【インタビュー】大柴広己、愛を歌い人生を歌い友を歌い夢を歌う 包容力に満ちたアルバム『人間関係』

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■輝かなくてもいいから長く続く古くならない音楽を作りたい
■今日が自分の人生の最高地点でありたいと思うようになりました


――「世界分の一」がいいですねえ。とあるバンドマンの、お金はないけど愛があるあたたかいラブソング。どこまでリアルかどうか知りませんけど。

大柴:めちゃめちゃリアルです(笑)。

――鳥貴族で飲んでスーパーの半額総菜を買って手を繋いで帰る(笑)。いい曲です。

大柴:いい曲ですね(笑)。ここまで柔らかく朗らかに日常を描く曲は、今まであまりなかったと思います。「ここじゃないどこかへ行きたい」という歌をずっと書いていたんですけど、これは全然そうじゃない。目の前にあるものをちゃんと見て、それを愛してあげようという歌です。10年前だったら絶対そんなこと思わなかったんですけど、僕も宇宙人2年目なので(笑)。身の回りに意外と面白い風景がいっぱいあるなと思うようになりました。

――それは年輪と経験を積まないと見えてこない。

大柴:自分が思うよりけっこう人生は長いなと思うんですね。23歳でデビューした時には、この年になって音楽をやってるとは思ってませんでしたから。でも30歳を過ぎて自分のやりたいことがようやくできてきて、信頼できる人が身の回りにいてくれるようになって、いろんなことが動き始めて。花火のように一瞬でもいいから大きく輝くものがいいと思ってきたんですけど、輝かなくてもいいから長く続く、古くならない音楽を作りたいと思うようになって、今日が自分の人生の最高地点でありたいと思うようになりました。85歳くらいで死ぬとしても、最後の日まで新曲を作ることを考えていたい。そのためには、売れちゃ駄目だと思うんですよね。

――すごいこと言いましたね。さらりと。

大柴:売れちゃ駄目ですよ。売れたら上がるけど、上がると落ちる。売れていることを人に悟られずに、ずーっと1ミリずつ毎日上がって行って、死ぬ時にピークを迎えるような人生がいいと思っています。もちろん周りの人を幸せにするぐらいは売れたいですけど、ブームになってしまうと、いつか去りますから。そういう人をいっぱい見てるし、そうはなりたくないので。売れちゃ駄目ですね、ミュージシャンは。


――金言ですねえ。

大柴:常に先のことを考えて、毎年最高のものを作って行って、それが世の中にコミットできるものであればなおいいという、それが自分の中の音楽の哲学ですね。自分一人じゃなくて、みんなと一緒にそういうふうになっていけたらいいなと思います。

――そのためには努力も必要。今の時代にはどんな音楽が求められているのかとか。

大柴:めっちゃ考えます。最近、作詞家としてボーカル・ユニットに参加させてもらったんですけど…。

――Da-iCEの「FAKESHOW」ですね。あれは2018年ですごく大きい出来事だったんじゃないですか。

大柴:あれはめちゃめちゃ考えました。彼らが今までやってきたこととまったく違うものを求められた時に、彼らは朝の情報番組でヒットしたので、それを全否定する曲があったら面白いんじゃないかな?と思って、「FAKESHOW」の歌詞を書いたんです。朝のワイドショーで人気が出たのに、「それはフェイク(偽物)ショー」だと言って、それが「スッキリ」のテーマソングになったですよ。これは面白い!と思いましたね。

――よく通りましたよね(笑)。

大柴:そこもユーモアというか、大阪で言う「なんでやねん!」というニュアンスが常にあって、聴く人が「えっ?」というものを作りたいんですよ。昔からそうで、たとえば臓器提供のラブソング(「ドナーソング」)だとか、「さよならミッドナイト」という曲にコンドームという言葉が入ってるとか。奇をてらったわけではなくて、そこにある表現に忠実になるということでもあるんですけど、そういうものは常にあります。自分は「もじゃ」という名義でボーカロイドの曲も作ってたんですけど、一番売れた曲も、普通に言葉を出すとかなり下世話な曲なんですけど。

――何でしたっけ。

大柴:「聖創爆裂ボーイ」です。れるりりくんと一緒に作った曲なんですけど、スピードを速くして何を言ってるかわからないようにしたりとか。そういうことも、世の中にあるものを使って聴いたことのないものを作るということに、ちゃんとリンクすると思うので。そういう感じで音楽を作っています。


――そこがすごく面白いと思っていて。大柴さん、弾き語りのフォーク・シンガー的なたたずまいがありながら、ボカロ曲を作ったり、そのフットワークがほかにあんまりいない感じだなあと思うんですね。伝統的なミュージシャンの世界と、若者のカルチャーを軽やかに行き来するというか。それって何かコツがあるんですか。

