【インタビュー】布袋寅泰、「目の前にある現実」と「今こそ大切にすべき言葉」
■カッコいいものを作り続けるのは僕らの使命
■これが1枚目ですよ
──布袋寅泰にとって、作品作りとライブというのは、どういう関係性にありますか?
布袋:作品によってはライブを意識している作品もあれば、全くライブのことを考えず、クリエイションだけに没頭した作品もある。ライブで感じとった感触やエネルギーを作品に投じて、またその作品をライブで演ると違ったものがオーディエンスから返ってくる。鶏か卵か?じゃないけどライブと作品はネバーエンディングで、密接な関係にあるよね。僕のギターはいわゆるテクニック至上主義ではないけど、独特のスタイルやキレのいいビート感はライブで活きるし、背もデカイのもあり他のギタリストと違いますからね(笑)。作品作りは生みの喜びも苦しみもあるし孤独な作業だけど、その孤独を楽しんでいる自分もいる。ライブは観客が1万人でも数十人でもやる時の気持ちは変わらないし、「目の前にいる一人の心を掴む思いで音を届けたい」っていう気持ちは年々強くなってきていますよ。まだまだステージに立つことが楽しみだし、常に新鮮な音が出せるように心がけています。
──ただただ少年のようにピュアで居続ける…その原動力はどこにあるのかな。
布袋:そういった意味では、常に自分の道を一生懸命に一歩一歩切り拓いてきたつもりだし、守りに入らずやるべきことをやってきた。ザ・ローリング・ストーンズのようなスタジアム公演を毎日やっているバンドがブルースのアルバムを出したりするのは、やっぱりそれは自己更新するためだと思うよ。彼らが「(I Can't Get No) Satisfaction」を、僕がBOOWYで「Dreamin’」を作ったのはとても若い時期で、その頃は今にはない爆発的なエネルギーがあった。70歳になったストーンズが、55歳になった布袋が今もそれを演りつつも、「今だからやりたいこと」ってやっぱりあるし大切だと思うんですね。ステージで共演させてもらったストーンズは、ステージの上も大音量で想像以上にパワフルでした。このバンドは今に生きているんだな、と感動しました。
──ええ。
──それが作品を作る意義か。
布袋:僕にも“HOTEI”っていうスタイルがあるし、「このサウンドはこれがこうで…」なんて説明する必要もなく、とにかくどんな人が聴いても気持ちいい、カッコいい、って思ってもらえるものを与え続けたい。向こうでライブハウスから再スタートしたことも刺激になり、もう一度自分の気持ちをリセットできたし、1万人も100人も自分にとって本当に大切な場所だって今は思える。カッコいいものを作り続けるのは僕らの使命ですからね。
──アーティストの性ですか。
布袋:まあ、力を入れればいいっていうものでもなくてね、今までに何十枚も作品を作ってきたけど、150%の力を注いで出来上がったつもりの作品をあとで聴くと「ああ、ちょっと力入れすぎちゃったな」「なんでこんなに吠えちゃったんだろう」って思うこともある。大きいビートを出したかったんだけど、音を詰め込み過ぎて逆にこじんまりしちゃったりね。
──そこはキャリアを積まないとわからないところでしょうか。
布袋:だからね、今まで以上に集中しているんだけど力が抜けていて、音が伸びて、音が重くて、踊れる。初めて自分の理想のアルバムがやっとできあがった。これが1枚目ですよ。そう言うとみなさん「いやいやご謙遜を」と言うけど、今回は本当にそう思いました。陸上選手の記録の“0コンマ何秒”じゃないけど、自己更新って本当に難しいじゃないですか。評論家に認められればいいってわけじゃないし、自分自身が感じることだからね。一歩進んだと思えばまた立ち止まり…その連続で答えもない。
──35年かかって、やっとその領域に?
布袋:そういう風に思えたのも、アーティストとしての35年間という月日や、渡英後の5年間での変化、今目の前にある混沌、目を背けてはいけない現実っていうものが、僕と音楽を今まで以上に密接に繋げてくれたのかもしれない。背伸びもせず若ぶりもせず、自分に忠実にいられる55歳っていう年代だからこそできた作品だとも思ってます。
──ミュージシャンにとって最も脂が乗る年齢って、意外とそんな感じなのかもしれないですね。
布袋:かもしれないですね。20歳のような若さはないけど、経験から得た知恵というかコツというか技というか、そういったものはあの頃よりも絶対的に強いですからね。
布袋:東京暮らしに比べたら何もかもが不便ですけどね。24時間のコンビニもなければクーラーもない。冬は暗い、寒い(笑)。そんな中、今回のテロで感じたのは、テロには決して屈しない英国人の誇り高い気質。“屈しない”=“いつものとおりの自分たちでいる”ということ。ロンドンブリッジとバラ・マーケットで起きたテロの後に、警察の指示でみんなが避難している写真の中で、大きなパイント・グラスを持ってビールをこぼさないようにパブから逃げている男性の写真が新聞に載ったのね。日本だったら「けしからん」ってことになりそうだけど、「何があっても動じなかった…それがとても英国人らしい」と言って皆が拍手を送った。そんなユーモアや強さが日常にある国ですね。そんな情景を「London Bridge」という曲で描きました。
──今回の歌詞では、それが表現されているわけですよね。
布袋:ロンドンにいなければ描けなかったものかもしれない。日本にだっていろいろ問題はあるし、世界中が混沌とする時代だから、脳天気なファンタジーをシャウトするつもりにはなれなかった。逆に素直に今と向き合ったことで、例えば今まで一番歌いたくないと思っていた「愛してる」っていう言葉も、「今こそ大切にすべき言葉」だからこそ「歌いたい」って思えるようになった。
──“アイシテル”は、作詞:布袋寅泰「ヒトコト」の歌詞で。
布袋:未熟でつたないのは、僕の歌詞ですね(笑)。
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