【インタビュー】UKICO「クリエイティヴィティは、ちょっとプッシュしたらそこに行けると思うことがあるし、インスピレーションなんだと思う」
UKICOは、フランス生まれパリ育ちのアーティストだ。フランス人の父親と日本人の母親を持つ彼女は2012年、NYに移り、マンハッタンのInstitute of Audio Researchにてエンジニアリングを体得し、首席卒業したという才女である。ブルックリンのStrange Weather Recording Studioのアシスタント・エンジニアとして、ゴーストフェイス・キラーをはじめ多数のアーティストの作品に関わり、さらにグラミー賞を受賞したAfro Latin Jazz Orchestraのライブミックスを手がけるなどいわば裏方として活躍してきた。それらの仕事に並行し、作詞作曲から歌唱、アレンジ、ミキシングなどを全て自らが行い創作活動を行ってきた。そんな彼女が満を持して作品をリリース、人生初だというUKICOのインタビューをお届けしよう。
■ユニヴァース(宇宙)が
■「戻ってきなさい」と言ってくれた
──来週は(インタビューは2019年9月3日実施)シングル・リリースのイベントが控えていますが、ライブはすでに何度もやっているんですよね。
UKICO はい。ニューヨークにいたときもやっていました。まだ小さい会場ばかりなので、今後は大きい場所でもやりたいですね。いつも一緒にやっているバンドがいて、私はサンプリングなんかでトラックを作っているので、ドラマーはパッドも含めてプレイしていますし、ほかにシンセ、ギターがいます。ただ今回のライブはちょっと特別で、尺八も入ります。
──あなたの曲の多くに和楽器が使われていますが、いつも生演奏を使っているんですか?
そうです。ニューヨークで勉強していた私が日本に戻ってきたのは、ビザが切れたことが理由なんですけど、多分ユニヴァース(宇宙)が「戻ってきなさい」と言ってくれたんですよね。そして、音楽を日本らしくしたほうがいいというアイデアを得て、和楽器を入れたいと思ったんです。すでに『DENIAL』のトラックはできていたんですが、なんだか自分らしくないように感じて、たまたま友達に和楽器のミュージシャンを探していると話したら、すぐに東京藝術大学のお琴の先生に紹介してくれて。
その人はかなり有名な方だったんですけど、興味を持ってくれて、何回もコンサートに呼んでくれて、イメージが浮かんだのでレコーディングをしました。LAからプロデューサーを連れて来て、エンジニアでもある彼とインターフェイスやマイクを用意して。それもすごく楽しくて、和楽器の中でも尺八が一番インパクトがありました。フリースタイルで曲に乗せてくれて、鳥肌が立って泣いちゃいました。もちろんそのあとで、使う場所を選んだり、アレンジをしたりしましたけど。琴に関しては、最初からプロデューサーさんが用意していたパートをふたりの奏者に弾いてもらって。ふたりいるとハーモニックスが生まれて、それを録りたかったんです。
──それまでにも和楽器と接点はあったんですか?
UKICO アイデアが浮かんだのは日本に戻ってきてからで、接点はなかったですね。そのころイベイーのライブを初めて観に行ったんですが、彼女たちはキューバンというルーツを打ち出しているじゃないですか? で、私の場合は日本だから、そういう気持ちが湧いたのかも。「これだ」と思って。彼女たちの音もすごく好きですし、インスパイアされたんです。
──基本的なことを伺いますが、生まれたのはフランスなんですよね。
UKICO そうです。生まれてからずっとフランスで暮らしていたけど、夏休みに必ず日本に来ていました。小学6年生まで、7月は1カ月間日本で学校に行きました。すごく楽しかった。そして大学を卒業してから日本に引っ越して、モデルの仕事をやっていました。だけどやっぱり自分自身を表現をしたいと思って。仕事を一旦辞めて、貯めたお金でニューヨークに行って音楽の勉強を始めたんです。
──子供のころはフランス語を話していたんですか?