大柴:あります。一人でシンガーソングライターをやっていて一番大事にすることは…シンガーソングライターって群れると気持ち悪いんですよ。バンドと違って。たとえば同世代でシーンを作るとか、それはいいいんですけど、ほかの世代を排除してしまうところがある。だから同世代で固まらない、ジャンルで固まらないとう意識はあります。自分がやっている「SSW」というフェスもそうですけど、今年出た崎山蒼志くんという子は16歳で、最年長の元FIELD OF VIEWの浅岡雄也さんは50歳くらいで。ジャンルも違えば年齢も違いますけど、そういう人たちが一つのものを作るのが好きで、僕がいろんなことをやっているのも、そこを見る目を鍛えるということでもあるんですよ。

――ああ。なるほど。

大柴:これをやっていいのか悪いのか、その判断が狂うと全部壊れちゃうんで。自分の目的地をちゃんと確認することが、最初に言ったように、旅する中で非日常と日常の自分の場所を確認することだったりしますね。自分の可能性を自分で狭めるのはもったいないと思うし、作詞家も、ボカロ曲を作るのも、フェスを主催するのも、レーベルを経営するのも、音楽人として自分の中でちゃんとジャッジができてるからできることだと思うので。高望みせず、目の前のことを見据えてやっていきたいと思ってます。

――アルバムのラスト曲「ALIVE」の一節「変わらないものであるために 僕は変わり続けていきます」。それって結論な気がします。

大柴:それで最後に「ねえ君はどう思う?」という、それが実は1曲目の答えなんですよね。1曲目にループした時に、「僕は今まで生きてきていろんなことがありました」「だけど歌に出会ってからそんな人生が変わりました」。

――LOVE&LIFE、LIFE&LIVE、LIFE with ALIVE。それが今の答え。

大柴:そう。いいでしょう? いいアルバムなんですよ(笑)。

――いいアルバムですわ。間違いない。

大柴:このアルバムで何が一番言いたいかと言うと「感謝」なんですよね。アルバムに感謝という言葉は一つも入ってないですけど、テーマは「感謝」なんです。「ヒロイン」という曲も、自分の人生を変えてくれたギターへの感謝の言葉だし、人に対しても音楽に対しても「ありがとうございました」というのが、アルバムで一番言いたかったことですね。ようやくこういうアルバムができて、本当に良かったと思います。ぜひ聴いていただきたいですね。

取材・文●宮本英夫


リリース情報

1st full album『人間関係』
2018.12.5 Release
ZLCT-1004 / ¥2,500 (税抜価格)+税
1. LLL
2. ジェラシックボーイ
3. 夜を泳ぐ魚(MV曲)
4. いっせーのーで
5. コンビニでハイボール
6. グレンリヴェット
7. ヒロイン
8. HALE-RUYA
9. 堕ちてゆく月
10. さよなら三角
11. 世界分の一
12. 35過ぎて音楽やるやつみんな宇宙人
13. YESOS?
14. ALIVE

ライブ・イベント情報

「オオシBar ~年末ワンマン名古屋~」
12/27 thu. 名古屋 ローリングマン

「オオシBAR 」
12/29 sat. 大阪 谷町四丁目 skippy
GUEST:眞鍋総一郎(Seif-Portrait)

「コスモフェス」
12/30 sun. 大阪 さきしまコスモタワー
《出演》
信政誠/作人/アダチケンゴ/市川セカイ/大橋タカシ/オカダユータ/小倉ユウゴ/想ワレ/キャラメルパッキング/ふらっと♭/ポンジー/山本義則/福見健二&康本少年/HIGH BONE MUSCLE/無重力のレシピ/ゆあさまさや/raciku
GUEST:大柴広己

「コニロック」
1/4 fri. 東京 渋谷 TSUTAYA O-WEST
《出演》
大柴広己/メガテラ・ゼロ/ナナホシ管弦楽団/ピコ/KOOL/タラチオ

「CITY OF MOUNTAINTOPS」
1/10 thu. 京都 MUSE 《出演》大柴広己/キクチユウスケ(plane)/井上ヤスオバーガー/黒田保輝(tenoto)/寺井孝太(LOVELOVELOVE)/みっちー(シンガロンパレード)

「CITY OF MOUNTAINTOPS」
1/13 sun. 愛知 名古屋 ROLLING MAN
《出演》大柴広己/キクチユウスケ(plane)/寺井孝太(LOVELOVELOVE)/臼井嗣人

「CITY OF MOUNTAINTOPS」
1/14 mon. 大阪 福島 2ndLINE
《出演》大柴広己/キクチユウスケ(plane)/井上ヤスオバーガー/寺井孝太(LOVELOVELOVE)/臼井嗣人/オーノカズナリ/竹森マサユキ(カラーボトル)/岡部喜誉治/まきちゃんぐ

「音楽人生 vol.4」
1/17 thu. 新宿 マーブル
《出演》大柴広己/りさボルト&Hys/ターキーのぶと(ユタ州)/じゃっく(イヌガヨ)/田高健太郎/渡邉広幸/桜田雅大(トランヂスター)/中原くん

「オオシBAR 」
1/20 sun. 大阪 谷町四丁目 skippy
GUEST:後日発表

大柴広己1st full Album「人間関係」
リリースツアーファイナル
弾き語りワンマン「たった一人っきりで歌う」
1/27 sun. 大阪 umeda TRAD

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