【インタビュー】シェラザード、憂いを帯びた世界観や緻密に構築された最新アルバム『once more』を平山照継が語る

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■今のシェラザードのメンバーで新曲が詰まったALを作るのが長年の夢
■完成させて感無量です。良い作品になっている自信はあります


――昔ノヴェラをコピーしようとして、コード進行は独特だわ、バックは変拍子だわで、途方にくれたことを思い出します(笑)。『once more』の5曲目に入っている「Get to My Heart You Turn it Up」は、無機質なベース・リフがモチーフとして鳴っている中で情景が変わっていくという成り立ちが印象的です。

平山:これは、アル中の曲なんですよね(笑)。酩酊感みたいなものを表現したくて作った曲です。「Get to My Heart You Turn it Up」のメロディーはずっと昔から持っていたというか、ストックしてあって。それを、この曲のベース・リフに乗せてみたら、乗るじゃん、良いじゃんと思って使うことにしました(笑)。構成的には、ずっと無機質に進んでいって、途中にジャズっぽい展開が入る形になっていて。「Get to My Heart You Turn it Up」はシェラザードの中でも新境地というか、この曲限りじゃないかなと思いますね、こういうものを作るのは。


――4ビートのパートを入れ込むアイディアは、どんな風に思いついたのでしょう?

平山:これも、そういうのが好きだからという一言に尽きます。過去にはノヴェラ時代の「魅惑劇」で、近いことをやっているし。だから、ノヴェラが好きな人は、この曲を聴いて懐かしさを感じてもらえるかもしれないですね。

――感じました。「魅惑劇」といえば、あの曲の間奏ではガットギターの独奏をされていますが、クラシック・ギターも学んでいたのでしょうか?

平山:いや、全然。あれは、もう適当ですよ(笑)。こんな感じかなと思って、自分なりに作っていって。それっぽく聴こえるようにしただけです。

――……凄すぎる。「魅惑劇」をレコーディングされたのは、20歳そこそこの頃だったんじゃないですか?

平山:そう。曲を作ったのが19歳とかで、録ったのは22歳くらいかな。


▲平山照継 Terutsugu Hirayama (Guitar)
――早熟だったんですね。ギターの話が出ましたので、今度は『once more』のギターについて話しましょう。今作のギターで、こだわったことは?

平山:今回は、ほとんどが自宅録音なんですよね。でも、ライン録りだけではなくて、アンプとキャビネットを鳴らすパターンも使っています。僕が今住んでいるところはすごい田舎で、昼間だったら結構大音量でギターを鳴らしても問題ないんですよ(笑)。そういう環境だから、キャビネットで鳴らすパターンとライン録りを選べるんです。結果的に、バッキングはアンプを鳴らして、ソロはラインという曲が多くなりましたね。そのパターンが、一番ギターの音が抜けるから。

――たしかにバッキングの奥行きや広がりのある音に対して、ギター・ソロがすごく耳に近い音になっているのは本作の特徴の一つといえますね。ホット&テクニカルなフレージングと相まって、聴き応えのあるソロが揃っています。

平山:本当ですか?

――はい。「揺るぎなき世界」もそうですし、「Child in Time」もそうですし。

平山:「Child in Time」のソロは、ちゃんと弾けてないんですよね(笑)。いかに雰囲気で持っていって、ゴマカすかという(笑)。

――ゴマカしているとは思いません。生々しいフィーリングが本当に魅力的で、最近のロックは忘れているものがあるなと思いました。

平山:それは、僕も感じますね。昔のロックの音源とかを聴くと、弾き切れていなかったり、ちょっと強引だなというものだったりが、そのまま活かされていることが多くて。それが“ハッ”とする瞬間になっていたり、プレイヤーの熱さを感じさせたりするんですよね。だから、今回のギター・ソロもきれいに纏めるために後から修正しようというような気持ちはなかったです。


▲永川敏郎 Toshio Egawa (Keyboards)
――正解だったと思います。「Get to My Heart You Turn it Up」の4ビート・パートのソロも極端にジャジーな方向に振らずに、ロック感があるのが最高です。

平山:この曲の前半のメロウなフレーズを弾いているところは、最初はヴォーカルのスキャットを入れようと思っていたんです。でも、大分経ってから、ここはやっぱりギターのほうが良いなと思い直して。それで、ちょっとロバート・フリップっぽいウーマン・トーンで、メロディーを弾くことにして。その後ジャズっぽくなるんですけど、僕はジャズ・ギターは弾けないから、なにかジャズっぽく聴こえるアプローチはないかなと思って。それで、いろいろやっていたら、コンビネーション・オブ・ディミニッシュというスケールを適当に弾けばジャズっぽく聴こえることに気づいた。でも、それだけでは最後までいけないから、途中でロックになろうと思って(笑)。それで、中間はペンタトニックになっているんです(笑)。

――センスの良さを感じます。ハイブリッド感ということでは、クラシカル&ブルージーな「Once More Something」のギター・ソロもあげられますね。

平山:この曲は、基本的にはメロディックなソロを目指していましたね。あと、途中からキーボードとハモるということも最初から決めていたので、それに繋がるように作ったら、こういうソロになりました。

――ギター・ソロは、あらかじめ作り込むタイプでしょうか?

平山:それは、曲によります。「Child in Time」なんかは、アドリブなんですよ。「Once More Something」も前半はアドリブで、途中から作ったソロに移行する流れになっている。僕はアドリブの良さと、作り込む良さの両方を活かしたいんです。

――ノヴェラの頃は、どうだったのでしょう?

