【インタビュー】テイラーギター創始者とマスター・ビルダーが語るギター作りにかける情熱と理念
1974年の創立以来、高品位なトーンや品質の高さ、群を抜いた弾きやすさなどを備えたギターで、トップ・アーティストを始めとした無数のプレイヤーを魅了し続けているTaylor Guitars(テイラー)。2011年にアンディ・パワーズ氏をマスター・ビルダーとして招き入れた同ブランドは新たなステージに歩を進め、より魅力的な存在となった。テイラーに対するシーンの注目がさらに高まる中、BARKSは<楽器フェア 2016>の開催に伴って来日したブランド創始者のボブ・テイラー氏とアンディ・パワーズ氏をキャッチ。二人のギター作りにかける情熱や理念、テイラー・ブランドの特色、テイラーが取り組んでいる環境問題などについて語ってもらった。以下のインタビューを通して、両氏のピュアな人柄を感じてもらえれば幸いに思う。
■最初は世界征服をしようというようなグランド・プランがあるわけではなくて(笑)
■自分が良いと思えるギターを作って大勢の人に弾いてもらいたいというだけで
――まずは、どういう流れを経て、1974年にテイラー・ブランドを立ち上げたのかを話していただけますか。
ボブ・テイラー:私は17才の時に、初めて自分でアコースティック・ギターを作ったんです。本当に酷いシロモノでしたけど、その頃に作った3本のうちの1本は、今でも持っています。私は、ギターを自作した時に、これこそがやりたいことだと気づいたんです。自分は、ずっとギターを作り続けたいと。そう思っていたところ、家の近くにあった『アメリカン・ギターズ』という工房でギターの修理をしたり、ギターを作ったりするようになりました。それから数ヶ月経った頃に『アメリカン・ギターズ』のオーナーが、もう自分は引退したいから、この店を売りたいと言い始めたんです。それで、その工房で私と同じようにベンチを借りてギターのリペアをしていた、カート・リスタグと一緒に工房をやろうという話になって。2人で『アメリカン・ギターズ』を買収して、テイラーを始めました。それが19才の時だったので、最初にギターを作ってから2年後ですね。当初はギターを作って、それが売れるとまた作って…という感じでした。
▲ボブ・テイラー
――最初からアコースティック・ギターを作ったということは、元々アコースティック・ミュージックが好きだったのでしょうか?
ボブ・テイラー:好きでした。ジョン・デンバーやピーター・ポール&マリー、ジェイムス・テイラーといった人達が好きでしたね。自分もギターを弾きながら歌えると良いなと思ってギターを弾くようになりましたけど、プレイヤーとしては大したことなかったです(笑)。
――ギターを弾くことよりも、作るほうが楽しかったんですね。エレキギターを作ろうと思ったりはしませんでしたか?
ボブ・テイラー:エレキギターを作りたいと思ったことは、一度もないですね。興味を惹かれるのは常にアコースティック・ギターで、それは一貫して変わりません。
――アコースティック・ギター市場は、エレキギター以上に参入していくのが難しいような気もしますが?
ボブ・テイラー:当時の私は、そんなに大それたことを考えていなかったんです。自分が作りたいものを作って、それを買ってくれるお客さんがいれば、そのお金でまたギターを1本作ることができる。別にビジネスを始めようと思ったわけではなかったので、それで良かったのです。そういう感覚は、今でも全く変わっていません。世界征服をしようというようなグランド・プランがあるわけではなくて(笑)、自分が良いと思えるギターを作り続ける。ギターが好きで、テイラーが好きで…という人達と一緒に会社をしているので、その人達のためにもっともっと大勢の人にテイラーのギターを弾いて欲しいと思っていますが、始めた時は19才でしたから。当時は、なにも分かっていないに等しい状態だったんですよ。それに、これも19才の発想だと思いますが、職に就きたくなかったんです(笑)。そうすると、自分のギターを売るしかないですよね。それも、ギター作りに対する私の熱意の源になりました。
▲工房
――そういうピュアな気持ちが、良い方向に作用していることを感じます。アンディ(・パワーズ)さんは、どんな風にテイラーと関わるようになったのでしょう?
