【連載】「建物語り」by うらら(Salley)第九回<団地のアップデート、ホシノタニ団地>
■団地は団地のままに
■リノベーションで生まれ変わった素敵な団地
特別に団地が好きというわけではない人や、団地がない地域で育った人は、「団地」と聞いてどんな建物を思い浮べるのだろうか? 大体が、4階建てくらいで横長の、カステラを薄く切って並べたみたいな低層団地なんじゃないかと思う。実際、そういう「いわゆる」な団地は、規模の差はあれど全国各地に点在しているし、一定の年齢以上の人なら見たことがある人がほとんどではないだろうか。
そういう「いわゆる」な団地は、大体が40〜50年前に建てられたものばかりで、どれも老朽化が進んでいる。だから以前紹介した「千里山団地」は完全に建て替えられてしまったし(住んでいる人からしたらありがたい話ではあるのだろう)、誰しもがノスタルジーを感じる(と私が勝手に思っている)薄く切って並べられたカステラたちは、<時間の経過>と<人口減少>にどんどん食べられて、その姿を消していっている。
そんな中、団地は団地のままにリノベーションで生まれ変わった素敵な団地があるという話を耳にした。それは都心部から少し離れた、「座間」という場所にあるらしい。
「座間」。その名前は知っている。なぜなら、私が贔屓にしている、言わずと知れたアイドルグループ「モーニング娘。」(今は後ろに’20がつく)のツアーの会場に、必ず「ハーモニーホール座間」が入っているからである。
しかし私にとって「座間」という言葉は必ず「ハーモニーホール」とセットであり、「座間」自体のことは、全くと言っていいほど知らない。そんなマイナーな駅「座間」が話題に上がるほどの素敵な団地があるというのだ。これは行かないわけにはいかない。(座間の人マイナーとかいってすみません)
ということで、ある晴れた秋の日の午後。小田急線に乗って、各駅停車しか止まらない座間駅まで、のんびりと向かった。
■ここに住みたい……
■座間・ホシノタニ団地
座間駅は、降りた瞬間「あ、好きな駅だ」と感じた。急行が停まる駅にはない落ち着きがありながら、駅前は適度ににぎわっていて、まだ誰とも話していないのに、なんとなく人のぬくもりを感じられるような街の色をしていた。高校生くらいの制服の男子2人が、談笑しながら改札を入り、明日また会うことが当たり前の流れるような解散をし、それぞれ別のホームに降りていった。はい、もう私の中で座間は良い駅。
ところで目当ての団地はどこだろう。駅のどちら側にいけばいいのだろう。とりあえず出た場所からぐるりと見渡すと、それはすぐに見つかった。側壁に星座が踊るカステラたち。一目で「あれがホシノタニ団地だ!」とわかった。
ホシノタニ団地は、元は小田急電鉄の社宅だったらしい。老朽化が進み、建て替えか? 商業施設か? 駐車場か?みたいな議論が持ち上がった後、いや、団地のまま再生だ!としてくれた人達ありがとうございます、私が幸せです。ホシノタニという名前は座間にある星谷寺という……なんていう話はぐぐればいくらでも出てくるので、いつものごとく「私が」キュンとしたところの写真を(このくだり毎回やってますがいいですか)。
敷地の入口から、もうかわいく生まれ変わった団地の一部が見えている。景色をデザインする人、天才だな……
「ホシノタニ団地」。
街灯のデザイン、側壁の色と星座、庇のように見える一階と二階の間、ベランダの柵が黒……「いわゆる団地」を「かわいい」にするとこうなるんですね。天才だな……。
庇に見えるけどそういうデザイン。団地の一階にウッドデッキはおしゃれすぎる。ちなみに右のほうに写っている柵の向こうはテラスで、この棟の一階の部屋にはテラスと庭がついている。住みたい。しかもこの団地は団地にはめちゃくちゃに珍しい「ペット可物件」。広場にはドッグランまで用意されている。
しっかりと耐震補強がされている。手前に見えるのは貸し農園で、この団地は子育て支援や地域交流の場としても活躍している。
星座を見上げる。
各棟の階段の入口にも星座がある。白鳥階段の何階の○○さん、とか呼んだりするのだろうか。多分しないだろうけど、そうだとなんだかいい。住みたい星座の階段が出てきそうだし、住んだ階段の星座になんとなく愛着がわいて、実際に空を見上げることも増えそうな気がする。
好き……緑とのバランスと窓の柵が黒なのと……好き……。
駐輪場のデザインも黒線で洒落ている。
仲間になりたそうにこちらを見ている……気がしたが、ここに住む誰かの連れ合いだろうからそのままにしておいた。
夜にはそのライトが、星を照らすのだろう。
ホシノタニ団地は内装ももちろんリノベーションされていて、それがまた素敵なのでそちらは検索してみてほしい。団地に多い2DKの間取りを広い1Rに作り変えてあり、フローリングがナラ材だったり、シンプルにすることで住む人の個性で空間を作れるようになっていたりする。もう、住みたいが爆発しそうである。
ひとしきり団地内を見た後、すぐ近くに歩道橋を見つけたので登ってみた。
かなり近くで壁面の星座を見られる。
オリオン座の上半身がドーン。
なんだか陽気なポーズにみえたので私も少し体を揺らしてみた。
丸ごと建て替えてしまったり、別の施設になってしまったりした団地をいくつも見てきたので、このホシノタニ団地は団地好きにとっての希望の星に思えた。団地、という言葉から連想する古くさいイメージを一掃し、現代のニーズに合わせる部分を作りながら、地域のコミュニケーションという昔ながらの良さも残した、まさにアップデート。古いものは壊しておしまいではなく、よい部分は活かして未来へ繋いでく。まるで星と星を繋ぐように。
■Salley、解散
■「建物語り」は続きます
私事ではあるが、2013年にメジャーデビューし活動してきたSalleyを、今年3月をもって解散する。Salleyにすべてをかけて、これまで走り抜いてきた。Salleyが終わるときは、自分の音楽を終えるときだと思っていた。けれど、Salleyになる前からずっと音楽を愛してきて、Salleyである間ずっとSalleyの音楽を愛し、自分の全部で向き合ってきたからこそ、Salleyを終えた後も音楽を続けるという選択をすることができた。
Salleyの活動の中で得たものは計り知れないほどに大きいし、多い。それは技術や知識や経験はもちろん、人と人との繋がり、心と心の繋がり、その本質ってどういうことなのかみたいな、言葉じゃ説明できないような想いも全てがそうだ。それを全て、よかったね、はい、おしまい、ではなく、良いところや芯の部分をそのままこれからの自身に繋ぎ、そしてアップデートしていきたい。
まるで星と星を繋ぐように。
そんなSalleyのラストライブが、3月21日に代官山UNITにて開催される。集大成をぜひ目に焼き付けに来てほしい。
<Salley Live 2020「THE FINAL」 >
代官山UNIT
open/start 17:00/18:00
adv/door 4800/5300
また、Salleyの音楽は各サブスクリプションで聴いていただけるので、興味を持ったら聴いてほしい。昨年リリースした最新の音源はこちら。
そしてありがたいことに、Salley解散後もこちらの連載を続けさせていただくことになった。なのでこれからも、団地や建築物を見に行き、「好き……」をこの連載に持って帰ってこようと思う。私の「好き……」に、この先も変わらずお付き合いいただきたい。
Salley うらら
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◆【連載】建物語り by うらら(Salley)
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