【インタビュー】alcott、煌びやかでスタイリッシュなサウンドで“恋”を描いた一作『あまのじゃくし』

ポスト

優れた音楽性や楽曲クオリティーの高さなど備えたバンドとして、多数のリスナーはもちろん、多くのアーティストや音楽業界の関係者などからも篤い支持を得ているalcott。11月14日にリリースされた最新アルバム『あまのじゃくし』は、彼らならではの煌びやかかつスタイリッシュなサウンドと様々な“恋”を描いた歌詞が相まって、非常に魅力的な一作に仕上がった。同時に、alcottのロックサイドが味わえることも見逃せないポイントといえる。意欲作のリリースに合わせて、バンドの中枢を担っている貴田宰司(Vo&G)にインタビュー。alcottの成り立ちや『あまのじゃくし』について大いに語ってもらった。

■メンバーはすごく個性が強いけど僕が作る楽曲に歩み寄ってくれる
■それが良い化学反応を起こしているのかなという気がします


――まずはalcottがどんなふうに結成されたのかを話していただけますか。

貴田宰司(以下、貴田):僕らは、大学が一緒だったんです。みんな関西学院大学に通っていて、軽音部に所属していたんです。最初はゼミが一緒だった内田将之(Gt&Cho)と話をするようになって、二人ともRADWIMPSが好きだったので、だったら一緒にバンドをやらないかという話になって。その後ベースの谷里志と前任のドラムが加わってalcottを結成しました。最初の頃はRADWIMPSに似てしまうことに悩んだりしたけど、徐々にそれもなくなっていきましたね。alcottらしさみたいなものができてきて、わりとどんなものをやってもalcottになるという状態になったんです。なので、今はやりたいようにやっています。勿論そこにはルーツというものがありますけどね。僕は元々ゆずさん、コブクロさん、Mr.Childrenさんが好きで、その辺りが僕の中で一番大きい軸になっているのかなという気はします。

――メロディアスなものが好きなことがわかります。貴田さんはalcottで全曲の作詞/作曲を手がけられていますが、いつ頃、どんなふうに音楽に目覚めたのでしょう?

貴田:元々音楽は好きやったし、子供の頃からずっとピアノを教えてもらっていたんですけど苦手でした。ご飯の後に15分間絶対に練習しないといけない時間があって、そこをどうやってスルーするかということしか考えていなかった(笑)。「ごちそうさま。うぃっす」みたいな感じでうまく逃れたかったけど、母親に「宰ちゃん、ピアノね」と言われて、仕方なく15分間弾くという(笑)。高校のときに親友がギターを弾いていて、それがすごくカッコ良かったんですよ。それで教えてもらったらすごく楽しかった。それに、僕が通っていた高校は総合学科という形の自由な学校だったので、僕は音楽を専攻していて、そこで作曲をする課題があって、いろんな曲を作っていたんです。めちゃくちゃダサい曲とか(笑)。その頃の僕は親友とPostというユニットを組んでいて、『鉄腕アトム』のノートに二人で作った曲を書きとめていたんですよ。そのノートを見返してみると、タイトルだけ書いてある曲とかもあって。“クロワッサン”というタイトルと“作詞/作曲 貴田宰司”だけ書いてあって、詩は真っ白だったりするんです(笑)。

――イメージはありつつ形にできなかったんでしょうね(笑)。友達とユニットを組まれていたということは、高校生の頃から歌われていたのでしょうか?

貴田:歌っていました。もともと歌うことは好きだったんです。Postでは親友がギターを弾いて、僕は歌っていて、ずっと二人で路上ライブをしていました。


――神戸でストリートというと、三宮辺りでしょうか?

貴田:いや、当時の僕達は臆病だったので、西神中央という地下鉄の始発駅でやっていました。大きいところですけど、“そこじゃないでしょ”という場所です(笑)。そこじゃ絶対に人に見てもらえない…みたいな(笑)。でも、1回酔っ払いが1万5千円くらい入れてくれたことがあるんですよ。歌っていたら会社員の人達がバァーッと集まってきて、「ええやんけ!」と言って(笑)。

――すごいですね! 当時から光るものを持っていたんでしょうね。

貴田:どうなんでしょうね(笑)。そんな高校時代を経て、浪人していた頃にRADWIMPSをよく聴いていたんです。それで、大学に入学してalcottを組むんです。僕と内田、谷の三人はその頃からもうずっと一緒なので、お互いを知り尽くしているようなところがあって。新たに加入してくれたドラムの小浦哲郎さんともうまくいっていて、いい環境でバンドがやれて幸せだなと思っています。

――わかります。alcottのアルバムを聴いて、メンバー四人のバランスがすごくいいことを感じました。

貴田:バランスは本当にいいんですよ。alcottみたいな音楽はギタリストの我が強すぎるとうまくいかないような気がするけど、内田はそういうタイプではなくて。で、谷はレッド・ホット・チリペッパーズやマキシマムザホルモンが好きで、そういう彼のロック色が良いアクセントになっていると思うし。内田と谷はすごく個性が強いんですけど、僕が作る楽曲に歩み寄ってくれて、それが良い化学反応を起こしているのかなという気がしますね。


――メンバー全員が楽曲重視のスタンスでいながら、決して無色透明なプレイではないというところが魅力になっています。では、ニュー・アルバム『あまのじゃくし』について話しましょう。本作の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

