【ライブレポート】ブライアン・アダムス「タイをゆるめて。僕も締めてないんだから」
ブライアン・アダムスが、2012年2月以来5年ぶりとなる日本公演を開催。今回は大阪と東京での計2公演のみとなったが、そのうち1月24日に日本武道館で行なわれた東京公演を観た。手を振りながらにこやかにステージに登場した彼がまず披露したのは、現時点での最新作『ゲット・アップ』(2015年)からの「ドゥ・ホワット・ヤ・ガッタ・ドゥ」。人で埋め尽くされた場内はすぐさま一体感に包まれ、キース・スコット(G)やミッキー・カリー(Dr)といった盟友たちに囲まれながらのブライアンの熱演は、それから2時間半以上にわたり続いた。
◆ブライアン・アダムス画像
ブライアンの最大の魅力は、言うまでもなくその楽曲と歌声の素晴らしさにある。過剰に勿体を付けることなく次々と繰り出されてくるのがどれも良い曲で、しかもそれが完璧な歌と演奏により披露されるのだから、極上のライヴにならない理由がない。1959年生まれの彼は現在57歳ということになるが、そのヴォーカル・パフォーマンスは〈年齢のわりにはよく声が出ている〉などという次元のものではない。長年にわたり愛着をおぼえてきたメロディと言葉を届けてくれるのは、少しも衰えを感じさせないばかりか味わいにさらなる深みが加わったイメージ通りの〈あの歌声〉なのだ。
白いTシャツとブルージーンズ。ブライアンというとそんなイメージをいまだに持っている読者もいるかもしれないが、今回の彼は白シャツに黒いジャケットといういでたち。しかも彼自身のみならずバンド・メンバーたち全員が同じ格好をしている。ずいぶんとお洒落になったようにも感じられるが、いまさらロック界有数の成功者である彼が20代の頃のようなスタイルでステージに立ったなら、それこそセルフ・パロディになってしまうし、彼には似つかわしくないイメージ戦略の匂いが伴ってしまうことだろう。この現在の洗練されたスタイルこそが、57歳の彼にとってナチュラルなものであるはずなのだ。実際、そのジャケットの胸ポケットから白いチーフはのぞいているが、誰もタイは締めていない。ライヴ終盤、アリーナ席にスーツ姿の仕事帰りらしきビジネスマンの姿を見つけたブライアンが「タイをゆるめて。僕も締めてないんだから」と声をかける場面もあった。
また、コスチュームの統一感云々という部分のみならず、ブライアンとメンバーたちの間にいわゆる〈バンド感〉が感じられたのも嬉しかった。語弊を恐れずに言えば、世の多くのバンド以上にバンド然とした空気を、僕は感じずにいられなかったのだ。とはいえ、気持ちのいいグルーヴを伴ったバンド・アンサンブルによる演奏ばかりではなく、アコースティック演奏なども随所に挟み込みながら、当然ながらショウはあくまでブライアンの歌を主役としながら進んでいく。アンコール後半、彼ひとりだけでじっくりと聴かせたアコースティック・パフォーマンスも、緩急に富んだライヴ全体の余韻をとても心地好く印象的なものにしていた。
加えて興味深かったのは、公演序盤、「ラン・トゥ・ユー」を歌い終えたブライアンが「こんばんは」と日本語で挨拶したのち、そのまま日本語で「今日で24回目の武道館です。心から感謝します!」と語ったこと。その表情はまさに、この日本を象徴するアリーナへの5年ぶりの帰還が嬉しくてたまらないと無言のうちに伝えてくるかのようだった。そんな彼だからこそ、こちらも〈25回目の武道館公演が1日も早く実現しますように!〉と願わずにいられなくなるのだ。
ブライアン・アダムスが初来日公演を行なったのは、1983年のこと。その2年後には初の武道館公演が実現に至り、以来、そこは彼にとって東京でのホームグラウンドのような場であり続けてきた。その場所でこうして長きにわたり彼のライヴを観続けることができているという現実が、彼の音楽の時代を問わぬ普遍性を裏付けているようにも思う。
そしてもうひとつ重要なのは、さまざまな時代を彩ってきたヒット曲群に負けない楽曲を、現在も彼は作り続けているということ。世の誰もが躊躇なく名曲と呼ぶはずのナンバーがちりばめられたこの夜のセットリストには、前述の最新作『ゲット・アップ』からの楽曲も6曲ほど含まれていたし、それらが往年の楽曲に見劣りするようなこともまったくなかった。しかも常にコンスタントなライヴ活動を行なってきた彼は、今回日本に上陸する前には香港やジャカルタ、マニラやシンガポールといったアジア各地をサーキットしており、さらに2月からはヨーロッパ、4月からは南アメリカ方面を、このアルバムを引っ提げながらツアーすることになっている。この現役感もまた、彼が輝き続けている理由のひとつなのだ。
日本で次に彼のライヴを観られるのがいつのことになるのかは、まだわからない。が、かならず訪れるはずのその機会を心待ちにしながら、こちらも〈ずっと18歳のままで〉いたいものである。
撮影:土居政則
文:増田勇一
<ブライアン・アダムス来日公演 1月24日@日本武道館>
2.Can’t Stop This Thing We Started
3.Don’t Even Try
4.Run to You
5.Go Down Rockin’
6.Heaven
7.Kids Wanna Rock
8.It’s Only Love
9.This Time
10.You Belong to Me
11.Summer of ’69
12.Here I Am
13.Heat of the Night
14.When You’re Gone
15.(Everything I Do)I Do It for You
16.If Ya Wanna Be Bad Ya Gatta Be Good
17.Back to You
18.We Did It All
19.Somebody
20.Have You Ever Really Loved a Woman?
21.Please Forgive Me
22.Cuts Like a Knife
23.18 til I Die
24.The Only Thing That Looks Good on Me Is You
-encore-
25.Brand New Day
26.C’mon Everybody
27.All Shook Up
28.She Knows Me
29.Straight from the Heart
30.Remember
31.Into the Fire
32.All for Love