【インタビュー】J、メディアを語る「面白い時代。すべてが人の感覚にかかってくる」
ソロデビュー20周年記念ベストアルバム『J 20th Anniversary BEST ALBUM <1997-2017> W.U.M.F.』をリリースしたLUNA SEAのJが、先ごろ、同アルバムを引っ提げた20周年記念全国ツアー<J 20th Anniversary Live Tour 2017 W.U.M.F.>を大盛況のうちに終了した。BARKSは激動の20年間を振り返り、Jのヒストリー決定版を作るべく、半年間にわたってインタビュー連載を実施中だ。彼が何を思い、何を目指して、ここまで歩んできたのか。6人の著名ライターが斬り込む大型特集の第3弾は、WEB、雑誌、電波など各媒体に精通し、アーティストからの信頼も厚いライターの増田勇一氏がJを掘り下げる。テーマは“Jとメディア”。音楽雑誌『MASSIVE』も代表する同氏とのトークセッションは、媒体論はもとよりフェス論やロックバンド論にまでいたる深く濃いものとなった。その全貌を以下にお届けしたい。
◆J 画像
ふと思い出してみると、Jと初めて遭遇した当時、僕はフリーランスの書き手ではなく洋楽専門誌の編集長だった。そして、具体的な切っ掛けが何だったのかは憶えていないが、幾度も取材の機会を重ねていくなかで、“この人は音楽雑誌の編集者になったとしても優秀だったはず”と感じさせられたことがあった。編集という仕事については特殊技能と見られているかもしれないが、実はどんな人の日常生活にもそれに似た作業はつきものであり、たとえば1日24時間をどう使うかを考えるのも、冷蔵庫に残っているアレとコレを使って何かを作ろうとするのも、ある意味、編集だと僕は考えている。
そんなことを発端にしながら、6月のある日、彼と話をした。会話はあちこちに寄り道をしながら、速報性や機能性ばかりが求められがちな現代の情報社会におけるロック・バンドと音楽雑誌のあり方などにも及んでいく。脱線を気にせずに、最後までじっくりとお読みいただければ幸いだ。
◆ ◆ ◆
■見たい、聴きたい、もっと知りたい
■それが音楽に対する情熱にもなってた
──前々から僕自身が勝手に思っていたことのひとつに“もしもJさんが音楽雑誌を作っていたとしたら?”というのがあるんです。というのも、Jさんの活動展開とかライヴの組み方、新しいバンドやシーンへの目の配り方といったものに、とても編集者的な視点を感じさせられることがあったからで。
J:ああ、なるほど。
──そもそもJさん自身、少年期は音楽の情報を活字から得ていたわけですよね?
J:そうですね。自分が音楽、ロックに撃ち抜かれたことについても、音よりも先に写真とか活字とかが切っ掛けになってたんじゃないかな。そう思えるぐらい衝撃があった。ロック雑誌というのがどんなものなんだかわからずにいた年頃の俺が、ある日、自宅の近所の本屋さんでそれに手を伸ばして……。それを手に取ること自体が、当時の自分にとってはある意味、大人びた行為のひとつだったんだと思う。で、それをパラパラと眺めていたら、鼻血を流しながらベースを弾いてるシド・ヴィシャスのモノクロ写真が目に飛び込んできて、“なんだ、これ?”と思った(笑)。そこでヤラレちゃってますからね(笑)。学校ではちょっとマセたガキになっていて、ワルそうなことに興味を持ち始めていた頃だったけども、その写真一枚を見て“こっちのほうが断然ワルそうじゃん!”と思った(笑)。
──校則があれば、それを破りたくなるお年頃ですよね(笑)。校舎の裏とか非常階段とかで、ちょっとイケナいことに手を出してみたり、バイクや煙草に憧れたり。
J:太いズボンはいたりとかね(笑)。俺も、まぁヤンチャではあったけど、そういう不良っぽさの典型みたいなものに対して“それってカッコいいのか?”という疑問を抱き始めたりもしていて。そこでちょっとみんなとは違うものを求めてた部分というのはあったと思う。で、ロックというものを知ったわけですけど、こんな世界があったんだってことを気付かせてくれたのは、やっぱり音楽雑誌だったし。正直、当初は読んでいても訳がわからなかったけども。知らない人たちの名前がたくさん出てくるし、まず“アルバムって何だろう?”という次元だったから。写真を貼るアルバムじゃないんだよな、と(笑)。そういうことも含めて全部が自分にとっては新しい情報だったし、新しい世界の始まりだったから。しかもあの当時のインタビュー記事って、わりと酷いですよね? “こんなのでインタビュー成り立つの?”みたいに思える記事が結構あったし、答えてる側もマトモじゃないというか(笑)。“今回のアルバムはどんな想いで作られたんですか?”とか訊かれてるのに“うるせえ、馬鹿!”とか“そんなのはお前が勝手に感じろ”とか答えてたりする(笑)。平気でそういうこと言ってましたよね、当時の人たち。