そうなんです。でもお母さんはいつも日本語で話してくれていました。そして日本のおばあちゃんが『ドラえもん』や『美少女戦士セーラームーン』のアニメを送ってくれて、ビデオで見ていましたし、日本の子供の音楽も聴いていましたよ。日本語を覚えるようにって。
──今は日本語中心の生活ですか?
UKICO 東京にいる友達にも海外の人が多いし、電話でフランス語でフランス人と話すこともあるので、結構ほかの言葉が混じっていますね。だけど面白いのは、お母さんが日本語を話すから、日本語を聴くと包まれる気分がします。聞くとほっとして、やっぱり影響は大きいですね。
──子供のころに音楽関係のレッスンは受けていたんですか?
UKICO ピアノはちょっとやっていましたね。私の家族はあまりアートと接点がなくて、パパとママはエールフランスで仕事をしていて出会ったんです。ロマンティックなんですが(笑)、アートとは接点がなくて、音楽にしても私、最初はディズニーのアニメを通して触れたんですよね。ジャズなら映画『おしゃれキャット(The Aristocats)』だったり……。それしか知らなかったから、子供のころはミュージカルをやりたかったんです。で、徐々にポピュラーな音楽を聴くようになりました。歌いたいという気持ちはあったんですが、自信がなかったんですよね。その後大学を卒業して、フランスのおばあちゃんが亡くなったときに、初めて詩を書いたんです。それをパパに見せたら泣いちゃって……それはきっと、言葉でストーリーを書いて、そこからおばあちゃんのことを想像できたからなんだ、シンプルな詩でもパパにも伝わったんだと感じたんです。パパは今でも読んでいるというくらいなので。だったら私は音楽でストーリーを伝えたい、自分にも曲が書けるかもしれないと感じました。だから始めたのは結構遅くて、ふたつ目のキャリアみたいなものです。
──大学の専攻も音楽とは関係なかったんですか?
UKICO 専攻は言語で、英語とスペイン語を勉強しました。アートが自分の周りになかったから、自分がクリエイティヴだってことが分からなかったんです。“クリエイティヴ”ってなんのことか知らなかった。そのときに付き合っていた人がクリエイティヴで、そこに惹かれていたんですけど、なんだか謎だった。だから今でも「私、こんなにクリエイティヴなんだ」とびっくりする瞬間があります。「ビデオも自分で作ったの?」とか「アレンジも自分できるの?」とか。いまだ発見しています(笑)。
──当初はほかにもやりたい仕事があったんですか?
UKICO どうなんでしょう……たまたまモデルにスカウトされて、旅はすごく好きだったので、シンガポールで暮らしたり、バルセロナに行ったりしていました。言葉が好きだってことも分かっていたけど、バカロレア(高等教育機関に入学する資格を取得するための試験)はサイエンス(科学)系だったんです。サイエンスがすごく得意なんです。だからエンジニアリングを勉強したんでしょうね。学校に行ったときは楽しくて、ケーブルも自分で作っていたんですよ。道具も買っちゃいました(笑)。
──そうすると、まずおばあちゃんに捧げた詩があって、音楽の道を志して、実際に歌い始めたのはそのあと?
UKICO ちょっと後だったかも。やっぱり出会いがありました。ミュージシャンとの出会いがあって、そのときは歌詞だけ私が書いて共作して……でも私は自分のテイストやこだわりがすごく明確にあって。「これが欲しい」より「これは違う」というのがすぐ分かるんです。今では「これだ」というのが、よく分かってきました。「これは違う、これも違う」と探しながら、自分のスタイルになっていって。面白いのはやっぱり、今まで聴いてきたものに似ていることですね(笑)。似ているというか、全部混じって、吸収されて、こういう風になったんです。
──じゃあ、ほかのミュージシャンと一緒に作るよりも自分で全部やるほうが合っている?
