【インタビュー】稲葉浩志、「B'zというアイデンティティのために」

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■ソロ活動はずっと続いているんですよ
■B'zの活動がひと区切りついたら“あ、続きやらなきゃ”みたいな

──B'zというモンスターこそ最も刺激的な場所だとは思いますが、稲葉さん自身はどういうものに影響を受けますか?

稲葉:基本的には自分が生きている日常生活の範囲に入ってきたもの。自分の耳とか視線に飛び込んできたものに対して反応して、作品を作り始めているから。

──些細な刺激?

稲葉:そうですね。

──そこから自問自答が始まるんですか?

稲葉:ものによっては自問自答するものもあれば、見た風景とかものに対しての自分の感情だったりとか。その一番最初に見た風景を何かに置き換えて曲を書く場合もあります。

──そこには、ファンからの要望に応えようという意識も働きますか?

稲葉:それはありますね。リクエストに応える喜びというのがあるので。ソロ活動の中でそれがどのくらいあるのかは、まだわからないけど。まぁ「B'zに早く戻ってください」みたいなのはいつもある話なんですけども(笑)。B'zに関していえば“こうしてほしい” “ああしてほしい”という思いは、皆さん強いですよね。それをいっぺんに汲み取ることは難しいんですけど、でもリクエストに応えていくことはそんなに嫌じゃないです。

──ソロではどうでしょう。稲葉さんにどんなリクエストをするんだろう。

稲葉:それは僕にもわからないです(笑)。

──B'zも全力でやりながらソロもこなすというバイタリティはどこからやってくるんでしょうか。B'zだけでも普通はエネルギーを使い果たしてしまうものと思うんだけど。

稲葉:B'zでひとつのベクトルでエネルギーを使いきったとしても、少し違う方法でやることによって、そっちはまだ使えるみたいなところが自分の中にいっぱいありますから。自分のグループがあるということは、良くも悪くもその環境が決まっているので、それはいい意味でも悪い意味でも縛りになるじゃないですか。その縛りがあるからこその、いいケミストリーだったりとか、それならではのものが生まれる。ボクシングは足を使わないのが醍醐味、みたいな(笑)。ソロになるとそういう同じ縛りではなくなるので、それはそれでまた別の高揚感があったりとかね。ソロ活動はずっと続いているんですよ。B'zの活動がひと区切りついたら、“あ、(ソロの)続きやらなきゃ”みたいな(笑)。そんなイメージかなぁ。

──音楽的嗜好には変化はあったりしますか? 普段はどんな音楽を聴いてますか?

稲葉:普段はそれこそ、昔の1970年代のロックとか、最近出ているものも聴いてます。

──意識的に聴いているのもあるんですか?

稲葉:新しいものに関しては、みなさんはどういうものを聴いているのかな?”と思うところがありますね。それで気に入っちゃえば聴くし。音楽を聴くためにステレオの前にずっと座って聴いていた時代の音楽とは染み方は違いますけど、この仕事をやっているので、多かれ少なかれ、リサーチみたいな要素はどうしても入ってしまうんですね。それはもう、昔ステレオの前で聴いていた自分とは違うと思う。でも結局、気に入って盛り上がったり音楽に対して興奮する自分は同じだったりするんですけど。

──CDが売れないという今の時代は、稲葉さんの目にはどう映りますか?

稲葉:音楽を自分のものにするのにお金を払うという感覚が今はどんどん薄れている。でもそれは、元を辿れば、良かれと思って音楽が好きな人が一生懸命考えて作った流れだと思うんです。まぁ、作っている人は大変ですけどね。でも、この流れは止めることはできない。むしろ、流れていって、別の新しい流れになっていくんでしょうけど、そこは僕の考えがおよぶところではない。自分ができることは基本的には変わってないし。ライブは現場以外では再現できないところなので、むしろ今はみんなライブで鍛えられていいんじゃないかと思うこともありますね。一時、僕らのCDが爆発的に売れた時代はライブをやらない人がけっこういたので。

──そうですね。ライブはやらなくてもCDは売れましたから。

稲葉:CDで技術を駆使して作品を完成させて、それが売れて。でもライブはやらないという人がいたじゃないですか。それを考えると、今はどんなバンドでもライブで自分たちの音を再現したりとか再現を超えるものをやったり、そういう意味では鍛えられているミュージシャンはいっぱいいるんじゃないですかね。

──そういう意味では、いいのかもしれないですね。

稲葉:そうですね。ただやっぱり活動を続けていくにはお金も必要だろうし、どうやって地盤をキープしていけるかというのも、考えなきゃいけないところかもしれない。楽しいからただ続けられることでもないし、すべてを投げ打ってやっている人もいるわけですからね。

──ライブの楽しさ、喜びは今もなお変わらぬものですか?

稲葉:そうですね。全部を出し切って終わったときの感覚というのは、自分の中では他の何物にも勝る気持ち良さだったりもする。変わらないのか増してきているのか…そこは何にも変えがたいところがありますね。

──お客さんもそういうものを求めているわけですし。

稲葉:その緊張感とか臨場感というのは現場以外では再現できないので、それを求めてみなさんもライブを観に行っていると思うんです。

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