【インタビュー】VALSHE、通算100曲目に「最も自分らしい楽曲と新たな変化」

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■“こんな状況なら曲を作りたくないな”って
■リアルタイムな心情が歌詞に投影されている

──歌詞には強い言葉が使われていて、“いろんなものが渦巻く世の中で、惑わされずに自分を貫け”というメッセージを感じ取ったんですが。

VALSHE:楽曲の方向性と並行して歌詞も考えていたんですが、“VALSHEって根本的になにを伝えたいのかな?”というところに立ち戻ったんです。過去の99曲、いろんな形で表現してきたけれど、自分自身が掲げているものって反骨精神であり、納得できない状況や環境に抗っていく強い気持ちなんじゃないかって。あまり掘り下げてお話しすることはできないんですが、「「SYM-BOLIC XXX」」を作ったときっていろんな意味で“こんな状況なら曲を作りたくないな”っていうモードだったんですよ。と同時に、それでも今の想いをちゃんと歌詞にできたらシンガーとして伝えたいことが伝えられる、示せるんじゃないかと思っていたので、歌詞には非常にリアルタイムな自分の心情が投影されているんです。

──ノンフィクションに近い?

VALSHE:はい。どうしようもない状況の中、自分だったらこういうふうに考えてこんな選択をするけど、あなたはどうする?って問いかけている歌詞でもあります。音楽なのでどう噛み砕いて聴くのかはお任せしますけど、もし、この曲を聴いて、“明日もなにも変わらないかもしれないけれど、頑張ろう”って思ってくれたら、書いた意味がすごくあったなと思います。自分でも書き切ったなと思いました。

▲「SYM-BOLIC XXX」【初回限定盤 BLACK】

──制作当時は歌詞が書けなくなってしまった状況だったんですか?

VALSHE:というよりも、“こんな状態で歌詞なんか書けるか”って思っていたんです。でも、“やる気があればなんでもできるだろう”って書き切ったらスッキリしました。言葉の力なのかわからないですけど、状況も自ずと変わっていったんですよね。

──では、「「SYM-BOLIC XXX」」に出てくる“位置につけたら そのゴールテープ本当は切れます”だったり、“掲げた意思を簡単に降ろすな”というのはVALSHEさん自身が戦っていたからこそ出てきたフレーズですか?

VALSHE:自分自身に対して思っていたことです。不満や憎しみを撒き散らすとか、文句を言いたかったわけではなく、発信する作品が聴いてもらった人になにかしらのプラスになってほしいと改めて思った曲ですね。

──そういった意味でも自分の原点に向き合った?

VALSHE:そうですね。この曲に限らず、今回のシングルを作ったことによって、いろいろな変化が生まれたと思います。

──ミュージックビデオはちょっと不思議で、ファンタスティックな世界になっていて、正装した山羊と羊がVALSHEさんのまわりを取り囲んでいるので、“羊”と“執事”をかけてるのかなって(笑)?

VALSHE:ちょっとかけてるかも(笑)? 長年、一緒に制作している監督さんなので、やりとりがスムーズに進む中、自分が急に「羊と山羊が出てきて欲しい」って言い出したんですよ(笑)。しかも「ゴムはイヤ」だとか素材にもこだわりがあって、彼らにはダンスとアクトの中間のような動きをしていただいているんです。

──VALSHEさん自身も椅子に座りながらパフォーマンスしていますね。

VALSHE:はい。自分の振りは本番で考えたんですが、演劇要素を持っていてダンスもできる人たちと一緒にやりたかったので、自分のバックダンサーをずっと務めていて芝居の心得もあるKyo-heyにパフォーマンスの監督をお願いしたんです。羊と山羊のマスクをかぶっているので、ほぼ視界がゼロの状態に近いし、あまり息もできないんですよ。そういう状況下で支障がない振り付けというのがこだわったポイントでもありますね。


──なるほど。

VALSHE:VALSHE自身のことでいうと「「SYM-BOLIC XXX」」は激しい楽曲ではありますが、過去のマイクスタンドで歌っているもの、踊っているもの、椅子に座って歌っているミュージックビデオの要素を全部ドッキングできないかなと思いました。それこそ“象徴”でいうところの話をすると、今回のシングルのアートワークのVALSHEが歌っているところを想像したら、暴れてはいないし、飛び跳ねもしないし、かといって座って静かに歌うイメージでもないなって。そういう自分のヴィジョンを足し算、引き算していきながら“こういうアッパーなサウンドで椅子に座って歌うVALSHEの在り方は?”って考えて組み立てていきました。

──それと白のVALSHEと黒のVALSHEの対比が面白いですよね。ワイングラスを差し出されて片方は受け取って飲むんだけど、片方は不機嫌にグラスをはねのけるっていう。

VALSHE:そうですね(笑)。間違い探しじゃないですけど、そういうところもミュージックビデオを見る上での楽しみのひとつかなと思います。山羊と羊の世界の違いだったりとか。

──全編を見てのお楽しみですね。そして今作にはカップリングにも新鮮な曲が収録されています。dorikoさんとの共作曲「Prey」は乾いたアコギの音とダンスビートのマッチングが今までになかったアプローチ。

VALSHE:洋楽的な要素を多く取り入れた曲ですね。実は『WONDERFUL CURVE』を作っていたときにこういう方向性の曲をやりたかったんですが、サウンドプロデューサーと話している中で、当時「今じゃないね」っていう結論になった曲調なんですよ。翌年の2018年は“和”をコンセプトに作品を作ったので、これまでやりたかったことを実現させるなら今だ!と思って、dorikoに具体的なイメージを伝えて作ってもらいました。これまでdorikoが奏でてきたメロディアスな曲とヒップホップのサンプリングのサウンドがどうマッチングするのか、制作過程から面白かったですね。今回のシングルって4曲中2曲にベースサウンドが入っていないんですよ。

──そうなんですよ。なぜベースを入れなかったんですか?

VALSHE:意図的に入れなかったというより、気づいたらなかった(笑)。特に「Prey」はアコギとドラムのビートがカッコいい曲を作ろうというところからスタートしたのもあって、これまでベースが担ってきた役割をアプローチとして、幾重にも重ねたコーラスが埋めているので、より新鮮に響くのではないかなと思います。

──それと、歌詞は物語のスタイルをとっていますが、黒い心と白い心、みたいな部分で「「SYM-BOLIC XXX」」とリンクしているのではないかと感じました。タイトルは“餌食”という意味だし、洗脳について歌っているという捉え方もできるなと。

VALSHE:おっしゃっていることは、ほぼほぼ合っています。“嘘も同じことを100回言ったら本当になる”ってよく言いますけど、確かにそうだなと思ったんです。たとえ、自分が違うことを思っていたとしても、反対のことを繰り返し教え込まれて、100回実行したら何の疑いもなく信じるようになるんじゃないかって。あえて善悪という言い方をしますが、そうなると善悪の判断が鈍って、“あれ? どこまでが悪いことでどこまでが良いことだったんだっけ?”ってわからない状態になってしまう。白にも黒にもなれない半端な存在が誕生した瞬間を描きたい、と思って書いた歌詞です。

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