FEMM、時代を錯綜する“懐かしくて新しい”ミュージック
マネキン・ラップ・デュオ、FEMMが10月25日(水)にカバーアルバム『80s/90s J-POP REVIVAL』をリリースした。80年代、90年代の名曲をカバーするというのはある意味それだけで話題になるものだが、FEMMのカバーはひと味違う。
◆FEMM ミュージックビデオ
FEMMとは、RiRiとLuLaによるガールズユニット。2013年頃からストリートで活動を始め、翌2014年にCDデビュー。エレクトロやヒップホップを取り入れた音楽性が、その独特のビジュアル展開とともに国内外で話題となり、メジャーデビューも果たした。そして2017年9月からは80~90年代の日本カルチャーのリバイバル企画『80s/90s J-POP REVIVAL』を仕掛けてきた。その集大成ともいえる作品が、カバーアルバム『80s/90s J-POP REVIVAL』となっている。
このアルバムに収録されている楽曲の中で、特に注目すべきは「淋しい熱帯魚」。ある一定の世代以上ならタイトルからピンとくるだろうが、この曲はWinkの大ヒット曲のカバーである。Winkは80年代末から90年代にかけて一世を風靡したアイドルデュオで、この「淋しい熱帯魚」は5作目のシングルとして1989年にリリースされ、大ヒットを記録した。当時テレビの歌番組を観ながら振り付けを真似たという女性も多いだろう。
その「淋しい熱帯魚」をFEMMはカバーしているのだが、ミュージックビデオは非常に衝撃的だ。というのも、オリジナルのWinkヴァージョンのミュージックビデオを映像自体そのまま完コピしているからだ。衣装など一部のディティールは多少現代的に変えられているが、振り付けやカメラアングル、そしてタイトルの書体に至るまで、Winkの音と映像をそのまま現代に甦らせている。当時のWinkを知っている方なら、その完成度に思わず悶絶してしまうくらいの出来栄えなのだ。
そして『80s/90s J-POP REVIVAL』に収録されるほかの楽曲も大変興味深い。一風堂の「すみれ September Love」(1982年)から、hitomiの「CANDY GIRL」(1995年)まで、選曲されている楽曲の時代の振り幅は大きい。しかし、全体的にはWinkに象徴されるように、バブル期からバブル崩壊までの時代の躁鬱感を反映したJ-POPの名曲がセレクトされ、いずれもFEMM流にアレンジされている。音の質感も今っぽいとはいえ、どこかに80年代から90年代にかけて主流だった過剰なまでのアレンジを彷彿とさせるリズムやシンセの装飾音が施されている。そして、そういった少しレイドバック気味のエレクトロサウンドに乗せて、「My Revolution」や「どんなときも。」や「浪漫飛行」や「今夜はブギーバック」といった耳馴染みのある楽曲が無機質に表現されていくのだ。“懐かしくて新しい”という時代が錯綜するような感覚は、聴いているうちに癖になってくる。
そもそもFEMMは、先鋭的なエレクトロサウンドを起用してきたアーティストだ。欧米でも話題になった代表曲「Fxxk Boyz Get Money」を筆頭に、常に一歩先を進んでいるような印象が強かった。しかし昨年のメジャーデビュー以降は80年代から90年代へのオマージュのような楽曲が増えてきており、そういった意味においてもこのカバーアルバム『80s/90s J-POP REVIVAL』は彼女たちの現在を現したアルバムだといってもいいだろう。そして「淋しい熱帯魚」のミュージックビデオは、過去と未来をつなごうとする彼女たちの強い意思表明とも言い換えられるのだ。
ここ数年で、80年代エレクトロの再評価は定番化されているし、90年代に関しても少しずつ掘り起こされつつある。そんな時代に登場したFEMMのカバー作は、“懐かしくて新しい”という、今の音楽シーンを象徴する作品になっている。このアルバムを聴いてどう感じるかは個人それぞれだろうが、「淋しい熱帯魚」のミュージックビデオ同様、時代とは何かを考えさせられる問題作といえるだろう。
文◎栗本斉
『80s/90s J-POP REVIVAL』
CDリリース:10月25日
01 My Revolution feat. Akina, Anna & Mikako from FAKY
02 CANDY GIRL
03 淋しい熱帯魚
04 どんなときも。
05 すみれ September Love
06 There will be love there -愛のある場所-
07 Dear Friends
08 浪漫飛行
09 卒業
10 BELIEVE IN LOVE
11 SEVEN DAYS WAR
12 今夜はブギー・バック (nice vocal) feat. Lil' Fang from FAKY & Yup'in
◆FEMM オフィシャルサイト
この記事の関連情報
FEMM、ラストEP『CHERRY』リリース
マネキンデュオ「FEMM」、2023年をもって10年の活動に幕。名前に秘められた真実と願いを明かす
ザ・ソープガールズ、初来日ツアー全11公演にMOSHIMO、Gacharic Spin、ベッド・イン、チャラン・ポ・ランタンなど豪華ゲスト
FEMM、時間と重力を狂わせる「Crystal Ball」MV公開
FEMM、EP「THE SIX」リリース
FEMM、ニューアルバム『Tokyo Ex Machina』サプライズリリース
FEMM、仮想都市“新東京”が舞台の「Lolly」MV公開
FEMM、劇薬的な「Mental Health」MV公開
FEMM、ガールズによるガールズのためのアルバム『Tokyo Girls Anthem』リリース