【インタビュー】人間椅子・鈴木研一的考察「最高にカッコいいMV」
■車の上で演奏したーい
──今まで観てきたミュージックビデオの中で、印象深いもの/影響を受けたものはありますか?
鈴木研一:今まで、外タレの映像をいっぱい観てるわけだけど、それでも思い出すっていうのは相当印象が強いものですよね。そんな中でも、最初観たときジャーニー「セパレイト・ウェイズ」(1983年)は腰を抜かした。
──どういう腰の抜かし方を?
鈴木研一:高校生の時だったと思うんですけど、こんなにシリアスな曲でこんな気の抜けたビデオってねえだろ!って思った…んだけど、重く暗くなるのを明るい演技でカバーしてると思えば…。
──これは、相当ダサいミュージックビデオだと思いますよ。
鈴木研一:俺はそんなことないと思うんだよね。
──いや、恥ずかしいでしょ。できない演技をやらされて。
鈴木研一:いやいや、だってみんな仲よさそうじゃないですか。
──だって、エアギターだよ?
鈴木研一:でもこれは仲良くなければできない演技なんですよ。この後(スティーヴ・ペリーが)脱退する(1987年)じゃないですか。だから仲良かった頃の貴重な証拠なんです。みんなが楽しくなければこの映像は生まれてないですから。
──キーボードを壁に貼るってなんなんだろ。
鈴木研一:バケツやドラム缶をドラム代わりにしてすげえって思った。
──マジで凄いと思ったの?
鈴木研一:これはいいと思った。(ナカジマ)ノブは「クソなビデオだ」「曲はいいのに、あのビデオはないよな」って言ってたけど、これはいいビデオだと思うんだよなあ。
──その意見をジャーニーのメンバーに伝えたい。泣いて喜ぶと思うわ。
鈴木研一:僕らもそうなんだけど、肩に力の入った映像/気合い入れて演奏しているのって、観てて疲れるよね。いつもライブで観てるシーンと変わらないし。でも、こんなシーンは他では観れないじゃないですか。みんなで振り向いて歌うんですよ?
──なるほど、そういう良さか。
鈴木研一:金持っているのに、この低予算ぶりもすごいし。金を持ってるバンドが金をかけて撮ったクリップって、すごイヤな感じがするんですよ。
──その点、これはロケは一箇所、モデルのおねえさんの出演料だけか(笑)。
鈴木研一:いいビデオですよ。いわゆるカッコいいビデオって印象に残らなくて、このビデオは本人たちも周りのスタッフも考えに考えてこうしたはずっすよ。「ありきたりなのを作っても絶対面白くねえよな」って誰かが言ったんですよ。
──スティーヴ・ペリーとか「ちょっと恥ずかしくないっすか?」って言わなかったのかな。
鈴木研一:どっちかっていうと、スティーヴ・ペリーがこの恥ずかしいのを引っ張ったと思う。この人のライブの衣装がいつもピチピチのタンクトップで「これ、着る?」っていうセンスでね、本人はカッコいいと思っていると思うんだけど、独特なセンスですよね。
──いずれにしろ、今から見ると恥ずかしくてしょうがない黒歴史かな、と。
鈴木研一:そうすか?俺はすごい仲良かった頃の思い出だと思うんすけどね。「あんとき楽しかったよな!」って呑みながら言うような光景が浮かぶ。
──確かに、一番売れている絶好調の時だ。
鈴木研一:このあとがくっとダメになるんですよ…あ、まさかこれが原因で…(笑)。
──ぶはは(笑)。他にも、僕はカッコ悪いと思っているけど鈴木さんはカッコいいと思っている作品がありそうですね。
鈴木研一:ジューダス・プリーストの「嵐のハイウェイ」。これも腰抜けた。スタジオに銭湯の壁みたいな絵を書いて、その前で演奏してるんすけど、どうすかこれ。俺最高にカッコいいと思うんだけど。
──ぐるっと一周して、カッコいい?
