【ライブレポート】彩冷える、「僕たちは君たちの美化されている“彩冷える”を超えるために立っている」
感謝祭2日目は前日のライブと同様、SEが流れると同時にメンバーが1人ずつステージに登場。「両手をあげて下さい!」という声と共に、レーザーライトと観客が手首に装着した光るブレスがキラキラと場内を照らしていく。リズミカルな「Day Dream」で見せた景色は8年というブランクを感じさせない。だが、この長い期間の中で彼らには葛藤もあったようで「僕たち彩冷えるは皆さんご存じのとおり、8年前に色んなことがありまして。そこからそれぞれの道を歩んで今に至るんですが、色んなところで言われた言葉が、絶対にあいつらは再び同じステージに立つわけがない。あんなにも世の中を騒がせてまで分裂した奴らがどの面下げてまたやるのかっていう声もいただきました。そのとおりだなって思っているんですけど、それでも僕たち5人がこうやって集まれるように背中を押してくれたのは、ここに集まってくれているみんな、そして今日来られなかったみんなのおかげで、僕たちはありがとうを伝えられるステージに立てたと思っています。そんな、いわゆる奇跡みたいなものを一緒に起こせたのが嬉しくて、何でも願い続ければ叶えられるんじゃないかなっていう1つの例をみんなに見せられたんじゃないかなって思っています」と、葵は心の内を語る。
奇跡を起こせたのはファンのおかげ。それだけに「ミカヅキノキセキ」ではメンバーだけでなく観客全員がじっくりと耳を傾け、曲の持つ世界観に浸っていった。その後も「栴檀は双葉より芳し」や「キリサメ」で人の心を揺さぶる音を奏でていく。特に「キリサメ」では、バンドの屋台骨となるドラマーのケンゾが曲を口ずさみながら叩く場面が印象的だった。そこからガラッと空気を変えて明るく演奏された「ユビサキ」が終わると、タケヒトは素直な想いをフロアに向かって吐き出していく。「8年前の今日、ちょうどここで最後のワンマンをやって。そこから8年、それぞれが個々になったことで責任とか全てが自分自身に返ってくる活動っていうのをやってきて、すごく色々な経験を積んだことで久しぶりに会ったときにやべぇなっていうぐらいパワーを感じることができた。8年ぶりに帰ってきたからには中途半端なステージは見せないので楽しんでいってください」
「僕たちの真骨頂は一体感だと思います。8年ぶりの0-EASTに、彩冷えるってこんなバンドなんだなっていうのを見せてあげたいんです。だから、力を貸してほしいなって。いけるか、東京!」本編後半に向け、もう一度気合いを入れる葵。ここからはロックバンドとして尖った部分を見せていくこととなる。また、メジャーデビューシングルとなった「会いたくて」では、J-POP色を強めに出すことによって聴きやすく仕上がっていた。そして、アンコール1曲目には「硝子細工のお話」を。この曲は葵、タケヒト、インテツの3人編成で演奏されたのだが、アコースティックギターの音色が美しく、宝石のようにまばゆい光を放つ照明と共に、聴く者すべての心に浸透していった。その後には「3人では成り立たないので」と、夢人とケンゾをステージに再度登場させると、「俺たちなりの一体感を見せてやろうぜ」と扇り、「コトノハノル」を演奏していく。
「今回、投票で2デイズにわけてみんなが聴きたい曲を振り分けてやってきました。もしかしたら君たちが聴きたかった曲をやれないかもしれないけど、1曲1曲、僕たちは全身で魂と愛を込めて届けています。なので、どの曲も8年前よりは良い響きをしていると思うし、君たちの心に突き刺さっていると思うんだ」と葵は言う。「まだ、ありがとうって伝えきれていなくて。これ以上に込めたい言葉があるんだけど、ありがとうの上の言葉が見つからなくて、何て伝えればいいんだろうって思ったときに、僕には歌うしかないし、他のメンバーはそれぞれの音を出すしかない。それなら、全力で君たちの聴きたい曲をぶつけるしかないだろうと思って今日は歌っています」と続けた。昨日と今日のライブを行うにあたって、ありがとうの上の言葉が見つからないというのはメンバー全員同じ気持ちだったことだろう。だからこそ、この後に演奏された「electric moon light」では、歌詞に出てくる「ありがとう」「あなたに出逢えて本当に良かった」という一文に心を打たれた。
そして大ラスに用意されたのは、「君の声と約束」。リクエスト第1位となったこの曲は、メインコンポーザーだった前任ギタリストの脱退後、彩冷えるとして活動するにあたり曲が必要となってメンバー全員で必死になって作った思い出のある1曲だ。原曲を持ってきたインテツは、本編中盤のMCでこの曲ができた背景について語った。それまで作曲をしたことなかったけど、シャーロック・ホームズ物語の第1作『緋色の研究』を読んでいるときにホームズが言った台詞に影響を受けた、と。“およそ一千もの事例に精通しているかぎり、一千一例めのやつが解き明かせないというほうが、かえって不思議なくらいなんです”この台詞に感銘を受けたインテツ。
そのとき彼のiPodには、自分の好きな曲が1000ほど入っていた。ならば、1001曲目の好きな曲は自分で作れるんじゃないかと考え、その後にできた曲が「君の声と約束」だったというのだ。ただ、この曲は冒頭からラストまで高音が至るところに散りばめられているだけあって、ボーカル泣かせの1曲といえよう。それでも歌うことができた理由を葵はこう挙げる。「想いを歌で伝えたかったから。それだけです。だから、想いを込めてまた君たちと1つ約束します。また会えるよ。必ず会うから」と観客に向けて丁寧に告げる。そして銀テープが舞う中、その光景を目前にしながら5人は想いを最大限に込めて演奏していった。
「明日から僕たちはまた、それぞれの日々に戻ります。でも、この道が交わらないことはなくて。また交わるから、その交わるときを楽しみにしていて下さい。また笑顔で会えるようにそれぞれの毎日を頑張っていこうね。彩冷えるでした!」と、笑顔で2日間を締め括ったのだった。
“また笑顔で会えるように”その言葉こそ、この8年の間でファンが求めていたもの。フロアからはすすり泣きさえ聞こえた。と、その瞬間、スクリーンに映像が流れ始めた。映し出されたのは、5人の新ヴィジュアルと、メジャー・デビューから9年が経つ2018年5月27日に、彩冷えるとして何かが起こるということだった。詳細は公式ホームページをチェックせよとのことだが、この日に起こる素敵な奇跡に期待したい。
文◎水谷エリ
写真◎前田俊太郎
◆彩冷える オフィシャルTwitter
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