【インタビュー】テイラーギター創始者とマスター・ビルダーが語るギター作りにかける情熱と理念

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■木材が少なくなって今のままギターを作り続けていると悲惨なことになるぞと思い
■木材を無駄なく使うにはと考えた結果、NTネックの構造をチョイスしたのです


――テイラーのギターは弦高が低いにも関わらず、音の詰まりやビビりなどが一切ないのは、本当に凄いことです。それに、テイラーは木材を保護するために環境問題に取り組んでいることでも知られています。

ボブ・テイラー:世界中で木がどんどん減ってきていることを私が意識するようになったのは、NTネック(ニュー・テクノロジー・ネック。テイラーが考案したネック・ジョイント方式でパテントを取得。1999年に発表され、2001年からテイラーの製品に使用されるようになった)を開発した時でした。NTネックを開発した時に、ネックの構造そのものもデザインし直したのです。なぜかというと、今のギターの作り方をしていくとマホガニーそのものが無くなってしまうだろうと思ったからです。たとえば、スマホなどは自分達のところに入ってくるパーツなどが年々良くなっていくという前提のもとに開発を進めていますよね。1990年代以降のギター業界は逆の状態で、毎年毎年使用する材が減っていたり、クオリティーが落ちていったりしたのです。それは、もう紛れもない事実です。ですので、私がNTネックの開発を始めた段階で、これから起こりうるであろう20年後、30年後の状況はすでに見えていました。今のままギターを作り続けていると、悲惨なことになるぞと。


▲NTネックジョイント

――そういう話は当時からボチボチ出ていましたが、現場でギターを作っている方達にとっては深刻な問題だったでしょうね。

ボブ・テイラー:そう。そこで、まずギター・カンパニーとしてできることは、木を無駄なく使うことだなと考えました。それが“ステップ1”でした。NTネックは、それを踏まえた構造になっているのです。NTネックは3ピース構造になっているのですが、1ピース・ネックは太い木材からネックを切り出すので無駄になる部分がかなり出てしまうんです。木材を全部無駄なく使うにはどうしたら良いかを考えた結果、NTネックの構造をチョイスしたのです。それに、長く使えるギター……使い捨てではなくて、長年に亘って使えるギターを作ることもメーカーとしてできることだなと考えました。もう一つ、実際に現場で木を切っている人達と、直接仕事をするようになりました。そういった人達がサスティナビリティーを考えながら、木を切ったり、植えたりすることに対する手助けを始めたのです。そういう取り組みをしていく中で、一番大きな転機になったのが6年前にアフリカで唯一エボニーを輸出できる国のカメルーンにある生産工場を買収したことです。自分達がそうしないと本当に悲惨な状態になることを実際に現場で見たので、そういうアプローチを採ることにしました。そこでやった2つの大きなことは、まずすべてのことを合法的に行うということでした。テイラーのギターに使用されているすべての材は合法でなければいけないというのは、もう最低限のことですから。もう一つは、現地の人達の生活の保護です。現地の人達にエボニーを植えて、育てる仕事をしてもらえば、お互いにとってプラスな状態になりますから。世界中の木が減ってきているというのは、単純に切るだけ切って、植えて来なかったからなんですよね。現地の工場を買収してから6年経った今では、エボニーは増え始めています。


▲育成現地

――おおっ! やりましたね。

ボブ・テイラー:それに、2~3年前からハワイでも事業を始めました。ハワイではコア材が採れるのですが、ちゃんと管理されていないコアが結構あるんです。なので、実際にその土地のオーナーと会って、死にかけているコアの中からギターに使えるものを全部買うからという話をしました。そこで得た利益を還元することによって、そのお金で木を植えてもらう。その結果、去年1年で1万本のコアを植えることができました。それに、今一緒にハワイで仕事をしているパートナーは元々メイプルやスプルースをテイラーに供給している林業の人で、今はギター専用のメイプルを植えだしたりしています。要するに、フィギュアド・メイプルですよね。アコースティック・ギターに限らず、エレキギターにも使えるフィギュアド・メイプルを、今まさに植え始めているところです。


▲ボブ・テイラー

――素晴らしいことを、実践されています。そういう取り組みは、大手のギター・ブランドなどは進めているのでしょうか?

