【インタビュー】ブラッドレッド・アワーグラス「君たちは新しいファミリー」
ハイレベルなメロディック・デスメタルを聴かせるフィンランドのニューカマー:ブラッドレッド・アワーグラスが日本でデビューを飾る。本国では3作目となる『Heal』はフィンランドの総合チャートで13位という好成績を収めているが、同郷のチルドレン・オブ・ボドムを彷彿させるアグレッシブな作品は、現在ヨーロッパでも急激に知名度を上げているところだという。バンドのフロントマンであるヤルッコ・コウコネン(Vo)に話を聞いた。
◆ブラッドレッド・アワーグラス画像
──今、ホームタウンのミッケリ(MIKKELI)にいるんですよね。
ヤルッコ・コウコネン:部屋の窓の外には雪が見えている。ミッケリはフィンランドの北部にある町だから、すっかり冬景色だよ。
──ミッケリはヘルシンキから210キロ離れたところにあるそうですが、どんなところなんですか?音楽シーンは栄えていますか?
ヤルッコ・コウコネン:ミッケリは人口5万人くらいの何もない田舎町なんだ。そして残念ながら、俺はここに生まれてからずっと住み続けている(笑)。特に話すこともないくらい退屈な町だけど、幸い俺達はメタルという生きがいを見つけることができた。正直な話、音楽シーンも特に語るべきことがないね。2~3組のメタル・バンドがいるくらいじゃないかな。ライブができる環境もほとんどない。新しいハコができたら、他のどこかが潰れてしまうような状況さ(笑)。ただ、毎年夏になるとミッケリでは<ジュラシック・ロック・フェスティバル>という音楽フェスが開催されるんだ。世界的なバンドもいくつか出演していて、今年のヘッドライナーはバッド・レリジョンだった。このフェスがミッケリの夏のハイライトだと思うね。
──ファースト・アルバム『Lifebound』(2012年)は名門レーベル=スパインファームからのリリースでしたね。
ヤルッコ・コウコネン:そうなんだ。アルバムは自分たちで制作していたんだけど、マスタリングの段階になってスパインファームからのオファーを受けて契約にこぎつけることができた。
──とても高いクオリティを誇るファースト・アルバムで、正直驚きました。
ヤルッコ・コウコネン:ありがとう。俺もファースト・アルバムにしてはよくできた作品だと思う。でも、当時の俺達は自分たちのスタイルを模索中だった。その結果、セカンド・アルバムでさらに成長と進化を続けているんだ。
──セカンド・アルバム『Where The Oceans Burn』(2015年)のリリースまで3年という期間が空きました。1作目は、ラム・オブ・ゴッドを彷彿とさせるグルーブ・メタルやスラッシュ・メタルの要素も感じられましたが、セカンド作はメロディック・デスメタルからの影響が色濃く出ていますね。
ヤルッコ・コウコネン:そうだね。『Lifebound』には「Of Regret, Fear and Forgiveness」というダークで雰囲気のある曲が収められているんだけど、俺達はその世界を押し広げていこうと考えていたんだ。そのためにじっくりと時間をかけてセカンド・アルバムを作った。ただ、その期間も国内の主要のフェスに出演したし、ライブ活動は続けていたからそこまで時間が空いたという印象はないんだよね。この作品のおかげで、俺達はヨーロッパのメロディック・デスメタルファンの間でも名の知れたバンドになることができたよ。
──ブラッドレッド・アワーグラスの音楽には、メロディック・デスメタルのみならずグルーブ・メタルやスピード・メタル、スラッシュ・メタルなど様々なジャンルからの影響を感じます。あなたが影響を受けたメタル・バンドを教えてください。
ヤルッコ・コウコネン:うーん、すぐには答えられないなぁ。新世代のバンドからの影響が大きいのは確かだ、マシーン・ヘッド、イン・フレイムス、チルドレン・オブ・ボドム、ラム・オブ・ゴッド、ホワイトチャペルとかね。逆にメタリカやスレイヤー、メガデスといったクラシックなバンドは通っていない。もちろん彼らが現代のメタルのスタイルを形作ったのは間違いないのはわかっているけどね。でも、メイン・ソングライターのアンティ・ネノネン(リードギター)の音楽嗜好はとてつもなく広いんだ。メタルはもちろんのこと、1980年代のポップやクラシック音楽も愛聴している。そういうことが俺達の音楽に現れているのかもしれないね。
──『Heal』はフィンランドでは10月にリリース済みですが、評判はいかがですか?
