【インタビュー】BIGMAMA「僕らはずっと邪道の邪道を逆張りし続けているところがある」
BIGMAMAが2019年第一弾作品として、1年ぶりのシングル『mummy mummy』を4月17日にリリース。同曲は4月から放送中のテレビドラマ『賭ケグルイ season2』の主題歌。前シリーズから2作連続での主題歌担当について、フロントマンの金井政人(Vo.Gt)はどのような姿勢で楽曲制作と向き合ったのか。2018年10月発表のメジャー第1弾アルバム『-11℃』以降の活動を振り返りつつ、現在のモードを語ってもらった。
■アルバム『-11℃』はフィジカルを意識し、音を入れすぎずに作った作品
■今作はそこのブレーキを外して意識的に前作から離れようとしている
──昨年10月のメジャー1stアルバム『-11℃』から半年経ちましたが、改めてあのアルバムは金井さんにとってどういう1枚だったんでしょう?
金井政人(以下、金井):最新作のリリース、それに伴うツアー、そのツアーで自分たちがどれくらいの熱量を生み出せたかというところと純粋に向き合う時間があったことがすごく有意義でしたね。特に前作ではすごくフィジカルなことを意識していて、どれだけ自分たちにできることがあって、できないことがあって、向いていることがあって、適性があって、やるべきことがあって、とかを考えて。ロックバンドの中にバイオリンの音色があるということをシンプルにやり遂げたかったし、それがちゃんとできたアルバムになったんじゃないかな。それは、例えばこの先10年、20年と日本にいろんなアーティストが出てきて、これをやり続けることに価値があるんだということを自分の中で再認識できるリリースでありツアーだったと思っています。
──では、BIGMAMAというバンドの在り方……原点とまでは言わないものの、こうあるべきというのをもう一度体現できたというのもあるんでしょうか?
金井:そうですね。このフォーマットに価値があるというか、自分たちが勝負をし続けられる土台を確実に作れているんだなということをはっきりさせられたのかな。これまでも、僕たちはどう歌詞やメロディにこだわるかということよりも、ロックバンドにバイオリニストがいるということを絶対的に一番に置き続けていたわけで。その価値をもう一度感じるタイミングだったと思います。
──そういうこだわりがブレる瞬間というのは、これまでの10数年の中でブレることはありませんでしたか?
金井:確実に好みの話だけでいうと、バイオリニストのいる音楽だけを聴き続けることはないと思うし、僕自身いろんなアーティストを聴くしいろんな音楽が好きだし。というところで、やっぱり自分が好きなものと実際に作るものとで、どうしてもそぐわないところが出てきてしまう。例えば、全曲にバイオリニストがいなくちゃいけないかというと、本来的にそんなことはないはずだし。ただ、この5人でやるべきこと、できること、カッコいいと思って人様に差し出せることというと、また線引きがあるので、それはその都度バランスの違いはありました。やっぱり全部が全部同じように作ろうとすると苦しくなっちゃうし、楽しくなくなってしまうので。
▲「mummy mummy」初回限定盤(CD+DVD)
▲「mummy mummy」通常盤(CD)
──なるほど。
金井:ただ、それがちょうど前作というメジャーへの“引っ越し”後の最初のイベントにおいて、自分たちで改めてお気に入りの家具を持っていく上で、シンプルにあまりモノを置きすぎないようにして、「ロックバンドにバイオリンがいることはカッコいいね、アリだね」っていうことを感じてほしかったんです。なので、ものすごく過剰包装する必要もないし、なるべくほかの要素を身に纏わないように削ぎ落とす作業を主軸に置いて。僕はそこでずっと勝負をし続けるために、ジャンケンをし続けないといけないと思っているんです。
──ジャンケンですか?
金井:はい。僕が言っている前作の出来事って、基本はグーなんですよね。確実に一番強くてまとまりのあるものとしてのグー。でも、チョキやパーもないと長く勝負は続けられない。それが例えば、よりポップスであることであったり、弦をもっと増やしていくことだったりすると。そうやって今の僕らは手を変えることができるんです。なので、自分なりのチョキとパーのタイミングというのはありました。
──バンドによってはグーを出し続けることが美徳とすることもありますけど、だからこそチョキやパーの大切さがより際立つと。
金井:そうですね。僕もグーの美徳というのはわかりますけど、それが時には10分の7なのか、あると思わせるだけでいいのか、その都度で変わることもある。そこはタイミングもあるし、そのときどういうことに興味を持っているかとか内在しているトレンドみたいなものもある。それに、受け手もずっとグーが来るとわかっていたらドキドキしなくなっちゃいますしね。どちらかというと僕はずっとグーを出し続けられなかったほうの人間なので、そこに関しては紆余曲折はそれなりにあったと思います。
──特にアルバムだといろんな球種を織り交ぜることもできますし、逆にひとつの塊として統一感を出すこともできます。一方で、シングルは数曲でひとつのフォーマットとして、聴く人に何かを提示する。BIGMAMAはこれまでもたくさんのシングルを発表していますが、そのフォーマットに対するこだわりは金井さんの中でどれくらいありますか?
