【インタビュー】サイダーガール、生々しいロック感と爽やかさを併せ持つ独自の魅力「クローバー」
サイダーガールの2019年第一弾シングル「クローバー」が、7月3日にリリースされる。同作の表題曲「クローバー」は、TVドラマ『都立水商!~令和~』のエンディング・テーマに起用されることに加えて、ここ数作の構築美を活かした手法とは一味異なり、シンプルでストレートな方向性になっていることが印象的。プリミティブなサイダーガールが味わえる必聴の1曲となっている。さらに彼らのシングルにふさわしく、カップリングが充実していることも注目。着実にスケールアップを果たしてきているサイダーガールの3名をキャッチして、新作について大いに語ってもらった。
■今回は初期衝動に戻ることを考えました
■凝ったことはせずストレートに
――新曲の「クローバー」はMBS/TBSドラマイムズ『都立水商!~令和~』のエンディング・テーマです。曲を作るにあたって、曲調や歌詞などの要望などはあったのでしょうか?
Yurin:ディレクターから、『都立水商!~令和~』は10代ならではの葛藤や努力する姿を描いたドラマだから、応援歌的な曲がいいんじゃないかという意見が出ました。青春感のあるドラマだし、サイダーガール的には夏のシングルなので、若々しいアプローチというかシンプルでストレートなものにしようというのもありました。最近の僕らの楽曲の傾向としては、コードで遊んでいたり音数が増えたりということが多くなっていましたが、今回は初期衝動に戻ることを考えましたね。キーボードやシーケンスを使わなくても演奏できるもので、凝ったことはせずストレートにいくことにしました。
――生々しいロック感とサイダーガールならではの爽やかさが相まって、独自の魅力を生みだしています。「クローバー」の歌詞についても話していただけますか。
Yurin:大人になってから感じる不自由さと10代の時に感じる不自由さは違うけど、窮屈さを感じるところは共通していると思うんです。「クローバー」の歌詞はそう感じている人の背中を押せたり、そばに寄り添えるような曲になりたいという思いで書きました。“不自由さに息が詰まりそうな中でも自分らしくあってほしい”ということを歌っています。
知:「クローバー」はデモの段階からストレートさを感じていたので、ギターはできるだけそれを壊さないようにしようと思いました。自分の中では荒々しいギターというイメージだったので、そういう方向性でレコーディングしたんですけど、録ってみたら音が荒々し過ぎるんじゃないかという話になって。それで、ちょっと柔らかめのタッチにして音的にはマイルドになったけど、自分の中ではガムシャラな曲という印象が強かったから、それは残しておきたいなと思ったんです。それで、イントロのワウを使ったフレーズやギター・ソロで荒々しさを出しました。そういう対比を活かすことで、面白いものにはなったと思います。
――キャッチーな曲の中でワイルドなギターが鳴っているのが、すごくカッコいいです。ギター・ソロも感情が溢れている感じで、グッときますし。
知:思春期特有の“ウワァーッ!”みたいな感じは、ワウをオンにした時の“ギュワ~ッ!”というのと一緒だなと思って。それで、イントロとソロの両方でワウを使うことにしたんですけど、正解だったと思いますね。僕自身も弾いていて“グッ”ときます(笑)。
フジムラ:本当にストレートな曲なので、それを際立たせるためには難しいことはしないほうがいいと思ったんです。直線的にいくのがいいだろうと。なので、ベースのフレーズは初心者の人でもちょっと練習したら弾けるかなくらいのところで纏めました。基本的にボトムを支えつつ、たまにオブリガードが入ってくるパターン。極端にベースだけが目立つフレーズはなくて、ストレートさに華を添えるということを意識したベースになっています。あとは、ピッキングのニュアンスをプロデューサーと一緒に詰めながらレコーディングしました。Aメロは“ガッ!”といくんですけど、サビ・パートは開けた感じをイメージして流れるように弾いたりとか。フレーズ的には難しいことはしていないけど、そういうところが難しかったです。
▲4thシングル「クローバー」【初回限定盤】
▲4thシングル「クローバー」【通常盤】
――ベースのあり方もロック感と洗練感を併せ持った仕上がりに寄与していますね。あと、この曲のゴリッとしたベースの音は本当に魅力的です。
知:これは、キャビネットで鳴らして録ったんだよね?
