【ライブレポート】エルトン・ジョン、横浜アリーナが感動で塗りつぶされた夜
11月18日、横浜アリーナにてエルトン・ジョンを観た。彼の来日公演を観るのは2007年11月以来ということになるが、その際の日本武道館での二夜公演は彼自身のピアノの弾き語りによる完全なソロ・ライヴであり、今回のような“エルトン・ジョン&ヒズ・バンド”としての来日は2001年以来ということになる。そしてまず結論から先に言ってしまうと、まさに至福の時間というべき素晴らしいひとときだった。同16日に行なわれた大阪城ホール公演を、あるいはこの横浜公演の模様をWOWOWでの生中継を通じて見届けたという読者も少なくないはずだが、おそらく誰もが満足以上のものを味わったに違いない。
◆エルトン・ジョン画像
巨大なアリーナを埋め尽くしたオーディエンスを前に“サー・エルトンと仲間たち”が最初に披露したのは、インストゥルメンタル曲である「葬送」。それ自体が、この公演が“バンド”によるものであることを改めて印象づける。そして続けざまに聴こえてきたのは当然ながら「血まみれの恋はおしまい」。1973年に発表され8週連続で全米チャート首位を独占した名盤『黄昏のレンガ路(グッバイ・イエロー・ブリック・ロード)』の幕開けと同じ展開である。その時点ですでに筆者は感動の渦に巻き込まれていたが、その次に「ベニーとジェッツ」の、ピアノの一音でそれとわかるイントロが耳に飛び込んできた瞬間には、まさに全身に鳥肌が立つような感覚をおぼえた。
以降も彼は、長年のファンにとって愛着深い曲、世代とは関係なく誰もが知らず知らずのうちに耳にしてきたヒット曲の数々のみならず、限られた時間のなかでまさか披露されるとは思えなかった楽曲までを惜しみなく披露した。たとえばレオン・ラッセル(エルトンはこの夜、彼のことを“僕のヒーロー”と称した)とのコラボレイトによる『ザ・ユニオン』(2010年)からの「ヘイ・エイハブ」などに至るまで。また、先頃のパリでの痛ましい事件に触れながら「We need love, we need hope」と語りながら披露された「ビリーヴ」も印象的だった。もちろん当日のセットリストを改めて眺めてみれば、定番と言えるはずの楽曲のいくつかがそこから漏れていることにも気付かされるが、実際の公演中には何かの不足や欠如を感じさせられることは一切なかった。
それは単純に、彼のヒット曲の豊富さゆえでもあるが、同時に1曲1曲の重み、丁寧かつパワフルな歌唱と演奏の見事がその最大の理由だったともいえるはずだ。エルトン自身の声量豊かな歌声には衰えが感じられないどころか、ますますの深みと艶を感じさせられたし、デイヴィ・ジョンストンやナイジェル・オルソン(エルトンは彼のことを、1969年以来のオリジナル・メンバーと紹介した)といった、彼の栄光の歴史の立役者というべき人物たちをはじめとするメンバーたちによる、名曲再現のバックアップにとどまらないバンド然とした演奏ぶりにも目と耳を奪われた。実際、2015年全体を通じても、延長に延長を重ねてもはや定例化しているラスヴェガスはシーザース・パレスでの長期公演をはじめ、さまざまなフェスへの出演など、精力的なライヴ活動を重ねてきた彼らであるだけに、現役感などという言葉を使うのが失礼ではないかと感じられてしまうほど、そのパフォーマンスは躍動感に満ちていた。
そして離日後も、彼らのツアーはまだまだ続き、年内はオーストラリアとニュージーランド、さらにはアジア各国を巡演し、年明けにはまたもやラスヴェガスでの長期公演が始まることになる。しかも2016年2月には、『ワンダフル・クレイジー・ナイト』と題されたニュー・アルバムが発売されることも決定している。前述のジョンストンやオルソンといったメンバーたちもこの作品に参加しているという。公演中、エルトン自身も再会の機会がさほど遠くなさそうなことを匂わせるかのような言葉を発していたが、是非この新作を伴ったツアーでの日本帰還を期待したいところだし、今回のライヴを目撃できなかった人たちにも、“次”の機会は逸して欲しくないところである。
増田勇一
Photo:Masanori Doi
<エルトン・ジョン&ヒズ・バンド 2016.11.18 横浜アリーナ>
2.ベニーとジェッツ/Bennie And The Jets
3.キャンドル・イン・ザ・ウインド(風のなかの火のように)/Candle In The Wind
4.女の子、みんなアリスに首ったけ/All The Young Girls Love Alice
5.リーヴォンの生涯/Levon
6.可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)/Tiny Dancer
7.ビリーヴ/Believe
8.ダニエル/Daniel
9.フィラデルフィア・フリーダム/Philadelphia Freedom
10.グッバイ・イエロー・ブリック・ロードGoodbye Yellow Brick Road
11.ロケット・マン/Rocket Man(I Think It’s Going To Be A Long,Long Time)
12.ヘイ・エイハブ/Hey Ahab
13.ブルースはお好き?/I Guess That’s Why They Call It The Blues
14.ザ・ワン/The One
15.YOUR SONG(僕の歌は君の歌)/Your Song
16.布教本部を焼き落とせ/Burn Down The Mission
17.サッド・ソングス/Sad Songs(Says So Much)
18.悲しみのバラード/Sorry Seems To Be The Hardest Word
19.僕の瞳に小さな太陽/Don’t Let The Sun Go Down On Me
20.あばずれさんのお帰り/The Bitch Is Back
21.アイム・スティル・スタンディング/I’m Still Standing
22.ツイストは踊れない/Your Sister Can’t Twist(But She Can Rock’n Roll)
23.土曜の夜は僕の生きがい/Saturday Night’s Alright For Fighting
-encore-
24.クロコダイル・ロック/Crocodile Rock
◆エルトン・ジョン・オフィシャルサイト
◆エルトン・ジョン・オフィシャルサイト(海外)
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