【インタビュー】小曽根真、「二つの人間の魂が出会って音楽という言語で会話をするんだからそこにはJOYしかないんです」
■僕とチックの二人のピアノでの会話を素敵だと思うみなさんの人生や感性が
■僕らの音楽と共鳴した瞬間に初めて感動が起こるんです
――楽しみです。今回のチッコ・コリアとのデュオ。一体どうなるのか。
小曽根:今回はアコースティックで、それも蓋を取ってやるということなので。サントリーホールのP席(ステージ後方)にもお客さんを入れるんですけど、オケが入ると、どうしてもピアノの音が前に飛びにくくなるので、P席は一番安い席になる。でも今回はオケがないぶん、ピアノの蓋を取ってやっても、バランスよく聴けるんじゃないかなと思います。
――ピアノのデュオの醍醐味って、やる側から見ると、どういうところにあるんですか。
小曽根:会話なんですよね。たとえば飲みに行って二人でする会話を、音楽でやるだけの話なんですよ。
――それは「最近どう?」とか。
小曽根:そうそう。「ところで」って返されて、「え、そっち行くの?」とか(笑)。それを全部音で作って行く。クラシックは譜面に書いてあるけど、ジャズの場合は、決めないでそれをやるわけです。次に何が来るかわからない。相手が何をやるかを常に予測して、目を見て演奏する。それが真剣勝負で楽しいんです。その時に、僕がやったことをオウム返しで返してきたら、「ああ、はいはい」ですよ。そのレベルの会話はしたくない。速弾きとか、難しいコードとか、表現は深ければ深いほどいいです。だけど基本は、音で会話ができるかどうか。そういうところに話を落とし込んで行くと、ロックも、ジャズも、クラシックも、変わらない。全部同じ。いろんな要素がリアルタイムで同時に交流する、それが音楽ですね。言葉の会話だとピンポンになるけど、同時に鳴ってるわけですから、それが音楽の一番すごいところだと思います。
――はい。なるほど。
小曽根:それを生で、僕らの顔を見ながら聴いていただくと、「そう来たか!」というものが、音と表情が連動して見えてくると思うんですよ。あれ、不思議ですよね。大きいホールだから顔なんて見えないと思うけど、見えるんです。それはおそらく人間の想像力で、音のエネルギーをみなさんが感じてくださって、実際には見えていない顔が見えるんだと思うんですね。僕らが二人で会話をして、それを受信して、素敵だと思ってくださるみなさんの人生や感性が、僕らの音楽と共鳴した瞬間に、初めて感動が起こるんですよね。感動は、受信機の感性なくしてはありえない。“僕らの演奏で感動してくださるのは、半分はそちらの素晴らしさなんですよ”って、僕はお返しするんですけど。
――いい言葉です。
小曽根:おいしいものを食べても、感性があるから「うまい!」ってなるわけですよね。そういう意味で、今回はアコースティック・ピアノということで、すごくダイレクトにみなさんに感じてもらえるものができるんじゃないかな?と思っています。ただ僕としては、怖いのと、楽しみなのと、表裏一体ですよ。チックの場合は、全部見透かされるだろうから。
――ああ~。それは確かに。
小曽根:この間、チックがすごくうれしいことを言ってくれたんです。チックの家に行って、6時間ぐらいリハーサルをやって。ご飯を食べた後に雑談していて、「最近どんなクラシックをやった?」と聞かれたんで、ラフマニノフを弾いたり、プロコフィエフを弾いたりしたら、チックがそれにすごく感動してくれた。「これを弾くためにどれだけ練習しなきゃいけないか、俺はわかる」「それをやれてる君に、僕はすごくインスパイアされてるよ」と。
――いい話です。
小曽根:「マコト、面白いよね。君が若かった頃、ひょっとしたら僕の音楽が君をインスパイアしたかもしれないけど、今僕は君みたいになりたいと思う」と。だからもう一回バルトークを練習してみるって、譜面を出してきてさらってましたよ。「へえ~、こんな俺でも役に立つんだ」と思った。
――いい関係ですね。
小曽根:今回、さらにまたチックとの距離が近くなったなと思います。前から僕のことをソウルメイトと呼んでくれていたんですけど、20年越しに実現したツアーですから。機が熟したというか、今年やるべくしてやることになったんでしょうね。今年はチックが75歳で、節目の大事な年なんです。ベラ・フレックとやったり、エレクトリック・バンドを復活させたり、今までやったいろんなプロジェクトを全部やり直す年なんですけど、そこに新しいプロジェクトとしてこれが入ったから、すごくうれしいんですよね。幸せですね、本当に。彼もすごく楽しんでくれていて、今もしょっちゅうメールが来ますよ。このツアーのために、新曲を2曲書いてくれているし。
――おおっ! それはすごい。
小曽根:僕も1曲書いて、もう1曲書きたいなと思っています。オリジナル曲もあるし、ひょっとしたらモーツァルトもやるかもしれない。とにかく、プログラムは何も決まっていないんです。僕は彼が昔やった「セニョール・マウス」という曲が大好きで、やりたいと言っているし。「スペイン」もやりたいけど、あんまりストレートすぎるから、どうなるか。ちょこっと、どこかでやるかもしれないですけどね。そして今回、全会場で録音するんですよ。うまくいって、ライブ盤が出てくれるとうれしいですね。
――さらに、ツアーに合わせて新しいCDが出ます。二人の過去の共作と、未発表曲を含む『Chick&Makoto-Duets-』について。これはどんなアルバムですか。