──そういうのもありましたけど、もっと遡って70年代の洋楽誌なんかの場合だと、妙に文体が“ですます調”だったりするんですよ。“僕はこのたびの作品を2週間で録音することに成功しました”みたいな翻訳だったり(笑)。もしかしたらその“うるせえ、馬鹿”みたいなのは、言葉尻に出てくる4文字言葉とかまで全部訳されていたからかも。
J:ふふっ。俺はそういうのを読んで、“こんなんで有名になれるんだ?”と思った(笑)。無茶苦茶なら無茶苦茶なだけ有名になれる世界なんだ? 最高じゃん、と(笑)。
──そこから偉大なる誤解が始まったわけですね。
J:誤解だったんですかね(笑)。でも実際、口にしてる言葉は酷くても、人を惹きつけるようなエネルギーを発してる破滅的なアーティストというのがたくさんいたし、そこに吸い寄せられるようにして、そういった人のすべてを知りたくなった。で、当然、そこから音にも入っていったし。
──そうやって興味を持ち始めると、いろいろなことが順不同で起こり始める。雑誌で名前を知ったアーティストの曲をたまたま同じ週にラジオで耳にしたり、貸レコード店で“ジャケ借り”して聴いていたバンドの素性について活字で知ったり。点と点が繋がって、どんどん広がっていくことになる。そういうのが楽しかったわけですよね。
J:まさにそうでいう感じでしたね。俺が住んでた地域では、近くに大学があって学生も多かったから、何軒も近所に貸レコード屋さんがあったんですよ。ちょうどああいう店が増え始めた頃だったのかな。だから、本で読んで気になったアーティストのレコードをすぐさま借りに行ったりしてましたよ。
──文字、写真、音、インタビュー記事で語られる素性……。情報は一度には入ってこなくて、常にバラバラでしたよね。アーティストが動いている姿なんてなかなか見られなかったし。
J:それに比べると今は違いますよね。検索すれば何もかもいっぺんに出てくる。ああいった時代を経験してきた人間としては、羨ましいと感じる部分もあるし、逆に、だからこそ得られたものがあったような気もしていて。情報ひとつさえ簡単には手に入らなかったからこそ、俺たちはすごく想像もしたし、期待も膨らませるようになった。それが自分にとっての大切なものの大きさに繋がっていってたようにも思うんですよ。恋愛じゃないけども、想いが強くなればなるほどそれが大きくなるというか。見たい、聴きたい、もっと知りたい。だから音楽雑誌にも隅から隅まで全部目を通して、“いつアルバムが出るんだ?”って情報を手に入れては発売日を待ち、“やっと出た!”という思いでそれを手に入れて。そういう想いの積み重ねが、そのまま音楽に対する情熱にもなってたというか。そういう時代を経験できてたのかな、という感覚もありますね。
──今の場合、一度の検索でいろいろなことがわかるし、そこからのリンクでさらなる情報を引き出すことができる。しかし逆に、第一印象で引っかからなかったものについてはそこで終わってしまう。それって便利ではあるけど面白みに欠けるようにも思うんです。昔は“ジャケ買い”に失敗して、見た目はカッコいいのに聴いてみたらたいしたことない、みたいなことも多々あったし、そうやって散財もさせられました。だけど、そういったことも含めての楽しみがあったようにも思えて。
J:そういう意味では、今の時代、楽しみ方の形が変わってきてるんだと思う。変な話、どこかに出掛けるまでもなく、自分の部屋のベッドの上に座ったままでも、ありとあらゆる情報を手に入れられるわけじゃないですか。地球の反対側にいるものすごくクールなバンドの音だって見つけられるわけですよ。自分の感性さえ信じていればね。楽しみが、そういうところに変わってきたんじゃないかという気がするんです。だから、鋭い感覚さえ持っていれば誰もがジャーナリストになれるというか。
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