貴田:今回のアルバムは、元々は今年の3月から4ヶ月連続で楽曲を配信リリースした“LOVE LETTERS”から始まったんです。さらに元を辿れば今年の2月に「スーパーノヴァ」という曲が代々木ゼミナールのCMソングになって、その前から曲作りを始めたので、今回のアルバムは本当に1年くらいかけて練った作品といえます。“LOVE LETTERS”は恋愛をテーマにした楽曲と、それに基づいた小説、映像の三つを同時にリリースするという企画で、“LOVE LETTERS”を終えた時に5曲揃っていたし、アルバムのタイトル曲にもなった「あまのじゃくし」も、その時点であったんです。その頃はすごくラブソングに重きを置いていたというか、そこに向き合わなければならないという意識でいたけど、やっぱり僕はラブソングを聴いて育ってきたし、曲を作っている以上そこから目を背けるわけにはいかないなという気持ちがあって。今回の『あまのじゃくし』は、愛情というものに敏感になっている状態で作ったアルバムという印象がありますね。

――たしかに、ここまでラブソングを押し出したバンドは最近では少し珍しくて、それが良い方向に出ていることを感じます。それに、ドリーミィかつ洗練感を纏った楽曲を軸にしたうえで、いろいろな曲があることもポイントです。

貴田:曲調の幅広さに関しては、僕は結構バランスを見るタイプなんですよ。アルバムの全体像をイメージしたときに、こういう曲がほしい、ああいう曲もほしいと思って。全部の曲を狙って作ったわけではないけど、アルバムに必要なピースみたいなことを意識しながら曲を作っていって、気づいたらすごくジャンルの幅が広いアルバムになりました。僕は洋楽、邦楽を問わずいろんな音楽が好きだし、今の時代はもう音楽を聴きたい放題ですよね。サブスクとかを使って、自分の好きな音楽をパンパン聴ける。それが僕にはすごく良い形で作用していて、いろんな音楽のいろんな要素が自分の中に蓄積されていっているんです。それを自分のオリジナリティーとして還元できる部分が大きくて、いろんな曲を作れるのかなという気がします。それに、冒頭にも言ったように、わりとどんな曲をやってもalcottになるんですよ。それが分かっているから、今回も自由な感覚で曲を作っていきました。

――多彩さを持っていながら散漫にならないのは、大きな強みと言えますね。『あまのじゃくし』も決して“なんでもあり”ではなくて、太い幹があるうえで、いろいろな枝葉があるというイメージです。

貴田:そう感じてもらえたなら良かったです。それに、曲調という観点からすると、いろんな色があるという印象を受けると思うけど、歌詞を書いているのは僕なので。僕はそこまで強い人間ではなくて、自分の弱さみたいなものを吐露しやすい場所が楽曲だったりするんです。今回もそういう部分が結構あったし、どんな曲を書いても根底にあるのは自分だったので、そこが1本の幹になっているのかなというふうには思いますね。

――作り手の人となりが表れている音楽は魅力的ですし、ファンの方も嬉しいと思います。『あまのじゃくし』に収録されている曲の中で、特に印象が強かったり、思い入れが深い曲なども教えていただけますか。

貴田:本当にいっぱいあるんですよね。でも、個性的ということでいうと7曲目の「与太郎」は、かなり個性的ですね。この曲は一番最後にできた曲で、本当に好きなようにやっているんです。他の10曲は、ある程度コンセプトに寄り添ったようなものを作ろうという意図が見え隠れしていたけど、「与太郎」に関してはもう自分達が好きことをやろうというのが前面に表れている。しかも、レコーディングの前日まで、できあがっていなかったんですよ(笑)。歌詞も、ほとんどできていなかった。この曲は喋りを結構活かしていますけど、ああいうのはその場でどんどん付け足していったんです。

――本当に? それは、ちょっとビックリです。

貴田:自分でも、よくできたなと思います(笑)。でも、この曲の歌詞は、あまり迷わなかったんです。11曲目の「小火」もそうですが、僕の根本は“できの悪い男”なので、うまくいかなかったり、ダサかったり、カッコつけたいのにつけられないというように、イケてない部分がいっぱいあるんです。それを、そのまま乗せられたというか、普通に語るように乗せていけたんですよね。それに、ちょうどその頃に「小火」のミュージック・ビデオで、ちょっと演技をすることがあって。僕は演技をするのは初めてだったし、初めて俳優の人と絡んで、演じるということがどれだけすごいことなのかが本当にわかった。と同時に、演じることが、すごく楽しかったんです。それがレコーディングにものすごく活かされたというか、「与太郎」の世界観をどうやって演じようかなと思って、もう入り込んで作っていったんです。だから、ものすごく違和感があるんですよね、曲と僕の歌に対して。その違和感というのは狙って作っていて、たとえばサビで“Baby Baby Love”と歌うところがあるんですけど、どちらかというとミュージカルのイメージで、みんなは“バッ!”と歌うんですよ。でも、僕の世界観だけは違っている。みんなの世界と僕の世界が違っていて、ライブでもそれがはっきり出ると思うんです。みんなと創りあげる世界の中でも、「与太郎」はちょっと舞台を観にきたような感覚を味わってもらえるようにしたいなと思っています。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報