【連載】山岸賢介(ウラニーノ)[vol.14]連載ドキュメント~フリーランスへの道~第1話「失業」

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お久しぶりですBARKSさん。毎度忘れた頃に一方的に原稿を送りつけるという、ペーペーのくせに大御所漫画家のようなスタイルの私の連載を掲載していただきありがとうございます。しかし、今回はひどくキンチョーしているのであります。なぜなら、いつもは事務所スタッフを介してBARKSさんに原稿を送っていたのですが、いろいろあって今回から直接BARKS編集部さんに原稿を送ることになりまして。しかも「ここに送ってください」と聞いた連絡先は、なんと編集長。まさかのトップへのホットラインであります。正座して原稿を書いております。恐縮です。

さて、原稿をBARKSに直接送ることになったのには事情がありまして、完全に私事ですがウラニーノはこの度事務所を離れフリーランスとなりました。フリーランス。そう言うとなんだかかっこいいですが、現実はいろいろと大変でございます。長らく事務所に所属していたため、まさに今大小さまざまな壁に直面しております。請求書の書き方ひとつわからずググっております。がんばれ、個人事業主。

今回、新たなスタートを切るにあたり、そのリアルないきさつをどこかに残しておきたいと思いました。なんならこれまでのことも。かといって、暴露本的なスキャンダラスなものでも自叙伝的な畏まったものでもなく、あくまでポップに。契約期間中、ついぞポップな曲は書けませんでしたので(リアル)、文章だけでもポップに。そこでBARKSさんという信頼できる場所に、原稿を寄せさせていただきたいと思います。1人のバンドマンの半生と反省でございます。目指せ書籍化。そう、私はフリーランス。


連載ドキュメント ~フリーランスへの道~

第1話「失業」

それは2018年7月のことであった。ウラニーノとして事務所には所属しているものの、売れないバンドマンである私は副業でアルバイトをしていた。しかし職場への不満がMAXに達した私はその日半沢直樹ばりに上司にたてつき、倍返しをすることもなく勢いで辞めてしまった。「バイト先の店長と揉めてやめてきた」。若手のバンドマン同士の会話ならなら日常的にありそうなもんであるが、40手前のおっさんが笑って言えるレベルの内容ではない。残念でしかない。しかしクヨクヨしても仕方ない。これでよかったのだ。バイトのストレスで本業の音楽活動に悪影響が出るようではそれこそ本末転倒である。ウラニーノに専念しよう。その決意のもと、秋からのウラニーノの活動方針を事務所にプレゼンすべく、打ち合わせのために事務所へ向かった。しかし、待っていたのは驚くべき展開であった。社長は私のまとめた活動方針に目を通すこともなく、9月いっぱいでのウラニーノとの専属契約の終了を告げたのであった。バイトを辞めて3日後のことであった。

当然事務所は私がバイトを辞めてきたことなど知らない。知ったこっちゃない。なんという絶妙のタイミングだろう。そう、この瞬間私は「無職」になったのである。しかし、幸い私はそのまま事務所のある4階から身を投げることもなく、自分でも驚くほど冷静に客観的に事実を受け止めた。急な別れ話にヒステリックになりハンドバッグや歯ブラシを投げつける若い彼女ではなく、熟年離婚を粛々と受け入れる熟女のような達観した気持ちだった。そりゃそうだよな。そういう時期だよな。今まで本当にお世話になったな。感謝しかないな。そう思いながらも、今後について考える。さて、どうしよう。10年以上お世話になった母のような社長が、このまま就職まで斡旋してはくれまいだろうか、なんならアーティスト契約から一転、事務所にスタッフとして雇い入れてくれないだろうか。そんなしたたかな考えさえよぎり、「千と千尋の神隠し」で初めて湯婆婆に会った千のように、「ここで働かせてください!」と絶叫しそうになった。

こうしてバイトと所属事務所という2足のわらじを、図らずも同時に脱ぎ捨ててしまうことになった私。片方だけ勢いよく脱いだつもりが、なんともう片っぽも脱げてしまった。脱ぎ捨ててしまった以上、裸足のままで駆け出して行くしかないのである。

「♪栄光に向かって走る~あの列車に乗って行こう~裸足のままで駆け出して~あの列車に乗って行こう~」

ブルーハーツを口ずさみながらその日はTRAIN TRAINに乗って帰ったか機材車で帰ったか、記憶にない。(続く)

◆【連載】山岸賢介(ウラニーノ)「ツアーメン~バイトのシフトに入れない~」まとめページ
◆ウラニーノ・オフィシャルサイト
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