UKICO 今は自分でやっちゃっています。完璧主義だから、どの時点で完成したのか見極めるのが大変ですけどね。ミックスはお願いしている人がいて、最初はプロデュースもしてくれていたんですが、彼のテイストが大好きで、信頼関係があるんです。私のイメージを超えるものにしてくれます。
──それが、ニュージーランド人ミュージシャンで、プロデューサーのジャスティン・ピルブラウですね。
UKICO そうです。ニューヨークで出会いました。彼はザ・ネイバーフッドというバンドをやっていたときにニューヨークに住んでいて、それからLAに引っ越して、今はニュージーランドに戻っています。まだザ・ネイバーフッドは活動中なので、時々LAに行っていますけど。
──それにしても、ミュージシャンを志して、まずエンジニアリングを勉強する人はなかなかいないと思います。
UKICO それも出会いがきっかけでした。何を勉強するかは着いてから決めようと思って、取り敢えずニューヨークに行ったんです。そしてボーカルレッスンを受けて、ギターも少し習って、オープンマイクのイベントにマメに出ていました。自分で探して、独りで。怖かったですけど(笑)。でもそこで出会いがあるかなと思っていたら、そのときの友達から話を訊いたんです。ビザを取るには学校に行くのがベストだから、どこに行こうかと思っていて、Institute of Audio Researchを体験したら機材で盛り上がっちゃって。自分が機材で盛り上がったことにびっくりしたけど、本当に楽しかった。すごく実践志向で、全て自分でいじって作ったり、ミックスしたり。Pro Toolsの勉強もして、アシスタントを体験しました。
■トリップホップが大好きで
■マッシヴ・アタックが私の神なんです(笑)
──なぜニューヨークだったんですか?
UKICO ニューヨークに住むのが夢だったんです。音楽はやっぱりニューヨークだと、頭のどこかで決めつけていたのかも(笑)。だけどニューヨークのアーティストのレベルはすごく高くて、なんでもできるんです。プロデュースもできるし、バイオリンやトランペットをプレイして、アートも作れて、演技もして。“どこまで天才なんだ!”って思うくらいすごい人たちの集まりだから、楽しかったですね。
──女性の生徒は学校でも少なかったでしょうね。
UKICO 特にエンジニアリングは少なかったです。当初私のクラスにはふたりいたんですけど、難しいから辞めちゃう人もいて、最後にはひとりでした。そして次席、つまり2位だったんです。卒業生総代は男性でしたが、それはすごくうれしかった。でもやっぱりエンジニアリングやプロダクションやアレンジの世界は特に女性が少ないから、最初は心配でしたし、正直に言うと、レコーディングスタジオとライブハウスでアシスタントとしてインターンシップをしたんですが、レコーディングスタジオはちょっと大変でした。
──在学中も自分の楽曲を作っていたんですか?
UKICO 少し作っていましたが、やっぱりまだどういう曲を作りたいのか明確に分かっていなかったんですよね。だから、まずはミキシングとレコーディングを勉強して、Pro Toolsをメインでやって、そのあとでAbletonのスクールにも3カ月間通ってトラックメイキングをして、自分のスタイルが分かってきたんです。そして曲を作り始めてジャスティンに何曲か送ってみたら、『DESERTED』がいいと彼が言ったので最初に作ることになりました。レコーディングは独りで、パリでやりました
──そしてオープンマイクでライブもやっていたわけですね。
UKICO 自分の曲が無かったときはオープンマイクに通っていて、自分の曲ができたら、ライブをブッキングしました。バンドは友達同士で適当に集めて。ローワー・イースト・サイドにPianosという小さいインディ系ライブハウスがあるんですが、そこだったり、ストロークスが最初のころ演奏していたArlene’s Groceryだったり。色々挑戦したくて。経験も必要ですし、曲は少なかったけど思い切ってカヴァーもしました。
──誰のカヴァーを?
UKICO 面白いかもしれないけど、私、グランジが好きなんです。サウンドガーデンとかオーディオスレイヴとか。だからオーディオスレイヴの『Like A Stone』をカヴァーしました(笑)。あとはフィオナ・アップルの『Criminal』なんかを自分なりにアレンジして。
──ニューヨークだと、音楽ファンとしてもいろんなライブが観られますよね。
UKICO フィオナからサウンドガーデン、ローリン・ヒルまで、ライブは一杯行きました。Terminal 5とかウィリアムズバーグの小さいハコに通っていて、フライング・ロータスも好きで、彼も観ましたし、アモン・トビンのライブは衝撃的でした。
──いきなりあなたがミュージシャンを志したことに、フランスの友達は驚いていたのでは?