金井:僕の中でシングル、アルバムっていうものを切り離して考えたことがなくて、そのたびに作品と思うようにしていて。まずリードとなる曲、この曲を単独で聴いてもらう。そこに何か添えることができるときは、リードとなる曲が基準となる作品とするべきだと思うんです。特にモノとして残しておきたいと思っている人に対しては、例えばシングルの場合、3曲あったら差し出す順番は考えます。それは手元に形として残しておきたいという愛情表現をしてくれる人に対して、自分なりの最低限の誠意ですね。でも、配信を含めていろんな形で音楽をゲットしてもらえても僕は全然いいし、聴いてもらえるだけでその思いは成就しているので。
──こだわりはあるものの、音楽を聴いてもらう上でいろんな道筋は残しておきたいと。
金井:はい。それが1曲単位だったら人様に差し出すときにすごい一品料理を作るつもりでいいのかもしれないけど、シングルの場合は、そのときの感覚で3品料理を作るときもあるし、1品を大切にするためにそれに合う飲みものと食器を揃えるときもある。今回のシングルはどちらかというと後者なんです。メインの1曲があって、あとは同じ湿度のものを揃える。それは具体的にいうと、ロックバンドとして音色の分量と打ち込みの素材の分量を揃えたものをあと2つ差し出すべきだということ。アルバム『-11℃』がフィジカルなところを意識した、なるべくいろんな音を入れすぎずに作った作品だとしたら、今作はそこのブレーキを外して、なんなら5人で演奏することにもまったくこだわらず、意識的に前作から離れようとしているところがあるんです。
──実は、今おっしゃっていたお話はまさに今回聞いてみたかったことでして。今回のシングル『mummy mummy』はアルバム『-11℃』と質感が異なりますし、フィジカル的な前作とは異なるクールさが全体を覆っていると感じていたので、今のお話ですごく腑に落ちました。
金井:作っている人たちは同じですけど、前作を作り終えてツアーを回ってまた何か作ろうというときに、自分の中でひとつ潮目が変わった瞬間があったんです。僕はライブの熱量と自分が聴くものとしての音楽の向き合い方に、ちょっとだけズレがあるんだなってことをずっと感じていて。自分が聴いて好きなものの割合をもう少し増やして作りたいと僕自身も思っていたし、それがほかのメンバーとそんなにズレがなかったので、じゃあ次はそういう意図を持って聴きやすいもの、熱量が快適で汗をかきすぎないもの……よりクールにというか、そういうことを意識して作れたらいいんじゃないかなと。そういうものを自分たちの中で次のビジョンとして意識していたいので、そのキックオフとして「mummy mummy」という曲を……今回はタイアップが付いていたので、この曲を選んでもらえたのは結果としてすごくよかったなと思っています。
──「mummy mummy」を聴くと、すごくスタイリッシュだなと思いました。どこか品があるというか。そこがアルバムとはちょっと違っているなと感じたんです。
金井:これは基本的なことで、「上品かつ下品であれ」と思っているんです。そもそもロックバンドって乱暴さというか、粗雑さや荒さがすごくカッコいいんですよね。でも、そこに弦楽器ひとつをプラスすると緻密さを求められるようになる。それはチューニングだったりリズムだったりと、人が増えると難しさも増える。バイオリンってやっぱり、ものすごくお上品な楽器じゃないですか。だけど、それを荒く、下品や雑に扱えるのも自分たちのメリットだと思っているんですね。そこはいろんなやり方で、自分たちなりに更新してきてはいて。その熱量と湿度みたいなものを“モア・クールに”という感覚でコントロールして『-11℃』を作ったんですけど、ライブではきちんと熱量のあることができていた。だったらもっとクールにやってやろうという方向に転んだのが、本作かもしれないですね。
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