【インタビュー】マキタスポーツ「音楽界のジョーカー的な役割ができればいいなあ」
■ 最近言いがちな言葉に、「すごい流行ってるんでしょ? 知らないけど」ってあるじゃないですか
マキタスポーツ:いや、それはいつも悩みどころでした。その場限りのライブ感で笑いを取ることはできるんですけど、それを何回も複製できるのか?っていうと、それは水物でできないものもある。少なくとも1980年代のお笑い…たけしさんたちが中心になっていた『オレたちひょうきん族』とかって、今観るとなんかしっくりこないというか。
──そうですか?
マキタスポーツ:それは、その場の空気とか時代のノリとか、選挙でいうところの「風」ですかね。完全に風が吹いていた状況の中で、体験的に同じ空気を吸っていたんだっていう感覚がそうさせていたわけです。
──面白かったことは事実ですもんね。
マキタスポーツ:面白かったのは間違いない。でも今見ると、ドリフターズの練られたコントとかの方が普遍的でスタンダードだしラディカルなんですよね。ロジカルに積み上げて作り上げられて、どこを壊すかがよくできているから、自分の息子や娘たちに今見せてもドリフは笑いますよ。だけど、ひょうきん族は不思議と笑わない。
──それは興味深い。
マキタスポーツ:もっと言うと、時代の空気を吸うとか同じ日本語を使い日本の経済状況の中にいるっていうこと自体のライブ感なんです。その文脈がコードとして入っていないことには、ずれ込むことも笑えない。より情報社会になっていったということだとも思うし、漫才ブーム以降のお笑いは明らかにハイコンテクストなものになっていっているわけですよね。ドリフのような普遍的なものが外国人にもわかるのは、言葉を利用していないからなんです。
──なるほど。
マキタスポーツ:お笑いは日本の中で花開き爆発し、継続してなぜかサブカルチャーから今もなおメインストリームにある。ロックは輸入品ですけど、日本は、日本語を使うお笑いで発達したポップカルチャーだと思うんです。お笑いは大衆文化ですから。そんな中で、一発ギャグのような戯けがだんだん通用しなくなってきて、言葉やいろんな要素が文脈に入っているものを共有していくことで、外国人にはますます解らないものになっていくという進化をしている。
──ええ。
マキタスポーツ:でも音楽は、言葉が分からなくても引っかかる要素がある。メロディとかにしても。
──インストなんか最たるものですね。
マキタスポーツ:何回聴いても心地いいとかね。で、ぐるっと一周して僕は芸人として音楽ネタを始めて行くわけですが、音楽通とか僕が好きなアーティストを好きな人にしか通用しないような、濃くて狭くて細くて深いネタばっかりになっていったわけです。未だに僕の場合は、老若男女すべての層に当てられるような音楽ネタって、数えるくらいしかない。
──でも、濃くて細くて深いネタこそ、望むところでもあるのでは?
マキタスポーツ:そうですね…ジャンキーみたいなところもあるんで、濃いものじゃないと自分が納得できないとかね。だた、10年以上前だったら「これについてこれない人はダメなんだ」くらいの勢いでやっていましたけど、今はそんなこともなくて、いろんな人たちが楽しめる音楽ネタを作らなければいけないというのが、一番テーマだったりしますよ。
──「わかんないやつはバカ」みたいな思考は、若さゆえということですか?
マキタスポーツ:そうだったかもしれないですね。それはあると思います。
マキタスポーツ:経験がでかいと思いますね。単純にその狭い細い道をやっていたことに自分が飽きたんです。はっと気がついたら「いつも同じお客さんに向けてしかやっていない」ことがつまらないなって思った。人と同じじゃないことをやりたいっていう天邪鬼的な考え方が根本にあるのならば、今の時代は、人と同じことをやらないこと自体が一番凡庸なことですよね。大衆が存在していない/お茶の間がないっていう時代ならばこそ、今一番のカウンターは、より大勢の人たちに向けて納得されるようなポップスを作ることだとも思います。
──なるほど。
マキタスポーツ:いろんなコミュニティ内で充足するようなエンタメはいくらでもある。言いがちな言葉に「すごい流行ってるんでしょ? 知らないけど」ってあるじゃないですか。
──ぶは(笑)。
マキタスポーツ:そういうのは現代的ですよね。「流行ってる。知らないけど」ってどういうことなんだよって思うけど(笑)。俺自身も言ってますからねえ、「すごいんだって?…知らないけど」って(笑)。なんとなく領域というか認知の場みたいな中で、そうじゃないエリアがいっぱいあって局所的に熱い盛り上がりをみせたりね。音楽で言えば、世間的には知られていない人が武道館をやったりとか…ヴィジュアル系でもよくありますよね。音楽だけに限らずいろいろと。
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