UKICO びっくりしてましたね。しかも私、超ナードで、すごく大人しくて話さない子で、友達が少なかったんです。だから、まずは「モデルになったの?」と驚かれて。さらに「音楽?なぜ?」って(笑)。特に家族には不思議に思われていました。
──モデルの仕事も人前に立つ練習になったのでは?
UKICO だけど全然違うんですよね。声を使うから、そこは全然違っていて、練習しないとダメでした。観られることにはあまり緊張しないけど。
──学校を卒業して音楽活動を始めるにあたって、なぜ東京を拠点に選んだんですか?
UKICO 一旦フランスに帰ったんですが、フランスには未来が見えなかったんですよね。面白いんですけど(笑)。フランスの音楽に興味がないんです。最近はトラップとかラップが盛り上がっていて、プロダクションやアレンジは結構簡単だなと思っちゃって。で、日本に遊びに行ったら、モデルの仕事のおかげで色んな知り合いがいて、とあるブランドのモデルの仕事が入ったんです。そのブランドに、ビデオの音楽を作りたいと言ったらOKが出て、初めてコマーシャルのための作詞作曲を体験して「こういうこともできちゃうんだ」と思いました。それで「じゃあ日本にいたほうがいいのかな」と感じて、友達の家で暮らしていたんです。私はやっぱり日本に住むのが好き。正直言って、私の音楽は日本ぽくないと思うんですけど、住んでいて自分が一番ハッピーで、落ち着くし、ここをベースにして、あとはロンドンやLAやニューヨークに行ったりするのも夢です。
──じゃあ日本にもミュージシャン仲間がいるんですね。
UKICO YayhelとかWONKがいる、ちょっとアンダーグラウンドなシーンですね。レオ今井も友達で、彼の曲、特に歌詞が好き。勉強になります。だからそういうシーンにいるのも楽しいし、私の音楽を理解してくれるからうれしい。あと、サラウンド・サウンドを手掛けているエンジニアの瀬戸勝之さんとも友達になって、彼は毎年<MUTEK Japan>に出ているんですが、彼といつかコラボがしたいです。彼は素晴らしいアーティストで、作曲もやっていて、一緒に何かできたらいいなと言ってくれています。ほかには三味線のミュージシャン久保田祐司さんともすごく仲が良くて、とてもお世話にもなっています。『HOSTAGE』で三味線を弾いてくれています。
──そういうコラボ以外の制作作業は、自宅でラップトップでやっているんですか?
UKICO そうです。孤独です(笑)。
──プロセスとしてはどんな風に進めるんですか?
UKICO 曲によってバラバラですけど、まずサンプルを選ぶことが多いかも。ドラムとかのサンプルを選んで、音にインスパイアされて、ピッチを変えたりリバースにしたりとかして。そしてトラックができて、ノレる感じになったら、ストラクチャーを作って、メロディを作って……というのが最近は多いですね。トラックが先にあるとムードがちゃんと作れるので。でも『DESERTED』の場合はメロディが先に浮かんだし、歌詞から始まった曲もあります。
──スタイルとしては、トリップホップを核にしているそうですね。
UKICO トリップホップが大好きで、マッシヴ・アタックが私の神なんです(笑)。来日公演は2日間行っちゃいました。最高でした。目をつぶって音でゾーンに入る、みたいな感じで。
──でも映像も話題でしたよね。
ですよね(笑)。味わうところが違って、ライブは基本的に独りで行くのが好きなんです。もしくは、本当に音楽が好きな人と行って、お互いに話さずにゾーン・インして、あまり気を使わなくてもいいっていうのが好き。マッシヴ・アタックはブルックリンに住んでいたときに知りました。あそこはインディ・シーンがすごく強くて、当時はチェアリフトやソランジュが話題で、本当に狭い世界だから、友達がそういうアーティストたちに関わっていたりして。そのころにラナ・デル・レイを聴いて「私がやりたいのはこれだ!」と思ったりしました(笑)。ジャスティンも住んでいたし、みんなその辺りに集まっていて、私もそういう音楽にハマって。ポーティスヘッドもそうですね。べス・ギボンスの声に似てると言われて、調べてみたんです。
──マッシヴ・アタックが神だとすると、ほかの影響源は?
