【インタビュー】シェラザード、憂いを帯びた世界観や緻密に構築された最新アルバム『once more』を平山照継が語る

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1980年に彗星のごとく登場し、ジャパニーズ・プログレッシヴ・ロック・シーンに多大な影響を与えたノヴェラの母体になった伝説的なバンドとして知られるシェラザード。1994年に、五十嵐久勝(vo)、平山照継(g)、大久保寿太郎(b)、永川敏郎(key)、堀江睦男(dr)というメンバーで復活を遂げた彼らの最新アルバム『once more』が、9月27日にリリースされる。シェラザード結成40周年を飾る作品という側面も持った『once more』は、彼らならではの憂いを帯びた世界観や緻密に構築されたアレンジ、ハイレベルなプレイなどを満喫できると同時に、新たな顔も味わえる必聴の一作となっている。シェラザードの中枢を担う平山照継をキャッチして、ノヴェラ時代の話なども交えつつ『once more』についてじっくりと話を聞いた。

◆シェラザード~画像~

●シェラザード
五十嵐久勝 Hisakatsu Igarashi (Vocal)
平山照継 Terutsugu Hirayama (Guitar)
大久保寿太郎 Jutaro Ohkubo (Bass)
永川敏郎 Toshio Egawa (Keyboards)
堀江睦男 Nobuo Horie (Drums)

■ノヴェラでもなく僕らが20歳の頃に戻れるようなものを作りたい
■しかも一辺倒ではなくていろんな曲が入っているアルバムを作りたい


――『once more』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

平山照継(以下、平山):再始動してからのシェラザードはこれまで3枚アルバムを出してはいますけど、2。3枚目は昔の曲を焼き直したようなアルバムだったので、僕の中には新曲で固めたアルバムを出したいという想いがあったんです。シェラザードらしい作品を作りたい。ノヴェラでもなく、僕らが20歳の頃に戻れるようなものを作りたい。しかも、一辺倒ではなくて、いろんな曲が入っているアルバムを作りたいと。5年ほど前からそう思っていて、今回それをようやく形にできました。

――狙い通り、シェラザードのいろいろな顔を味わえるアルバムになりましたね。曲を作っていく中で、アルバムの指針になった曲などはありましたか?

平山:そういうものは、特になかったです。実は『once more』は、曲を作った順番通りに並んでいるんですよ(笑)。意識したわけではなくて、結果的にそうなった。今回は2曲ずつ作ってメンバーにデモを渡すようにしたんですけど、1曲作ったら違うタイプの曲を作って、次のタームではまた違うタイプの曲を作って、その次はまた戻ろうかな…という感じで進めていったんですね。それが8曲溜まった時に、偶然にも“あれ? このままアルバムの並びで良いじゃん”と思ったんです(笑)。


――たしかに『once more』は、曲順も絶妙です。『once more』に収録されている楽曲はシェラザードらしい凝った展開やアレンジが活かされていますが、その辺りも平山さんがデモの段階で作り込まれたのでしょうか?

平山:作り込みましたね。オケを作って、歌詞がついた状態でヴォーカルを入れて、キーボード・ソロまで弾いて…というデモを作りました。ただ、それは渡すだけです。楽曲の構成は変えないけど、それぞれのプレイは、これを元にして考えてくださいと。僕は、好きなように変えてもらって構わないんです。その結果そっちが正しいこともあるし、よく分からないこともあるけど(笑)。

――なるほど(笑)。とはいえ、自分がイメージしていたものと極端に違ってしまった場合は……。

平山:そういう時は、こうして欲しいと言います。でも、それ以外は基本的にお任せですね。それに、みんな僕がやりたいことを分かってくれているので、大体思った通りになります。


▲平山照継 Terutsugu Hirayama (Guitar)
――そういえば、ノヴェラ時代の平山さんは、すべてのパートのフレーズを口頭でメンバーに伝えていたという話を聞いたことがあります。

平山:そう(笑)。ノヴェラの頃は週に3~4回スタジオに入っていたから、メンバーの対応力も凄く高まっていたんです。なので、新曲ができたらスタジオで「こういうビートを叩いて」「こういうフレーズを弾いて」と言って、それをみんなで演奏したのを録って。で、次のセクションはこうだよと言って、みんなで演奏してもらって…ということを繰り返していました。いつも、そういう作り方をしていましたね。ノヴェラの曲を聴いて、僕が譜面を書いていたと思っている人が多いみたいだけど、そうではなかったんです。

――そういうやり方で、あれだけ緻密な曲を形にしていたのは驚きです。それに、平山さが書かれるメロディーは昔から一貫してキャッチーで、それは今回の『once more』にも継承されていますね。

平山:よく“平山節”と言われるんですけど、そういうものがあるみたいですね。僕は、敢えて…というわけでもないけど、流行りのメロディーとか、リズムとかは使わないようにしているところがあって。それが、良い方向に出ているのかなと思いますね。

――出ています。'70年代~'80年代初期の頃のロック・バンドは、歌メロはヴォーカリストが考えることが多かったわけですが、平山さんは違っていたんですね。

平山:違いましたね。僕は、やっぱり作り込むのが好きなんだと思う。作り込まないと僕の曲にならないというような面もあるし。だから、昔から曲を作る時はメロディーも自分で考えていました。

――根っからの音楽好きといえますね。では、『once more』に収録されている楽曲について話しましょう。アルバムの幕開けを飾る「ROCK'N ROLL DIVA」は、シェラザードらしい“翳り”とアッパーなロックンロール・テイストという相反する要素を融合させていて驚きました。