ボブ・テイラー:私とアンディは、本当に母が違う兄弟みたいな感じで、全く同じような道を歩んできているんですよ。
アンディ・パワーズ:そう(笑)。僕がギターを初めて作ったのは、7才の時でした。
――えっ、7才ですか?
アンディ・パワーズ:はい(笑)。僕の父親は大工だったのですが、両親揃って音楽好きで、普段からギターを弾いたり歌ったりしていたんです。そういう環境で育ったので、僕は小さい頃からギターに惹かれていたんです。それに、父が仕事で使えない廃材をよく持ち帰ってきていたし、家に木工ができる場所があったので、自分でギターを作ってみようと思って。それがきっかけになって、7才の時に初めてギターを作りました。その後もギター作りを続けていて、最初にプロとしてギターを売ったのは12~13才の頃でしたね。それから後はボブと同じで、クライアントを見つけてはギターを作って、売って…ということをするようになりました。
ボブ・テイラー:最初にギター買ってくれたのは、どんな人だった?
▲アンディ・パワーズ
アンディ・パワーズ:最初は、家族の友達に作って欲しいと言われた。それが12才の時で、ちゃんとお金も貰いました。なぜなら当然パーツにはお金がかかりますし、その前から私は地元の楽器屋でリペアの仕事をしていましたから。僕が若い頃にビジネスを始めようと思ったきっかけは、税務署から手紙が来て、「あなたはお金を稼いでいるけど、ビジネスという形を採っていないですね。収入がある以上税金を払う必要があるので、ビジネスを始めてください」と書いてあったんです。それで、ビジネスとしてギタークラフトやリペアをするようになりました。ただ、その頃はリペア仕事で10ドルとか20ドルしか貰っていなかったので、ビジネスとして利益を生んでいたわけではなくて、ホンのお小遣い程度でしたけど(笑)。
ボブ・テイラー:そんな風に、私達2人は全く同じような少年期を過ごしたんです。アンディとの出会いについて話すと、私は19才の時に自分の会社を始めて、それから20年くらいギター作りを続けた頃に、自分もやがては老いて、死んでいってしまうんだということを自覚したんです。それが発端になって、テイラーというブランドはギタリストのヘッド・デザイナーが必要なことは間違いないので、自分の代わりになる人を探し始めたんです。自分がまだ若いうちに、その人を見つけることもすごく大事なことでした。なぜなら一緒に仕事をする時間がないと、私の理念や知識などを継承することが出来ませんから。それで、その時に自分の後継者になるのは、こういう人だというチェックリストを作ったんです。若い女性が自分にとって理想的な旦那さんを探す時のようにね(笑)。しかも、本当に無茶なリストだったんですよ。人柄が良くないといけない、プレイヤーとして優れていなければいけない、ギターに関することを誰かに習ったのではなくて自己流で覚えた人でなければいけない、楽器の歴史について造詣が深くないといけない、20年以上の経歴を持っていつつ若い人じゃないといけない…という感じで。他にもいろいろあったけど、一番大事なのはサンディエゴ出身であるということでした(笑)。恐らく、これを全部クリアする人を見つけるのは不可能だろうと思っていたけど、アンディと出会ったんです。それで、こちらからアプローチしました。
アンディ・パワーズ:そう。2人の才能を合わせて何かやらないかと声をかけてくれたんです。それで、2011年からテイラーで、マスター・ビルダーとして仕事をするようになりました。
ボブ・テイラー:実は、私はアンディがまだ子供だった頃に一度会っているんですよ。その時は、誰かのコンサートで顔を合わせただけでしたけど。それから何年も経って再会したきっかけは、彼はジェイソン・ムラーズと一緒にデュオをしていたんですね。NAMM SHOWの時にテイラーは結構大きなステージを作って、毎年いろいろなアーティストが演奏するんですけど、ある年にジェイソン・ムラーズとアンディが2人で出たんです。その時にちょうど私も見に行っていて、アンディのお父さんに2人は一度会っているよと言われて。その頃はアンディが作っているアーチドトップのフルアコは有名になっていたので、良いギターを作るということも知っていたんです。それで、お互いに会話しているうちに、アンディは私が作ったミラクルリストに全部ハマることが分かりました。しかも、アンディのミドルネームは“テイラー”なんですよ(笑)。それも含めて、アンディは私にとって、まさに“奇跡の人”です。
◆インタビュー(2)へ
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