UKICO ジャンルはすごく広くて、90年代のソウルフルな音楽がすごく好きです。サウンドガーデンやオーディオスレイヴもソウルフルですし……その時期にフランスで流行っていたのはR&Bなんですよね。一番聴いていたアルバムはマライア・キャリーの『バタフライ』でした。マライアの声がすごく好きで、ほかのアルバムはポップ過ぎるけど、『バタフライ』はすごくスロー・テンポで不思議なアルバムで、中でも『Breakdown』という曲が一番好きです。ループでCDを聴いていたら、盤が傷付いていました(笑)。
あとは、日本にも毎年来ていたから、宇多田ヒカルがすごく好きでした。初期の彼女には結構影響されたと思います。『Distance』が好きなアルバムなんですけど、スロー・テンポのR&Bで、ドラムはヒップホップ系の音で、そういうのが好きかも。R&Bは結構昔から聴いていて、その影響はすごくあります。でもスプリームスとかも聴いていましたし、フィオナ・アップルのソングライティングと声にもグッと来るし、ニューヨークに引っ越してからは、リトル・ドラゴンやジ・インターネットやバンクスなんかを聴いて、最近はFKAツイッグスが大好きです。
──彼女は取材したことがありますが、ステージを降りると本当にシャイで真面目な人で、パフォーマンスをするときに大きく変わるタイプですね。
UKICO それが逃避になっているのかもしれません。私もどこかそれがある。超明るいって言われるんだけど、ダークな面もあって、それは曲に入れています。こないだ東京に来たSevdalizaのライブも素晴らしくて、ちょっとFKAツイッグスに似ているかも。
──今は歌詞を英語で書いていますが、なぜ英語に?
UKICO 好きなんですよ、英語で歌うのが。やっぱりソウルフルなのかな。発音で遊べるし、フランス語だと歌うときに声が変わっちゃって、あんまり好きじゃないんです。気息音が交じってちょっと弱く聴こえるから。そして日本語は書けないんですよ。私のレベルでは恥ずかしいくらいで、いつか宇多田ヒカルに書いてもらうのが夢です(笑)。でも英語は結構しみ込んでいるし、普段から読むのは必ず英語で、本は英語でしか読まない。フランス語でも読まないんです。映画も英語でしか見ないし、今でも勉強になるように英語の字幕を入れていて。大学で勉強していたことも関係しているかもしれないけど、好きなんですよ。
■アルバムは私の旅になっていて
■自己発見です
──ソングライターの中には曲作りをセラピー代わりにしている人も多いですよね。あなたの場合はどうでしょう?
