【インタビュー】DOTAMA、壮大な進化を遂げるスーツに眼鏡のラッパーが作り出したミニ・アルバム『MAJESTIC』
近年のフリースタイルバトル、ラップ、ヒップホップブームの立役者的な存在の一人“DOTAMA”。2017年末の「UMB 2017 GRAND CHAMPIONSHIP」優勝も勝ち取り、2018年は3rdアルバム『悪役』、自伝本『怒れる頭』を発売、地元栃木県佐野市のPR大使「佐野市ブランド大使」に就任するなど、その活躍ぶりは目覚ましい。知名度の上昇と共に、スーツに眼鏡というラッパーのイメージを覆すビジュアルもすっかり浸透した印象だ。12月5日リリースの新作ミニ・アルバム『MAJESTIC』は、そんなDOTAMAの2018年の活動を総括すると共に、2019年以降へと向かう進化の過程で生まれた作品だ。
■ミュージシャンも作品が売れなかったらお給料にエグく反映してくる
■「サラリーマン」だと思っているんです
――この『MAJESTIC』はDOTAMAさんにとってどんな作品になりましたか。
DOTAMA:前作の3rdアルバム『悪役』が“陰”だとすれば、今作『MAJESTIC』は“陽”の作品で、対になるアルバムだと思っています。2枚で1枚というか。「音楽ワルキューレ3」もMV用に作り替えたものを収録していたりとか、「フリースタイル全部 feat.ゆるめるモ!(Tomggg remix)」だったりとか、ある意味、2018年の総括的な一枚という側面があります。
――1曲目の「働き方改革」をはじめ、今の世の中はDOTAMAさんにとってリリックにするテーマが尽きないのではないかと思います。この曲はどんな思いで書いた曲ですか。
DOTAMA:2012年に『リストラクション~自主解雇のススメ~』(DOTAMA×USK名義)というアルバムを出しまして。「会社勤め」をテーマに全曲、チップチューンでラップをしていて、サラリーマンとしての悲哀や楽しさを歌った作品でした。当時、10年間勤めていた会社を退職し、その直後にリリースした作品なんですけど、あれから6年経って。もう一度、あの頃をリマインドしてみようと思って書いたのが「働き方改革」です。サビに言いたいことをまとめました。“働きたくないけど 働かなきゃいけないんだ どんな職場にもある素晴らしさを見つけよう”。今、SNSを開けば「自分が勤めているところはブラックだ」「ヤバい会社だ」等、ブラックな暴露話をよく見かけると思うんです。それだけ雇用や働き方に深刻な問題がある。もうそれが当たり前の世の中になってて。自分の会社がどれだけつらいか、どれだけ環境が劣悪か。我々が直面し、解決しなければならない問題だと思います。ならばそこからさらに踏み込んで書いてみようと。ブラックな状況はもちろん改善しなければいけない。ただそれでも、働きたいと思えるような利点や素晴らしさが各職場に必ずある。それを自主的に探そうと言いたくて。ミュージシャンも営業成績みたいなもので、作った作品が売れなかったら自分のお給料にエグく反映してくる。「サラリーマン」だと思っているんです。脱サラして6年が経ちますけど、いまだにその視点は変わっていません。そういう意味では、全く変わらずにサラリーマンのマインドで書けたと自負しています。
――ご自分がサラリーマンをやっていたからこそ、生まれた曲なんですね。
DOTAMA:SNSが普及したことで、昔はグレーゾーンだった、職場に対するあるあるとかが、露骨に世の中で共有できるようになったと思うんです。それはそれで素晴らしいことだと思うんですけど、それがあまり良い気持ちにならないときが多くて。2017年に「謝罪会見」をリリースしたときも、誰かミスをすると「謝罪しろ」「責任を取れ」って言われる風潮を感じて。じゃあ、なんでもかんでも謝ればいいのかっていう。「謝れ!」って人を追及しているその人自身にも、後ろめたいことの一つや二つはあると思うんです。自分は聖人君子でも何でもないですが、そういう見つめたくないけど、みんな漠然と気付いてる問題を形にしたいと思って。それをポジティブに歌うことで前向きな気持ちになってもらえるような楽曲に仕上げられたらなと思いながら作って、今回1曲目に入れました。
――同じように、数年前と世の中が変化している中で作られている曲として、「音楽ワルキューレ3」がありますね。「音楽ワルキューレ2」(2015年リリースの2ndアルバム『ニューアルバム』に収録・以下「2」)を出したときは、あまり作りたくなかったという心境を語っていましたよね。今回、「音楽ワルキューレ3」を作るにあたって葛藤みたいなものはなかったんですか?