ヤルッコ・コウコネン:今のところ、とても良いね。オフィシャル・チャートでも13位に入ったんだ。信じられないことだよ、メインストリームのアーティストたちに混ざって、自分たちの作品がチャートにいるんだからね。それに国内メディアのレビューがとても好意的なことにも驚いているよ。
──これまでリリースしてきたアルバム3枚を一言で表現できますか?
ヤルッコ・コウコネン:そうだな、ファースト・アルバム『Lifebound』は“Mess(混乱)”。当時の俺達はまだ自分たちの音を模索していた。デビュー作としては良い出来だけどな。いま振り返っても誇りに思えるよ。セカンド・アルバム『Where The Oceans Burn』は、一言では表現できないな。(しばらく考え込んだあと)“Turning Point(転換期)”にしよう。俺達の音に辿り着いた作品だ。最新作『Heal』は“Development(発展)”だ。前作の路線を発展させた内容だと思っているからね。
──今作のタイトルを“Heal(癒し)”にしたのはなぜですか?
ヤルッコ・コウコネン:今作にとりかかる前に全体のイメージを掴みたくて、なんとなく曲の歌詞を書いていたんだ。結構な曲数の歌詞ができたときに、至る所に“Heal”という単語が入っていた。それで作品タイトルにしようと思ったんだよ、前作のタイトルが長かったから今作は短いものにして、コントラストを持たせたいと思っていたしね。
──「Requiem of Our Last Days」は11分を超える大作ですが、巧みな展開で長尺の曲とは感じませんね。
ヤルッコ・コウコネン:同感だね。どのバンドも大作を書くことに興味を抱いているかもしれないけど、実際に作品に入れるかどうかは別の話だ。俺達には最後まで集中力を欠かさずに聴ける曲が書ける自信があったから、今作本編の最後を飾る曲にしたのさ。本当のことを言うとボーカル・メロディはレコーディング当日の朝まで悩んだんだけどね(笑)。もう出たとこ勝負みたいなカタチで録音に臨んだけど、実際にやってみたらとても上手くいったんだ。誇りに思っている楽曲だよ。
──素朴な質問なのですが、なぜフィンランドには素晴らしいテクニックを持ったメタル・バンドが多いんでしょうか。
ヤルッコ・コウコネン:ハハハ、良い質問だな(笑)。基本的にフィンランドはいつも寒いし暗い、憂鬱な気候が影響しているのかもしれない。冬は外に出ないから練習にはもってこいだしね。でも、俺にとってその環境は悪いことじゃないんだ。確実な答えは見つからないけど、君に指摘には同意するよ(笑)。
──フィンランドでオススメのアーティストはいますか?
ヤルッコ・コウコネン:フィンランドではヒップホップがメインストリームなんだ。正直なところ、メタルは10年前と比べると勢いはないね。俺がオススメするのは、女性アーティストでは、JENNI VARTIAINEN。メランコリックでダークな世界観と美しい歌声を持っている。
──ヒップホップ・シーンで最も注目を集めているのは?
ヤルッコ・コウコネン:俺の音楽的な好みじゃないけどCHEEKが一番有名だね。
──影響を受けたボーカリストはいますか?
ヤルッコ・コウコネン:すぐに思い浮かぶボーカリストは居ないけど、挙げるとするとアンダース(IN FLAMES)だな。IN FLAMESの新作『Battles』はこれまでとは方向性が違うものだったけど、俺は好きだよ。もちろん昔の彼らがベストだけどね。
──最後に日本のファンにメッセージをお願いします。
ヤルッコ・コウコネン:日本のファンにとってブラッドレッド・アワーグラスは新しいバンドだと思うけど、俺達、ヨーロッパでは知られた存在なんだ。君たちを新しいファミリーに迎え入れられることをうれしく思うよ。
取材・文:澤田修
Photo by Jukka_Suihkonen
ブラッドレッド・アワーグラス『ヒール』
【CD】¥1,800+税
※日本盤限定ボーナストラック2曲収録/日本語解説書封入/歌詞対訳付き
01.クワイエット・コンプレイント
02.ザ・ラスト・オブ・アス
03.アーキテクツ
04.ウィ・フォーム・ザ・ブロークン
05.レムナンツ
06.シックス・フィート・セイヴィアー
07.タイムズ・ウィ・ハド
08.ディヴィニア
09.レクイエム・オブ・アワ・ラスト・デイズ
《日本盤限定ボーナストラック》
10.イン・マイ・ワールド・ナウ
11.デッド・レヴェリー
【メンバー】
ヤルッコ・コウコネン(ヴォーカル)
アンティ・ネノネン(リードギター)
ホセ・モイラネン(ベース)
ヤルッコ・ヒュヴォネン(ドラムス)
ラウリ・シルヴォネン(ギター)
◆ブラッドレッド・アワーグラス『ヒール』レーベルサイト