UKICO 今振り返ると、アルバムは私の旅になっていて、自己発見ですね。あの時期は自分を探していて、自分の中で「人生とはなんだろう?」という質問が一杯あったんです。自分のこととか、人との関係とか。失恋してダークだった一番ロウ・ポイントの時期で、そういうときには自分を見つめるじゃないですか。一番自分を見つめていたというか、道筋を見つめ始めたんですよ。そして8年前にヨガや瞑想を始めて、ディープに掘り下げました。瞑想に開いて、ヨガに開いて、スピリチャリティに開いて、「こういう風に世界を見ればいいんだ」と目線がどんどん変わるし、物の見方が変わる。そうすると人との関係も変わるんです。そういう旅が私のアルバムの中に入っているんですよね。
どう目線が変わったかというと、自分の思考が人生を表す、考え方、カルマにも興味を持ち、人間は前世で出会ったことがあるのではないかと考えるようになりました。でもまた出会って同じことを繰り返したり、自分自身の人生においても同じことを繰り返したりとか、いつも同じ問題に直面したりする。だからそういうパターンは外から来ているんじゃなくて、中で作っちゃっているのではないかと思うようになりました。これは心理学とスピリチャリティが混じった考え方で、そう捉えると、ちょっと楽になるかなと思っていて。いつも人のせいにしていた自分の成長でもあります。カルマに関しても人生に関しても、成長して悟りを開くというゴールが自分の中にあって、そういう目線もあるってことを世界に伝えたい。日本人にとって、それは当たり前じゃないですか。でも海外では当たり前じゃないし、その目線も面白い。そして自分もそういう目線で成長して、癒される。今の時代はヒーリングをみんなが求めていると思います。だから今ビッグなテーマになっているんだと思います。
だからアルバムは、最初は“失恋”という簡単なテーマから入るんですが、だんだん深くなっていって、最後のほうはユニヴァースの曲。一番最後に書いた曲は『SIRIUS』で、シリウスは恒星で、そこには宇宙人や神々がいると言われているんです。つまり超高度な知能。そこから色んな情報が地球に降ってくるとされていて。だから歌詞は、色々悩んでいても「自分の中に答えがあるから」という感じの曲なんですよね。ほかにもこの間、とあるスピリチャルな楽器をRed Bull Music Studiosでレコーディングしたので、正体はまだ明かせませんがお楽しみに。
──そういう東洋のスピリチャリティや思想に興味を抱くきっかけはあったんですか?
UKICO 自分の中に元々あったんですよね。自分探しにおいて、心理学とスピリチャリティはコネクトしていて。パターンはカルマからも来ていると思う。もちろんこの人生のトラウマや危機からもパターンは生まれるけど、私は自分の家族を選んでいると思っているんです。だからハーフとして生まれて、アイデンティティ・クライシスがありますし、そこから来ている不安も一杯ある。だからこそカルチャーに触れるのが好きなのかもしれない。どこに自分がいるのかという不安を表現したい気持ちから来ているかも。でもそれは、自分のソウルが選んだと思っているんです。それが正しいとは言いたくないけど、面白いかなと。フランスでも最近ヨガ人気が復活していて、もっとオープンにならなきゃいけないとみんな考え始めているようです。アーティストにはどこかにアンテナがあって、“降りてくる”ものだと私は思っているから、常にチャンネルが開いていないと。それと、エゴの闘いがあると思います。
──じゃあ曲を作るときは、無理に書こうとしないで降りてくるのを待っている?
UKICO そうかもしれない。「絶対に書かないと!」っていうときは頑張りますけど。クリエイティヴィティは、ちょっとプッシュしたらそこに行けると思うことがあるし、インスピレーションなんだと思います。伝えたいテーマが溜まっていて、メモだらけなので、その中から「あ、これだ!」と閃いたり、コラボレーションをするとすぐにパっと開くときも。場合によっては、「このムードになりたい」という風に曲を聴きながら、浮かぶのを待つことも。
──デビュー・シングルの『DENIAL』は、一番ダークな場所にいたときに生まれた曲ですか?
UKICO 最初に書いたのは『DESERTED』なんですけど、同じ時期ですね。『DESERTED』が始まりで、でも失恋を認められなかったから“denial(否定)”なんです。このテーマはふたつの意味を含んでいて、まずは自分が失恋していて、それを乗り越えられていないことを、自分に隠しちゃっている。「彼氏はいらない。今は独りですごくいいの」と言っていたのに、この曲を書いたら“hiding from a new romance”というコーラスの歌詞がすぐに思い浮かんで、「ああ、私、隠れているんだ」と気付いたんです。だから私は、自分の感情を否定しているってこと。
それと、“責任はあなたにある”と言っていますが、本当は自分を責めているんですよね。自分に責任があることを認めていないんだけど、一歩引いて考えてみると、終わったことを自分が否定している。でもそれは歌詞からは見えない。そこにも“denial ”があって(笑)。全部彼のせいにして、自分の責任や成長を私が全て否定していた時期なんだな、と。そして辛さを乗り越えて、前に進むために、防護具を作るという面もあると思います。
──このあと2曲シングルが続きますが、3曲でストーリーを伝えるような感じになるんでしょうか?