平山:ノヴェラの頃は、わりと作り込んでいました。それに、ライヴの時もわりと音源に忠実なソロを弾くことが多かった気がしますね。


▲堀江睦男 Nobuo Horie (Drums)
――ギター・ソロも楽曲の一部と捉えていることが分かります。今作で使用した機材についても話していただけますか。

平山:アンプは、クレイトのヴィンテージ50です。チューブ・アンプで、アンプのナチュラルな歪みを活かしました。僕は第一期ノヴェラの頃はマーシャルを使っていたんですけど、マーシャルでは歪ませていなかったんですよね。アンプはクリーン・セッティングにして、ディストーションで歪ませていたんです。マーシャルは歪むアンプだと思って、憧れて買ったんですけど、当時のマーシャルは歪まないアンプだったという(笑)。マスター・ヴォリュームが付いてないから、歪ませようと思ったらとんでもない音量にしないといけなくて。これはダメだと思って、アンプがクリーンな状態で、いかに良い音を出すかという方向に頭を切り替えたんです。

――でも、当時はドライヴ・エフェクターを使わずに良い音を出すのがカッコいいという風潮があった気がします。

平山:そうでしたね。でも、そういうことよりも、買ってしまったマーシャルでいかに良い音を出すかということが僕の中では重要だったから。その後、第二期はヤマハのトランジスタ・アンプを使っていたんです。

――その話は伝説になっています。『once more』のレコーディングで、ギターはどんなものを使われたのでしょう?

平山:ギターは、いろいろ使いましたね。今メインにしているのは、バーニー(フェルナンデス)のモニターをしていた頃に作ってもらったSGタイプで、フロイド・ローズが付いているヤツですけど、フェルナンデスのAPGも持っていて。実はAPGが一番音は良いんですよ。なので、基本的にAPGで録って、ソロはPUをハムバッキングに乗せ換えたムスタングとかを使いました。

――最近はムスタングなども使われているんですね。ノヴェラ時代の平山さんは.008ゲージの弦を使っていたと聞いたことがあるのですが、本当ですか?

平山:本当です。今も.008ゲージを使っていますよ。昔から、弦は柔らかく、ピックは硬くというのが好きなんですよ。それに、ピッキングが強いほうだと思いますね。

――なるほど。もう一つ、これも前から知りたかったのですが、使っているピックはオニギリ・タイプじゃないですか?

平山:そう。オニギリ型のハードを使っています。ティアドロップは、一ヶ所しか使えないじゃないですか。だから、ちょっとズレたら持ち直さないといけないけど、オニギリ型は弾きながらでも直せるから便利だなと思って。

――やっぱり、オニギリ・タイプですか。使用機材の特性もあるとは思いますが、使用弦とピック、強めのピッキングということが平山さん独自の“甘太い音”の大きな要因になっていることが分かります。さて、『once more』は楽曲、歌詞、メンバーぞれぞれのプレイとサウンドなど、聴きどころ満載の一作になりました。

平山:ありがとうござい。今まで、堀江(睦男:dr)さんが入ってからのメンバーでオリジナル・アルバムを出したことはなかったんですよ。今のシェラザードのメンバーで新曲が詰まったアルバムを作るのは長年の夢だったので、完成させて感無量です。良い作品になっている自信はあるので、沢山の人に聴いてもらえると良いなと思っています。

――シェラザードやノヴェラのファンの方はもちろん、若い世代のリスナーにも聴いて欲しいです。『once more』はシェラザード結成40周年を記念したアルバムでもあるわけですが、40年に亘ってロックし続けている人生には、どんなことを感じますか?

平山:やっぱりね、根がロックなんでしょうね。僕がシェラザードを始めた頃は“ロックはいつか卒業するものだ”という感覚がミュージシャンにも、リスナーにもあったんですよ。でも、僕は卒業することはなかった。“KEEP ON ROCKIN’”という言葉を胸にロックし続けて、気がつけば長い年月が経っていたんです。だから、自分にはこういう生き方しか出来なかっただろうなと思います。

――“ロックと共にある人生”といえますね。『once more』リリースと40周年を祝って、10月に大阪と東京で行なわれるライヴも楽しみです。

平山:東京でライヴをするのは、5年ぶりかな? いや、6年ぶりだったかな? とにかく久しぶりなので、すごく楽しみだというのがまずあって。それに、ニュー・アルバム発売記念ということではありますけど、40年の集大成ということも考えて、昔の曲と新曲をバランス良くやりたいと思っています。なので、ずっと応援してくださっている方はもちろん、しばらくライヴから遠ざかっている人とかにもぜひ来て欲しいです。

取材・文●村上孝之

リリース情報

『once more』
2017.9.27 in stores
■完全限定プレス盤(紙ジャケット&SHM-CD仕様)
KICS-93526/¥3,300+tax
■通常盤
KICS-3526/¥3,000+tax
NEXUS/KING RECORDS
1.ROCK'N ROLL DIVA
2.虚言(そらごと)
3.GAIA VIRUS
4.揺るぎなき世界
5.Get to My Heart You Turn it Up
6.Child in Time
7.夜の散文詩
8.Once More Something

ライブ・イベント情報

シェラザード結成40周年&ニュー・アルバム『once more』発売記念ライヴ
■10/14(土)大阪・心斎橋 soma
■10/21(土)東京・吉祥寺 ROCK JOINT GB
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