【インタビュー】This is LASTがさらけ出す、恋の痛み
「殺文句」や「愛憎」といった失恋ソングがYouTubeやSNSで話題になり、ライブハウスシーンで頭角を現している千葉県柏発の3ピースバンド、This is LASTがミニアルバム『aizou』で全国デビューを果たした。失恋ソングは世に多くとも、ソングライター・菊池陽報(Vo&G)の書くそれが異彩を放つのは、“ここまでさらけ出すか?”と思うほど生々しい女々しさや情けない部分までもが綴られているからだ。今回のインタビューでは楽曲のもとになった恋愛の背景に迫りつつ、今作に収録されている新たな側面を見せた楽曲が生まれた理由などを訊いた。
◆ ◆ ◆
■彼女の浮気と別れ、そして絶望へ
──もともとメタルコア/ハードコアバンドをやっていたところ、ソングライターである菊池さんが当時付き合っていた彼女さんに度重なる浮気をされた末に失恋。その時湧き上がった気持ちを正直に綴った楽曲を作ったことで音楽性がテン年代ギターロックになり、バンド名をThis is LASTになさったんですよね?
全員:そうです。
──憧れを追求していたのが前身バンドなら、This is LASTは真逆だと思うんです。なぜ180度違う方向性に進むことができたのでしょう?
菊池陽報:やっぱり、言葉の影響が大きいですね。それまでは“伝えたいこととか言いたいことなんて特にないし、かっこいいことしてればいいんじゃないの?”くらいの気持ちだったし、ONE OK ROCKのTakaさん、coldrainのMasatoさん、SiMのMAHさんといった名だたる憧れのボーカリストの方々みたいにかっこよくなりたいという衝動だけでずっと続けてた。でもこのバンドの始まるきっかけになった「殺文句」という曲を作る時、もちろんコア系の曲を作る選択肢もあったんですけど、なによりも“自分の想いを綴った歌詞をちゃんと聴いてほしい。自分の想いが届く歌にしたい”と思ったんです。
──今までの自分の音楽の概念をひっくり返すほど、その彼女さんのことがお好きだったんですね。
菊池:いやあ……好きでしたね(笑)。
▲菊池陽報(Vo&G)
──ただ、「殺文句」と「アイムアイ」と「愛憎」を聴いていると、“もっと菊池さんに対して思いやりを持つ女の子がいるんじゃないの?”と思っちゃうんですけど(笑)。
菊池:友達にも言われました(笑)。僕はもともとひとつのことにのめり込むと周りが見えなくなってしまうタイプなので、彼女のことしか見えなくなっちゃうんですよ。だから友達も僕に愛想つかして、どんどん離れていって……。彼女のことが大好きだった僕は“この子が俺のそばにいればまじでそれ以外どうでもいい”と思っていたので、昼夜必死にバイトして、その子に尽くすためのお金を稼ぐという毎日でした。週に1〜2回ディズニーランドに行って、そういう費用は全額僕が出してたし。
──だいたいの失恋ソングって、恋人の好きだったところや、自分の至らなかったところを描いてることが多いと思うんです。でもThis is LASTのラブソングには、ひたすら菊池さんのつらい想いと未練が羅列されている。
菊池:曲を書こうとすると彼女のああいうところが好きだったな、こういうところが可愛かったな……と思うんです。でも恋や愛は理屈じゃないから、それを歌詞に起こすことができなくて。その理屈じゃない感情が、愛なんじゃないかなと思ってるんですよね。恋というものは“相手のここが好き”という自分の気持ちありきの、相手の想いが関係ないもので、それを越えてお互いを思い合えた時、愛に辿り着ける……という境地には辿り着きました(笑)。
──(笑)。失礼を承知で言いますが、曲を聴いている限りだと、菊池さんの一方的な想いだったのかな……?と思う部分もあります。
菊池:それがですね、僕のことをめちゃくちゃ好きで離れたくない!っていう時期があるんですよ。だけどほかの男の子が好きな時期もあったんです(笑)。何回も浮気されていくうちに“待っていれば戻ってくる”と思うようになって。ここに書いているような気持ちを彼女に伝え続けていたけれど、彼女は自分を強く持っている人だったので、全然僕の想いは届かなかったんです。なんなら“男としてもっとしっかりしろ”と言われていました(笑)。そんななかで、自分はこの子のことが好きなのか、それとも依存しているのかわからなくなっていって。でも自分のことが好きで仕方がない時の彼女に会うと“ああ、やっぱり好きだなあ……”って思ってたんですよね。
──それが「アイムアイ」で描かれていること、ということですね。
菊池:そうです、そうです。
りうせい(B):結局彼女がアキ(菊池)の家から出て行って、それでアキから俺のところに“もう無理だ。人生終わりだ”と連絡が来て。だから彼女との思い出の品は全部俺がゴミ袋に突っ込んで(笑)。“家にいると彼女の香水の匂いがするから耐えられない”と言って、アキは実家に避難しました(笑)。
菊池:その香水がまた、使ってる人が多いんですよ(笑)。街のなかでもしょっちゅう同じ香水の匂いがするんですよね……! 外を歩くのもいやだった。
──でもバンドの状況が変わったのはその元カノさんのお陰……となると、元カノさんに感謝でしょうか(笑)。
菊池:今となっては勉強にもなったなあと思いますし、ありがたいですけどね(笑)。「殺文句」を作ったことをきっかけに、“この人たちみたいになりたい”ではなく、“誰かに近づくのではなく、あくまでも菊池陽報としてステージに立ちたい。憧れられる立場になりたい”と思うようになったんです。そしたら伝えたいことがたくさん出てくるようになったし、感謝をしなかった日は1日もない。前までとはすべてが真逆になりました。少しずつですけど、いろんなことが見えるようになったのかな……。
──おふたりはその変化にすぐ順応できたのでしょうか?
鹿又輝直(Dr):僕らはめちゃくちゃケンカもするんですけど、仲が良くて。この3人でバンドをやることが僕のすべてだったんです。自分たち3人は絶対に売れるという根拠のない謎の自信があったし、メタルコアからギターロックに転向することにもすぐ順応しました。
りうせい:僕はもともとソフトな音楽が好きで、自分でそういう曲を作ったりしてきたので、“絶対に激しい音楽をやりたい!”というわけでもなかったし。アキに関しても、メタルコアやってた時のほうが違和感ありましたね(笑)。そんなときにアキが彼女に派手に浮気をされて、とんでもない精神状態になって(笑)。“じゃあそれを歌詞にしたらいいじゃん”と提案したんです。それに合う音楽をつけてみたらすごくいいものになって──それを聴いて“真剣にちゃんと音楽をやりたい!”と思うようになりました。
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