小曽根:これはね、『トレジャー』(2002年)を作った時に、チックと2曲一緒にやったんですけど、どっちも2テイクぐらいで録れちゃった。時間が余ったから、ちょっと遊ぼうよという感じで、「マコト、先に弾いて」と言って始めたのが「デュエット・インプロヴィゼーションNo.1」。で、「次は俺がスタートする」と言ってやったのが「No.2」。「No.3」はまた僕で、「No.4」はチック。「これいいね」と言ってたんだけど、『トレジャー』には入れられなかったんですよ。個人的なお宝として持っていた。そしたら今回、ツアー前にコンピレーションを出そうかという話になって、チックに聴いてもらったら、「This is great!」と言ってくれて、出すことになりました。その4曲と、ボーナス・トラックの「クリスタル・サイレンス」(*小曽根率いるビッグバンド・No Name Horsesによる未発表テイク。チック・コリアの作品)が、このアルバムでは新録音ですね。
――まずこれを聴いて、会場にも来ていただいて。お客さんに、メッセージをぜひ。
小曽根:ジャズとかクラシックとか、難しいということをよく聞くんですけど、難しいと思わせちゃうミュージシャンの責任なんですよね。だから「わからない」と言われると、「いやいや、弾いてる本人もわかってないから大丈夫」って答えるんですけど(笑)。それはもっともっと身近にあるもので、特に即興演奏というものは、ある意味、みなさんが朝起きて、夜寝るまで、即興演奏を言葉でやってるわけですから、それと同じことなんですよ。
――確かに。
小曽根:このインタビュー一つとっても、そうですよね。そういうことを、実はみなさん毎日やっている。それがジャズなんです。そういうふうにジャズを聴いてほしい。人生は即興だから、次の瞬間に何が起こるかわからない。そのスリルを楽しみに来てほしいですね。二つの人間の魂が出会って、音楽という言語で会話をするんだから、そこにはJOYしかない。それはただ楽しいだけじゃなくて、せつなさもある、それをみなさんと共有したいんですよね。一番みなさんと通じ合えるランゲージが、ジャズじゃないかと僕は思ってるんですよ。頭じゃなくて、感覚的に。そのエネルギーを感じに来てくれたらうれしいなと思います。
取材・文●宮本英夫
ライブ・イベント情報
5月7日(土)14:00 よこすか芸術劇場
お問い合わせ:046-823-9999(同館)
5月10日(火)18:30 盛岡市民文化ホール
お問い合わせ:019-621-5100(同館)
5月18日(水)19:00 長野市芸術館
お問い合わせ:026-219-3100(長野市文化芸術振興財団)
5月19日(木)19:00 サントリーホール
お問い合わせ:0570-06-9960(カジモト・イープラス)
5月21日(土)15:00 三原市芸術文化センター ポポロ
お問い合わせ:0848-81-0886(同館)
5月22日(日)15:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール
お問い合わせ:0798-68-0255(芸術文化センターチケットオフィス)
5月26日(木)19:00 滋賀・守山市民ホール
お問い合わせ:077-583-2532(同館)
5月27日(金)19:00 愛知県芸術劇場 コンサートホール
お問い合わせ:052-957-3333(中京テレビ事業)
5月29日(日)15:00 アクロス福岡 シンフォニーホール
お問い合わせ:0570-033-337 / 092-406-1771(ヨランダオフィス)
<NHK交響楽団定期演奏会>
5月14日(土)18:00 / 15日(日)15:00 NHKホール
お問い合わせ:03-5793-8161(N響ガイド)
<KOBE JAZZ FESTIVAL 2016>
2016年9月19日(月)15:30開演 神戸国際会館こくさいホール
【出演者】小曽根真(ピアノ)、小曽根実(ピアノ、ハモンドオルガン)、小曽根啓(サックス)、上場正俊(ドラムス)、魚谷のぶまさ(ベース)
【お問合せ】神戸国際会館 078-231-8162
5月28日(土)発売
<小曽根 真ワークショップ「自分で見つける音楽 Vol.4」>
2016年9月21日(水)19:00開演 東京文化会館 小ホール
【出演者】小曽根 真(ピアノ)
【お問合せ】東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
4月22日(金)発売
<Music Program TOKYO/Music Festival TOKYO>
小曽根 真&ゴンサロ・ルバルカバ
“Jazz meets Classic” with 東京都交響楽団
2016年10月1日(土)17:00開演 東京文化会館 大ホール
2016年10月2日(日)15:00開演 オリンパスホール 八王子
【出演者】
小曽根 真、ゴンサロ・ルバルカバ(ピアノ)
角田鋼亮(指揮)※第1部のみ 東京都交響楽団※第1部のみ
【プログラム】
~第1部~
バルトーク:ルーマニア民俗舞曲
バルトーク:2台のピアノと打楽器のための協奏曲
~第2部~
ジャズ・セッション 小曽根真&ゴンサロ・ルバルカバ
【お問合せ】
東京文化会館チケットサービス 03-5685-0650
4月22日(金)発売
http://www.t-bunka.jp/sponsership /spo_161001.html
『Chick & Makoto -Duets-』SHM-CD
UCCJ-2136 価格(税込)\2,700
1 デュエット・インプロヴィゼーション No. 1
2 ブルー・ボッサ
3 デュエット・インプロヴィゼーション No. 2
4 デュエット・インプロヴィゼーション No. 3
5 サマータイム
6 デュエット・インプロヴィゼーション No. 4
7 ラ・フィエスタ
8 クリスタル・サイレンス
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