平山:この曲は、まさにそこがポイントでしたね。シェラザードにしても、ノヴェラにしても、ロックンロールの匂いは薄い。でも、自分達はロック・バンドだ、ロックンロールしているんだというところで、ロックンロールの要素を入れたかった。それで、ブルーノートっぽいギターを入れたりして、なんとか落とし込めたかなという感じですね。あと、「ROCK'N ROLL DIVA」は、僕がパソコンを使って初めて作った曲なので、テンポの速さがデフォルトの“BPM=120”なんですよ(笑)。買ったばかりで、テンポの変え方が分からなかった(笑)。だから、曲中のテンポ・チェンジとかもないという(笑)。


▲五十嵐久勝 Hisakatsu Igarashi (Vocal)
――そんな舞台裏があったんですね(笑)。2曲目の「虚言(そらごと)」は10分を超える大作ながら、それを感じさせない構成力が光るスロー・チューン。

平山:これは、最初に入るベースのメロディーと後から入って来るストリングスのメロディー、それにヴォーカルのメロディーに至るまで、基本的に全部同じメロディーなんですよ。それを、いかに展開していくかということを考えて。で、途中にギターとベースがユニゾンするセクションがあるんですけど、それを変形させることで、次の展開に持っていくという。そういうテクニックを使っています。

――それは、クラシックの組曲を作る手法に近くないですか?

平山:おっしゃる通りです。僕は元々そういう曲の作り方が自然にできていて、後から学んだんですけどね。最初はわけも分からず、こうしたら面白いやんと思って曲を作っていて、実はこれはクラシックで言う“主題の展開”なんだということを後から知った。主題を転換させる技法は好きで、よく使いますね。

――知らずに採り入れていたというのは、さすがです。それに、抒情的に場面が変わっていく「虚言(そらごと)」の中間パートには強く惹き込まれました。

平山:この曲の間奏は、作るのに結構時間が掛かりました。途中まで作って、一度放り投げたんです(笑)。“これ、もう無理。これ以上、同じメロディーは無理!”と思って(笑)。それで1~2ヶ月くらい放っていたけど、これも主題の展開みたいなことをすることで、また別の展開に繋げることができるなと思って。それで、改めて取り組んで、今のところまで持っていきました。


▲大久保寿太郎 Jutaro Ohkubo (Bass)
――映画を観ているような感覚になりました。それに、イントロなどに出てくる'70Sロックっぽい単音リフもカッコいいです。

平山:あれは、いわゆるクラシック・ロックの音使いというのかな。ペンタトニックが主流で、ちょっと半音が入るみたいなリフになっている。ああいうリフもロックを感じさせる大きな要素だと思うので、そういうセクションを設けてロックであることをアピールしました。ただ単にきれいなメロディーをきれいに重ねていっても、ロック感は主張できないから。7曲目の「夜の散文詩」もそうだけど、そういう中に王道的なリフを散りばめることによって、面白いものになったんじゃないかなという気はしますね。

――知的な部分とロック色を融合させる巧みさも平山さんならではです。その話と関連しますが、シェラザードにしても、ノヴェラにしても、プログレッシヴ・ロックという枠で語られることが多い。でも、僕の中ではどちらも独自のハード・ロックという印象です。

平山:そう。僕は、プログレのバンド……たとえば、イエスとか、キング・クリムゾンみたいなバンドをやりたかったわけではなくて。そういう要素も取り入れた、自分なりのロックを形にしたかったんです。なので、そう言ってもらえると嬉しいですね。

――その結果、“シェラザード/ノヴェラ”という一つのジャンルを創られました。話を『once more』に戻しますが、ウォームかつ夢幻的な「揺るぎなき世界」は、どんな風に作られたのでしょう?

平山:この曲はバラードであることは間違いないですけど、東日本大震災で被災された方に捧げる…というと大袈裟だけれども、それを感じさせるような歌詞にしたいと思いながら作っていったんです。そうしたら、今言われたような世界観の曲になりました。あとは、途中の展開部を、プログレみたいに長くしたくないというのがあって。全体を7分くらいで収まるようにしたかったんです。なので、間奏もコンパクトに収めました。ギター・ソロが入った後、1音ずつコードが上昇していって“ストン!”と落ちる…みたいな。なので、わりと作りはシンプルになっています。

――シンプルとはいえ、ホットなギター・ソロとダイナミクスを効かせたアレンジが相まって、ドラマチックな仕上がりになっています。それに、こういうスロー・チューンは、メロディーの良さが一層際立ちますね。

平山:「揺るぎなき世界」みたいな曲は特にそうですけど、僕はメロディー先行のことが多いんですよ。あとは、リフから作ったりとか。コード進行から作ることは、あまりないですね。メロ先で、これにどういうコードを付けようかなと考えることが多いです。

――そうなんですね。平山さんの楽曲はメジャーからいきなりマイナーに変わるコード進行が多いことも特徴の一つになっていますが、そういう時も“メロディーありき”なのでしょうか?

平山:そういう時もありますけど、「揺るぎなき世界」とかの場合は、僕の個性として使いました。僕は、そういう進行が好きなんですよ。たとえば、CからCmに行ったりとか。そうすると、キーが変わるじゃないですか。それを、どう折り合いを付けるかを考えることも含めて好きですね。

――ノヴェラの楽曲もセクションの頭ではなくて、Bメロの途中などで転調することが多いですよね。しかも、ギターとキーボードだけCmにいって、ベースはCのままというパターンが多かったりしませんか?

平山:そう(笑)。そういうのも好きなんです。今回のアルバムもベースは同じフレーズを弾き続けて、コードはどんどん変わっていくという手法を結構使っていますね。そうするとベースも変わっている風に聴こえて、それが面白いなと思って。

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