【インタビュー】果歩、10代のエンドロールにふさわしく20代への追い風となるEP「水色の備忘録」
地元・新潟を拠点に15歳からライブ活動を始めたシンガーソングライター果歩。今年2月にシングル「光の街」をリリースし、誠実に、そして精力的に音楽活動を続けてきた彼女が、初の全国流通盤EPとなる「水色の備忘録」を完成させた。木村カエラのバンドメンバーとしても活躍中の會田茂一、中村圭作によるユニット“mullet”をアレンジャーとして迎え、思い切った音の振り幅を謳歌している本作。10代のエンドロールにふさわしい音の記録であり、もうすぐ始まる20代への追い風となるようなこの充実作について聞いた。
■今回出す作品は10代最後でもあるので
■自分のこれまでの人生とか成長みたいなものの記録
――前回のインタビューが今年の初めでしたが、あれからかなりの本数のライブをやって来られたようですね。
果歩:はい。東京と(地元の)新潟以外の場所に行く機会も増えました。
――ライブはただそこで歌うというだけではなく、学んだり感じたり、きっと受け取るものも多いですよね。
果歩:そうですね。今年はサーキットイベントなどにも出させてもらったんですが、同じ時間に色んな会場で色んな人が歌うじゃないですか。初めて行った場所なんかだと特に(自分のことを)知らない人がほとんどだろうから、(見に来てくれる人は)あんまりいないかな、片手くらいかなとか思ったりしたんですが、いざステージに立ってみたらたくさんの人が聴いてくれていたんですよ。ちゃんと届いているなって思いました。毎回、感動でした。
――お客さんの数だけじゃなく、ミュージシャン仲間も増えたのでは?
果歩:はい。地元にいる時は同年代で音楽をやっている人があまりいなかったから、年上の人と対バンする機会が多かったんですが、東京に来たら女の子1人で音楽やっている子もいっぱいいるし、同年代も多いし、同じモチベーションで頑張っている人が多いからすごく刺激にもなっています。こういうアプローチの仕方もあるんだなって勉強にもなるし、自分自身への影響みたいなものもあって、いい意味で変わってきた部分もあるし。
――新作「水色の備忘録」にも、これまでになかった果歩さんの表情が表れているなと感じました。
果歩:今年の2月に「光の街」というシングルを出したんですが、あの作品を作ろうと思った時から、この時期にこういう作品を出したいということは決めていたんです。もうすぐ10月13日が誕生日なんですが、20歳になる年の記念として。
──20歳というのは一つの区切りでもありますね。
果歩:10代と20代って全然違いますよね。今回「水色の備忘録」というタイトルにしたんですが、自分の成長過程を色で例えたら水色かなって思ったんです。いわゆる青春ってやっぱり青だなって思うけど、私の青春を考えるともう少し色としては薄いというか淡い感じ。今回出す作品は10代最後でもあるので、自分のこれまでの人生とか成長みたいなものの記録として作れたらいいなと思ったんです。
――なるほど。その”水色”って、どんな感じだったんでしょう。
果歩:制服デートとか、すっごく仲のいい友達がいてみんなといっぱい遊んだとか、私の場合はそういう「ザ・青春!」な感じではなかったんですよ。音楽をやっていたし、なんかこう、一般的な学生時代っていう感じではなかった。そんなにいっぱい友達がいたわけじゃないし、素敵な恋愛とかもしてこなかったからちょっと違うなと思っていて。
――だから、色彩としてパキッとした青じゃないんだ。
果歩:はい。はっきり思い出せることもあまりないし。
――水色という色自体は、もともと好きなんですか?