フジムラ:そう。最近はラインだけで録ることが多いけど、レコーディング・スタジオにキャビネットがあって、エンジニアさんから“アンプも使ってみようよ”という提案があったんです。それに、この曲は普段は使わないプレシジョンベースを使いました。メインにしているジャズベースで録ろうと思っていたんですけど、レコーディングの時にネックの状態がすごく悪くなっていることに気づいたんです。オクターブ・ピッチは合っているのにチューニングが全然合わないという謎の現象が起きまして(笑)。それで、急きょいつもは使わないプレベを使ったら、それがバッチリはまった。プレベで、結構歪ませて、キャビネットにマイクを立てて録ったのが「クローバー」のベースの音で気に入っています。バンド感のある音で録れたと思います。
Yurin:歌はなによりもニュアンスを大事にしていこうと思っていたので、Aメロのちょっとエッジを効かせて歌う感じやサビのファルセットなど、場面ごとのニュアンスをすごく意識しました。この曲はデモの段階からいろんな歌い方を試したんです。
――ストレートなオケに対して、表情豊かなボーカルが楽曲の流れや場面転換などをより印象づけています。続いて、カップリングにいきましょう。
フジムラ:「ハートビート」は、元々は前回の『SODA POP FANCLUB 2』を作った時に原曲があったんです。アルバムの1曲目にすごく速いテンポの曲を持ってきたいという話になって作ったんですけど、『SODA POP FANCLUB 2』には合わないねという話になって。でもいつか使いたいなと思っていたんです。
――“すごくテンポが速い曲”というワードが出てきた時に、こういうカントリー調の曲を作る辺りはフジムラさんの個性といえますね。
フジムラ:僕は速い曲というと「ハートビート」みたいに、ちょっとハネている感じの曲しか作ったことがないんです。自分のメロディーやフレーズの癖だと、普通の速い8ビートだと間が持たないというか。勿論そういうものも作れるようにならないといけないけど、僕の好みに合うのは少しハネたビート感なんですよ。「ハートビート」は、最初はロカビリー調の曲を作りたいと思っていたんですけど、そこからヒネリを効かせて今の形に持っていきました。
――“そのまま”というのを嫌うこともわかります。「ハートビート」はアッパーな曲調でかけ声なども入っていながら、歌詞はせつないというマッチングも絶妙です。
フジムラ:全部がハッピーというのは違うと思うんですよ。映画やドラマもそうだけど、僕はそういうのはあまり好きじゃない。だから楽しい感じの曲に、あえて煮え切らない歌詞を乗せることにしました。そういうギャップをつけたほうが、自分の中ではシックリくるから。僕自身があまりハッピーな人間ではなくて、マイナス思考なので(笑)。
――でも、「ハートビート」はドロドロ・ウジウジした歌詞ではなくて、明るさがあります。
フジムラ:そうですね。この曲の歌詞は、僕の実体験がもとになっているんです。高校生の時に、コンビニの店員さんに“グッ”ときてしまったことがあって。レジを挟んでその人がいる向こう側は、自分にとって別世界みたいに感じたんですよ。僕は勇気がないからその人と普通の会話はできなかった。そのまま高校を卒業して、そのコンビニにはいかなくなっちゃったけど、その時のことをフト思い出して、ちょっと変な歌詞になってしまうかもしれないけど書いてみようかなと思ったんです。もともと恋愛の歌がすごく好きなんですけど、最近書いていなかったので、いつもと違うアプローチでいってみようと思って。
Yurin:「ハートビート」の歌詞は“ウォーアイニー”“モーマンタイ”という中国語が入っています。だから、最初に歌詞を読んだ時は、その店員さんが中国人だったのかなと思いました(笑)。
フジムラ:違うよ(笑)。“ウォーアイニー”という言葉の響きが好きで使いたかっただけ(笑)。
知:この曲の中国語の使い方はキャッチーだよね。今回のシングルの中では、この曲がギターの音作りに一番時間がかかりました。「クローバー」とはまた別の荒々しさをイメージしていたので、マーシャルを使ったパターンも録って、こっちのほうが良くないかと提示したんです。そこから始まって、いろんな音を試していきました。アプローチ的には、“一発録り感”を出したいというのがありましたね。毎回できるだけ1テイクで録れるギターということを意識しているけど、この曲は特にそれが強かった。あと、フジムラがロカビリーとかカントリーっぽくしたいと言っていたので、ギター・ソロにそういうニュアンスを入れました。
▲2019年度サイダーガール 小貫莉奈
――それで、ギター・ソロの入り口のフレーズは、ちょっとフィドルっぽいニュアンスになっているんですね。
知:フィドルですか? それは、意識していなかったです。僕はロカビリーやカントリーはあまり詳しくなくて、この曲は僕の中では『みどりのマキバオー』のイメージだったんです(笑)。
フジムラ:それ正解。俺も曲を作る時にマキバオーが浮かんでいたから(笑)。
知:正しかったんだ(笑)。マキバオーから入って、こういう路線だとどういう曲があるんだろうということは調べましたけど、カントリーに精通しているわけではないんですよ。そういう取り組み方だったので、ソロが楽曲にフィットしているなら良かったです。僕がこの曲で一番心配だったのは、ギターよりも歌でしたね。デモの仮歌をフジムラが歌っていたんですけど、フジムラの声はYurin君よりも泥臭いというか男味が強いんですよ。それに、歌詞が女々しいから、女々し過ぎる曲になってしまわないかなという心配もあったし。でもYurin君はすごくいい感じに表現してくれて、完成したトラックを聴いて、さすがだなと思いました。
Yurin:この曲は、歌詞の感じや符割のイメージを掴むのに結構時間がかかりました。裏声か地声でいくかというので悩んだ箇所もあったし。そこを越えて納得のいくところに落とし込むことができて良かったなと思います。
――この曲を聴いて、Yurinさんの歌の引き出しの多さをあらためて感じました。ギター・ソロ後のパートだけツイン・ボーカルになっているのもいいですね。
Yurin:そこは、フジムラが歌いたいと言ってきたんです。
フジムラ:あまりそういうことはしたことがないけど、やってみたいと前から思っていたんですよ。こういう曲は合うんじゃないかなと思ってやってみたら、みんなもいいねと言ってくれました。ベースに関しては、この曲ではずっと動いていますね。自分の好きなことをやろうみたいな感じで、「クローバー」とは真逆というか。この曲はストレートにいったら全く面白くないなというのもあって、疾走感があってずっと止まらないベースということを意識してフレーズを考えていきました。それに、普通な感じにしたくなくて、ガチガチの音で弾いています。
――「クローバー」もそうですが、ゴリゴリの音でウネリや粘りを出す辺りはさすがだなと思います。
フジムラ:自分では普通に弾いているだけなので、その辺はよくわからないです。
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