鈴木研一:いや、ほんとにカッコいい。力が抜けてていいんすよ。『黄金のスペクトル』って酷評されたアルバムですけど、メンバーが車に乗るっていうのがすごい好きなの。これはただ車を運転するだけだけど、トラックに機材のせて走ってるだけのビデオってよくあったじゃないですか、そういう「一気に撮っちゃおうぜ〜」みたいな「俺、こんなことには労力使いたくねえよなああ。撮ってくれ」って、そういう力の抜けた感じがいいんですよ。
──せっかく砂漠っぽいところでロケもやってるのに、なんでスタジオに絵を書いてやっちゃったんだろうか。当時はガチでクールだったのかな。
鈴木研一:すれすれのところだと思うんです。メンバーも「俺らこれ仕事じゃねえし」みたいな「これがコマーシャルになるならいいかな」くらいでやっているのがいいんですよ。まじめにやられると暑苦しくてちょっと痛い感じがするんです。音もエアーで口パクだし、そこで本気になられてもちょっと…ねえ。ジューダス・プリーストに関しては、「ホット・ロッキン」と「ブレイキング・ザ・ロウ」は外せないです。
──「ブレイキング・ザ・ロウ」のビデオって、どんなんでしたっけ。
鈴木研一:車に乗ってるだけ(笑)。ちょっと演技するんですけど、そのつたない演技がまたいいんです。映画風になってちゃんと金かかってますけどね。
──これですね。
鈴木研一:ほら、これ!演技しながら歌うなんてステージでは見れないですよ。この名曲がこんなビデオだったなんて、忘れられないじゃないですか。だから宣伝になるんだと思うんです。だってね、これがただの演奏シーンだったらもう今頃は忘れてますよ。やっぱ車が基本だなあ、俺もやりたいな〜。
──車の上で演奏したいですか?
鈴木研一:乗りたい。車の上で演奏したーい。よく原宿とか六本木で宣伝トラックが走ってるじゃないですか。あんな風にトラック借りてやりたいな(笑)。
──次、やります?
鈴木研一:和嶋君が絶対うんって言わない(笑)。でもそういう曲…例えば「ドライヴィングなんとか」「なんとかハイウェイ」って曲ができれば、少ない可能性だけどあり得ないわけではないかな。でも俺が作ったんじゃ…和嶋くんに作ってもらわないと。編集長はどんなビデオがオススメですか?
──僕はもう、典型的なカッコいいやつですよ。当時かっけーって思ったのは派手なライブ映像を盛り込んだものだったから、鈴木さんの感覚とは真逆ですね。だからこそ、今観るとすげえ恥ずかしいけどね。デイヴィッド・リー・ロスの「ヤンキー・ローズ」とか。
鈴木研一:これはふたり(スティーヴ・ヴァイ/G、ビリー・シーン/B)ともすごい巧いじゃないですか。どうやって弾いてるのかなっていうギター小僧はいっぱいいたから、それの手がかりになる貴重な画ですよね。まず、リスナーはどのフレットで弾いてるのかすら想像つかなかったから。
──ガンズ・アンド・ローゼズ「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」も超絶カッコいいと思いました。次生まれるときはアクセル・ローズになるつもりだったから。
鈴木研一:ノブに近い感覚ですね。よくノブが「この人たちに抱かれたい」とか言ってますね(笑)。
──アクセルの子どもを産みたいとか(笑)。
鈴木研一:やっぱ熱い気持ちが伝わってくるような、熱いビデオが好きなんですね。
鈴木研一:僕らはファン目線というよりミュージシャン目線で見てしまって、「ベースアンプは何使ってんだろう」とか見ちゃうんですよね。
──今はビンテージの楽器も、当時は新品だったでしょうね。
鈴木研一:そうですよね。僕らのビデオでも、出演してくれている俳優さんの卵がいてね、今は何してるんだろうって思います。「りんごの泪」に出てくる女の子は、今いくつになっただろうかとか幸せになっただろうかとかね。一緒に出ているおじいさんは亡くなっちゃたかなとか想像しちゃうんすよね。
──当時の撮影は覚えてますか?
鈴木研一:覚えています。「りんごの泪」は特に。水に沈むシーンから始まるんすけど、春の養老の滝に行って、ここに沈んでくださいって言われて。すごい冷たかったんですよ。俺泳げないから苦痛で我慢してガタガタ震えたのは覚えてるな。これは確か九十九里浜で演奏してます。
──顔に水がかかるシーンがありますが、メンバーの中で鈴木さんが一番自然で素晴らしい演技ですよ。
鈴木研一:滝の下に顔入れろって言われたんだった(笑)。
──色んな思い出があるでしょうね。
鈴木研一:そう!「ダイナマイト」のPV見て俺プレベ使ってるわって気づいた。自分が何使ってたか忘れてたけど、ビデオはそういうところがいいですよね。そういや持ってたなぁ。忘れてたなあ。
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