【速報】音楽は再び世界の中心となる。カルヴィン・ハリス新作『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』に寄せて
カルヴィン・ハリスの3年振り3作目のアルバム『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』を速攻一聴しての(ほんとうに一聴)日本最速でお届けする印象は以下のようなもの。
◆カルヴィン・ハリス 画像&映像
「予想通り!というか予想以上にEDM感は皆無。タワレコやドンキでたまたま本作を見かけて“カルヴィン・ハリスの新作出てる!”と購入したEDMギャルはショックで泣いてしまうのではないだろうか? もしくは違うCDが入っていたと思うのではないだろうか? おそらく、もうそんなリスナーは絶滅危惧種だろうけど」
そう、これまでの先行曲「スライド feat.フランク・オーシャン&ミーゴス」、「ヒートストローク feat. ヤング・サグ、ファレル・ウィリアムス&アリアナ・グランデ」、「ローリン feat. フューチャー&カリード」から一切ブレることなく、EDMトラックなど一切なしの、ブラックミュージックマナーに則った全10曲。リリックで歌われるのは、金とセックス。失恋、未練。それと同時に「死後の世界に財布は持っていけない」という実存主義的な考えが見え隠れしたり「君をインスタにアップすれば最高再生回数」なんて現代的な口説き文句が目を引いたりもするが、さして珍しいものはない。
全体としては、ここ数年のポップミュージックにおける潮流を俯瞰し、興奮し、それを自身のフィルターを通して料理した「カルヴィン・ハリスが見た今の音楽」とも言える内容だ。
しかし、本作は間違いなく音楽シーンにおけるひとつの記念碑的レコードとなるだろう。
似たアルバムとしてダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』の名が真っ先に挙げられるが、それはダンスミュージックアクトがブラックミュージックに接近してAORっぽい音楽を作ったという表層においてだけではない。『ランダム・アクセス・メモリーズ』が「自在にアクセスできる過去を組み合わせることで現在を規定したレコード」だとしたら、それに対して本作は「現在を組み合わせることで現在を規定しようと試みているレコード」なのだ。
しかし、筆者が一枚だけ本作と似たレコードを選ぶとしたら、それはニルヴァーナ『ネヴァーマインド』かもしれない。『ネヴァーマインド』が細分化されたロックシーンを、ラジオフレンドリーなメロディとシンプルなアレンジメント、ウェルメイドなプロダクション、そしてダンサブルなリズムによってまとめ上げ、1991年という時代のみならず「ひとつの幻想の終焉」を象徴するまでに至ったアルバムだとするなら、このアルバムもそうなるかもしれないという点においてである。
それを音楽面にフォーカスして説明するならば、こうだ。「ドロップというEDMの重要要素を通して掴んだ「現代のシンガロング」感覚を活かしたフック作りと、把握しやすいシンプルな楽曲構成、そしてこれまたEDM通過によるであろうトリッキー過ぎないビートを通すことで、現代のブラックミュージックを再定義した作品である」。もちろん、これを「薄められた音楽」と感じる者も少なくはないだろう。しかしこれは確実に新しい。そして聴きやすい。この聴きやすさには、多くの楽器をカルヴィン・ハリス本人が演奏したことによる「タイム感の統一」の影響も大きいことだろう。本作には超豪華なアーティストが参加しながらも、ダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』のような超大作感は皆無。もちろん37分というランニングタイムもあるだろうが、この辺はバンドに豪華ミュージシャンを揃えたダフト・パンクと、自身でほとんどの楽器を演奏したカルヴィン・ハリスとの考えの違いが如実に出た部分ではないだろうか(アルバムタイトルの「ウェーヴ」の表記が音声ファイルの拡張子である「WAV」となっていること、そしてDAWからのファイル書き出しを意味する「バウンス」が続くことから、そうしたDTM的感覚はカルヴィン・ハリス本人もかなり意識的だったはずだ)。
そして本作は、まるでミックスCDをかけているように、次から次へとグッドチューンが連なっていく、最高のカーステレオBGMでもある。
Apple MusicやSpotifyといったサブスクリプション型のストリーミングサービスによって「ほぼ無料のカルチャー」と化した音楽。「水や空気のようになり価値が薄まってしまった」という悲観もあるが、むしろそれゆえに浸透度が高まり、あらゆるカルチャーの基礎言語となりつつある向きもある。しかし、各ジャンルで流行り廃りが激しい一方、みんなが知っている曲だけが延々とチャートに残り続けるという状況も生み出している……。これは支配なのか、カオスなのか判別できない状況だ。そんな時代において、DJ/プロデューサーという立場から「時代」をキュレーションしたような「作品」となった本作の意義は、あらゆる視点から見て大きなものだ。そしてそれはカルヴィン・ハリスがこれまで積み上げてきたキャリアをもってして初めて実現できたものである。
本作にはいくつもの賛辞と批判が寄せられ、さまざまな議論を呼ぶことだろうが、ひとつの旗がここに立てられたのは間違いない。
文:照沼健太
『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol.1』
【国内盤】 SICP-5428 2,000円+税
解説&歌詞対訳付き
初回仕様のみミニ・ポスター封入
iTunes購入URL:
https://itunes.apple.com/jp/album/id1233869908?app=itunes&ls=1
■収録曲
1. スライド feat. フランク・オーシャン & ミーゴス
2. キャッシュ・アウト feat. スクールボーイ・Q、パーティネクストドア & D.R.A.M.
3. ヒートストローク feat. ヤング・サグ、ファレル・ウィリアムス & アリアナ・グランデ
4. ローリン feat. フューチャー & カリード
5. プレアーズ・アップ feat. トラヴィス・スコット & A-トラック
6. ホリデイ feat. スヌープ・ドッグ、ジョン・レジェンド & テイクオフ
7. スカート・オン・ミー feat. ニッキー・ミナージュ
8. フィールズ feat. ファレル・ウィリアムス、ケイティ・ペリー & ビッグ・ショーン
9. フェイキング・イット feat. ケラーニ & リル・ヨッティー
10. ハード・トゥ・ラヴ feat. ジェシー・レイエズ
来日情報
日程:
<東京> 2017年8月19日(土)
<大阪> 2017年8月20日(日)
会場:・東京: ZOZOマリンスタジアム&幕張メッセ
・大阪: 舞洲SONIC PARK(舞洲スポーツアイランド)
詳細: http://www.summersonic.com/2017/
◆カルヴィン・ハリス オフィシャルサイト