UKICO この3曲をリリースすることにした理由は、PVにあります。3曲とも、イザナミとイザナギのストーリーに因んだPVを作るつもりなので。ただ、そういうコンセプトは自分で考えましたが、ヴィジュアルは自分の専門ではないので、アーティストの才能をリスペクトしてくれる人とコラボする予定です。何年間も勉強した人、センスがある人に任せたくて。
──ライブにも映像は使うんですか?
UKICO 今回は使わずに、演劇的にしようと思っていて。ベースはスピリチャリティなんですけど、色んなアーティストと出会うと影響されるし、コラボも好きです。以前フラワー・アーティストの志村大介さんとコラボして、“8次元”というテーマのイベントを企画したことがあります。今は3〜4次元だと思われていますが、8次元はテレポートもできるし、タイムトラベルやテレパシーもできると言われているんです。想像もできないような世界観を作りたいと思って。お香を使ってスピリチャルな香りにして、フラワー・アーティストが天井からドライフラワーのアレンジを飾ってくれて、マイクスタンドに素晴らしい赤い花のアレンジを作ってくれました。そういうコラボも好きです。
──そうなると、音楽はUKICOの表現の一部分に過ぎないという感じですね。
UKICO そうなっちゃいましたね(笑)。でもやっぱり歌うのが好き。体から発せられる、一番の表現です。今はマーチャンダイズを作っていて、今後洋服も水晶のジュエリー作りたいと思っていますけど。
──ロゴも美しいですよね。
UKICO ありがとうございます。私が書いたんです。そういうのもできると全然想像していなかった(笑)。レーベルの名前をKiseki Recordにしたので、自分でデザインして“KR”とハンコを彫ってもらって、「これもできるんだ」と思って。毎回ビックリです(笑)。
──これはプライベート・レーベル? それとも、ほかのアーティストも今後紹介する?
UKICO どうですかね。プロデュースが好きだから、もしかしたら? 私には「この人はこういう声だから、こういう曲がいいんじゃないか」って分かる気がして。聴いてイメージするのが得意なのかもしれない。今は自分に集中していますが、今後やってみたいと思います。
──ファースト・アルバムはすでに完成しているんですか?
UKICO 今Red Bull Music Studiosでインタールードをレコーディングして、今アレンジしています。すでにある8曲に、今作っている3つのインタールードで全11曲。“11”という番号がすごく好きなんです。人にはそれぞれ番号もあるんですよ。ソウル・ナンバー、魂のナンバー、Numerology(数秘術)といって、誕生日の月と日と年を足した番号が、結構当たるんです。
私の場合は11で、11が自然に色んなところに出てくるから、アルバムも11曲にしました。PVを撮影した日もたまたま11日で、Red Bullのスタジオも「11日が空いているよ」と言われて、「じゃあ11日に」って(笑)。そういうことが結構多いんです。Numerologyもひとつのサイエンスだと思っていて、すごく面白いですよ。気付いたのが、『DENIAL』の長さは3分17秒で、足すと11です(笑)。
──サイエンスとスピリチャリティは、一見相反するようにも見えますが、UKICOさんの中では仲良く同居しているんですね。
UKICO 私はリンクしていると思っています。住んでいる場所の番号も、人生のテーマと似ているんです。今住んでいる場所は5番地で、生まれた日は5日。“5”にも私はすごく影響を受けています。自分でも「なるほど」と色んなことを知ることができるので、楽しいですよ。
──アルバムのリリースはいつころになりそうですか?
UKICO まだ決定ではないのですが、1月にリリースできたら良いなと思っています。誕生日の月で、1月11日とか?タイトルは『ASCENSION』です。曲を並べると旅になるので。
インタビュー:新谷洋子
◆UKICO Instagram
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