果歩:自分で作る曲は青とか水色っぽいなとは思うから、たぶん好きなのかなとは思うけど、あまり意識はしていませんでした。でも今回はジャケットもすごくキレイな色合いで、とても気に入っています。
――では収録されている楽曲について聞かせてください。今回は木村カエラさんのバンドメンバーでもある會田茂一さんと中村圭作さんによるユニット“mullet”をアレンジャーとして迎えた3曲が収録されていますね。
果歩:はい。普段自分がバンドの音楽ばかり聴いているということもあって、バンドアレンジだったら「こんな感じかな」って想像が出来るんですが、今回のこういう打ち込みによるアレンジはあまり馴染みがなかったので、返ってきた音源を聴いて「こんな風になるんだ!」っていう驚きがありました。(mulletには)スタッフの方達のアイデアでお願いすることになったんですが、自分にはこういう歌い方も出来るんだとか、意外とイケるかも!?っていう手応えを感じたりもしましたね(笑)。
――お二人のアレンジを前提に曲を作ったわけではないんですよね。
果歩:はい。もともと作っていた候補曲の中から相談して決めたんですが、アレンジに関してはそのまま「えいっ!」って感じでお願いをしました。でも「法則のある部屋から」だけは、少しだけギターの感じを変えてもらったりしましたね。
――「法則のある部屋から」はかなりエモーショナルなギターが印象的な曲です。
果歩:この曲はもともとバンドサウンドっぽいイメージで作っていたんですが、明るくポップな感じで返ってきて。それはそれで新しくてすごくいいなと思ったけど、お願いした他の2曲(「紀行日記」と「彼女たちの備忘録」)とのバランスなども考えて、リズムはこのままでギターの感じをもう少しデモの感じに戻してほしいっていうお願いはしました。この曲、大好きなんですよ。作った時から曲も歌詞もすごく好きな曲が、さらにかっこよくなりました。
――この曲、今後のライブでは誰がこの激しいギターを弾くんだろうって考えちゃいますね。
果歩:確かに(笑)。今度のワンマンでは同期を流しつつメンバーの生音と一緒にって考えているんですが、1人の時は弾き語りで、デモ音源で送ったものをそのままやるようなイメージかなと思っています。
――果歩さんががっつり歪ませて弾いてもカッコ良さそうですけどね(笑)。
果歩:弾けたらカッコいいけど、絶対に無理(笑)。
――(笑)。會田さんや中村さんと、実際に制作をしてみていかがでしたか?
果歩:私はこれまで、結構声を張って歌うことが多かったんですね。今回お渡ししたデモもそうだったんですが、いざレコーディングという時に「優しく歌ってみて」って言われたのがすごく印象的でした。優しく歌っても成立するというか、こういう歌い方はしたことなかったけど、自分としても楽曲としてもアリなんだなって思えたのは大きかったです。1曲めの「紀行日記」は、サビの歌い方が全然変わりました。
――具体的にはどういうアドバイスを受けたんですか?
果歩:もうちょっと近いところで歌っている感じがほしいと。部屋で、隣にいて夢を語っているような感じ。その辺りは、割と小さめのトーンで柔らかく歌うことで表現できたのかなと思います。
――「宇宙船」や「海賊船」といったファンタジックなワードが出てきたり、柔らかく優しく歌ったりしているところで、相手を「あんた」と呼ぶところがすごく果歩さんらしいですよね。
果歩:それ、すごく嬉しいです。私の中に<素敵な女の人>像みたいなものがあって、普段は柔らかい感じなのに内心はめちゃくちゃ思っていることがあるとか、強がっているそぶりの裏に弱さがあるとか、そういう女の人の内面みたいなものがこの「あんた」っていう呼び方をすることで表せたらなと思っているんです。
――果歩さんの曲ではたまに「あんた」が出てきますけど、最初に使い始めたきっかけって何だったんでしょうね。
果歩:最初はやっぱり、怒りとかイラついた気持ちだったんじゃないですかね(笑)。私はクリープハイプがすごく好きなんですが、クリープハイプの曲で描かれている怒りって、すごく愛を感じるんですよ。そういう表現にすごく惹かれるし、リスペクトもしているので、ただストレートにぶつけるだけじゃなくて、その怒りをスパイスとして何かを表現できればっていうのはありました。
――あと今回の曲を聴いていて、言いたいことがより明確に言えるようになったんだろうなとも感じたんですが。
果歩:そうですね。今もまだ子供の部分はあるけど(笑)、前よりはちょっと大人になったなと思っていて。だから自分自身優しくなったと思うし、伝えたいことはちゃんと伝えられるようになったかなと思っているんです。人見知りだっていうのもあって以前は楽屋でも喋らなかったけど、人との交流って大事だなって思うようにもなったし(笑)。だから歌詞にも、そういう気持ちの変化みたいなものが自然と出てきたのかなって思います。
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