ボブ・テイラー:全く、やっていません。

アンディ・パワーズ:それは、悲しむべき状況ですよね。僕は、他のブランドも始めるべきだと思います。人間というのは変わらないといけない時が来ないと変わらないものだけど、手遅れになってから始めたのでは遅いから。

ボブ・テイラー:特に大きな組織の会社は、そんなに簡単に変われないということは分かります。ただ、なぜ私がそういうことをしているかというと、非常にインスピレーションを感じているからです。楽しいと感じるから、しているのです。その発端になったのは、以前フィジーでマホガニーを購入した時に、このマホガニーは85年前にイギリス人が植えたものだという話を聞いたことでした。85年前のフィジーは、イギリス領でしたからね。その話を聞いて、それなら自分もできるだろうと思ったんです。私がそういう事実にインスピレーションを受けて始めたことなので、今のテイラー・ブランドがしていることが他の人にもインスピレーションを与えることになるだろうと。その時に、みんなが始めれば良い。だから、私はその先駆者として一つの事例を作りたいのです。今一緒にやろうと声を掛けるよりも、自分達ができることを、なるべく早いスピードでやることが大事だと考えています。

――ギター・ブランドが環境問題に取り組んでいるのはクールなことだと誰もが感じる時代がすぐにやって来ると思っていますし、その先陣を切ったテイラーを尊敬します。

ボブ・テイラー:ありがとうございます。昔は取材などを受けた際にボルトオン・ジョイントのことをよく聞かれましたが、今はアンディが生み出した圧倒的に素晴らしいトーンと、私が取り組んでいる森林に関する話題に、どんどん移ってきています。それはクールなことだと思いますし、なにより私がしていることをクールだと思ってくれる人がいることが本当に嬉しいです。


▲アンディ・パワーズ

――ギター・ブランドが自ら動かないと、「昔のギターは、木で出来ていてたらしいよ」というような時代になる恐れがありますからね。環境問題への取り組みも含めて、今後のテイラーにも期待させていただきます。

ボブ・テイラー:テイラーの未来に関しては、私にとってはごくシンプルです。アンディ・パワーズが作るギターを販売しているということが、ギター業界にとって非常に大事なことになるのは間違いないことですから、彼の道を切り拓いていくのが私の仕事だと思っています。今やっていることは、すべてその現れですしね。材の確保やサスティナビリティーへの取り組みといったことは、アンディと、さらにアンディの次の世代の人達のことを思ってやっていることですから。今言われた通り、昔のギターは木製だったという時代がやって来ないようにするためにしているのです。そういったムーブメントの代表格としてアンディ・パワーズがいて、彼が天才的なギター製作者であるということを、とにかくいろいろな人に知ってもらいたい。そのために彼が自由にギターを作れる環境を実現させることに注力していきます。

アンディ・パワーズ:僕は、美しい楽器を世界中のミュージシャンに届けることが自分の仕事だと思っています。それも、それぞれが思っている以上のものを作りたい。“こんなものを作ってくれるんだ!”というようなものを形にしていくことが、僕がこれからやっていくべきことだと思っています。

ボブ・テイラー:私にとってアンディと出会えて良かったのは、もし彼がいなかったら、私はこのまま歳をとっていって、昔自分がやったことを繰り返すだけになっていたと思うんですよ。いろいろなメーカーがそういう状態に陥っていて、私はそうなるのが嫌だった。テイラーを、伝統を売るブランドにはしたくなかったのです。伝統を軽んじているわけではありませんよ。伝統をリスペクトしたうえで、テイラーとしてはまだまだやることがあるぞと。まだアコースティック・ギターは進化するぞ…ということを提示できるブランドでありたいと思っています。

取材・文●村上孝之

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