DOTAMA:最初に「音楽ワルキューレ」(2010年リリースの1stアルバム『音楽ワルキューレ』収録・以下「1」)を作った8年くらい前は、音楽不況でCDが売れないと言われ出した頃でした。それってミュージシャンにとっては死活問題だから、悩んでる現状、それそのものを歌にしちゃえばいいんじゃないかって、問題提起として書いたんです。「1」は良い意味で解決策が見い出せていないというか。“ワンクリックワンコインで 売上目標達成を”とか、“明日のコーヒー代と 俺の一曲の価値”ってリリックにあるように、日常における自分の楽曲の価値はどれくらいなのか、ということを歌ってます。そもそも音楽って、なくても生きていけますよね?(お茶のペットボトルを手に取りながら)例えば、こういう飲み物は、生きるために絶対必要なものだし、服も必要です。でも音楽って10年くらい聴かなくても生きて行ける。それでも僕らは音楽が人生をより良くしていくものだと信じているから、それを商品にして売っていくっていう視点を、すごく客観的に書いたのが「1」です。「2」はそれから5年後にリリースしたんですが、正直全然書けなくて。めちゃくちゃ悩みながら完成させた曲です。書けなかったというか、「2」を作るのが嫌だったのは、その当時そこまで自分の音楽環境が「1」の時と比べて変わってなかったからなんです。非常に厳しい状況だった。でも、厳しくても音楽はなんとか続けられていたので、またそれそのものを歌にしようと思いました。「1」のビートも手掛けてくれた「術ノ穴」のトラックメイカーデュオ、Fragmentが、「1」よりアグレッシブでシリアスなビートを作って来てくれて。よりハードな空気感にしてくれたんです。だからそれに導かれるように、よりシビアな視点で歌詞を書きました。「音楽ワルキューレ3」は、MCバトルで自分の名前を知ってくださったことで、本当にありがたいことにライヴのお客さんが増えて。それで自分が生計を立てられているということが、より具現化されたので、その感謝を、ストレートに楽しく歌ってみようかなって思って、今までで一番明るめに作った曲です。ただ、すごくポップなんですけど、実は歌詞はこれまでの中で一番エグくて。“音楽不況に 殺されずに済んだが”、“経済不況に 殺される”、“アルバム曲など聴いてねえ”、“『あのバンド勢いなくなった』って オマエが飽きただけ”、“ていうかYouTubeさえあれば もうどうでもよくね?”。この辺りは僕も、ものすごく書くのを迷いました。
――そういう歌詞が、刺さっているリスナーは多いんじゃないでしょうか。
DOTAMA:大変有り難いことにライヴのお客さんが増えたのですが、たまに「YouTubeでバトル動画を見て応援してます!」と仰る方が居て。「いや、YouTubeでバトル動画をご覧になっていても僕には一銭も入ってこないんで」と思ってしまって(笑)。たまにですが、年齢、性別に関係なくいらっしゃいます。そういった内容に我々アーティストが触れなきゃいけない時期に来ているのかなと思い書きました。ただそれでも、音楽でお客さんに楽しんでいただきたい、やっぱり自分は音楽の女神を愛しているんだ、そんなラブソングにまで昇華しました。これまでで一番、踏み込んだ内容になったと思っています。
――しかも、デスボイスで歌ったりしていますよね。
DOTAMA:そうですね。あそこのパートは3連符で歌っています。scarlxrd(スカーロード)という海外のラッパーを参考にしました。ライヴでやるときノドがヤバいです(笑)。
――「2」のときにあった迷いみたいなものも、飛び越えて作れた感じですか?
DOTAMA:そうですね。それもお客さまがいるからこそです。ライヴに来ていただいたり、CDや物販を買っていただいたり。応援していただける皆さんのおかげで書ける内容です。音楽不況を歌うというのは自分で自分の体を傷つけるようなものなので。覚悟もそうですが、確証がなければ書けません。
――「音楽ワルキューレ」シリーズは、DOTAMAさんのライフワーク的に続いていくのでしょうか?
DOTAMA:うーん。僕がちゃんと音楽活動を続けていられたら「音楽ワルキューレ4」は作れるんじゃないかなって思います(笑)。がんばります。
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