうしてもわからない。


▲10thアルバム『JAPANESE MENU / DISTORTION 10』通常盤

──現地の言語表記だけで、写真がなかったりするメニューは想像を膨らませようがないという。郷に入りては郷に従えみたいな空気感を感じたりとか。

清春:それは音楽も一緒だよ。海外進出するミュージシャンのほとんどは、その感覚で、英語を使って洋楽風に楽曲を作っていくわけですけど、僕はもうそこまでやれないから“日本語でいいんじゃない? 歌詞だけじゃなくて曲調も”って思ってるの。僕自身、“日本のロック”を聴いて育ったんで、“それでいいんじゃない?”って。そういう意識のアルバムタイトルなんです。なんとなく“JAPANESE”っていう言葉は付けたかった。

──とすると、世界に向けて発信するという意味合いも?

清春:いや、発信するってことじゃなくて、“べつに変えなくていいでしょ?”っていう。そもそもロックってイギリスとアメリカのもの。本来、それを日本人がやること自体に無理あるんだけど、日本には“日本のロック”がある。たとえば、ローリング・ストーンズを聴くんじゃなくて、THE STREET SLIDERSを聴いてましたとか、ダムドじゃなくてTHE WILLARDだったとか。それこそが大事なのかなって思う。若いミュージシャンは初めからKoЯnとかリンプ・ビズキットみたいな洋楽を聴いて育ったかもしれなけど、僕らの世代はそうではなかった。クラスに洋楽を聴いてた人なんてほぼいなかったし、無理することもない。

──なるほど。グアナファトと言えば、「SURVIVE OF VISION」のミュージックビデオも色彩豊かで惹かれます。今回のアルバムは昨年のメキシコの旅から受けた刺激も大きいのでは?

清春:ニューヨークに行くんだったらグアナファトに寄りたいって、撮影場所をネットで探したんです。ニューヨークで撮影してもいいんだけど、クルーは小田切(明広)監督とアシスタントの2人だけだったので、景色で勝負するほうがいいだろうなと。そうなると、原色が綺麗なグアナファトの可能性が高かった。「SURVIVE OF VISION」の楽曲データはサビしか持って行かなかったんですよ。歌詞を変える前だったから、ほぼデモの状態で撮った。なので、リップシンクがない(笑)。日本に帰ってきてから撮ろうかなと思ってたんだけど、結局撮らないままのビデオにして。“やまなみ工房”の人たちが描いた絵もこの曲にすごく合うものがあったんで、小田切が「これ、入れたいですね」みたいな感じで編集して。

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